リレー随筆

Pay It Forward
ヤマハカナダミュージック ファンフェーン庸子

新型コロナウイルスの感染拡大が始まってからあっという間に一年が過ぎました。突然従来の生活から自粛生活へのシフトを余儀なくされましたが、今はかなりニューノーマル生活が定着してきたところでしょうか。

旅行好きの私は一年以上海外に行けず物足りない思いをしておりましたが、代わりに近場の散策トレイルを見つけたり、オンタリオ州内でオーロラを見るという体験が出来たりと、壮大なカナダの素晴しさに目を向ける機会が与えられたのだとポジティブに捉えられる様になりました。

この一年、行動範囲に制限のある状況の中で社会やコミュニティの為に何が出来るのだろうと考えを巡らせていました。カナダに長年暮らしている方であれば、社会貢献やボランティア活動は生活の一部になっていることと思いますので、恐らく私と同じ事を考えていた方はたくさんいらっしゃると思います。

最近知ったのですが、カナダはボランティア先進国と言われているそうです。確かにオンタリオ州の高校の卒業条件に40時間のボランティア活動が含まれます(現在はコロナ禍で時間数が変更されるようですが)。ボランティア経歴は仕事を探す際のアピールポイントになり、その人の信用度を測る物差しに使われたりもします。その為ボランティアのポジションの募集はどれも応募人数が多く、ボランティアに参加するのも大変なのはボランティア先進国カナダならではの現象でしょうか。

それぞれが自分の持っているスキルと経験を活かし、出来る事を出来る範囲でする事が地域社会を円滑に回す助けとなります。地域や人との繋がりを強く体感出来る時間が私は大好きで、ボランティア活動は生活の一部となっていました。しかしこのコロナ禍で全く社会に貢献出来ない状況が続き、それがずっと心に引っかかっていました。

振り返りますと私が社会貢献をライフワークにしたいと思ったのは高校時代でした。私が通っていたある国の学校で毎日自分の乳児を背負って登校してくる女生徒がいました。その地域では10代で女性が妊娠し、そのために退学していくことは決して珍しいことではありません。

そんな中でも固い決意のもと勉強と育児の両方を選択したその彼女を尊敬すると同時に、恵まれた環境にいる自分は将来何が出来るのかと考える様になっていました。女性が出産や育児の為に学びの機会を奪われない社会が存在すればいいなと漠然と考えていました。

その後日本の大学に進学、私の専攻分野の国フィリピンのスラム街の子どもの状況を目のあたりにした時に、何かしたい、何かしなければという気持ちが益々強くなったのを思い出します。それからは積極的にボランティア活動に参加してきました。大変な時もありますが、年齢も人種も違う人たちが同じ目的を持って協力し合うことは何物にも代えられない財産となります。

仕事と子育てで時間や労力を捻出するのが困難になってからの2017年からは毎月少額ではありますがBecause I Am A Girlという団体に寄付を始めました。この団体は発展途上国で生活する女性の教育支援、職業訓練、インフラ整備等を現地で行っています。特にこの時期の途上国の衛生環境の維持・改善はcrucialですので、この団体への支援はこれからも続けて行こうと思っています。

かく言う私も人生の様々な場面、様々な国で数えきれない人たちから助けてもらってきました。カナダで最初に降りた土地ケベックでは、知り合いがいないどころか、仏語の知識皆無でパン屋でバゲット1本すら買えないという辛い思いをしていました。そんな私に手を差し伸べてくれる親切な方がどれだけたくさんいたことか。

移民が多いのも一因かとは思いますが、人の辛さや大変さを瞬時に理解して率先してヘルプを出来る人が多いように感じます。これは親切や優しさを他の人に分け与えるPay it forwardという考えがこの国に根付いているからだと考えます。

助けてもらった人は恩返しをするのも良いのですが、それよりも次は助けを必要とする人に親切を施していこう、というのがPay It Forwardの概念です。コーヒーショップで知らぬ間に前の方が自分のコーヒー代を支払ってくれていた、という経験をされた方は多いと思いますが、これこそまさに日常レベルにあるPay It  Forward体験ですね。親切にした方もされた方もお互いが良い気分になりポジティブな循環が発生します。

カナダがボランティア先進国であるのはこのような草の根レベルで躊躇なく他人に優しく出来るからでしょうか。出来る事を出来る時に、無理はしないというのがこのPay It Forward基本だと解釈しています。人生にはアップダウンがありますし、自分に余裕が無い時は無理して恩をForwardしなくてもいいのです。

人に何かを施せる時期もありますが、渡加初期の私のように与えてもらうだけで精一杯の時期も必ずあります。そんな時には有難く全力で甘えていいと思いますし、この概念を理解するとそうであるべきだと思います。そしてこのような親切が循環しているカナダの社会で育った子どもたち世代もまたPay It Forwardを自然に身に着けた大人になることでしょう。

先日再度在宅指示が出されましたが、自粛のせいで何も出来なかったと後悔だけはしたくありません。(ボランティアに限った話ではありませんが)どんな状況でもクリエイティブになればほとんどの事は何らかの形で実現可能であるのだと確信しています。

これからも自分の信念を曲げず、同じ志を持つ人達と共に、人の気持ちに寄り添いながら、社会の一員としてヘルプを必要としている人や地域や国へ何らかの形での貢献をして行きたいと思っております。小さな行動でもきっと誰かの為になることがありますし、その誰かがいつか誰かに優しさをパスしていってくれることを願っています。