今回はCO-Sol Canada Inc.( 株式会社コーソルカナダ)の伊藤大悟氏にお話を伺ってきました。データベースの専門家として24時間お客様の大切なシステムを管理するため、2018年に カナダオフィスを設立し、日本時間の夜間サポートを行っているコーソルカナダさん。業界最難関といわれる資格保有者数日本一を誇る企業として着実に成長し ています。お客様の立場に立つということを常に大切にされている伊藤氏、ご自身もORACLE MASTER Platinum を取得され、Platinum of the year特別賞に2015年、2016年の2年連続で表彰された実績を持っています。学生時代にバンドを結成されていたお話や、レコード収集についてもお 聞かせ頂きました。伊藤氏は2021年度の商工会理事を務めて頂いております。(聞き手:酒井智子)
-御社の事業内容のご紹介をお願いいたします。
コーソルカナダは日本のコーソルの子会社として、2018年 9月に初の海外拠点としてカナダにオフィスを設立しました。親会社も私共も「Oracle Database(オラクルデータベース)」と呼ばれる企業システムの中で利用されている「データベース」というソフトウェアの製品サポート、運用支援、 またプロジェクトの支援やコンサルティングを主な業務としております。社員数は日本に130名程。カナダオフィスには現地採用が1名、駐在員は私を含めて 6名の計7名が在籍しております。
お客様は日本の一般企業様ですが、大きく分けて二種類ありま す。一つはITのサービスを提供しているシステムインテグレーターと呼ばれる企業様。エンドユーザーへのシステムの導入や、製品サポートを提供する際の データベースに関する部分のお手伝いを私達がしております。もう一つは、エンドユーザー様のシステムを直接支援するということです。インターネット証券や 金融系、通信系などITをサービスの基軸に置いている会社さんが多いですね。
-初の海外拠点として、カナダを選んだ理由は何ですか。
私達の仕事の一つである「お客様のシステムを支える」という ことから、24時間体制でお客様をサポートしております。以前は日本で夜間のシフトを組み、システムのサポートをしておりました。しかしながら、ビジネス を拡大していく中で夜勤の従業員を増やしていかなくてはならない、また従業員の健康面や、エンジニアとしてのキャリアアップということを含めると、長く夜 勤を続けるのは、あまり好ましくないだろうという結論に至りました。
そこで、夜間の時間帯を海外に切り出して日本の夜間帯に対応 しようということで、時差が重要なポイントでした。最初はアメリカでの出店を考えていましたが、当時トランプ政権ということもあり、海外資本が入ってくる ことに対する参入障壁が非常に高く、また駐在員のビザも取得しづらいといった面もあり、オフィスを構えて人を定期的に日本からローテーションすることに対 するコストや継続性を考えた時に、リスクが高いということになりました。
当時、相談させていただいていたJETROの方よりカナダを ご提案を頂き、少し目線を北に上げると、そこにトロントがありました。ちょうど日本のカナダ大使館でオンタリオ州の投資に関連するイベントが開催されてい て、弊社社長が出席をした際に政府関係者の方へ引き合わせてもらうことができ、そこからはとんとん拍子に話が進みました。
-御社の強みについてお聞かせ下さい。
私達は「Oracleに関するサービスでNo.1」というこ とを社内でも掲げており、日本中のお客様のミッションクリティカルなシステムを支えています。そのシステムが止まってしまうと、企業のサービスやビジネス が動かなくなってしまう、そういったところにOracle Databaseという製品が使われています。それらを支える為のOracleの技術力とサービス品質を兼ね合わせているということが、弊社の強みです。
それを表す一つの実績として、Oracleの技術資格に 「ORACLE MASTER」というものがあります。最上位の「Platinum」と呼ばれるグレードがあり、弊社の取得者数が2016年から5年連続して大手のIT企 業を抑えて日本一となっております。私自身もそうでしたが、弊社はIT未経験で入社してくる社員も多く、そういった従業員を教育して、育て上げることにも 力を入れております。
またデータベースに特化していること自体が大きな強みになっ ています。IT分野には、色々な職種があります。例えばプログラマーやシステムエンジニアなどがあげられますが、その中でもデータベースエンジニアという 職種は難易度が高く、エンジニア数も少ないです。理由の一つとして、技術的に覚えなくてはいけないことが沢山あることが挙げられます。
Oracle に関する専門的な知識も必要ですが、併せてアプリケーションやハードウェア、ネットワーク等の周辺知識も必要となります。色々なお客様先のIT部門を見てきましたが、専任のデータベースエンジニアがいなかったり、不足していることも多いです。
-今後力を入れていきたいことについて、お聞かせ下さい。
先程申し上げましたが、カナダに来た理由として日本の夜勤を廃止したいという目的があり、幸いなことに現状は無事に回っています。もう一つの目的として、せっかくカナダへ進出したので、現地ビジネスを拡大していきたいと思っています。
私がカナダに来てから、こちらの企業の方とお話をする機会を 何度か設けていますが、日本と北米ではITの製品導入に関して差があると感じております。といいますのも、カナダには私達のように、ある製品に特化すると いった立ち位置の企業が少ないように思います。日本の一般企業では社内のIT部門が大きくなく、システムインテグレータと呼ばれる企業が、ITの仕事を請 け負うことが多いです。
一方、北米ではどの企業も社内でIT部門をもっていることが 多く、その方達が内製しているという印象があります。私達の専門特化するという部分にうまくマッチすれば、カナダの現地企業に対して私達のサービスが少し でも役立つのではと思っておりますが、なかなかそこまでの接点はまだ作れていないのが現状です。
もう一つは、ITということだけで考えますと、日本より北 米、特にアメリカが進んでいます。そんな進んでいる技術や製品を私達がキャッチアップし、販売代理店として日本へ持ち込み、日本のIT活用を推進するきっ かけを作ることができればとも考えております。今はいくつかの可能性を探っている状況ですね。
-今後が楽しみですね。それでは、ここから伊藤社長ご本人についてお伺いしていきます。ご出身から今までのご経歴についてお聞かせ下さい。
出身は横浜です。大学が同じ神奈川県内の藤沢にありましたので、今の会社に入社して寮に入った時期を除いては、神奈川で生活をしていました。
小・中学校ではサッカーをやっていましたが、高校では吹奏楽 部でバスクラリネットを演奏していました。あとは中学3年の時に友人に誘われてギターを始めたのがきっかけで、そこから10年バンド活動をしていました。 吹奏楽部に入ったのも、楽譜が読めるようになりたいという理由からです。大学進学後もバンド活動に明け暮れて就職活動もせずCDを作って日本中を周ってい ましたので、真面目な学生ではなかったですね(笑)。バンド活動は25歳の時に区切りをつけ、コーソルへ入社したのが2008年でした。
ITはまったくの未経験で、深い知識があったわけではありま せんでしたが、当時設立5年目の小さな会社で、これから会社を大きくするのに自分が力になれたらと思い入社したのがきっかけでした。入社後3年で最上位の 資格である「ORACLE MASTER Platinum」を取得し、社内では比較的新しいプロジェクトや、新しいお客様先に「取り敢えず行ってこい!」という、いわゆる使い勝手のいいメンバー のポジションで(笑)色々なお客様先を訪問させて頂きました。そうして様々な現場経験を重ね、2019年の夏にカナダに赴任しました。
-カナダが赴任が決まった時は、どのような思いでしたか。
カナダオフィスの立ち上げ時から関わっていたので、新しいことに自分も参加できるという楽しみが非常に強かったです。本来であれば2018年の開所とともに赴任するはずでしたが、日本側でのプロジェクトの関係もあり、1年遅れでの赴任となりました。
-今までで一番印象的だったプロジェクトについて、お聞かせ下さい。
一つだけに絞るのは難しいので、二つお話させて下さい。一つ目は、2011年に大手携帯電話会社のプロジェクトを支援するというものでした。うちにとって新規のしかも大手の企業を一人でご支援することになり、新卒3年目の私はドキドキしながら訪問したのを覚えています。
Oracle Exadataという1台で1億円以上するOracle Database専用の大規模なデータベース・マシーンがあり、当時アメリカで発売されて数年、日本でもようやく使い始めるお客様がぽつぽつ出始めたとい う時期でした。エンジニアの中でも専門技術をもっている方がなかなかいない中「Exadataに関われるプロジェクトだから行ってこい!」ということで、 担当することになりました。
当初お客様がExadataを使って「何か新しいことをやろ う」という、ふんわりとした話でしたが、同時期にあった新型iPhoneの発売時に予約が殺到しシステムがダウンしてしまいました。日本のiPhone人 気が過熱していた時期で、その時動いていたデータベースではとても捌ききれないということで、急遽、「予約システムのデータベースをExadataへ移行 する」というプロジェクトに変更されました。
iPhoneは毎年新しい機種が発売されますので、スケ ジュールとして、翌年の発売までに間に合わせなければならない、また、自分としても技術的にまだまだ浅いなか、最先端の技術に関わるということもあり、失 敗も多くありました。無事にデータベース移行まで見届けてプロジェクトからは抜けましたが、数か月後のiPhone新機種発売の時は緊張しながらニュース を見守っていました。不思議な縁で、そこで知り合った方々とは後々に他のプロジェクトでご一緒する機会が何度かあり、もう一つのプロジェクトでもお客様と して顔を合わせています。
もう一つは2013年です。この時は、インターネット証券の 支援のプロジェクトでした。当時アベノミクスが始まり、黒田バズーカと呼ばれる異次元緩和の金融政策を発表し、日本中の人が株を買うという状況でした。と あるインターネット証券で幾度となくシステムトラブルが発生し、より高性能なデータベースへリプレイスするプロジェクトが動き出しました。
お客様と元々関係のあったITベンダーさんが引き受けてくれ なかったようで、急遽弊社に依頼が来たのですが、非常に短い期間で難易度が高いプロジェクトでした。この時は7人チームでご支援し、他のメンバーと共に毎 日のように朝早くから終電まで働くというスケジュールで、かなり濃密な時間を過ごしました。その甲斐もあり、リプレイス以前は半年から1年の間に大きな障 害が3度も4度も起きていた状態が、リリース後は安定稼働が続き、お客様にとても喜ばれました。
このプロジェクトをはじめいくつかの成果が認められ、 ORACLE MASTER Platinum保持者中で毎年功績を残した人が表彰される「Platinum of the year特別賞」に2015年2016年2年連続で表彰して頂きました。弊社の品質が認めてもらえたので、とても印象に残っています。
-素晴らしいですね。お仕事を進める上で、大切にされていることについてお聞かせ下さい。
お客様の立場に立つということが、私としては大事だと思っています。お客様の立場に立ちつつ、また専門家として「実際にその中で何が出来るのか?」という現実的な解決策を見つけてご提案するよう心掛けています。
難しいのは、システムに関わる方はすごく沢山いて、それぞれ の立場で課題や思惑が異なることです。例えば、経営者がITに求めることと、セキュリティ担当者やマーケティング部門、システム運用をしている人ではそれ ぞれの目線が違うんです。それぞれの想いが相反することも多くあります。例えば、堅牢で安定稼働するシステムを実現したいとシステム担当者の立場では考え ますが、それにはシステムを複数台で構成する等の対策が必要な為、コストが膨大になってしまいます。
セキュリティをより重視すると、システム上でも制約・制限を かけなくてはいけないので、パフォーマンスや運用の利便性が落ちてしまいます。特に最近はセキュリティに関する要求が高くなっている一方で、ネット証券や オンラインゲームなどは性能にシビアです。それらをどう両立するかということになってきます。
また、ITがビジネス基盤となってくると、ビジネスの成長や 変化に合わせて、システム側でもサービスや機能の追加・改修が必要です。最初に作ったシステムが成長して膨らんでいくことができるように、拡張性や変更へ の柔軟性を残さなければなりません。そこを見据えて、「じゃあ今何をしましょう」という話をしていく必要があります。その企業が将来的にどんなことをやり たいのかといった部分までヒアリングをしながら、納得のいくものを提案するという点でお客様の立場に立つということを大切にしてきました。
カナダに来てからは経営と立場が変わり、今はまだ学んでると いった状態ですので、経営方針を語れるようなものはありません。現状は親会社の中の一つのチームというポジションですので、早く現地のビジネスを広げて、 カナダでの雇用をしっかりと増やして、どのようにカナダの中に弊社が根付いていけるのかという道づくりをしていきたいと思っています。その中で色々な人の 話を聞いたり、刺激を受けたりしてとにかく学んでいきたいと思っています。
-ここでプラベートについてもお聞かせ下さい。ご趣味は何ですか?
カナダに来てから楽しんでいることとして、一つはトレイルです。日本にいた時から日帰り程度ですが、山に登りにいったり、ハイキングにいったりしていました。カナダは自然がより身近にありますので、今でもジョギングがてらハイキングへよくいっています。
もう一つは音楽ですね。最近はレコードを探して 聴いています。特にコロナになってから家にいる時間が増えたので、最近レコードプレーヤーを購入しました。日本でも持っていましたが、カナダには持ってき ませんでした。ロックダウンの合間をみながら、お店がやっているタイミングでレコードを探すことが、今のささやかな楽しみですね。
-ギターを弾いたりしますか?
ギターも持ってきましたが、あまり弾いてないですね。音楽を 始めた頃から、イギリスの60年代後半から80年代くらいの音楽がすごく好きでした。こちらでもその当時のレコードが多く流通しているのと、今まであまり 意識はしていませんでしたが、日本でプレスしたものと、アメリカでプレスしたもの、イギリスでプレスしたものは音が違うということを知り、アメリカプレス のものをせっせと集めています。
商工会のオンライン会議で、画面越しに見える伊東専務理事のオーディオコレクションが凄いなといつも拝見しています(笑)。昨年の11月頃から集め始めたので、まだまだ枚数はありませんが、これから集めていくのが楽しみです。
-今後カナダ駐在中に挑戦したいことにお聞かせ下さい。
今回商工会の運動部長に任命いただき、ゴルフ大会の運営に関 わるということで、ゴルフですね。私自身、ゴルフはカナダに来てから始めたのでまだまだビギナーですが、ルールも含めこれから勉強していきます。昨年の商 工会ゴルフコンペへ参加させていただきましたが、最下位でした(笑)。皆さんとラウンドを周ることがすごく楽しかったのですが、今年はもっと自分のプレイ も楽しめるように上達したいですね。皆さん、是非お声がけ下さい。
もう一つは今単身赴任でカナダへきておりますが、家族を連れ てカナダの自然を楽しみたいです。日本の夏休みのタイミングで家族を呼んで、アルゴンキンやアルバータの恐竜博物館やカナディアンロッキーへも行ってみた いですね。なかなか日本ではできないカナダの自然を家族と楽しみたいです。
-最後に商工会会員の皆様へメッセージをお願いいたします。
カナダオフィスを立ち上げてからまだ日が浅く、右も左も分か らない中で、商工会を始めとしたカナダにいらっしゃる多くの日本人の方に支えられながら、ここまでやってこれました。この度、理事に就任させていただいた こともあり、少しでも皆さんに恩返しや、お役に立てることをしたいと思っております。
弊社の社名である「CO-Sol」ですが、企業理念である 「co-solutions(コーソリューションズ)=共に解決する」ということが由来となっております。まさに商工会の「相互に支え合う」という活動自 体が弊社の企業理念を体現していますが、今まで支えられるばかりでしたので、今度は支える側になりたいと思っております。
また、トロントには日系のIT企業が少ないと感じておりま す。ITというとなかなか実体が分かりにくく、イメージが沸きにくい部分もあるかと思います。私達の専門は、データベースですが、それに限らず些細な事で も何かお役に立てることがあるかと思いますので、お気軽にお声かけ下さい。
-本日はお忙しい中お時間頂きましてありがとうございました。これでインタビューを終わります。