私の○○

私の推し活~革を育てる~
トロント日本国総領事館 引地 孝典 

レザー
ヌメ革を使ったショルダーバッグ

日本では最近よく聞く「推し活」。みなさんには推しているものはありますか?私は革(レザー)の魅力にとりつかれ、革製品をいくつか“育てて”います。「革を育てる」というのは、革製品をゆっくりと時間をかけて使い込み、その表情の変化を楽しむことを意味します。革は使えば使うほど、色味や艶、風合いが増していきます。いわゆる「育てる」とは、この変化を見守り、手入れを行いながら、革が持つ本来の美しさを引き出すことだと思います。今日は私が感じる革の面白さの一端をみなさんにご紹介したいと思います。

◆経年変化を楽しむ

革製品の面白さの一つは、先ほども触れました使い込むことで経年変化(エイジング)が生まれてくるところだと思います。革の種類や加工の仕方にもよりますが、使っていくうちに日光や手の皮脂によって革の色味や艶、質感が変わっていき、より味わいある風合いに変化していきます。雨にぬれてできたシミや、いつの間にかついた小傷も初めのうちは少し気になるものの、段々と革に溶け込んで「味」の一つになるところが魅力だと思います。一枚目の写真は私が愛用しているヌメ革(タンニンでなめした牛革です)のショルダーバッグで、使用歴は七年ほどですが、元々は明るい茶色だったものが次第にアメ色に変化し、艶も出て深みが増してきました。私の革友のお財布も、元々はネイビーだったものが七年の歳月を経て今では深い黒へと経年変化を遂げ、まるで黒曜石のような艶やかでありながらも落ち着いた輝きを放っています。

bag
ヌメ革を使ったブリーフケース

黒色の革も経年変化するの?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、黒も変化していきます。二枚目の写真はヌメ革を使用した私の仕事用カバンで、使用歴はまだ二年ほどになりますが、購入当初と比べると光沢が生まれて持った感じもより手に馴染むようになってきました。これから先も使い込んでいくことで、その表情が時と共に変わりゆく様を見守り、じっくりと楽しみたいと思っています。色の変化を楽しみたいと言う方は、淡い色の革をセレクトしてみてください。

◆個性を楽しむ

ご存じの通り革と一概に言っても色々な種類の革があり、それぞれ経年変化の仕方や質感、色合いに違いがあり、また同じ種類の革であっても模様が異なっていたりと、ひとつとして同じものは無く個性があってとても面白いです。数ある革の種類の中で今回は、「コードバン」について少しご紹介してみたいと思います。

WALETS
左がホーウィン社、右が新喜皮革のコードバンを使用した名刺入れ

革の中でも最上級と謳われるコードバンは、その細やかで緻密な繊維、洗練された艶感、そして何より漂う卓越した品格は、手にした者の所有感を満たし、また、その希少性ゆえに「革のダイヤモンド」と讃えられています。コードバンは食肉用の農耕馬のお尻部分からとれる皮革で、一般的な表面を残してなめされた革と違い、皮膚組織の内部にある厚さわずか2mm程度の「コードバン層」と呼ばれる部分だけを削り出したものがコードバンの革となります。コードバンは美しいだけではなく、優れた堅牢性を誇り、引き伸ばしや圧力に対しても圧倒的な強さを発揮して耐久性に優れています。

その反面、水分はオイルコードバンにとって最大の敵です。水が付くとシミになったり、圧着された繊維が立ち上がり、表面が盛り上がって光沢を失う「水ぶくれ」を引き起こしてしまうので、水滴が付いたらすぐに拭かなければなりません。また、傷にも弱く誤って少しでも爪を引っかけてしまったりすると目立つ傷がついてしまうという弱点もあります(そして、ちょっとだけいいお値段します…笑)。ただそのようなシミや小傷もメンテナンスや使い込んでいくうちに味として生まれ変わり、共に歩んできた時間が美しさとして革に刻み込まれていく様を存分に堪能できるところもコードバンの魅力かと思います。

WALET
ホーウィン社のコードバンを使ったお財布

コードバンを取り扱っている有名なタンナー(製革業者)は主に、アメリカ・シカゴのホーウィン社と兵庫県の姫路の新喜皮革の2社がありますが、加工の仕方が異なるため同じコードバンでもそれぞれ特徴があります。ホーウィン社のコードバンは油分が多く含まれており手にしっとりとフィットする感触で、良い意味で色ムラがありワイルドな風合いとギラリとした光沢を楽しむことが出来ます。

新喜皮革のコードバンには透明感があり、サラリとした触り心地です。ホーウィン社のものと比べて色ムラも少なく日本らしい丁寧な仕上げとなっており、均一的な美しさが魅力です。世界に一つだけの花のように、どちらが優れているという訳ではありませんので、気に入った方を選んでもらえれば間違いないかと思います。

◆メンテナンスを楽しむ

最後にメンテナンスについてお話したいと思います。メンテナンスを惜しまず施すことによって、まさにその革にしか生まれない唯一無二の輝きを手にすることができます。メンテナンスのやり方は製品や使う頻度によって異なるので、詳しくは商品説明を確認したりショップの店員さんに聞くことが一番ですが、基本的に日々のメンテナンスは定期的なブラッシングとから拭きだけで大丈夫だと思います。

MENTENANCE
メンテナンスキット一式

私の場合、毎日使うお財布や仕事用ブリーフケースは大体一週間に一度、それ以外の使用頻度のそこまで高くないものは月に一度くらいの間隔でブラッシングとから拭きをしています。ブラッシングとから拭きをすることでは表面の汚れやステッチや隅の部分などの埃を払うとともに、革のキメが整うため小傷が目立たなくなったり艶を出したりする効果があり、曇った革の表情をまた輝かせることができます。なお、頑固な汚れにはレザークリーナーが有効です。また、表面が少しガサついてきたなと思ったらそれは革が乾燥してしまっているので、オイルケアをして革に栄養を補給してあげてください。

メンテナンスキットも多種多様で、ここも色々とこだわり抜けるところが革の奥深さであり面白さだと思います。雨音が静かに耳を打つ中、手にした革を丁寧に磨き上げ、その艶やかな輝きと、革が醸し出す豊かな香りに浸りながら、グラスの中でゆっくりと揺れるウィスキーのロックを一口。そんなひとときの贅沢を享受することこそ、真の至福であり、人生の楽しみ方のひとつではないでしょうか?

◆終わりに

いかがだったでしょうか?ご紹介したものだけにとどまらず、職人の卓越した技術や、加工の違いが生み出す特徴など、革の魅力はまだまだ語り尽くせないですが、今回の記事が少しでもみなさんの革製品への興味をかき立てるきっかけとなれば幸いです。トロントにもいくつかレザーショップはあるようなので、ぜひお気に入りの一品を見つけて、みなさんも“革活”を楽しんでみてください!