Asahi Refining Canada Ltd.
President 平林 郁哉

今回はAsahi Refining Canada Ltd. 平林郁哉氏にお話を伺いました。鉱山会社等から金や銀の原料を預かり精錬を行う貴金属精錬事業をはじめとし、精錬に付随し、お客様との間で貴金属売買仲介等を行うトレーディング事業や、新規事業として倉庫事業を開始した同社。当時の苦労話や趣味であるお料理についてなど、興味深いお話を沢山聞かせていただきました。長年にわたり金融機関でのご経験を積まれた平林氏は、2021年に同社へ赴任されました。
-事業内容のご紹介をお願いいたします。
Asahi Refining Canada Ltd.(ARC)は、東証プライムに上場するAREホールディングスの100%子会社で、主に米州に所在する鉱山顧客から金や銀の原料を御預かりし、その原料を精錬の上、純度を99.9%以上に高めてお返しするという貴金属精錬事業を行っております。加えまして、精錬に付随して顧客との間で貴金属売買仲介等を行うトレーディング事業も行っております。
また、AREホールディングスは当社以外に米国に2つの事業法人を保有しており、ARCは北米事業を統括する地域本社の機能も有しています。米国ではソルトレイクシティで貴金属精錬事業、ニューヨークで貴金属倉庫事業を営んでおります。
-御社の強みについてお聞かせください。
先ずは、何といっても米州有数の鉱山顧客基盤と金銀精錬能力です。殆どの大手鉱山会社と取引があり、カナダと米国合わせた北米での精錬量は年間金が400トン、銀が2,000トンと世界的にもトップクラスの精錬能力を保有しております。また、原料の質や顧客ニーズに合わせた多様な精錬プロセス、原料からどの程度の貴金属を抽出可能かを判定するための世界最高水準の分析技術も強みです。
金や銀の世界標準はロンドン地金市場協会(London Bullion Market Association)によって認証されたものが世界で流通します。そこでは精錬品質コンテストを開催し、貴金属の欠片からそのクオリティを競わせます。そこで弊社は上位の成績を残した実績があり、それが強みともいえます。精錬事業そのものは競合他社との競争が激しいものですから、付随ビジネスとなるトレーディング事業や、川上である精錬事業から川下に当たる 倉庫事業に至る一気通貫したサービス体制を構築していることも当社の優位性に繋がっています。
-目標や今後の展望についてお聞かせください。
金属精錬事業というのは、先ほど申しました通り、特に価値の高い金については原料を飛行機で輸送します。よってどこで精錬をしても、例えばブラジルのお客様がトロントに輸送しても、スイスにある弊社の競合に輸送しても基本的に空輸による輸送コストは変わりません。つまり グローバルベースの競争が激しい事業です。
一方で精錬事業を行うことでお客様との取引の裾野が広がりますので、精錬を核として取引関係を拡大することが可能です。精錬事業を通じてお客様との関連を強化した上で、トレーディング事業や倉庫事業等の各種付随ビジネスをさらに拡大することで、ビジネスモデルの変革や収益性の拡大を追求したいと考えています。
また、2030年を目途に北米の営業利益を100億円にするチャレンジングな目標がありますので、この目標達成に向けて頑張りたいですね。幸いなことに、最近貴金属マーケット自体は好調ですので、是非この追い風を活かしたいと思います。
-特筆すべきニュースなどありますか。
ニュースというわけではありませんが、最近話題の米国との間の関税については、貴金属は価値が高いので関税が賦課された場合事業環境に大きな影響を与えます。例えば先ほどの例でいきますと、カナダの金精錬量は100トン単位になりますので、通貨換算すると巨額になります。例えば10%の関税を掛けられても事業がなりたたなくなってしまうため、気になる項目になります。
また、ニューヨークの貴金属倉庫事業を北米の新規事業として始めました。 営業開始から一年が経過し、ゼロから事業を立ち上げ赤字からスタートしましたが、認知度も上がり、お客様から金や銀を搬入して頂くことで黒字化の目途もつきつつあります。今後の安定成長のキードライバーになることを期待しております。
-ご出身どちらですか?今までのご経歴についてもお聞かせ下さい。
出身は長野県安曇野市です。実家はりんご園を持っており、自然豊かな環境ですくすくと育ちました(笑)。高校までは地元におり、大学から東京に出て参りました。大学卒業後、金融機関で30年程の勤務を経て、当社には2020年に入社致しました。カナダには2021年1月、コロナ禍真っただ中に着任し、現在駐在丸4年が過ぎたところです。期限延長が出来ないカナダのワークパーミットで赴任したものですから、昨年永住権を取得しまして、今後気兼ねなく会社の成長に尽力出来ると考えております。
-永住権を取得されたのですね。カナダ駐在前のご経験についてお聞かせ下さい。
駐在前は親会社AREホールディングス東京本社に10ヶ月程勤務しました。海外駐在経験としては、前職の金融機関の時に米国ニューヨークに2回、合計10年間の駐在経験がございます。
カナダはニューヨーク駐在時に数回訪れており、非常に良いところだと思っていました。特にトロントは歴史も文化もありますしね。私は美術や音楽が好きなこともあり、今回トロントと言う恵まれた土地に赴任出来るという御縁を頂戴した時は、大変嬉しかったですね。
-銀行とはまた違った事業ですが、心境はいかがでしたか?
面白いなと思ったのは、弊社が扱う金や銀は貴金属ですが単なる“もの”ではない点です。 中央銀行が金を外貨準備の一環として持つぐらいなので、ある意味通貨の一つとしても考えられます。前職が銀行でお金を扱っていたこともあり、意外なことにあまり抵抗感なくこの業務に入れました。最初はもちろん企業文化の違いや、現物を扱う工場オペレーションもあり心配しましたが、御蔭様で杞憂に終わりました。
-ご縁があったのですね。今までで印象に残っているプロジェクトについてお聞かせください。
私はニューヨークの貴金属倉庫会社の社長も兼務しているのですが、この倉庫事業は全くゼロから立ち上げました。事業としての可能性に加えて、倉庫事業を始める前はお客様から購入した金を売るには個別の売り先に販売するしかありませんでしたが、倉庫の場合ですとニューヨーク商品取引所を通じて投資家に販売することができます。さらには販売時の差額だけでなく倉庫の保管料も入ってきますので、将来有望なビジネスモデルとしてゼロから立ち上げることになりました。
当初は倉庫物件の賃貸を予定しておりましたが、良い物件がなく、結局購入した上で改築することにしました。近所の方からは開業後に四六時中トラックが出入りすることを心配されたり、また弊社名からビール会社や寿司レストラン開業の噂もあったりしました(笑)。建築確認取得のため自治体の責任者と直談判し、住民への説明会を開催して、ようやく許認可を取得できました。
従業員もゼロから採用し、時には週に2回ニューヨークに出張する等相当苦労し、予定よりも大幅に遅れて開業しましたが、前述の通りようやく黒字化の目途が付き、苦労が報われつつあると感じています。
-お仕事を進める上で大切にしていることは何ですか。
非常にベタですが、日常業務においては、報連相(報告・連絡・相談)を重要視しています。あとはスピード感、透明性を持ち、オープンなコミュニケーションをモットーに仕事をしています。
特に海外においては、言葉の問題もあり、あうんの呼吸では仕事が進まず結局無駄な仕事が増える事が多いので、特に現地社員との間では事前になるべく具体的に仕事のターゲットやスケジュールを明確に説明して依頼し、一旦任せたらなるべく口出しをしないように心掛けています。

-プライベートについてお聞きします。お好きなスポーツや趣味は何ですか。
全然上手になりませんが、カナダの大自然の中でゴルフをする事は好きです。コースも広く奇麗で、良い気分転換とストレス解消になると思います。また、釣りをすることも好きですが、トラウト釣りなんかは結構遠方の釣り場まで行くことになるので、当初は大自然の国カナダという印象とのギャップが大きく驚きました。
また、日本では子供の頃諏訪湖でアイスフィッシングをしておりましたが、温暖化のため現在は出来ません。カナダではまだアイスフィッシングが出来ますので、先日も楽しんで参りました。まだパーチという魚しか釣ったことがないのですが、今後是非レイクトラウトを狙いたいと思います。釣った魚は当然食べますよ(笑)。
釣った魚を食べると申し上げた通り、料理を作ることも得意?でして、新鮮且つ高品質なカナダの様々な食材を使って、正統派日本料理メニュー作りに日々チャレンジしております。たとえは魚であれば西京漬け、揚げ物なんかを作れます。ぬか漬けも作っています。カナダの大きなオーブンを活かしてラムレッグのローストなんかも作れますよ。

-本格的ですね。以前も自炊はされていましたか?
そうですね、ニューヨークに10年いたので、やはり日本食が食べたくなり、日本レストランへ行ったりしていましたが、高いだけであまり美味しくないものを食べさせられまして、自分で作ってみようと前回の駐在時から自炊を始めました。料理を作るのは好きなので負担になりませんし、楽しんでいます。カナダの食材は美味しいので、料理も楽しくなりますね。
-今後、カナダで挑戦したいことについてお聞かせください。
信州出身なので寒さもそこそこ強く、一応スキーもスケートも出来ます。スケートは実は小学校の授業で習い、当時は冬に校庭に水を張って凍らせた天然リンクで滑っていました。スキーは高校時代には電車でスキー場まで行って一日滑って日帰りで帰ってくるようなことをやっていました。一方で、平地を滑るクロスカントリースキーはまだやったことがありませんので、余り遠方に行かずに手軽に楽しめるのであれば、今後是非挑戦したいと思います。
-商工会会員の皆様へメッセージをお願いいたします。
貴金属精錬事業と言う、皆様に余りなじみのない事業を行っておりますため、何の会社だろうと思われることが多いですが、逆にカナダにしかない特徴的な事業とも言えると思います。既に御取引させて頂いているトロント日本商工会の会員の方々も多数いらっしゃいますが、今後も様々な局面で新規に御取引頂いたり、御支援頂く事で、カナダに根を張るJapaneseクオリティ企業として皆様の御役に立ちたいと考えております。
-本日はお忙しい中ありがとうございます。これでインタビューを終わります。