オンタリオで活躍する日本人に聞く

「人生の大変革」カナダライフの中で見えてきた先の人生
和食料理人 伊地知 俊行

Mr Izichi

<人生の大きな扉>
3人男兄弟の真ん中として、名古屋で生まれ育ち、大学のために上京しました。IT系の企業に勤めながら、2000年に昔からの憧れだった海外生活と、今までの自分を変えたい、また、人生を見つめ直すためにとワーキングホリデー制度を利用してカナダトロントに一年間滞在しました。

そこで、妻と出会い、私の人生は大きな第一の転換期を迎えました。トロントで挙式、いつか一緒に戻ってこようと決意し帰国。また、トロントで働いた日本食レストランでの寿司シェフの仕事がきっかけで、料理人生が始まりました。

実は、大学生の時にアルバイトをしたサーバーの仕事で、料理人同士が厨房の中で怒鳴りあったり、私自身もシェフに怒られながら「こんな怖い世界の職業だけには就きたくない」と、心の底から思っていた自分がシェフをしております。

<長くマンネリ化した仕事中心の生活>
そんな引っ込み思案な私が、妻の実家の香川県にて料理の修行を始めました。厳しい修行を8年続け、2009年にトロントに移民で戻ってきました。

その間に3人の子を授かり、家族5人でカナダライフが始まりました。カナダに来てもレストラン業界は忙しく、朝出て夜遅く帰ってくる生活が続き、次第に仕事を任されるようになると、家でもメニュー作りや事務仕事で家族との時間が少なくなってきました。

移民してから数年、知人にカナダに来て良かったかと、聞かれることがしばしばありました。「カナダは好きだ」と口では答えていても、心の底からそうは思っていませんでした。ただ、日々の生活に追われる毎日でした。

レイク

<カナダの大自然に癒される>
何年か経過し、家族を連れて、川釣りをしました。それまでも行ってはいましたが、その時の心情はいつもと大きく違っていました。大自然の中、家族の無邪気な笑い声を聞くと、心が満たされるのを感じました。カナダの豊かな自然の恵みに感謝して、こんな素晴らしい国にいられることに感謝する気持ちが沸いてきました。

それ以来、胸を張って「カナダは大好きだ」と言えるようになりました。休みの日は、家族でカナダの大自然に触れるたびに、普段の生活のストレスから解放されていました。

Family

<人生の大きな大変革>
しかし、大自然の中へしょっちゅう行くわけではなく、結局は仕事に追われる日々でした。仕事的には充実し、自分が成長していくことに、体は疲れていても充実していました。新しい職場ではヘッドシェフとして起用され、レストラン自体もカナダで有名なレストランへと成長していきました。

一方、家庭環境は日に日に悪化し、ライフスタイルのバランスが非常に不均衡になっていくのが目に見えていました。このままでは良くないと思い、こんな人生で良いのかと、妻との相談の結果、現在の「フルタイム」の仕事から、同じ職場での「パートタイム」に切り替える事に決意しました。

その直後に今回のパンデミックが始まりました。必然的にレストランがクローズとなり、自宅待機生活が長引きました。家族のために食事を作ったりと、家族と過ごす時間が増えました。また、自宅でも何かできないかと考え、料理のユーチューブを始めました。そして、徐々に繋がりも広がり、声を掛けられ、オンラインクッキングやオンライン対談などもさせて頂く機会が与えられました。出張料理もさせて頂く機会が増えました。

家族にも料理の仕事を手伝ってもらいながら、父親のしている仕事を体験することにより、家族との絆が深まっているのでは思っています。元々、和食の素晴らしさを広げたい、という思いもあって移民してきたので、これらの活動が実を結んできているという実感も沸いてきています。

昨年のジャパンフェスティバルカナダ2021にも出演させて頂く光栄に与かり、ことしも同じく同フェスティバでの出店が決まっています。また、特に現在、活動しているオンラインクッキングは、世界中からの申し込みもあり、北米のみならず、ヨーロッパや日本を含むアジアなど多くの国々からの参加申し込みがあります。

調理

世界中に住む海外在住の日本人の方々との繋がりも増えました。その国の様々な食糧事情や文化、習慣などにより、多くの日本人が創意工夫を凝らし、家族や友人知人に、日本の伝統文化でもあり、世界無形文化遺産にも登録されている「和食」を継承しておられる姿を拝見しています。また、多くの方々の応援もあり、私の活動の大きな励みとなっています。

「としさん最近何か変わったよね」
つい最近、職場のオーナーより嬉しいコメントをいただきました。
「としさん最近、何か変わったよね、話し方もそうだし、雰囲気も。他のスタッフみんなも言ってるよ」

50歳近くになる私が最近、自分磨きを始め、今までの固い殻を少しずつ剥がす事が出来ているのかなと思います。

お節

<成功する人生より、価値ある人生を>
人生はファミリーとワークのバランスを上手く調節する必要があると思います。バランスを考えて、どちらかに偏るのではなく、家族も自分もハッピーになれるような、そういう人生を送っていきたいと考えています。

「成功」は望んではいません。人生を振り返った時に、「価値のある人生」を送れたかどうかが重要であると考えています。そして、「成功」ではなく「成幸」。幸せに成るための過程だと考えています。

そして、ここで改めて、今まで家族また、僕の大きな支えとなっている妻に感謝の念を送りたいと思います。ありがとう。そして、これからもよろしくお願いします。