特別取材企画

Arrowsmith School訪問「霧の中のバーバラ」に聞く
文責 伊東 義員

霧の中のバーバラ

商工会事務所から補習校事務所に向かうために路面電車を利用する都度、その車窓から見える学校があります。
Arrowsmith School https://arrowsmithschool.org
住宅を2つ使った施設で私立の小さな学校であることはわかりましたが、どのような特色をもった学校なのか気になっていました。こうした小さな私立学校では、公立学校ではできないような特色あるプログラムを持つことが多いので、いつか訪問したいと思っていました。

今年に入り、縁あって、その学校を訪問する機会を得ました。訪問を前にして、その学校の主催者バーバラ アロースミスーヤングさんを取り上げた本を紹介され、読んでみました。

その本のタイトルは『霧のなかのバーバラ 学習しょうがいを克服した女性の物語』(片山恭一著 文芸社)その本の帯には、“脳を育てて運命を変える…「アロースミス・プログラム」を追う”とありました。

これらから、この学校は、学習障害の子供たちに特別なプログラムを提供している私立学校であろうと推測しました。自分には、学習障害についての知識もほとんどなく、どのようなプログラムなのかとても興味が沸きました。

先に読んだ本によると、バーバラさんが直面した困難とは、幼少期から始まり、学校に上がるとますます顕著になってきたといいます。学齢が上がるにしたがい、数学の計算、抽象的な理解、文章展開の把握などに、他の生徒より多くの時間を要したそうです。全くできない、わからないわけではないものの、理解、処理するまでにほかの人の40倍、50倍もの時間が必要だったそうです。当時は、学習障害の認知が一般的でなく、学校の先生からは、学業の先行きが厳しいと告げられたそうです。

幸い、暗記力には秀でたものがあったことから、教師だった母親が作ったフラッシュカードで、映像として知識をため込み、それを繋げ、当てはめることで理解し、処理を早めるという手法を独自に身に着けたそうです。ただ、そのためには依然として多くの時間を必要とし、並みならぬ努力で大学へ進学できたものの、それは大学時代になっても同様で、図書館で夜警の人の目を盗んで徹夜で勉強することもあったそうです。

そうした独自の力で大学院まで進み、教育現場経験を経て、同じような苦悩を持つ子供たちのために、学習法を開発、学校を1980年に設立し、実証研究を兼ねて運営している学校だということがわかりました。

アロースミス学校では、バーバラさんが幼少時に活用したアナログ時計が示す時間の瞬時判定、数字加減の暗算、シンボルの差異認識など19の領域を訓練するプログラムを開発し、その正解率とかかった時間を測る独自開発したコンピューターソフトで、それぞれのお子さんの弱いとされる脳機能を高める訓練を行っていました。

その成果はデータで管理し、瞬時・逐次、子供たちの成長を見ることができるようになっています。また、そのデータは、オーストラリアやスペインなど海外での同様の訓練をする学校や研究機関と共有され、脳の訓練方法の研究に活かされているのだそうです。

school

見学当日は、10人ほどのお子さんが居り、皆、パソコン画面に向かいそれぞれに与えられたプログラムで、訓練に集中していました。規定の回数を終えると即座に成績が表示され、前回よりも上がった生徒さんには笑顔が、下がったお子さんには「次は!」という意欲が見られ、教員はデータと生徒の態度を見て、適切な指導をしていました。訓練の邪魔とならないように区切りを見計らって、生徒さんに話かけると成績を見せてくれる生徒さんもいて、自信を深めている姿が印象的でした。

アロースミス学校は、オンタリオ州の認定を受けている私立学校で、グレード1から受け入れています。標準カリキュラムの普通公立校での学習に支障があるお子さんが、この学校に数年通い訓練を受けた後、ホームスクールに戻り、また標準カリキュラムを進めるという連携を取っているのだそうです。

設立者バーバラ アロースミス-ヤングさんと、学校長のシェリー ウォーンさんにお話しを伺いました。

バーバラアロースミス
バーバラ アロースミス-ヤングさん

どのような思いで学校と手法開発を始められたのですか。
―(先に述べたような)自分の幼小からの経験から、脳は訓練すれば機能するようになるということが判りました。脳は、個人にとってもっとも大切な資産です。訓練によって、それを十分使えるようにすることで、学業を進められ、幸せな生活、人生を送れるように、手助けしたいという思いです。

しかし、今の社会や学校制度の中では、まだまだ学習障害への認知や対策が不充分と思います。学習障害が理解されないことから、メンタルヘルスの問題に発展する子供たちもいます。そうしたことで悩んている子供たちやその保護者の方々に、より多くの可能性を示してあげたいと願っています。

また、この訓練は子供たちに限定するものではありません。学業を終え、社会に出てから学習障害に気づかされるケースもあり、そうした成人への訓練プログラムも行っています。オンラインでの訓練もできるようになったことから、今では欧州から参加している人もいます。

会合
菅前首相ご夫妻とマドリッドにて

日本発祥で世界中に知られるようになった「公文学習法」との違いはなんでしょうか。
―公文も脳の訓練のひとつだと思います。しかし、その訓練領域は限られたものです。アロースミス法では、19の領域に分類し、それぞれの領域に合った訓練プログラムを開発して実施しています。学習障害といっても一人ひとりの状況はまちまちです。それぞれの状況にあった訓練プログラムを組み合わせることで、効果を上げています。

話を伺うと、熱い思いからか、話が止まらない方々で、とても勉強になる訪問となりました。今年は、日本・アジアへの訪問も予定されており、日本でもこの手法が導入され、学習障害の子供たちや成人の方、そして認知症になった方への訓練手法として活用されることを願っているそうです。

バーバラさんTED トーク (英語)
https://www.youtube.com/watch?v=o0td5aw1KXA

Arrowsmith School日本語ページ
Japanese | Barbara Arrowsmith-Young (barbaraarrowsmithyoung.com)