バーリントン市で消防士のキャプテンとして、火災の消火や救急など、日々、人々の安全な暮らしを守っていらっしゃる徳山和治さんは、ご両親がカナダへ移民された日系二世です。日本、カナダでもなりたい職業の上位である消防士のお仕事の内容から消防士になるまで、また火事の原因など興味深いお話を伺いました。(聞き手:酒井 智子)
-ご職業のご紹介をお願いいたします。
バーリントンという丁度トロントとハミルトンの中間にある町で、消防士のキャプテンとして出所しています。勤務体系として、シフトが24時間ですので、大体週2回ほど朝7時から翌日朝7時までの勤務となります。その間、夜に暇な時間があれば、仮眠室で仮眠を取っています。
僕が在籍するバーリントンのステーションには、トラックが2台あり、大体6名から8名が毎日出所しています。はしご車、ポンプ車は1台に4名、レスキュー車だと1台に大体2名が乗車します。
-出動時間以外はどんな事をされていますか。
まず朝は、前日勤務している同僚との引継ぎとして、起こった事件やトラックの状態、ステーションの状態の確認をします。その後、消防車や酸素タンクなどのチェックをしますが、これが結構時間がかかるんですよ。あとは、各自で筋トレやランニングをなどのトレーニングをしていますね。勤務時は朝昼晩の三食をみんなで取りますので、交代で食事の準備や片付けもしています。
–食事の準備もされているのですね。
そうですね、消防団によって異なりますが、バーリントンの消防団では例えば僕が明日当番の場合、前日に自分でメニューを決めて、食事の材料を買ってきます。毎回6~8名分の食事を準備するんですけど、それまで料理をしたことがなかったので、消防士になってから食事作りが一番緊張したかもしれません(笑)。母親に料理を教えてもらいましたよ(笑)。みんなそれそれ好き嫌いもあるので、食事の管理は結構大変ですね。
-キャプテンの仕事として具体的にどのようなことをしていますか。
キャプテンは消防団の「リーダー」として、出動時は消防車のドライバーの隣に必ずキャプテンが乗車します。そこでラジオを使用したり、現場での指揮、出動後のチーフへの報告などがをします。ステーションでは、皆のトレーニングやスケジュール管理をしています。
あとはペーパーワークですね。普通の消防士はペーパーワークはしませんが、キャプテンはレポートをしなくてはいけないので、現場の後のレポートはもちろん、トレーニングのレポートも作成します。実はオフィスでのコンピューターワークが結構あるんですよ。チーフ以上になると、今度はペーパーワークばかりになるので、現場に出ることは滅多にありません。
–キャプテンになるまでにどれくらいのかかりますか?また、資格試験などはありますか?
期間として、大体10~12年くらいです。消防士になる前には、多くの資格試験がありましたが、キャプテンになるには現場での色々な経験が必要となります。消防団の中にも課目があり火を消すだけでなく、交通事故のレスキュー隊員、ロープレスキュー、水のレスキューなど実際の現場での経験が必要となってきます。これらの中では、実は火事が一番少ないかもしれません。
-そうなんですね、逆に一番多いのは何ですか?
消防士は救急車の手伝いもするので、メディカルなことですね。例えば心臓麻痺やケガ人の現場へ救急車と一緒に駆け付けます。大体消防車の方が早く到着しますので、救急車が来るまでの間に手当をします。そういったケースが僕らのコールの中で約60%、次いで交通事故、火事は約4%といった割合です。その他として、ロープレスキューや水のレスキューとなります。
-火事の原因について、一番多いのは何ですか?
料理です。料理を作っている間に気を取られることが多く、特に高齢の方は忘れるケースが多いです。またお子さんがいる家庭ですと、お子さんに気を取られるといったケースが多く見受けられます。あと、ストーブの周りが散らかっていたり、油がたまると火事になりやすいです。特にパンデミック中は皆さん自宅にいて、今まで料理をしなかった方も料理をしていたので、火事の件数が増えましたね。またこれからの時期は、暖房も原因の一つです。一方、在宅勤務の方ばかりでしたので、交通事故はかなり減少しました。
-現場に向かう時は、どんな気持ちですか?
やはり、とても緊張しますね。消防車が呼ばれるということは緊急事態ということですので、まず、怪我人がいるとか、そういったことを予想しなくてはなりません。また、どのような状態かまだ分からない中、その事件のプランを現場に向かっている4、5分の間に作って、他の消防団に伝えなくてはいけません。緊張もする一方、全く同じ事件というのは絶対ないので、毎回違うプランを考えるのが、言い方は良くないかもしれませんが、とても刺激になります。
-消防車を運転するために必要な運転免許証は何ですか?
オンタリオ州の免許で言いますと、普通免許はG2とGがありますが、消防車はトラックの免許であるDZが必要となります。Dはトラックの免許、Zはエアーブレーキといって普通の車のブレーキと違うシステムになります。この免許は、5年に一度筆記テストを受ける必要があります。
-カナダと日本の消防士の違いなどご存知ですか?
あまり日本の消防士がわからないので何とも言えませんが、カナダの消防士はイギリスやオーストラリアで仕事交換をすることがあるので、日本ともできないかなと思い、実は数年前に調べたことがあったんですよ。その時は東京都内しか調べませんでしたが、残念ながら英語ができる消防士を見つけることができませんでした。いつか日本の消防士と仕事交換をしてみたいですね。
-日本語が話せる消防士さんは、徳山さんの他にいらっしゃいますか?
トロントにはいるかもしれませんね。バーリントンには約200名の消防士がいますが、その中でもアジア系は2名程しかいません。白人男性が多くを占め、女性の消防士も15人程活躍しています。警察官や救急隊員に比べると、消防士のアジア系の割合はとても低いです。
-消防士を目指したきっかけについて教えて下さい。
子供の頃からなりたい!といったわけではなく、大学時代にはヨーク大学で運動力学を専攻していました。当時、大学に消防士の希望者が来て、大学生が希望者の体力テストをするということがあったんですよ。そこで皆さんから消防士について話を聞く中で、消防士に興味を持ちました。体力をちゃんとつける、運動をする、毎日違う仕事ができる、また公務員といった面で魅力を感じ、大学卒業後に消防士を目指しました。
-カナダで消防士になるのはかなり大変だと聞きますが、実際にはどうですか?
競争率が激しいので、それが結構大変かもしれませんね。消防士の応募資格として、高校卒業、トラック免許の取得、ファーストエイドの資格があれば応募できます。逆にそのせいで色々な人が応募するのというのもあります。
トロントでは毎年2000人が応募し、採用されるのはわずか50人程です。競争率が高いので、今は高校卒業というだけでは難しいかもしれません。大学卒業や仕事の経験、個人でロープレスキューの免許を取得することが必要になってきています。
-消防士になって嬉しかったことはどんなことですか?
カナダの子供達は消防士や消防車が好きなので、手を振ってくれたり、声をかけてくれることが嬉しいですね。ヒーローと言われるのはちょと恥ずかしいですけど(笑)。パンデミック前は、しょっちゅう学校へ行って子供達にプレゼンをしていました。僕自身、プレゼンをするのが好きですし、それを通して子供達と触れ合えるのは、とても楽しいです。
-常になりたい職業の上位ですので、子供達も大喜びですね。プライベートではお子さんがお二人いらっしゃいますが、ご自身のお子さんからの反応はどうですか?
そうですね、子供達はもう慣れているので、あまり何も言われませんが、友達や親御さんには「消防士さん」っていつも紹介され、皆さんからも「消防士さん」って呼ばれます(笑)。
-今後の夢についてお聞かせ下さい。
キャプテンの仕事はとてもやりがいがあり満足していますが、やっぱりもっと上にいきたいという気持ちがあります。今、パートタイムですが、大学に通い始めました。将来役に立つか分かりませんが、政府の勉強をしています。
* * *
日々危険と隣り合わせとなる任務に加え、将来のスキルアップのために学校に通われている徳山さん。これからも私達の安全を守るプロフェッショナルとしての活躍を期待しております!