オンタリオで活躍する日本人に聞く

KANTEN CANADA オーナー 安村 真紀子さん
寒天の魅力・美味しさをカナダへ

幼少の頃から慣れ親しんできた寒天をカナダで広めたい、ビーガンや宗教上の理由で動物性のゼラチンが食べられない方への食事の幅を広げたいという思いからKanten Canadaを立ち上げた安村真紀子さん。現在、オンライン販売を中心にカナダで寒天の普及に取り組んでいます。

-ご職業の紹介をお願いいたします。

2019年にスモールビジネスとしてKanten Canadaを立ち上げました。2017年にカナダへ移住後、日本で慣れ親しんできた寒天が気軽に食べられないということに気づいたんです。

私自身や家族が日常的に寒天を楽しめないというだけでなく、多文化主義のカナダはベジタリアンやビーガンで生活している方が多く、また、宗教上の関係で牛や豚の骨や皮で作られたゼラチンは食べられない方もたくさん暮しています。

ゼラチンの代替品として寒天を紹介することで彼らの食事の幅が広がること、カナダの人々や日本人コミュニティに寒天の魅力を広めることにより、もっと気軽に楽しんでもらいたいという思いからこのビジネスを始めました。

-カナダへ移住されたきっかけは?

娘が10歳の時に、日本からカナダへ移住しました。世の中は日本だけではないこと、広い視野を持って成長してほしいという親としての思いから決断しました。夫が日系二世であり、カナダで生まれ育った経験を持っていたことも影響しました。

実は、当初アメリカに移住する予定だったんです。トランプ政権発足直後の影響で夫のビザが下りず、一方で、荷物は既に船便で海を渡り、娘の現地校も決まっていた状況でしたので大変でした。結局、夫の故郷であるカナダに戻ることとなり、トロントに定住することになりました。結果的に、この決断は良かったと感じています。

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長野の寒天製造の様子

-日本では寒天に携わるお仕事をされていましたか?

日本に居る時は長年秘書業をしてきましたので、小さい事業ながらもここに来てまさか自分で立ち上げるとは思ってもいませんでした。

幼い頃から父の影響で寒天が常に食卓に並ぶ生活を送っていました。幼い頃は体が弱く小児喘息で度々入院することがあった私に、両親は健康的な食事を心掛けて身体に負担の少ない寒天も食べさせてくれました。そのおかげで大人になってからは健康で身体が強くなりました。娘が生まれてからも同じように出汁を寒天で緩く固めたり、寒天ゼリーを食べさせて育ててきました。

私自身はトロントの姉妹都市である神奈川県相模原市で生まれ育ちましたが、寒天の生産日本一である長野県出身の父の関係で地元業者との繋がりがありました。業者の方とカナダの現状について話をしてみると、彼らは地元中心に日本国内でのビジネスに特化していて、カナダ(海外)に寒天を広める人がいないことが分かりました。そこで、「じゃあ私が広めようじゃないか」と決意したんです。

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寒天ゼリーサンプル

もう一つのきっかけは、移住後直ぐに仲良くなったビーガンの友人から学んだことです。ビーガンの方々は食べられるものが限られているため、友人は寒天を取り入れることで食の幅が広がることを知り喜んでいました。カナダにはビーガンや宗教上の理由でゼラチンを避ける人が多いので、彼らにも寒天を知ってもらいたいと思ったのも、きっかけの一つでした。

-ビーガンの友人が初めて寒天を召し上がった時、どんな反応をされていましたか?

初めての食感、寒天を食べた後もお腹がすっきりしていることに驚いていました。寒天は食物繊維が豊富で、いくら食べても負担になりません。また、寒天のお陰で様々なデザートを楽しむことができます。例えば、豆乳プリンなども寒天で固めればビーガン仕様になりますし、新しい食べ物を知る楽しさについて、ビーガンのお客様からたくさんの声をいただいています。

-カナダでビジネスを始めるにあたり、大変だった点、苦労された点はありますか?

起業の経験がなく、ゼロからのスタートだったため、起業に必要なことや食品の輸入手続きなど、様々な課題を一つ一つ紐解いていくのは非常に大変でした。営業経験もなかったので、寒天を広めるために初年度は積極的にイベントに出店しました。その中で、琥珀糖と呼ばれる寒天で作られるお菓子が誕生しました。琥珀糖はキラキラした宝石のようにとても華やかで、寒天のことを知らない人でも興味を持ってくれると考えて取り組みました。

2020年にはコロナ禍となり、イベントなどに参加できなくなりました。しかし、その逆境をチャンスと捉え、オンタリオ政府のスモールビジネス支援プログラムを活用してオンラインショップのプラットフォーム作成方法を学び、弊社のオンラインショップを立ち上げることができました。皆さんと同様すごく大変な時期でしたが、新たな取り組みを実現するため非常に重要な時間となりました。

-店舗などは出されていますか?

今のところ店舗はなく、オンライン販売のみを承っています。他には、様々なイベントでベンダーとして出店したり、ご希望に応じてワークショップを開催していまして、その時は対面でご紹介しています。

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JCCCにて映画祭クロージングパーティ時

-今までで印象的だった出来事は何ですか?

昨年6月、トロント・ジャパニーズ・フィルム・フェスティバルのクロージングパーティーで寒天デザートを提供する依頼を頂き、あんみつを作りました。これまでケータリングやホームパーティーの依頼で数十個単位での対応はしてきましたが、この時は450個という桁が異なる大規模なものでした。

あんみつはフレッシュデザートなので、当日クロージングパーティー直前に合わせて提供するということもあり非常に大変でしたが、その分やりがいも大きかったです。何人か信頼できるお手伝いさんと共に、当日はJCCCのボランティアの方も積極的に協力してくださいました。パーティーに出席していた日系の皆さんからはあんみつを懐かしがっていただき、寒天の良さを私以上に理解していらっしゃる方が多いことが分かり嬉しい驚きもありました。

印象的な出来事としては、一人の女性との会話です。毎年参加しているその女性はビーガンのため、いつもはデザートを食べることができなかったとの事でした。しかし、今年初めてクロージングパーティで寒天デザートを楽しむことができ、その方から感謝された時はとても嬉しかったです。その経験から、私もいつか自分のお店を持ちたいという思いが芽生えました。

-どのような時にやりがいを感じますか?

寒天を知らなかった方が認知し、イベント等で紹介して目の前で喜ばれる瞬間は本当に嬉しいものです。寒天を言葉で説明するのは非常に難しいです。寒天は天草やオゴノリと言う海藻を煮出した寒天液から作られるプラントベース食材、ほぼ0カロリーでありながら食物繊維が非常に豊富です。寒天の食物繊維には水溶性と不溶性とがバランスよく含まれています。便通を整えるだけでなく、脂質などに吸着して排出する働きがあること、血中コレストロールを下げる研究結果が出されて生活習慣病の予防や改善にも効果があります。

このように寒天には沢山のベネフィットがあるのですが、私の拙い英語で説明するのは大変で長くなってしまいます。

しかし、実際に試食していただくと、寒天の食感やゼラチンで作られたJelloとの違い、そして爽やかな喉ごしや美味しさがわかりやすく伝わります。その結果、寒天に興味を持ってくださる方が増えるので、やりがいを感じます。

-おすすめの寒天レシピや食べ方などありますか?

カナダ人は健康意識の高い方が多いことから、砂糖を使用しない寒天が好まれる傾向があります。粉寒天は量など調整しやすいので使いやすく、粉寒天で作られるあんみつや豆かんに入っている寒天キューブは朝食に最適です。我が家も毎朝食べていますが、ヨーグルトに加えたり、メープルシロップをかけて食べると朝からスッキリします。寒天キューブはとっても簡単で様々なトッピングとして使うこともできます。

作り方ですが、4gの粉寒天に水500mlを準備します。棒寒天を使用したい場合は粉寒天の倍量8g(=棒寒天1本)を使用します。ポイントとしては、水の状態から粉寒天を入れて水を吸収させて溶けやすくすることです。また、寒天は融点が高いので沸騰してから溶けたと思っても2~3分は混ぜながら煮ることが重要です。一旦溶けたらその後しっかり固まります。この配合ですと、歯ごたえのよいホロっとした寒天が出来ます。

例えば、牛乳と砂糖を入れて牛乳寒天を作る場合は柔らかい食感が好まれるので、600mlの液体に対して3gの寒天がおすすめの配合です。私は100mlの水で寒天3gを溶かしてから室温の牛乳500mlを加えて作ります。その後は冷蔵庫でしっかり冷やして下さい。

-固まるまで、どれくらいかかりますか?

寒天は室温でも固まるので30分もあれば十分です。一方、ゼラチンは室温で溶けてしまう為、特に夏場だとゼラチンで作ったゼリーは柔らかく溶けがちです。寒天は一旦固まると室温では溶けないので、夏場のピクニックでデザートとして持っていくことをお勧めしています。

また、アイスクリームを作る時に寒天を加えることによって溶けにくくなるので寒天を少し加えることをおススメします。他にも、学校のベイクセールで寒天ゼリーを出すと、あっという間に売り切れますよ。アレルギー成分が入っていないので安全ですし、フルーツが沢山入っていてプルンとしているから子供達の人気者になれるんです。ホームパーティー、学校のイベント、野外のピクニックなど、様々な場面で活躍できる寒天デザートをおすすめしています。

寒天を作るのが面倒だという場合には、お湯で30秒間溶くだけでゼリーが作れるゼリーミックスもあります。好きな形に切ったり、可愛い型に入れるだけでお子さんも喜ぶと思います。ゆるめに固めた寒天を小さく切ったものであれば1歳児から安心して召し上がれます。

-今後の夢について

寒天の魅力を広めるためには、実際に寒天をお試しいただくことがカギだと感じています。日本食レストランや日本食以外のレストランでも、寒天を使った料理やデザートの提供、特に、ゼラチンの代わりに寒天を使用した前菜やビーガン対応のデザートなど、さまざまな場面で寒天を活用していただくことで、寒天の魅力がより多くの人々に伝わると考えています。そのために、ホールセールに力を入れて、寒天を提供する店舗や飲食業者との協力を深めていきたいと思っています。

また、別の事業として、テイクアウトを中心とした小さなお店をオープンする計画も進めています。このお店では、琥珀糖や寒天を使ったデザートを中心としたネオ和菓子屋さんとして、日本の伝統的な食文化をカナダの皆さんにも楽しんでいただけるようにしたいと考えています。

寒天は江戸時代から日本の食文化の一つとして受け継がれてきたものです。日本人移住者として、カナダでこの伝統的な食材や食文化を誇りを持って伝えていきたいです。

-本日はお忙しい中、ありがとうございました。これでインタビューを終わります。

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