今回はAUTEC Canada Inc.の中島健一朗氏にお話を伺いました。同社は、商業用の巻き寿司や握り寿司、おにぎりを製造するマシーンを日本から輸入販売しており、製品は全て日本製で高品質かつ壊れにくいのが特徴です。カナダで唯一オフィスを構える寿司マシーン企業として、カナダ全土のお客様へ迅速なサポートを提供しています。
中島氏はシアトルの大学留学から現地での就職を経て、家業である和菓子屋を一旦継ぎました。その後、和菓子を世界へ広める活動をされ、縁あってAUTEC Canada Inc.に入社されました。その貴重なご経験について詳しくお話を伺いました。
–事業内容の紹介をお願いします。
当社は商業用、特にレストランやスーパーマーケット向けの巻き寿司や握り寿司のマシーン、最近ではおにぎりマシーンなどを日本から輸入して販売することを主な事業としています。
当社の取り扱う商品は、日本の音響機器メーカーであるオーディオテクニカの特別機器部門が北米向けに製造したものです。あまり知られていないですが、オーディオテクニカはレコードやヘッドフォン、マイクロフォンで有名で、実は北米向け特にアメリカを中心に寿司マシーンを販売していました。その北米の販売権を当社が約20年前に取得し、現在はアメリカとカナダで独自に販売しています。
–御社の強みについてお聞かせください。
当社が取り扱う機械はすべて日本製(Made in Japan)であり、高品質で使いやすい点が特徴です。他のメーカーでも寿司ロボットを取り扱っていますが、韓国製や中国製のものも含まれます。私たちは日本の工場で作られた製品を仕入れて販売しているため、使いやすく、高品質で壊れにくいことが大きな強みです。
もう一つの強みは、トロントにオフィスを設けていることです。このようにカナダに法人を持つ寿司ロボットの会社は当社だけで、またカナダ全土に販売代理店網を持っているため、クライアントからの要望に迅速に対応できることも大きな強みとなっています。
–今後、特に力を入れていきたいことについてお聞かせ下さい。
当社はケベック州に専属担当を配置していますが、今期から来期中までにWest areaにも拠点を設けたいと考えています。バンクーバーやカルガリー、またその周辺地域であるケロウナやエドモントンからも多くのお問い合わせをいただいています。現在は出張ベースで訪問していますが、カナダ西部にも拠点があれば更にクライアントのニーズに応えやすくなると思います。
今年に入ってから7回程バンクーバーへ、出張で足を運んでいます。特に海に近いエリアですので、お寿司のネタが豊富で、巻き寿司のバリエーションも多いため、シェフたちはこのアイデアをメニューに生かしています。しかし、良い素材があっても、腕がなければお寿司は作れません。そこで、機械化できる部分は機械化しようと考え、西部への進出を目指しています。
実は先日JETROさんからジョージブラウンカレッジで開催された日本米PRのイベントへのブース出展をご招待いただきました。我々のおにぎりマシンを使って日本米でおにぎりをそこで作りました。まだまだ機械のことを知らず、初めて見た方も多い中、調理クラスの学生さん達にマシーンを知ってもらうことが目的でした。
また、日本米をPRするという私の個人的な思いもあります。美味しいお米を使ってお寿司やおにぎりを作り、例えば学食での提供、また米を中心とした食育事業に参画するなど、身近に手に取ってもらえる環境を作っていきたいですね。
–最近おにぎりをよく見かけるようになりましたね。
この一年半ぐらい、特にトロントでのお問い合わせが増えてきました。おにぎりがどこで販売されているかというと、例えばT&Tやギャラリアといったアジア系のスーパーが三角形のおにぎりを普通に扱うようになっています。もともとは、型にご飯を入れて手作業で一日1000個以上作っていましたが、当社のおにぎりマシーンなら一時間で1000個作ることができます。
おにぎりは握るだけでなく、様々な種類の具を入れたり、ラップをする必要があります。全てを機械化するのは難しいですが、握る作業を機械化することで負担を減らすことができることから、スーパーマーケットでは当社のマシーンを導入しています。バンクーバーでは、日系レストランが多く導入しています。
つい先日、バンクーバーから一時間ほど離れたリゾート地ウィスラーへ出張しました。冬はスキーやスノーボード、夏はハイキングで世界中から人が集まる場所です。現地のホテルやレストランでは従来、ホットドッグやピザを提供していましたが、おにぎりマシーンを取り入れたいという依頼を受けました。既におにぎりを提供していますが、非常に人気があるようです。ウィスラーのゲレンデでおにぎりを食べられる日が近いと思います。おにぎりも寿司と同様に人気が高まっていると実感しています。
–特筆すべきニュースはありますか。
今年に入ってから二つ新機種がデビューしました。ASM895Aという巻き寿司用マシーンで、従来のモデルよりも軽量化され表示ディスプレイも大きく刷新されました。巻き寿司を作る時に一番難しいのは、常に同じ分量のご飯を均一の厚さに伸ばしていくことなんですね。前機種は売れ筋で10年程前から販売しておりますが、今回はグレードアップされ、握り寿司よりも巻き寿司需要の多いカナダで、更に求められる機種になると思います。
もう一つはASM575Aという「おにぎり」を作るマシーンで、以前のモデル以上にふっくらしたおにぎりを作ることが可能になります。また様々な具に対応できるように、具穴調整のパーツラインナップも増えました。
–ここから中島さんご自身について、ご出身や今まで のご経歴などお聞かせください。
生まれも育ちも名古屋です。中学、高校2年生までラグビーに明け暮れ、青春を過ごしていました。その後、東京、シアトルでの大学生活を経て、シアトルのPR会社に勤務した後、「伝える」を仕事にしたくて、東京に本社がある広告・マーケティング専門誌の出版社に入社しました。その当時のマーケティングの最新事例を取材、一年に一度開催されるキャッチコピーのコンテストの企画、ビジネスフォーラムの立ち上げなどに4年程携わりました。
–シアトルへ決めた理由は何ですか?
高校卒業後、推薦で東京の大学へ入学をしました。受験という達成感を真に感じすることをせず、自分の中でもう一度しっかり勉強して大学へ行きたいという思いがあり、一層のこと日本の大学を辞めてアメリカに行こうという考えで、両親とも話をしました。「せっかく入ったのだから、卒業をしてほしい」ということで、教授に相談をしたのち大学三年からシアトルの大学に行くことを決めました。
シアトルを選んだ理由は、当時インターネットが少しずつ普及し始めた時代で、MicrosoftやAmazon、Dell、スターバックスがワシントン州に集まっているという情報を得たからです。その後TOEFLで必要な点数を取得し、シアトルでの大学生活が始まりました。マーケティングを専攻していたこともあり、卒業後はシアトルのPR関連会社に勤務しました。
–その後、東京の出版社で勤務されていたということですが、日本へ戻ってくるきっかけは?
実は、家業が名古屋で和菓子製造販売会社を営んでおり、29歳の時に家業に入りました。私自身、和菓子職人としての修行や菓子の専門学校へ行った経験もなく、一から和菓子を学ぶ日々がスタートしました。同時に店舗拡大、イベント出展、年間で100件以上の取材対応や広報業務なども担当しました。
しかし、5、6年が過ぎた頃、和菓子を作るよりもメディアでの経験を活かして和菓子の魅力を伝えることの方が得意だと感じました。そして、子供の頃からの夢であった「和菓子を海外に!」を実現させるため、2016年に家業の商品をアメリカのカリフォルニア州(ロサンゼルス、サンノゼ)に短期的に進出させました。
現地では、お饅頭を蒸したり、あんこを取り寄せて最終的にそこで調理してアイス最中を出しました。想像以上に大反響があり、物価も違うカリフォルニアという地域の特性もあり、十日間で準備した食材が二、三日でなくなりました。同時に他の出展者の方のお手伝いをボランティア程度でしていました。
この経験から、和菓子だけでなく日本の魅力を広める活動に本気で取り組みたいと思い、海外進出支援業の法人を立ち上げました。日本とアメリカを行き来する生活がスタートし、幸いにも多くの縁から様々な案件をいただきました。
特に印象に残っているのは、老舗のうなぎ屋のうなぎ巻き寿司「イールロール」海外出展のお話です。出展直前に職人さんの都合で渡米できなくなり、以前から知っていたAUTEC Inc.から巻き寿司用マシーンを借りて、無事に対応できました。その後も老舗の海外進出プロジェクトをテーマに事業を進めてきました。
別案件として、薬を包むオブラートを製造されているメーカーのプロジェクトで、需要が減りつつある商品を、何とか跡継ぎに残したいというご相談を受けました。そこで食紅を原料とした食用インクペンでオブラートに、メッセージ等を書いてコーヒーの上に乗せ「カフェラテで思いを伝えよう」という企画を立ち上げ、シアトルにあるスターバックス本社と商談を通じて、クライアント様の商品PRに貢献できたことです。
多い時は毎月のようにアメリカと日本を往復する時もあり、家業とのバランスを中途半端にしたくないという思いから、自身の法人一本でやろうと決めました。起業から二年ほど過ぎた頃、アメリカのAUTEC Inc.からカナダ法人拡大のお話しをいただきました約4年前にトロントに移住しました。トロントに移住を決めた直後、世界中がパンデミックに陥り、予想できない事も沢山起き、大変なこともありましたね。
–様々なご経験をされたのですね。お仕事を進める上で大切にされていることは何ですか。
仕事もプラーベートも御縁を大切にしています。またその御縁の繋がりから、大きく輪が広がり、時には仕事として繋がったり、時には友人になったりと無限の可能性があると思います。イベント出展した際は、毎年ブースにお立ち寄りしてくださる方もいて、特に御縁を痛感するシーンです。
最終決定は私自身が行うことが多いですが、スタッフにはスキルや経験、能力はそれぞれの持ち味があると思うので、お客様への提案や企画については、個々に委ねていきたいと考えています。社内で日本人は私だけですので、お互いの考え方を尊重し合うことも大きなポイントだと思います。
あとは「せっかくだから、楽しんでやろう」を軸にしていますね。そうすると次第に知恵がアイデアとして形になり、仕事に欲が出てきます。
–お好きなスポーツや趣味、休日の過ごし方についてお聞かせください。
学生時代にラグビーをやっていたので、プレーはもう流石にできないですが、スポーツ観戦はやはりラグビーが好きですね。ワールドカップや先日のパリオリンピックの時はテレビに釘付けでした。女子ラグビーでは強豪ニュージーランドとの試合でカナダは銀メダルの快挙でしたね。
休日はご飯を作って友人を招いたり、友人宅へ行ったりすることが多いですね。それほど大きなキッチンではないですが、お酒を飲みながら、ご飯を作るのがストレス解消なんです。そこにカラオケがあったら最高ですね(笑)。あとは子供と公園やプールに行ったりして過ごしています。
また冬の間は、家で過ごすことが多くなりますので、たまに「あんこ」を炊きます。職人のようにはうまくできませんが、家業が和菓子屋だったので、やはり和菓子が恋しくなりますね。材料も違うので、同じものは作れませんが、「ぜんざい」にしたり、パンに塗って名古屋名物の小倉トーストにしたりして食べます。
実は意外と辛口の日本酒との相性もいいですよ!実家のメイン商品が酒饅頭ということもあり、工場に日本酒の原酒を仕込む場所があったんですよ。日本酒のベースとなる「もろみ」に小麦粉等を入れて発酵させた生地に「こしあん」を入れた商品が主力でした。 小さい頃から工場に遊びに行くことも多く、小さい頃から日本酒の香りに触れていました。
実はアメリカのミシガン州からカナダのオンタリオ州のエリアは、小豆が多く獲れる産地ですが、その割にはあまり食べられていません。豆ご飯のようにして食べたり、スープの具として使われるのが一般的なようで、スイーツにすることがあまりないようです。せっかく小豆の名産地なので、美味しいカナダ産「あんこ」があれば良いですね。
–今後、カナダで挑戦したいことについてお聞かせ下さい。
ビジネス面ですと、先ほどもお伝えしたことと重複しますが、昨今バンクーバーに行く機会が多く、お客さんからリクエストも増えてきましたので、カナダ西部に拠点を設けたいということが一つです。
それとは別に、トロントではショールームはここしかなく、お客様にも来ていただいています。マシーンを見るだけで大きさや動きはわかると思いますが、常にご飯を炊いたり、ネタがあったりというわけではありませんので、出来上がったお寿司やおにぎりを食べるということがなかなかできません。そこでマシーンを見て、体験して、そこで作られたお寿司やおにぎりを食べていただけるようなコンセプトで、Showroom兼レストランの計画を考えています。
プライベートでは、トロントに引越しをしてからの4年間はあまりゆっくり旅行に行くことが少なかったので、せっかくカナダ東部にいるうちに、行きやすい北欧やヨーロッパへ美味しい食べ物とお酒を求めて、旅行したいですね。
–会員の皆様へメッセージをお願いします。
なかなか商工会のイベントに参加できておりませんが、お目にかかることができましたら、ぜひお声がけ頂けますと嬉しいです。貴重な日系コミュニティですので、一期一会に終わることなく、少しずつ御縁の輪を広げていけたら幸いです。
–これでインタビューを終わります。ありがとうございました。