Miura Canada Co., Ltd.
Director, President 永渕 竜朗

意外なところに世界一の日本企業があることをご存じですか?今回はMiura Canada Co., Ltd. 永渕竜朗氏にお話しを伺ってまいりました。産業用ボイラを中心にエネルギーソリューションを提供されている同社は、1987年から現地生産を行い、特に食品・飲料業界を中心に多くの工場へ蒸気を通じた熱エネルギーを供給しています。
「Made in Canada」の強みと、長年にわたる地域密着のものづくりで、お客様の信頼に応え続けています。学生時代は原子力工学を専攻し、機械エンジニアとしてキャリアをスタートさせた永渕氏は、2024年7月にカナダへ着任されました。
–御社の事業内容の紹介をお願いいたします。
弊社三浦工業は、産業用ボイラを中心とした産業機器を扱う企業です。ミウラカナダでは、主に産業用蒸気ボイラを軸に、エネルギーソリューションを提供しています。ボイラは「熱」をつくる装置です。ご家庭では、ドライヤーや電子レンジ、電気ケトルなどで熱を生み出しますが、多くは電気を使っていますよね。
一方、産業用途では、電気を使うとコストが高くなるため、一般的にはガスを使って蒸気をつくり、その蒸気を配管を通して工場内のさまざまな設備に供給し、熱として利用します。弊社のお客様の約50%は食品・飲料関連の企業であり、とくに食品業界からのニーズが多いのが特徴です。
–御社の強みについてお聞かせください。
例えば日本では、大手ビール会社が4〜5社ありますが、そのうち約95%の工場で当社・三浦工業のボイラをご採用いただいています。カナダやアメリカでも主要なビールメーカーに導入されています。
ボイラはあまり目にすることがありませんが、実は身近な場所で幅広く使われている「縁の下の力持ち」です。多くの場合、建物の地下や屋上に設置されているため、一般の方が目にする機会は少ないかもしれません。
興味深い使用例としては、遊園地のアトラクションにも使われています。例えば、山から煙が出たり、恐竜の口から蒸気が吹き出す演出などに、ボイラでつくられた蒸気が活用されています。
先ほど例に挙げたビール製造では、原料を煮沸する工程や瓶を洗う「洗瓶」などの工程で、ボイラの蒸気が不可欠な役割を果たしています。このように、ボイラは多くの産業の加工プロセスを支えているのです。
もう一つの特長として、当社は1987年からカナダ国内向けに、カナダ国内でボイラの製造を行っております。多くの競合企業がアメリカで生産した製品をカナダに輸出している中で、「Made in Canada」は当社の大きな強みのひとつです。
三浦工業は1959年に創業し、海外展開の初期段階からカナダと韓国に進出しました。カナダにはその当時から自社工場を構えており、長い歴史と現地密着のものづくりが、お客様から高く評価されております。
–今後の展望についてお聞かせください。
日本における当社のビジネスモデルは、単に機械を販売するだけではありません。販売後のメンテナンスを通じて継続的に収益を上げる「ストックビジネス」を展開しています。ご存じのとおり、このような継続収益型のビジネスは、一般的に利益率が高く、当社の安定した収益源となっています。
一方、カナダでは、まだメンテナンス事業が十分に構築されておらず、販売収益への依存度が高いのが現状です。そのため、今後は経営の安定性を高めるためにも、カナダにおいてもメンテナンス事業の強化に注力していきたいと考えています。ここでは、日本品質のきめ細やかなサービスを提供することで、他社との差別化を図っていきます。
また、昨年は大きな転換点がありました。北米でトップシェアを持つCleaver Brooks社を買収し、世界一の蒸気ボイラーメーカーとなりました。この買収により、アジアはもちろん、北米においても業界最大のマーケットシェアを持つグループへと成長しています。
–永渕さんのご出身、ご経歴についてお聞かせください。
出身は九州の福岡県です。地元の九州大学工学部に進学し、原子力工学を専攻しておりました。現在注目を集めている核融合技術の研究にも、学生時代に一部関わっていました。原子力の分野でも「熱」の活用は非常に重要であり、当時は熱に関する研究を中心に取り組んでいました。
そのご縁もあり、2000年に三浦工業へ転職し、機械エンジニアとしてキャリアをスタートしました。海外で働きたいという夢があり、それを叶えるかたちで2008年にアメリカへ赴任し、2017年までの9年間、米国で勤務いたしました。こちらでは、現場の営業やメンテナンスの技術サポートに携わっておりました。
その後は日本に一度戻りましたが、2024年7月よりカナダに着任しております。再び北米で仕事ができることを大変うれしく思っており、この地での新たな挑戦にやりがいを感じています。
–今までで一番印象に残っているプロジェクトについてお聞かせください。
これまで長く、トラブル対応やクレーム対応の業務に携わってきました。お客様のもとへ直接出向いて、不具合を修理したりお詫びをしたりといった経験は、これまでに100件以上になります。ですので、頭を下げることにはすっかり慣れています(笑)。
四国には「八十八カ所巡り」というお遍路がありますが、私の場合さながら「クレーム八十八カ所巡り」という感じでした(笑)。
また、アメリカ赴任当初は英語が思うように話せず、何度も悔しい思いをしました。自分の言いたいことが伝わらないもどかしさに何度も涙したことを今でも覚えています。そうした経験を乗り越えて今に至っています。
–お仕事を進める上で大切にされていることについて教えてください。
初めてカナダに赴任する際、正直なところ「アメリカとカナダはそんなに変わらないだろう」と思っていました。アメリカ勤務時代に何度かカナダを訪れたこともあり、当時はそう感じていたのですが、いざ実際にカナダで働き始めてみると想像以上に違いを感じるようになりました。
特に感じたのは、カナダにはとても落ち着いた誠実な人が多いということです。そのため人間関係や信頼関係がビジネスの基盤になっていると感じます。オンタリオ州におけるボイラ業界は非常に狭く、その中での仕事は、まさに信頼関係がすべてと言っても過言ではありません。ある意味、日本の地方のような関係性といいますか、私はそれをとても良いことだと感じています。
だからこそ、丁寧な仕事を重ね、信頼を築いていくことが、ビジネスを広げる最も大切な方法だと思っています。誠実に一つひとつ積み重ねることを大切にしていきたいと考えています。
また、先程お話ししたとおり、私はこれまでクレーム対応を多く経験してきました。その中で強く感じているのは、問題が起きたときこそ誠実であることの大切さです。ごまかしたり嘘をついたりせず、正直に状況を説明し、心からお詫びする、そうした対応こそが、お客様に納得していただき、むしろ信頼を深める結果につながることが多々ありました。そうすることで、お客様から「ありがとう」と言っていただけることが、本当に多いと感じています。
–プライベートについてですが、お好きなスポーツや趣味は何ですか。
家族とともにカナダに滞在しており、小学4年生になる双子の男の子がいまして、毎週土曜日には補習校に通っているため送迎をしています。日曜日は家族で外出したり、近くを散策したりして過ごすことが多いですね。

好きなスポーツは卓球です。カナダではなかなかプレーする機会に恵まれていませんが、以前はよくやっていました。また、日本史、世界史に興味があります。今は特に「コテンラジオ」という歴史をテーマにしたPodcastが大好きで、いつも聴いています。もし同じ番組のリスナーの方がいれば、ぜひお話ししてみたいですね。
–今後、カナダ駐在中に挑戦したいことについてお聞かせください。
英語はまだまだ上達したいと感じていて、最近は「AIを活用した英語学習アプリがきっと色々あるだろうな」と思いながらも、なかなか自分に合ったものにたどり着けていません。もしおすすめのアプリや勉強方法があれば、ぜひ教えていただきたいです。
よく「カナダ駐在中に挑戦したいことは?」と聞かれるのですが、“駐在中”という言葉には「いずれ帰る」という前提があるように感じます。実は今のところ、日本に帰りたいとはあまり思っていません。できる限り長くこの地で働き続けられるように、しっかり実績を上げていきたいと思っています。
日本では数千人規模の組織の中で、ごく一部の業務を担当することが多いですが、こちらでは比較的小さな組織の中で一貫したビジネスに関わることができます。まるでベンチャー企業のように小回りが利き、自由度が高いのが魅力です。
さらに、チームは国際色が豊かで、多様なバックグラウンドを持つ人たちと働く環境にいることで、「世界の中で仕事をしている」という実感があります。こうした働き方は、自分にとても合っていると感じています。
–商工会会員の皆様へメッセージをお願いいたします。
公私ともにこちらでのコミュニティの輪を広げていきたいと思っていますので、是非、イベントや飲み会等お声かけください。
–本日はお忙しい中ありがとうございました。これでインタビューを終わります。