「大切にしたい日本語」
トロント補習授業校 教頭 村本泰彦

正しい日本語の習得は、どこの補習授業校にとっても課題のひとつとして捉えられています。そのことを踏まえ、少しお話をさせてください。
フランスでは、自分の娘を自慢するときに「うちの娘は美しいフランス語を話します」と表現すると聞いたことがあります。
日本語の美しさは「敬語表現」にあると言われますが、最近はどうでしょうか。かつては言葉遣いで、その人の教育程度や育ちが分かると言われました。しかし今は、お笑い芸人やタレントが話す言葉が「格好いい」とされ、正しい敬語表現を交えた日本語は、どこか古めかしく(あるいは「ダサい」と)聞こえてしまうような日本人の耳になっているのかもしれません。また、メディアの発達により、影響力のある人の言葉遣いや話し方に、良くも悪くも影響を受けることが多々あります。
私は洋画が好きで、よく観に行きます。英語のセリフのすべてを瞬時に聞き取ることは難しいため、当然、たくさんの字幕を読むわけですが、そのときに威力を発揮するのが「漢字」です。漢字があれば、一字一字をしっかり読まなくても、パッと見るだけでおおよその意味が頭に入ってきます。これがもし平仮名だけだったら、読むのにすごく時間がかかり、場面の展開についていくのは難しいでしょう。漢字の有無によって、理解のスピードが全く違うわけです。まさに「伝家の宝刀」と言えます。
そんな日本語の良さを生かした芸能が「落語」です。国を問わず人を楽しませる話術や物語は多く存在しますが、日本の落語は非常に質が高いと感じます。落語のストーリーは分かりやすい構成で、聞き手を引き込み、楽しませてくれます。そのシンプルな構成は、茶道や華道にも通じる、日本独自の「引き算の美しさ」を感じさせてくれます。そして何より、話の中心にある『人情』が、私たちの心を温かくしてくれます。これも日本ならではの素晴らしい伝統芸能のひとつですね。
その良さを知ってもらうために、日本の学校では「落語教室」が開催されることもあります。少し前になりますが、子どもが作った落語(小咄)が新聞に掲載されていました。落語体験をした八歳の子どもが作ったという、微笑ましい小咄を二つご紹介します。
「あー、あと百円さえあればなあ」
「百円くらいなら私が貸しましょうか」
「ありがとうございます。これで貯金が一億円になります」
「お姉さん、何しているの?」
「今、お化粧してるのよ」
「ふーん、何でお化粧するの?」
「きれいになるためよ」
「じゃあ、何できれいにならないの?」
日本語を正しく理解し、その良さや美しさを知り、大切にする子どもを育てていくために、私たちは様々な方法でアプローチしていく必要があります。その中で、私たちが日々意識しておくべきこと――それは、子どもの言語活動に最も影響を与えるのは『人』であるということです。話すこと、書くこと、聞くことのすべてにおいて、私たち大人が「言語活動の手本」であるという意識を忘れてはならないと思います。
長崎出身で、今も方言が抜けない私が言うのも少しおこがましいのですが、いつか「トロント補習授業校出身の子は、本当に美しい日本語を話しますね」と周囲から自慢されるよう、少しでもお手伝いができればと思っています。
…あわせて、私自身も英語の勉強を頑張らなければいけません。
最後に、少しだけ自己紹介をさせていただきます。長崎県出身で、学生時代はラグビー部に所属していました。運動が好きで、自分でプレーするのも観戦するのも大好きです。実は走ることはあまり好きではないのですが、最近はダイエットのためだけに走っています。効果が出るのはまだ少し先になりそうですが、どうぞよろしくお願いいたします。