ASAHI KASEI BATTERY SEPARATOR CANADA CORPORATION
Executive VP, Board of Directors 毛利政博氏

ASAHI KASEI BATTERY SEPARATOR CANADA CORPORATION 毛利政博氏にお話を伺いました。電気自動車用リチウムイオン電池の材料の一つであるバッテリーセパレータの製造・販売を行っている同社は、ナイアガラ地域にあるポートコルボーン市にてカナダ工場の建設を進めています。商品開発力、基礎研究・生産技術、高い人材力を強みとし、日本と北米両方の良さを活かした会社づくりを目指しています。毛利氏は、⾧年にわたり研究開発に携わり、製造課⾧や生産技術責任者を歴任後、カナダの新会社立ち上げのため 2024 年 8 月に着任されました。
-御社の事業内容についてお聞かせください。
私たちは主に、電気自動車用のリチウムイオン電池に使われるバッテリーセパレータの製造と販売を行っています。電気自動車以外にも、携帯電話や蓄電池(ESS:エナジーストレージシステム)、そして最近では AI やデータセンター用の電源など、さまざまな用途で使われています。
このセパレータは電池を構成する材料の一つです。電池の主な材料は、正極(カソード)、負極(アノード)、電解質、セパレータの 4 つで、セパレータは電池の安全性を守る重要な部品、正極と負極を物理的に分離する薄いプラスチック製フィルムです。フィルムには微細な孔があり、電解液を保持することでリチウムイオンが移動できるようになっています。一方で電子は通さないため、内部短絡を防ぎ、リチウムイオン電池の安全を担保するための重要部材です。
-御社の強みについてお聞かせください。
私たちの強みは主に 3 つあります。まず一つ目は商品開発力です。私たちは総合化学会社であり、触媒の設計、ポリマー合成からフィルム成形加工、さらに電池の評価・解析まで行った上での商品を開発できる力があります。
二つ目は生産技術力です。私たちは湿式プロセスを使用しておりますが、こちらで使用される有機溶剤について、リサイクル率の高い方法を持っており、大気放出が限りなくゼロに近いプロセスを実現しています。建設工事においても事業領域が異なる分野で経験を積んだ建設の専門家がカナダ工場の建設プロジェクトをしっかりとマネジメントしてくれています。
三つ目は人材です。旭化成で働く仲間は「やりきる力」が強いと感じています。大きなトラブルがあっても決して逃げませんし、諦めません。慣れないカナダの土地であり、語学のハンデや慣習の違いなど多くのハードルがあっても必ず最後まで問題を解決する、目標を達成する、やり抜く姿勢があります。この人材こそが私たちの真の強みだと感じています。
-今後特に力を入れていきたいことは何ですか。
カナダ工場は、現在まだ建設段階にあります。もうすぐ建物がほぼ完成し、その後、設備の設置や試運転、生産の立ち上げを進めていく予定です。まず最優先として「安全第一」です。怪我や大きな事故がないよう、建設・立ち上げ・試運転までを安全に完了させることが当面の目標です。
また、会社自体もゼロから作り上げていく必要があるため、業務の仕組みを標準化しながら整えていきます。会社の仕組みについては、日本流をそのまま持ち込むのではなく、北米や欧米のスタイルだけに偏るのでもなく、両方の良い点を取り入れたいと考えています。同時に、人材の育成にも力を入れております。人にはそれぞれ個性があり、強みがあります。社員一人ひとりの可能性を引き出せる、そんな会社を創っていきたいと考えています。
-特筆すべきニュース、新事業のご紹介をお願いします。
昨年の 11 月に、弊社の名誉フェローで、リチウムイオン電池を発明した吉野彰博士
(2019 年にノーベル化学賞を受賞)がカナダを訪問しました。トロント大学で講演を行い、日本人補習校でも特別講義を行いました。 トロント大学での講演では、リチウムイオン電池の発明に至るまでの経緯や今後の展望について、補習校では子どもたちの関心を引き付けるような興味深い講義をしました。
新事業ではありませんが、旭化成は、常に事業のポートフォリオがダイナミックに変化しています。新規事業や新製品に限らず、幅広い取り組みを行っています。「旭化成レポート 2025」では、旭化成がどのような活動をしているか、そのハイライトを確認できます。詳しい内容については、レポートをご覧いただくと、旭化成の多様な取り組みがわかるかと思います。
-毛利さんはご出身はどちらですか。今までの経歴についてもお聞かせください。
出身は兵庫県西宮市です。大学と大学院は化学を専攻しました。2001 年に旭化成に入社し、最初の 13 年は研究開発、その後マーケティングを経験した後、10 年ほどは製造・生産技術に従事してきました。
入社して 5 カ月の研修を終えた後、川崎にある合成ゴム技術開発部で研究開発に携わりました。その後、富士の感光材技術開発部で印刷用の材料開発や成形プロセスの開発を担当しました。後に、WGF(ワイヤーグリットフィルム)事業推進部と呼ばれる部署にて、旭化成のオリジナル技術で開発した偏光フィルムのマーケティングを行っていました。
2013 年には三井グローバルインベストメントと呼ばれるベンチャーキャピタルへ実務研修生として出向する機会をいただき、米国で初めて仕事をしました。ここでは投資業務の技術的な側面の分析を担当しました。さまざまな新しい技術やベンチャースピリットにあふれた人々と触れ合い、とても刺激的な一年を過ごしました。その後、滋賀県守山市に戻り、現在のセパレータ事業における生産技術や工場の製造課⾧を務めました。
2018 年から再び米国に移り、買収したポリポア社の子会社で、乾式セパレータを製造する Celgard 社でマネージャーとしてコーティング工程や全体工程の生産性改善に取り組みました。2022 年から日本に戻り、約 2 年間、湿式セパレータの研究開発および生産技術部の責任者を務めました。2024 年からはカナダに拠点を移し、新会社およびカナダ工場の立ち上げ責任者として従事しております。
入社してから 3~5 年ごとにさまざまな仕事の機会をいただきました。そこで多くの仲間に出会い、さまざまな学ぶ機会をくれた会社、上司、そして支えてくれた仲間に心から感謝しています。
-カナダへ赴任が決まった時はどんなお気持ちでしたか。
今回のカナダ赴任は非常にチャレンジングな機会だと感じています。やるべきことや課題はたくさんありますが、これ以上ないやりがいを強く感じていています。
-今までで一番印象に残っているプロジェクトについてお聞かせください。
プロジェクトというよりも、会社の中で一番成⾧できたのは、2014 年から 18 年で製造課⾧として初めて責任者を務めた時です。製造の現場は本当にトラブルが多く、技術開発のように自分のペースで進めることはできません。生産はお客様が待っているため、決められた時間の中で必ず結果を出さなければならず、さまざまな問題が起こります。
例えば、ある製品の検査値が基準を超えたり、異物が混入したり、生産量が変動したり、人に関わるトラブルもあります。トラブルがあれば深夜や終日に出勤することもあります。会社に入って本当に修羅場と感じる期間でしたが、これらの課題を、技術だけでなくチームみんなで知恵を出し合いながら解決できたことは、大きな経験となりました。この経験が自信につながり、アメリカで同じような製造課⾧の仕事をした際にも、日本での経験のおかげで環境が違ってもスムーズに対応できたと思います。本当にチームのおかげで成⾧できたと感じており、感謝しています。
-お仕事を進める上で大切にしていることは何ですか。
私が大切にしているのは「五ゲン主義」です。これは一般的な「三現主義」(現場・現物・現実)に加えて、「原理・原則」を重視する考え方です。現場に足を運び、実際に物を見て、人の話を聞くこと。そして、現象の背後にある自然法則や基礎を追求し、本質的な問題を捉えることが重要だと考えています。そのため、現場での観察や対話を通じて、原理原則を推定しながら問題解決に取り組んでいます。

また、最近感じているのは「やりきる力」の大切さです。英語で「グリット」と呼ばれるこの力が重要だと実感しています。特に海外で仕事をしていると、最後までやり抜ける人は貴重で、結果を出すためには欠かせない力だと感じています。
多くの会社でも採用されているように私たちの会社でも「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を設定しています。私はその中のバリューの一つである「One Agile Team」という価値を重視しています。
今のプロジェクトは多国籍で、日本、カナダ、アメリカ、メキシコなど、さまざまな国のメンバーが集まっています。目標を合わせること、そしてその目標に向かって実行し、成果を出すのは簡単ではありません。日々のコミュニケーションも業務の標準化などを通して、物理的な距離や価値観の違いを乗り越え、チーム全員が同じ方向に進むよう取り組んでいます。この「One Agile Team」の考え方は、私たちの大切なバリューの一つです。現実には毎日トラブルやコンフリクトが生じて大変ですが、このバリューを信じて邁進しています。
-お好きなスポーツや、趣味や休日の過ごし方についてお聞かせください。
好きなスポーツはゴルフと水泳です。ゴルフはこれまで全く経験がなかったのですが、カナダに赴任してから職場の関係者にシミュレーションゴルフに誘われたことがきっかけで始めました。まだまだ初心者で、手打ちやアウトサイドインなど、初心者がよく陥る課題に直面しています。YouTube やAI を活用しながら、地道に練習を続けています。

もうひとつの趣味は水泳です。数年前に⾧時間のデスクワークによる腰痛解消を目的に始めましたが、今では子どもと一緒にプールに行き、家族とのコミュニケーションの時間としても大切にしています。また、趣味というほどではありませんが、週末は料理担当をしています。高校・大学時代にレストランでのアルバイトをしており、その経験も活かしながら少しでも家族に貢献したいと思っております。
毎週土曜日は補習校へ通っています。早朝、ナイアガラ地域からトロントへ行き、1 日を過ごすのが恒例です。そして必ず Heisei Mart さんに立ち寄っています。おかげ様で、我が家の食卓は和食が充実しています。
-今後カナダ駐在中に挑戦したいことはありますか。
仕事面では、当たり前ですが結果を出すことです。旭化成として過去最大級の投資ですので、投資回収を実現することが大きな使命です。そのために、まず安全にプロジェクトを立ち上げ、チームメンバーを育成し、黒字化を達成することです。5 ゲン主義+1G(グリット)を体現したローカルチームの育成とその仕組みづくりが、私の大きな責務だと考えています。
プライベートでは、ゴルフでスコア 100 を切ることに挑戦したいです。また、最近はテクノロジーのアップデートにも力を入れており、もともと技術が好きなので、AI を活用して新しいことにも取り組みたいと考えています。自動化や AI に⾧けたエンジニアも多いので、ロボットや AI を活用したプロジェクトにも挑戦したいと思っています。
-先ほどもゴルフの練習で AI を使ってということでおっしゃってましたが、どのように活用されていますか?
ゴルフではアプリをよく使っています。例えば、自分のスイングを分析してくれる Golfix というアプリを使用しています。スイング分析から「少しスウェーしてますね」とか、「キャスティングしています」といったアドバイスを教えてくれます。課題に合わせた練習動画も紹介してくれます。
-商工会会員の皆様へのメッセージをお願いいたします。
私たちは、カナダでのビジネス経験がほとんどありません。唯一、買収を通じてカナダのローカル企業と少し関わりがある程度です。そのため、商工会の皆様のご経験は非常に参考になると感じており、今後も交流を深め、さまざまな意見交換をさせていただきたいと考えています。 また、事業の成功はもちろん、商工会やカナダの発展に貢献できるよう努力していきたいと考えております。 プライベートでも、皆様と一緒にゴルフコースを回れるようにレベルアップしていきたいので、今後ともよろしくお願いいたします。
-本日はお忙しい中、ありがとうございます。これでインタビューを終わります。