Mitsubishi Canada Ltd. General Manager
益城裕司氏

Mitsubishi Canada Ltd. 益城裕司氏へお話を伺いました。幅広い産業を事業領域としており、貿易のみならず、パートナーと共に世界中の現場で開発や生産・製造などの役割も自ら担う三菱商事。環境変化に応じて柔軟に事業モデルを転換させ、価値創造に取り組み、世界中に広がるネットワークと挑戦する姿勢を強みとしています。カナダ三菱商事は1956年から続く歴史ある拠点で、現地の新規事業開発や関連会社のサポートを行っています。益城氏は20年以上ぶりにトロント支店に常駐支店長として2025年4月に着任し、豊富な海外経験を活かしながら、カナダ独自の価値創出に取り組んでいます。
ー事業内容のご紹介をお願いいたします。
三菱商事は、エネルギー、素材、金属資源、インフラ、モビリティ、食品、コンシューマー、電力など、幅広い産業を事業領域としています。環境変化に応じて柔軟に事業モデルを転換させ、価値創造に取り組んでおり、未来を見据えた新しいビジネスにも力を入れています。
従来のような貿易・トレーディングに留まらず、事業投資、さらには、国内外のパートナーと共に、世界中の現場で開発や生産・製造などの役割も自ら担っております。例えば、2014年からノルウェー・カナダ・チリでサーモン養殖事業を行っており、生産量は世界2位を見込んでいます。また、チリ・ペルーで銅鉱山を保有しており、弊社に帰属する生産量は本邦最大規模です。十円硬貨で言いますと約760億枚分で、国内の十円玉の流通量の約4倍相当となります。
カナダ三菱商事は、三菱商事が世界に有する100以上の全社拠点のうちの一つであり、1956年からカナダに設置されている最も歴史が長い海外拠点の一つです。カナダ三菱として独立して行っている事業は無く、基本的に新規事業を現地で追いかけております。バンクーバーに本社を構え、トロントにも支店を置くことでカナダ全土をカバーし、事業開発や関連会社の運営支援を行っております。トロント支店では現在従業員は5名、また、オンタリオ州内の事業投資先としてリッチモンドヒルにMC Machinery Systems Canada、トロントから西に3時間ほどのサーニアにDiamond Petrochemicals Canada Corporation (DPCC)があります。
ー御社の強みについてお聞かせください。
あらゆる産業について、グローバルに幅広いネットワークを持っていることだと考えます。海外拠点に加え、約250社の主要事業投資先を通じて、広い産業接地面を持っており、単に出資・投資するだけではなく、社員を派遣するなどしてリアルな経営やオペレーションの現場に飛び込んで業務に従事しています。また、ファーストペンギンになることを厭わないチャレンジ精神も強みだと感じます。
「経済価値」「社会価値」「環境価値」の三価値同時実現のためであれば前人未到のプロジェクトにも積極的に挑戦してきた企業です。こうした仕事との向き合い方を通じて、社会の変容や取引先のニーズに早期から反応・対応し、社会的に有用な商品・サービスの安定共有に貢献できるポジションを築いてきた歴史があると考えます。
ー今後の目標や展望についてお聞かせください。
ご存じの通り、トロントはカナダにおける商業とイノベーションの中心地です。その地の利を最大限生かして、カナダならではのユニークな新規事業を開拓していきたいと考えています。カナダは、超大国である隣国アメリカの陰に隠れてしまいがちですが、国際的な競争力を有する事業領域を沢山持っていると考えています。その一つ一つにスポットライトを当て、何か有意義な取り組みができないか、自分の目で見極めてそれを具体化していくことが目下最大の目標です。
加えて、社内の話になりますが、トロントをAIエキスパート人材の育成拠点として盛り上げていきたいと思っています。ご存じの通り、トロントはAIゴッドファーザーであるジェフリーヒントン教授のもと、今を時めくAI企業の中心的メンバーが、AIについて学んだ場所です。昨年度から、トロント大学とのパートナーシップに基づき、数理的素養を持った社員を同学に派遣し、最先端のAI知見を学ぶ人材育成プログラムを始動させました。トロント支店としてこのプログラムの拡充を支援しており、会社全体としてAIを使いこなせる素地を育てていきたいと考えています。
ー特筆すべきニュースはありますか。
本年夏に、カナダで史上初となる天然ガス輸出プロジェクト(LNG Canada)の操業開始にこぎ着けました。構想から17年超、投資決定から約7年の年月を要しましたが、カナダが世界に誇るエネルギー資源をアジア市場に輸出販売できるインフラを整備するお手伝いができたのは僥倖でした。
また、つまらない話で恐縮ですが、弊社トロント支店は1960年から設置されているものの、過去20年以上に亘って常駐の駐在員はおらず、支店責任者はバンクーバーにいる駐在員が兼務してきました。当方が久方ぶりの常駐支店長として赴任したことを、この場を借りてハイライトさせて頂けますと幸いです。この背景には、弊社としてトロントというロケーションの特筆すべきポテンシャルを近年再認識するに至ったという経緯があります
ー益城さんはどちらのご出身ですか。今までのご経歴についてもお聞かせいただけますか。
あまりバレませんが(笑)、大阪生まれ大阪育ちの関西人です。大学卒業まで関西におり、2013年に新卒で三菱商事に入社し、初めて上京しました。
入社後、殆どのキャリアで新規事業開発に携わりました。最初の取扱製品は「マグネット」でした。弊社として自動車部品の製造事業への新規参入を目指しており、EVの駆動モーターに内蔵されるような超高性能の産業用磁石工場をパートナーと共に岐阜県に建設し、事業立ち上げ・販路拡大・原料となるレアアースの安定確保などに従事しました。残念ながら様々な理由から撤退となりましたが、新しく事業を創造する中でのやり甲斐と、社内外の様々なステークホルダーを巻き込んでいくことの楽しさに夢中でした。
その後、様々な産業インフラ(空港、鉄道、水処理、発電など)を所掌する部門に転じて、石油化学やエネルギー資源にまつわる「プラント・インフラ」業界に身を置くことになりました。全く知らない業界で日々勉強を行っていた矢先、日本を代表するプラント設計・建設会社である千代田化工建設㈱へ出向を命じられました。
ExxonMobilやShellといったオイルメジャー向けに、北米・アフリカなどでの天然ガスや石油処理のプラント建設委託契約を受注するために、海外パートナーとも連携しながら、Oil & Gasのメッカである米ヒューストンに張り付き、契約交渉を行いました。受注or失注、オールオアナッシングの厳しい競争環境でしたが、日米の時差に苦しめられながらも、プロジェクトチームで一丸となって様々な業務を同時並行的に進めながら、超大型案件を進める経験は得難いものでしたし、人間的にも成長する好機となりました。全くと言っていいほど喋れなかった英語も、ここで多少は話せるようになりました。
出向解除後は本店でデベロッパー兼投資家としてバングラデシュのインフラ整備に携わり、天然ガス輸入能力の倍増や都市インフラプロジェクトに貢献しました。印象的なプロジェクトとして、後ほどお話いたします。
帰国後は「クリーン水素」の事業開発に取り組みました。脱炭素が世界の潮流となっていた矢先、燃やしても二酸化炭素を排出しない究極的なクリーン燃料である水素をハンドリングするためのインフラ整備に商機を見出し、世界初となる国際的な水素サプライチェーン開発に取り組みました。

私のミッションは、世界で最も価格競争力が高いクリーン水素製造拠点をいち早く押さえること。様々な仮説を立てながら複数の有望ロケーションを特定しては、プロジェクトマネージャーとして、夫々現地パートナーと共に経済性精査を同時並行的に行いました。コロナ禍のさなか、東南アジア・豪州・北米・南米・中東・欧州と、世界のあちこちで案件を仕込む日々でした。現在脱炭素ブームが一服した感がありますが、真に有望と言える案件を特定し、確りとバトンを繋げることができました。
そんな折、弊社初の試みとして、トロント支店を含むいくつかの海外拠点の責任者ポストが社内公募される旨の発表がありました。これまでの業務でトロントは何度か訪れており惹かれていたので、応募した処、運良く選定されました。正直に言うと選ばれたことは意外でしたが、何かあるとすれば、これまで様々な領域で新しいビジネスを求めて、泥臭くやってきたことを「こいつ面白いな」と思ってくれた人間がいたのかもしれません。
ーいままでで印象に残っているプロジェクトは何ですか?
バングラデシュでの天然ガス処理プラント案件は、地図にも同国の歴史にも残るような案件だったので、印象に残っています。人口増加と経済発展が著しい同国では、様々なプラントのキャパシティが足りなくなっていたり、そもそも私たちが当たり前と思うようなインフラが整備されていなかったりと、社会問題となっていました。

また、これから経済成長という時に、主要な国産エネルギー源だった天然ガスが枯渇してきており、海外から輸入するためのインフラ構築が喫緊の課題となる中、比較的早期に設営が可能な船型のプラントプロジェクトに出資参画して操業開始を支援し、バングラデシュの天然ガス輸入能力を2倍にすることができました。その他にも、首都ダッカを巡る地下鉄、国際空港のターミナル増設、変電所の増強プロジェクトなど、様々なインフラプロジェクトに関与しました。そんな中でコロナ禍によって急遽帰国を余儀なくされたのは心残りでしたが、一国家の経済発展をこうした形でサポートできた経験はとても印象に残っています。
-お仕事を進める上で大切にしていることは何ですか?
二つあります。一つ目はチームワークです。独りでできることは何も無いという確信があり、社内外で味方を作って、One Teamで仕事を前に進めて行くことは常に意識するようにしています。二つ目は好奇心です。色んなものや人に興味を持って話を聞いたり、実際に会いに行ったり見に行ったりするように心がけています。PCやスマホ、今でいうとAIだけで仕事は完結しません。思わぬところに発見やチャンスがあるものと経験則的に強く思っています。
-お好きなスポーツやご趣味、休日の過ごし方をお聞かせください。
旅行が妻と共有している趣味であり、主な休日の過ごし方です。日本からは行けないような場所を中心にWish Listを作成し、毎月1回はカナダ国内外に家族旅行に出かけています。ゴルフは敢えて封印し、旅行に時間とお金を費やしています。旅行が計画されていない週末も、街中を当てもなく歩いて散歩するのが好きです。冬は、インドアでできる新しい趣味を見つけたいと思っています。

ー今後カナダ駐在中に挑戦したいことは何ですか?
仕事ではカナダらしいユニークな事業を具体化したいと思っています。プライベートではカナダの全州と準州への旅行です。
ー最後になりますが、会員の皆さまへメッセージをお願いいたします。
トロントは、多様な文化が織りなすダイナミズムと、尽きることのない新しい発想が絶えず交錯する、非常に刺激的で魅力的な都市だと日々感じています。この素晴らしい環境で、歴史と実績を築かれてきた邦人ビジネスコミュニティの一員となれたことを、心より光栄に存じます。皆様は、それぞれの専門分野において、長年に亘りこの国と真摯に向き合い、多大な貢献をされてこられた方々ばかりと拝察いたします。私自身もこの地で、皆様との尊い出会いを通じて新たな視点と学びを得る毎日です。
同じトロントという舞台で挑戦を続ける同志として、ぜひ皆様と積極的に交流させていただきたく存じます。どうぞお気軽に声をかけてください。これから、皆様と共に歩みを進められることを楽しみにしております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
ー本日はお忙しい中ありがとうございます。これでインタビューを終わります。