今回はToyota Motor Manufacturing Canada Inc. (以下TMMC)の蘆田博幸氏へお話を伺いました。現在はケンブリッジとウッドストック計3つの製造ラインで完成車を製造していますが、コロナ禍での社会貢献活動として、民間企業と協力してフェイスシールドの製造をし、いち早く地域の医療機関へ配布を行いました。
人材の育成をとても大事にされる蘆田氏、2020年10月にカナダへ赴任されました。今までのご経験や日課であるヨガの話など、盛沢山の内容です。(聞き手:酒井智子)
-御社の事業内容についてお聞かせ下さい。
Toyota Motor Manufacturing Canada Inc.(TMMC)は、トヨタの北米向け車両の製造工場という位置づけで1986年に設立され、1988年にカローラセダンの製造を開始しました。1988年当初の生産台数は年間約5万台規模でしたが、生産車種や生産ラインの拡大をし、現在ではケンブリッジに二つの完成車の製造ライン、また、ウッドストックにもう1つの完成車の製造ラインと計3つのラインで完成車を製造しております。昨年の実績として、年間42万7320台の完成車の製造をしており、現在の従業員数は8500名です。
-前回のインタビューが2016年11月でしたが、この5年間で大きな変化はありましたか。
一番大きい変化として、カローラ生産の打ち切りです。先程申し上げましたように、もともとカローラの生産工場ということで立ち上げましたが、2003年にレクサスブランドの製造を始め、2008年にはRAV4の製造を始めました。2016年以降としては最近の市場の変化に対応して2019年にカローラを打ち切りにして、RAV4の生産ラインに移行しSUVの生産を増やしたということが、ノースライン(ケンブリッジ)の大きな変化と言えます。
また、今回のコロナ禍で、様々な社会貢献活動にTMMCとして取り組んでおります。特に新型コロナウィルス感染拡大が始まった昨年の3月から5月頃、医療関係者のフェイスシールドが足りないという話を聞き、地域の民間企業と協力してフェイスシールドの製造をして地域の医療機関へ配付いたしました。具体的には弊社に3Dプリンターがありますので、これを活用してフェイスシールドのホルダー部分を製造することにしました。
この後、このホルダーと透明なシールドを民間企業で組立し、地域の医療機関へ配布しました。数としてはおよそ1500枚になります。その他にも昨年5月にはオンタリオ ヘルスが実施しているコロナ検査の効率化や時間短縮に弊社の生産改善のメンバーが貢献してくれました。我々が持っている技術や経験が社会のお役に立てたことを非常にうれしく思っております。
-いち早くそのような活動に取り組まれたのは、素晴らしいですね。御社の強みについてお聞かせ下さい。
新しいテクノロジーの導入など色々ありますが、人材がしっかり育っているというところだと感じております。会社ができてから既に35年程経ちますが、その間、トヨタ自動車の生産方式であったり、日本の「ものづくり」の考え方、またカナダの「ものづくり」の考え方や、人材育成の考え方の両方をうまくミックスして、ベストなやり方を考えられる人材がしっかり育ってきているというのが、一番の強みだと思っております。
自動化やAIなどありますが、最後は人です。トヨタでは通常の「人材」と、人の財産である「人財」というのを分けて使う場合がよくあります。人の財産である「人財」はやはり会社にとって一番の大きなアセットです。「人財」がしっかり育って、TMMCに残っていてくれるというのはとても大きな強みですね。
-今後特に注力したいことにについて、お聞かせ下さい。
近年、自動車を取り巻く環境は大きく変わってきており、CASEやカーボンニュートラルといったのが、代表的なワードになっております。カナダはAIを含めた先進的なテクノロジーを持った国であると同時に、カーボンニュートラルといった面では、自然由来の電力の発電の割合が高い国でもあり、将来のCASEやカーボンニュートラルに向けたものづくりの中心となる国として、非常に有望な地域だと考えております。
トヨタも全方位で様々な技術を開発しておりますが、やはり最後に選ばれるのはお客様ですので、「これから私達はこうなる」と先を読むのは、なかなか難しいと思っております。そういった意味で、先程申し上げました「人財」をしっかり育てるということが、一番大事なことだと思っております。
私たちの会社も5年後、10年後、車を作っているのか、電池を作っているのか、何を作っているのか、分からない時代です。そういった変化に対応できるといったことが強みでもありますので、変化に対応できる、かつ自分で考えられる人財の育成に、日々の改善の中取り組んでいきたいです。
-それではここで、蘆田さんご本人についてお伺いします。ご出身から今までのご経歴についてお聞かせ下さい。
出身は京都府福知山市です。京都というと京都市をイメージされる方が多いかと思いますので、「京都府の福知山市」という言い方をするようにしております。かなり山間の町になりますが、最近では大河ドラマで明智光秀が有名になり、明智光秀が築城した城がある地として知られています。1985年にトヨタ自動車へ入社をし、配属されたのは高岡工場という、カローラの主力生産工場でした。もともとトヨタが海外で幅広く製造したのはカローラでしたので、その関係で海外へ関係する仕事も多くなりました。
海外での最初の仕事は1990年代、カルフォルニアにあるGMとの合弁会社でした。その後1999年にトヨタのタイの工場に3年程勤務いたしました。その後、2006年からチェコにあるプジョーとの合弁会社の工場で4年程勤務した後、一旦日本へ戻り、国内で10年程勤務をしました。そして昨年2020年10月より、カナダへ赴任しております。カリフォルニアは出張ベースでしたので、駐在としてカナダは3か国目ですね。
-印象に残っているプロジェクトについて、お聞かせ下さい。
それぞれ印象に残っておりますが、あえて選ぶとするとタイの経験ですね。赴任したのが1999年ということで、ちょうどアジアの経済危機が始まった後でした。それまでアジアは、トヨタとしての車の生産、販売ともに非常に好調でしたが、経済危機となってからは車が売れなくなり、生産台数の減少、また、出向員の数も激減した時期でもありました。アジアだけで車を販売していたのでは経営が成り立たないということで、アジア域以外に輸出をするプロジェクトが始まりました。
それに伴い、品質向上を中心とした活動をタイの方としたというのが、当時の大きな仕事でした。先ほども申し上げたように、出向者の数が激減した時期でしたので当時の出向者3名くらいで、プロジェクトをやった思い出があります。当時、私は30代でしたので、マネージメントの経験があまりありませんでしたが、幅広く裁量を任せて頂きました。
経験が少ないながらも、タイの方と一緒に課題を見つけ、自分で決めて実行できたというのは大きな経験だったと感じております。そういった経験から、机の上で勉強したり、色々なことを聞いたりするだけでなく、「物事を自分で考えて自分でやってみる」ということが大切であり、成長するために、そういった機会を人に与えることが重要だと感じさせられました。
-その後チェコへ行かれたということですが、そちらでの生活はいかがでしたか。
プライベートな面でいいますと、ヨーロッパの中心にあり、陸続きですので、色々な所へ足を延ばせ、色々な文化に触れあうことができるいい地域だという思い入れがあります。
仕事面では、全く文化の違うプジョーという会社との仕事でしたので、特に人に対する育成の仕方や考え方が大きく違い、調整に時間がかかりました。ただ、良い面も沢山あるということに気づかされ、トヨタの考え方だけではなく、プジョーの考え方の良い部分を理解するための大切な経験だったと感じております。
-お仕事を進める上で大切にしていることについて、お聞かせ下さい。
色々な国での経験を通じ、様々な考え方がある中で、「ものづくり」最後はやはり「人」だと思っています。人を中心に考えて大切にし、人を育てる、ということを常に心がけております。そういったこともあり、先程申し上げた「人財」へと繋がってきます。色々と条件が違うところでも、ものづくりをするのは一人一人の人間だということをリスペクトして、人を育てることを一番大事にしております。
-人材育成をとても大切にされていますが、文化の異なるカナダ人の育成についてはいかがですか。
カナダ人は人に対する気配りや、少し遠慮する部分などがあり、日本人に近いという印象を受けます。また、考え方を良く理解してくれると思います。前任地のヨーロッパやアメリカの方と日本人との丁度中間のような感じでしょうか。
日本人は、会社に対する忠誠心や、仲間意識が強いとか、それが良い悪いということではなくある意味特殊なので、カナダの人に日本人の考えをそのままというのは、難しいと思います。違いがあるというということを受け入れれば、そんなに大きな問題はないと思っています。
-プライベートについて、お好きなスポーツはありますか。
ヨガをやっております。きっかけは7年程前にぎっくり腰になり、それから毎年のように歩けないくらいに再発していました。そこでヨガが腰痛にいいというのを知り、5年程前から始めました。
それ以降、3年くらい続けるとぎっくり腰がなくなり、身体の為にも良かったと思っています。そんな中、コロナ禍となり、赴任時の隔離期間中や、冬の期間中にYouTubeの動画を見ながら毎日ヨガをしております。おかげで運動不足の解消や、腰痛もなくなりました。大したポーズはできませんが(笑)始めた当初と比べて体は柔らかくなりましたね。毎日続けることで、だんだんとできるようになりますので、続けることが大事だと感じました。
-毎日続けることがなかなか難しいかと思いますが、続ける秘訣などありますか。
自分の気に入った動画を見つけるということです。朝起きると体が固いので、朝一のヨガと、週末時間のある時には、体幹トレーニングを含めてやっています。いまでは習慣になっていますね。
-それでは趣味についてお聞かせ下さい。
趣味はゴルフです。日本でもプレーしていました。カナダはプレー環境がとてもいいですので、最近は気候も良くなってきたのもあり、週末一回はゴルフ場に足を運んでいます。料金もリーズナブルですし、コースも沢山ありますので、特に春から秋のシーズンは楽しんでいます。だんだん規制も緩和されてきているので、今年はしっかり楽しみたいと思っています。
-今後カナダ駐在中に挑戦したいことは何ですか。
昨年の10月にカナダへ赴任し、コロナ禍ということもあって、会社と自宅の往復がメインでした。単身なのでなかなか一人で旅行へいくのも億劫ですが(笑)せっかくですので、近辺だけでなく、ここでしか見れないオーロラを見に行ったりと旅行して周りたいと思っています。また、冬も長いので30年ぶりにスキーをやりたいと思っています。
-最後になりますが、商工会会員の皆様へメッセージをお願いいたします。
こちらに赴任してから面着で会える方が非常に少ないので、これから機会あるごとに直接お会いして、交流を深めさせて頂きたいと思っております。
ここにきてコロナ関係の情報だったり、生活やビジネスがスムーズに回っていると思います。商工会会員の皆さんの長い間の活動により、日本人が働きやすい仕組み作りをされているからだと感じますので、少しでもお役に立てるように協力しながら、更にまた新しい方が苦労されないように、貢献したいと思っております。今後共よろしくお願い致します。
-本日はお忙しい中ありがとうございました。これでインタビューを終わります。