Tokio Marine Canada Ltd.
Chief Operations Officer and Corporate Liaison 天野 順平

今回はTokio Marine Canada Ltd. 天野順平氏にお話しを伺いました。カナダの保険市場において珍しい新規立ち上げ企業として2022年に設立された同社。優秀な人材と東京海上のブランドと安定した財務基盤、豊富なノウハウやリソースを強みとし、企業文化の醸成にも注力することで、順調に成長され3年連続でカナダの損害保険事業で最も成長している保険会社となりました。また、従業員にとって働きやすい職場づくりが評価され、2024年にはCanadian HR Reporter社が選出するGreat Place to Workの1社にも選ばれました。幼少期を海外で過ごし、2005年に東京海上へ入社した天野氏は、経営企画部、新規事業への出向、海外事業企画部で経験を積まれた他、アメリカ留学を通じてMBAを取得、その貴重な経験についてお話しいただきました。現職には2024年4月に着任されました。
–御社の事業内容のご紹介をお願いいたします。
東京海上グループは、カナダでは1957年より東京海上日動火災保険カナダ支店(現在の代表:中井氏)が主に日系企業の皆様向けのサポートという形で保険引受事業を展開してきた他、2007年以降に買収した海外子会社がロンドンの保険マーケット「ロイズ」を通じて保険引受を行っております。
また、過去20年間で買収を軸に海外事業を飛躍的に拡大し、現在では海外事業がグループ全体の利益の半分以上を占めるようになりました。今後も海外事業がグループ全体の成長ドライバーと期待されておりますが、それに加えて日本および米国以外の地域の事業も拡大することで、事業の更なる地理的分散も目指しています。
こうした背景から、世界第7位の保険マーケットであるカナダで確固たる地位を築くべく、特にカナダのローカルビジネスを担う会社として2022年に Tokio Marine Canada を設立し、開業以来、ビジネスは順調に拡大しています。2025年には黒字化を目指しており、これによってより安定的にカナダのお客様に安心と安全をお届けできるようにしていきたいと考えています。
–御社の強みについてお聞かせください。
今回カナダのローカルビジネスに本格的に参入するにあたり、さまざまな選択肢を検討した結果、白地立ち上げを決定しました。ただし、東京海上グループとしてカナダでの白地立ち上げは未知の分野であったため、カナダの損害保険業界において複数回の新規保険事業立ち上げの実績を持つMichael George氏をCEOとして招聘しました。彼は業界内で非常に良い評判と強力な人脈を持っており、そのリーダーシップにより、経営層をはじめ多くの優秀な社員を集めることができました。
保険ビジネスは「ピープルビジネス」とも呼ばれ、特に人材が重要な事業であるため、Michael George氏を中心に優秀な社員を集められたことは、弊社の最大の強みです。さらに東京海上グループの一員として、安定した財務基盤、グローバルなビジネス展開によるノウハウと専門性、豊富なリソースを活用できる点も大きな強みです。
–今後の目標や展望などについてお聞かせください。
大変ありがたいことに現在、売り上げが計画を上回るペースで伸びてきております。保険ビジネスとしては、最初は固定費が大きいので、開業後数年間は赤字が続くことは想定しておりました。事業計画上は2025年が黒字と見込んでおりますので、今年度予定通りに黒字化させた上で、2027年には保険料売り上げを今の2倍程度に拡大し、東京海上グループへの利益貢献も拡大していくことを目標にしています。
中長期的な展望としては、カナダの企業保険における主要プレーヤーの一つになるとともに、将来的には東京海上グループの収益の一つ柱となることを目指しております。
–特筆すべきニュース等はありますか。
先ほど申し上げた通り売り上げは順調に伸びており、お蔭様で3年連続で業界内で最も成長している企業となりました。また、弊社は企業文化の醸成にも注力しており、従業員にとって働きやすく魅力的な職場であることを目指しています。その取り組みが評価され、Great Place to Work を受賞したことも弊社にとって非常に大きなニュースでした。
–天野さん自身のご経歴についてお聞かせください。
私は日本の山口県で生まれましたが、父親の仕事の関係で10歳まで各地を転々として育ちました。1歳から3歳までは米国・テキサス州オースティン、続いて日本で2年間過ごした後、5歳から7歳まではネパールのカトマンズ、さらに米国・ペンシルベニア州ピッツバーグに3年間住みました。
10歳まではほとんど日本にいない生活を送りましたが、飛行機酔いがひどく、飛行機に乗ることが大嫌いで、「もう一生乗らない」と言っていたほどです(笑)。現在はそれほど苦なく乗れるようになりましたが、10歳で横浜に帰国した後は、大学の卒業旅行まで10年以上海外には行きませんでした。
2005年に東京海上に入社後、最初は札幌で地域営業を担当し、プロの代理店さんを通じた保険販売の支援や新たな販路の拡大に注力しました。2008年に東京に戻り、1年間経営企画部にて海外の保険市場や規制の調査等に従事した後、イーデザイン損保という当時開業したばかりの通販型自動車保険に特化した子会社に出向しました。
イーデザイン損保では経営企画を中心にコールセンターの企画、内部統制、ビジネスプロセス改革、会議体事務局、株主・当局対応など幅広い業務に携わりました。この経験から会社経営に興味を持ち、MBAを志すようになり、2014年に運良く会社の社費派遣生に選ばれて、米国のノースウェスタン大学ケロッグ校にてMBAを取得しました。
卒業後は東京海上ホールディングスの海外事業企画部に戻り、海外保険市場の調査・分析、海外事業の戦略立案、M&Aなどに従事し、特に2020年には約3000億円規模の大型買収案件も担当しました。
2020年7月からは米州の子会社の経営管理を担うためにニューヨークに赴任し、ちょうどその頃始まったTokio Marine Canadaの立ち上げプロジェクトにも4人のコアメンバーの一人として参画しました。会社設立後はそのまま同社の経営管理を担当しましたが、実際に現場で事業に携わりたいとの思いを強くしていたところ、2024年4月に念願叶ってトロントへ赴任し、経営陣の一角であるチーフオペレーションズオフィサー(COO)として特にITおよびオペレーションを所管しています。

-幼少期を外国で過ごされた後、10歳の時に日本へ戻られましたが、日本の生活にはすぐに慣れましたか
現在駐在されている方の多くのご子息と同じように、私も週末に補習校に通っていましたが、正直補習校はあまり好きではなかったです。平日は現地の学校に通っていたので、友達と遊ぶ時間が減ってしまう上に、ひらがな、カタカナ、漢字を全て学ばなければならず、当時はその意義が全く理解できず、親に文句ばかり言っていた記憶があります(苦笑)。
そのため、10歳で日本に帰国した際は日本語、特に漢字には非常に苦労をし、漢字テストでは毎回0点を取って帰るほどでした。今思えばもっと補習校で勉強しておけばよかったのですが。しかしながら、小学校4年生というタイミングだったおかげで、生活面での適応はすぐにできたと思います。また、当時は小学校で英語の授業がなかったものの、中学進学以降は大学受験も含めて英語は大きな強みとなり、親には大変感謝しています。
–その後、2014年に社費派遣生に選ばれ二年間留学されたようですが、こちらはいかがでしたか?
社会人になってから、学業を本分として過ごすという非常に貴重な経験をさせていただきました。私の通っていた大学は、チームワークを重視し、さまざまな課題をチーム単位で解決し、議論を重ねてレポートやアウトプットを作成する形式が特徴的でした。そのため、経営に関する知識を体系的に学ぶと同時に、クラスメイトと高度なテーマについて英語で議論する機会が多くありました。
この2年間の密度の濃い経験を通じて、特に英語でのハイレベルなテーマに関する論議力や実践的な問題解決力を培うことができ、今の業務にも大きく活かされています。
–今までで印象に残っているプロジェクトについてお聞かせください。
先に申し上げたイーデザイン損保に開業直後から参画できた経験は、私のキャリアにおいて非常に大きな転機となりました。
まず、事業を立ち上げ、軌道に乗せる難しさを肌で実感しました。開業当初は売上が伸び悩んでいたため、経営陣やマーケティング部門と論議を重ねて事業計画の見直しや各種施策の検討立案を行った他、グループ内の兄弟会社とのポジショニングの整理やコンフリクトマネジメントにもかなり時間を費やしました。その結果、開業5年目に保険料売上が100億円を突破し、会社の成長に貢献できたことは大きな達成感でした。
また、経営陣と日頃から密接に仕事をする機会に恵まれた他、小規模な会社だったため、会社全体がどのように動いているのかを良く見ることができました。これにより、会社経営の面白さに触れつつ、幅広い業務を経験する中で、保険ビジネスの本質を深く学ぶことができ、現在の自分の基盤を築く大きな財産になったと感じています。
幸運なことにTokio Marine Canadaで再び新設企業に関与させてもらい、もちろん立ち上げ期ならではの苦労も多々ありますが、自分の過去の経験を活かしつつ、イーデザイン損保同様に勢いのある会社で働くことの面白さや充実感を感じています。
–お仕事を進める上で大切にされていることは何ですか?
仕事は、起きている時間の大部分を占めるため、どうせなら楽しく取り組みたいと考えています。また私は、一人で黙々と作業するよりも、チームとして一緒に取り組むことが好きなため、チーム全体での成功体験を非常に大切にしています。
経営陣の一員として、お互いに認め合い、切磋琢磨する文化を育むことに力を入れており、様々な場面で、各チームが成し遂げた成功事例や好取組を他のメンバーと共有し、みんなで喜び合うことを積極的に推進しています。チーム全体が一丸となって成果を祝うことで、さらなるモチベーションの向上につながると信じています。
–プライベートでは、お好きなスポーツや趣味は何ですか。
スポーツは全般的に見るのもやるのも好きです。特にサッカーは小学校の頃から続けており、今もノースヨークのサッカーチームに月2回ほど参加させていただいております。

また、入社当時の上司がトライアスロンやマラソンなどが趣味だった影響で、サロマ湖で実施している100㎞のウルトラマラソンに2回参加しました。実際には100㎞は走れませんでしたが、1年目は45㎞、2年目は55㎞を走り、当初は自分がマラソンに参加するなんて考えもしなかった中、やれば出来るという自信がつきました。その後もランニングは趣味として続けており、ニューヨーク時代はブルックリンのハーフマラソンを完走しましたので、トロントでも是非挑戦したいと考えています。
–今後、カナダ駐在中に挑戦したいことについてお聞かせください。
留学中は子供もいなかったため、妻と一緒に米国内を旅行することが多かったのですが、実はカナダにはほとんど行ったことがありませんでした。そのため、駐在中にカナダ国内、特に自然豊かな場所を巡りたいと思っています。
–商工会会員の皆様へメッセージをお願いいたします。
商工会イベントはなかなか参加できていませんが、先日、新年会に参加し、多くの方と交流させていただき、非常に色々な学びがありました。また機会を見つけてイベントに参加させていただきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。
–本日はお忙しい中ありがとうございます。これでインタビューを終わります。