今回はHonda Canada Finance Inc. 中村 誠宏氏にお話を伺って参りました。カナダ国内におけるHonda製品の販売を金融面からサポートする商品・サービスを提供されている同社、充実したお客様サポートで、米国に次ぐ資産規模にまで拡大されています。Hondaにおいて販売金融15年のキャリアを積まれてきた中村氏は、今回2回目のカナダ駐在となります。過去の駐在時のお話をはじめ、趣味である俳句について興味深いお話を聞かせていただきました。
-事業内容のご紹介をお願いします。
ホンダカナダファイナンスは、「キャプティブファイナンス」という、親会社であるHonda製品のカナダ国内における販売を金融面からサポートする商品・サービスを提供する事業をしております。
具体的には、まずユーザーであるお客様へのローン・リース、次に小売を担うディーラー様への在庫資金や店舗投資資金のためのローンなどを提供しております。加えて、メーカー保証を越える延長保証などのワランティ関連の商品をディーラー様を通じてお客様にマーケティングをしております。商品ごとに、Honda Financial Services やAcura Financial Servicesなどのブランドを利用しております。
事業拠点は、こちらマーカムの本社オフィスにほぼ集約しており、広い国土をカバーするため在宅勤務を含めた勤務形態を採用して、従業員数は現在約170名です。
-御社の強みについて、お聞かせ下さい。
話は大きくなりますが、創立時のHondaの原動力は創業者の強いリーダーシップでしたが、現在まで創業者が残した最大のアセットはホンダフィロソフィーです。ホンダフィロソフィーは事業活動の基礎となる行動や判断の基準で、その中でも「三つの喜び(買う喜び・売る喜び・創る喜び)」を実現する強い意思を持って、それを実践するローカルのマネージメントのぶれない軸は大きな強みだと思っております。
またキャプティブファイナンスとしての強みは、三つの喜びのうちお客様の買う喜びとディーラー様の売る喜びを具体化することを目指した商品・サービスとそれを支えるオペレーションです。Honda製品へのファイナンスといいましても、カナダの地場銀行が競合となり、100%のお客様やディーラー様に利用されるわけではありません。
しかし、ユーザーであるお客様が買いやすい環境とディーラー様が売りやすい環境を提供するための、経済や市場環境に左右されない一貫したオペレーションはキャプティブ特有の価値として評価されております。
加えて、お客様とのタッチポイントで使い勝手が良い(借りやすく、支払いしやすく、完済しやすい)金融サービスにご満足していただくことに力を入れながら、継続的にHonda製品に乗り換えて利用していただけるよう、次の販売に向けて販売現法ホンダカナダやとディーラー様との連携を推進できる態勢も強みです。
また、弊社の資金調達の多くは機関投資家様からの社債などの外部調達による安定した低利の資金調達を確保しておりますが、これはコスト競争力には欠かせません。現在カナダでは銀行はリースを組むことができませんので、リースで車を購入されたい方のほとんどが弊社を利用されています。
リースのお客様とは満期に向けて車両返却などの対応で必ず直接コンタクトいたしますので、多くのお客様にはご安心して次の車両をご利用いただいているかと思います。そうした取り組みの結果、Hondaの販売金融の中で、カナダはUSAに次ぐ約116億カナダドル(約1.3兆円)の資産規模で、これまで約350万人のお客様にご利用いただいております。
-今後の展望について、お聞かせ下さい。
赴任して一年になりますが、カナダの各地域でのディーラー会議のタイミングの機会で販売現場であるディーラー様を訪問しますと、業界のチャレンジとなっている電動化に向けた販売の将来ビジョンの話は大きな議論になります。
Hondaとしての電動化の布石の刈り取りはまだ先になりますが、グローバルでの変革へ舵を切りながら、ディーラー様に毎日の販売を積み上げていただいている状況ですので、こうしたオープンコミュニケーションによってローカルスタッフとの将来施策の検討の良い触媒になるようにしたいと考えています。
長期的には、いろいろな事情で電動車の価格が高くなっていく見通しとなっております。そこで弊社のリース満期などの中古車を生かして、そこにファイナンスをさせていただき、若いお客様や新しく移民となったお客様のスタートをサポートすることにより、アフターサービスや将来の新車購入でのご利用につながるような仕掛けを充実させたいと思います。
先ほど現在の強みとしてブレない一貫性を挙げましたが、そこで思考を止めないように変革に向けていくことが長期的な成長基盤に不可欠だと感じています。
-特筆すべきニュースなどはございますか。
2024年4月にHonda本社に金融サービス事業部が設立されました。背景としまして、世界主要国での販売金融のオペレーションは、地域本部の傘下に属しています。Honda本社にある研究開発・生産・販売のグローバルでの横串機能は、金融への本社の関与は資金調達やリスクモニタリングなどに限定された中で、金融は地域の販売のサポートを行ってきました。
今年度より、現状の規模の大きさや電動化を含めた将来の進化を見据えて、横串で世界の販売金融をみるのが金融サービス事業部になります。資本関係が変わるわけではありませんが、今後のHondaのお客様への金融サービスの展開としてグローバルの方向性を確立していく重要なステップとなります。
先程申し上げましたように、カナダの販売金融はUSAのように大きすぎる規模ではないため、カナダから柔軟にイニシアティブを発信できないか探っています。そのために、社内にとどまらず、業界やディーラー様とのお話、はたまた商工会の皆様との話でヒントを見つけていきたいとと思います。
-ご出身、今までのご経歴についてお聞かせ下さい。
東京生まれ、育ちは流山市、中高大学は東京に通った千葉都民です。青春時代は日本の電気・自動車という加工組立産業が全盛期でした。そのため、産業の国際競争力で資源のない日本は支えられている、そのグローバルなステージに立ちたいという生意気な志望理由を抱いて就職活動をしました。
社会人となり、現在名前は残っていませんがMUFGさんのルーツの一つの東京銀行へ入行し、国際的な活躍をする企業や国をまたぐ投融資に携わりたいと考えていました。幸い資本市場業務を若い時に経験でき、伝統的な銀行業務にも浸かることができましたので、世の中や企業を見る目も養われたと感じていました。
ちょうどその頃に、今ではあまり見られなくなった新聞での中途採用募集にHondaの広告があり、応募して採用されました。どっぷり海外営業でもできるのかと期待しましたが経理財務のスタッフとしての採用となり、そこから25年が経過しました。
-ご縁に恵まれたのですね。カナダ駐在前のご経験をお聞かせ下さい。
Hondaの中では販売金融という超少数派の経験が長い珍しいキャリアになっています。具体的には、日本で1998年から2002年、カナダで2007年から2012年、USAのLAで2018年から2023年と、Hondaの販売金融には15年以上携わってきました。その間、日本の金融危機、リーマンショック、コロナパンデミックと、多額の資金調達への影響に直結する金融危機をそれぞれの国で受けるという、しびれる経験をしてきました。
とはいえ、資本市場業務で社債営業をしていた1990年半ばに、上司からグローバルで投資家に購入してもらえる日本の民間企業は限られるだろうと言われておりましたので、Hondaの販売金融の現地法人がそれぞれの国に地盤をもって各国の機関投資家様からの資金調達ができている現状に感慨をもっております。
海外経験としては、カナダ駐在は二度目で、しかも同じ会社という、これもかなり珍しい例となります。ホンダカナダファイナンスは、アメリカンホンダファイナンスというLAにある販売金融会社とホンダカナダの二社が出資しています。当時は、アメリカンホンダファイナンスの社長が弊社の社長を兼任しており常住しておらず、私が駐在していました。私のデスクの場所もキャビネも当時と全く一緒でしたので、最初は苦笑いしました(笑)。
-戻って来られた時、どんな思いでしたか?
二度目のカナダということでは、懐かしさ半分、驚き半分です。以前は、404ハイウェイを降りたら、このオフィスがまっすぐ見えたかと思いますが、今ではオフィスや住宅で満たされてしまいました。しかし、インフラは増えようがないので渋滞は大前提になってしまい、カナダの移民政策によるひとつの側面として非常に興味深く見ています。
-一番印象に残っているプロジェクトについてお聞かせ下さい。
まず、Hondaの本社経理部にいたときの工場の固定資産管理のシステム開発を挙げます。申し上げましたように販売金融の畑ですので現在までも経験のない工場での管理業務のど真ん中のシステムについて、ユーザーサイドの企画推進を行って稼働まで見届けました。
実務は見様見真似ながら、プロジェクトマネジメントとして目的共有から組織横断での展開までのスキルを、若い時期に身につけることのできたのは貴重でした。そのおかげで、その後のいろいろな経験も、気持ちの余裕をもって臨めるようになりました。
次に、前回の駐在時のカナダ販売金融現法での組織改革です。リーマンショック後の金融市場の激変により、資金調達難、金利上昇、貸倒損失増など販売金融にとって重要なあらゆる面でのネガが重なり、自動車業界そしてHonda販売の減速に直結しただけではなく、悲しむお客様が増えたことはメーカーの販売金融として最大の痛恨でした。それに加えて、成長期には見えていなかったいろいろな歪みや問題が噴出してきました。
それにひとつひとつ対応しながら、チャンスとして改革を推進した結果、販売現法であるホンダカナダのオフィスへの合流や弊社の組織体制変更のプロジェクトに昇華され、販売&金融のOne Voiceによるシナジー追求のスタートとなりました。これが、今回戻ってきた時の、大変ありがたい基盤になったと感じています。
-お仕事を進める上で大切にしていることは何ですか?
3つあります。まず、ホンダフィロソフィーです。先ほども触れましたが、Hondaの強さの源泉であり、何かあったときにも立ち戻れる大切な指針です。これに加えて、新しいアクションを起こすときや行ってきたことを振り返るときに、三つの喜びやA00(目的)から考える文化を現地スタッフに浸透させる地道な取り組みは、組織のリーダーとしても駐在員としても大切な役割です。
次に、変革へのチャレンジです。弊社に限ったことではないと思いますが、弊社のカナダ人は誠実でオペレーションはしっかりしており、確立されたポリシー&プロシーデュアやフィロソフィーに立脚しているものと思います。しかし、自動車業界の電動化という変革期への対応は待ったなしですので、今までの延長線から外れてものを考えていく必要があると考えています。
お客様にとって一番の価値として、何をどのように提供できるか理想をぶらすことなく、そこに現在の強みや、これから強化が必要なことを洗い出して、自分自身のマインドセットも含めてサポートしていきたいと思います。
最後に、私自身の好きな言葉である「守愚」です。Steve Jobs が言った “Stay hungry, stay foolish” にも通じるものがあります。自分が愚かである認識を持ち続け、多様性の中で現状に満足せず努力する。持っているものはいつか役立つではなく、役立てるように積極的に仕向けていく。そうすると、自分の知らない棚から何か新しい発想や発見が飛び出してくる瞬間がたまにあり、それをいつも楽しみにしています。
-好きなスポーツやご趣味ついて、お聞かせ下さい。
趣味は俳句です。実は、走るのが好きでして、前回の駐在期間ではトロントマラソンのリレーに会社の駐在仲間と参加しました。いつもは走れない道路を堂々と走れる爽快さと、チームでサブ4(フルマラソンの距離を4時間以内に走り切ること)を達成したことが思い出です。
ただ、日本に帰国後は、膝が心配となり、街歩きや山歩きなどに転向しました。そうすると面白い風景がたくさん見えて、それを伝えたいと考え始めて、2017年から俳句を始めました。
俳句で最高に楽しい時間に、皆で俳句を無記名で持ち寄って好きな句を褒め合う句会というのがあります。自分の出した句が全く触れられない時もあり、それはそれでへこみますが、自分が特選とした句については必ず発言できます。それに対して、他の仲間が全然違う捉え方をすることがあり、視点や観点の多様性を前向きに体験できるのが俳句の大好きなところです。
五七五の17音のみゆえ、言いたいことは全部言えないというのが宿命なのですが、それを前提に発想を広げることができます。この句会には対面で数回参加しただけで2018年にLA駐在となってしまいました。
その後、コロナの影響で対面での句会が開催されなくなったことへの窮余の策としてZoomでのオンライン句会が行われるようになりました。その結果、海外でも時間が合えばオンライン句会に参加できるようになりました。コロナの時期は、皆様と同じように何かと公私ともしんどいことが多かったのですが、この句会があったおかげで精神的にかなり救われました。
LAからトロントに異動になるときに送別会の記念品で仲間からコラージュをもらい、それは俳句一色でした。しっかり見られていることへの驚きと嬉しさ、そして自分の脇の甘さも感じました。
-俳句はすぐに浮かんでくるものですか?
よく言われますが、「ここで一句どうぞ」への対応はできません。何かの気付きを忘れないように写真やメモを取り、あとで熟成させていきます。その時に俳句を作る吟行(外を散策して俳句の種を探して俳句をつくる)というものもありますが、私は経験したことがありません。
-奥が深いですね。休日はどのように過ごされていますか?
現在は、妻と高校生の次男と帯同、次男が野球チームに入っていることもあり、雪のない季節はUSAを含めた各地での試合で折々の風景を楽しんでいます。冬はスキー・スケートなどウィンタースポーツにも家族で行っています。つい先日は、晴れた夜のタイミングで、ホタルを見に行きました。ホタルは少なくなっているようでしたが、満天の星空で天の川もはっきり見えて、次男にも貴重な経験だったと思います。親の思い付きにつき合ってくれる優しい次男です。
-今後、カナダ駐在中に挑戦したいことは何ですか。
日本で大学に通う長男と長女を呼んで、懐かしいトロントに家族でもう一度集まって、12年前の思い出の場所に一緒に行ってみたい、これが一番ですが、いろいろな面で大変だと思います。現実的には、趣味の俳句関連なのでしょう。四季の変化の少ないLAから、四季の大きく変化するトロントに再度駐在することができて、季語との出会いのチャンスという面で大変うれしいです。
また、トロントは多様性から様々な文化に触れることができます。そうした日々の発見や旅行、そしてディーラー様への訪問などの公私の機会を大切にして、それぞれの景色や風景を楽しんで俳句のネタをたくさん仕入れたいと思います。その上で、指導者でもなく経験も浅い自分にはチャレンジですが、トロントの季節を楽しみながら皆様と吟行して、句会をしてみたいなあと思い付きました。
-会員の皆様へ、メッセージをお願いいたします。
カナダにおけるビジネスですので、カナダに根付きつつ、カナダ・北米・日本が共存しながら会社を成長させることが大切なのは会員の皆様と共通の課題だと思います。そういう中で、トロント日本商工会はちょうどよい規模で、多くの駐在でお越しの方を含めて、日本人としてグローバルな視点で気楽にいろいろなことを共有できる場だと思います。また、子供がいる点で、トロント補習校の運営にも大変ありがたく感じております。
このインタビューで昔も振り返りながら、夢やチャレンジを考えることができたことを嬉しく思います。今後とも機会を生かして、情報交換や切磋琢磨をしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
新涼やシニアの語る志望理由 森井三喜(俳号)
-本日はお忙しい中、ありがとうございます。これでインタビューを終わります。