祖業である写真フィルムの伝統を受け継ぎながら、カナダ市場で主にイメージングソリューション、グラフィックコミュニケーションの製品を販売されているFUJIFILM Canada Inc.さん。今年90周年を迎えたFUJIFILMグループは、新たにグループパーパスを制定し、より一層お客様へ笑顔を提供しビジネス展開を目指しています。入社以来24年に渡って記録メディア事業部で活躍されていたレアな経歴をお持ちの大木氏は、プライベートではテニスとゴルフ、ワイナリー巡りが趣味。2023年4月に着任され、今期は商工会理事を務めていただいております。(聞き手:酒井智子)
-事業内容の紹介をお願いします。
FUJIFILM Canadaはカナダ市場で弊社の伝統事業であるイメージングソリューション、グラフィックコミュニケーションの製品の販売が主な事業内容となっております。イメージングソリューションの中でも大きく三つございまして、一つ目が日本では「チェキ」として知られるインスタックスのカメラとフィルムの販売です。カナダ市場でも非常に人気があり、10人に1人が所有しています。
二つ目が弊社のデジタルカメラです。 弊社デジタルカメラは、昔は低価格から高価格の製品を幅広く取り扱っておりましたが、現在では中価格から高価格帯の画質や操作性を重視したミラーレスデジタルカメラに注力しております。三つ目がプリンティングソリューションというビジネスです。 こちらはお客様から写真をお預かりして、様々な商材にプリントしてご提供いたします。マグカップから毛布、壁掛けまで幅広く対応しております。
また、写真の現像も今でも大きなビジネスの一つになっております。グラフィックコミュニケーションの分野では、主に商業・産業印刷用の大型のプリンターとそれに必要な消耗品が大きなビジネスとなっております。大手や中堅の印刷業者が使用する各種プリンターや印刷関連機器、刷版印刷に必要なプレートと呼ばれる消耗品、そしてデジタル印刷に使用されるインクやトナーも販売しております。
-御社の強みについてお聞かせ下さい。
弊社の強みの一つは、写真フィルムに根ざした製品の品質へのこだわりです。当社は写真フィルムを祖業としており、その伝統を受け継ぎながら製品の品質に常に注力しています。写真フィルムは撮影すると、現像されるまで何がどう映っているかわからないですよね。お客様の非常に貴重な瞬間や、思い出を写真に残すための製品で、尚且つ撮り直しができません。
現代のスマートフォンやデジタルカメラでは簡単に撮り直しができますが、昔のフィルムカメラではそういったことはできませんでした。そのため、製品の品質に問題があれば、お客様の大切な瞬間を逃すことになります。弊社では創業時から製品の品質に強いこだわりを持ち、非常に高いレベルを求めるカルチャーが根付いています。このカルチャーは弊社が提供するすべての製品に反映され、今もなお維持されています。お客様に高品質で信頼性の高い製品を提供することが、私たちの強みだと考えています。
-今後力を入れていきたいことについてお聞かせください。
弊社のイメージングソリューションとグラフィックコミュニケーションビジネスは、伝統的な事業として安定した収益を上げています。これらの事業を継続しつつ、会社全体の更なる売上成長を達成するために、新しいビジネスの開拓に注力したいと考えています。
新規ビジネスの開拓には様々なアプローチがありますが、その一つはコンシューマー向けの製品を企業向けに展開すること、つまりB to Bのビジネスに進出することです。
例えば、イメージング製品を企業のニーズに合わせてカスタマイズし提供するなどの展開を考えています。また、グラフィックコミュニケーションビジネスでも、これまで販売していなかったオフィス向け複合機などの新しい製品を今後発売する予定です。このような新しい領域に事業を拡大し、売上を成長させるための会社の方向性を固め、実際の展開に向けて組織として動かしていくことが私の目標です。
90周年を迎えた今年、FUJIFILMではグループパーパスを定めました。日々の活動において、どのような目的意識を持って取り組んでいくかを明確にしたもので「地球上の笑顔の回数を増やしていく」と制定し、ステートメントは「わたしたちは、多様な『人・知恵・技術』の融合と独創的な発想のもと、様々なステークホルダーと共にイノベーションを生み出し、世界をひとつずつ変えていきます。」となっております。
英語版は「Giving our world more smiles」となります。このパーパスは90周年を記念して制定され、社内外で展開され、弊社の製品を通じてお客様により多くの笑顔を提供し、ビジネスを展開していくことを目指しています。
弊社の長い歴史の中で事業を多角化しておりまして、グローバルで言いますと写真や印刷だけでなく、メディカルやライフサイエンス、各種マテリアルズ、ドキュメントソリューションといった分野でもビジネスを展開しています。しかし、共通する価値観はお客様に笑顔を提供することであり、また弊社のルーツである写真にも繋がっていると思っています。
-大木氏のご出身から今までのご経歴についてお聞かせ下さい。
幼少期の3歳から10歳までの7年間は、父親の転勤でアメリカのニュージャージー州とテキサス州のヒューストンで生活しました。10歳で日本に帰国し、両親が埼玉県白岡市に家を購入し、今もそこが実家です。その後、日本の学校に通い、大学を卒業後、1999年4月にFUJIFILMに入社しました。
私はFUJIFILMの中でもかなりレアなキャリアを歩んでおりまして、入社してから去年の3月、つまりカナダへ来るまでの丸24年間、記録メディア事業部(※現在は産業機材事業部データストレージソリューショングループ)という部署に所属し、主に海外向けの営業やマーケティングを担当してきました。
記録メディア事業部は、磁気テープを使った製品を扱っており、かつてはオーディオ用のカセットテープや、VHSや業務用の各種ビデオテープ、フロッピーディスクなども製造販売していました。現在はデータストレージ用のテープに事業が集約され、一般企業や金融機関のデータバックアップやクラウド事業者の大容量データ保存に使用されています。海外勤務として、2009年から2016年までの7年間は、ニューヨーク州のValhalla本部で勤務していました。
-今回カナダへ来られて、いかがですか?
アメリカとすごく共通点が多いので、非常に馴染みやすく、すぐに慣れることができました。車社会であり、アメリカ同様広いオフィスや、広大な国土など日本とは異なり非常に心地いいですね。
ちょうどこちらに来て一年弱になりますが、仕事の面では、なにせ入社からずっと記録メディアのビジネスのみに携わっていましたので、イメージングソリューションやグラフィックコミュニケーションなど、弊社の伝統事業を一から学ぶ機会にもなりました。そういった意味では、キャッチアップするのも大変でしたが、非常にいい勉強の機会をもらえたなと思っています。
-印象に残っているプロジェクトについて、お聞かせください。
最も印象深いのは、記録メディア事業部で長年携わりました、新しいテープシステムの開発と販売を手掛けた新規ビジネス立ち上げのプロジェクトです。ニューヨークに駐在していた時にスタートし、日本への帰国後も同ビジネスをグローバルで手掛けていました。
記録メディア事業部はもともとデータを記録するための磁気テープ媒体を製造・販売する部署で、いわゆる消耗品ビジネスが中心でした。この新規ビジネスは、テープを使うためのハードウェアやソフトウェアを組み合わせたシステム全体の開発と販売に事業領域の拡大を狙ったものでした。約10年間携わった中で、非常に多くの学びや出会いがありました。
例えばIT業界のトレンドや技術に関する専門知識の習得、技術や営業面でのパートナーシップを組む協業先の探索・選定・契約交渉、専門人材の確保が必須の営業体制作りなど、様々なチャレンジに直面し、新規事業立ち上げの難しさを身をもって体験しました。当社システムを市場導入してうまく立ち上がらなかった国もありましたが、市場ニーズと最もよくマッチしたヨーロッパで現在も販売されています。
-お仕事を進める上で大事にされていることについてお聞きかせください。
ありきたりですが、コミュニケーションを重視しております。スタッフをはじめ、一緒に仕事をするメンバーの話をよく聞く、傾聴し謙虚に話を聞くということ心がけております。アメリカ駐在中に経験したことや、過去の反省などから(笑)、いかに相手の真意を正確に汲み取るかが重要と思っていますが、これがいくら実践しているつもりでもできていないことが多く、中々難しいことであると認識しております。
このため、しっかり相手の話を聞き、内容や意図を正しく客観的に理解することに努め、自分の考えを分かり易く伝えるということが、ビジネスを円滑に進めるために一番重要なことだと思っております。もう一つ、データや、数字に基づいた意思決定をすることを心掛けています。不十分な情報や安易な直感で何かを決めてしまうと失敗するリスクが高まりますので、可能な限り、必要なデータを集め分析した上で、意思決定を落としていくことを弊社のスタッフにも常々求めています。
–プライベートについて、好きなスポーツやご趣味は何ですか?
高校時代からテニスをずっとやっております。高校では部活、大学ではサークルでやってきました。トロントに来てからも近所のテニスクラブに入会し、継続しています。もう一つは初心者ですが、ゴルフですね。ニューヨーク駐在中に、ちょっとかじったくらいですので万年初心者ですが(笑)。
カナダへ来てから、昨年も商工会のコンペにも参加者させていただき、新しい方との出会いや交流の場としてすごく楽しませていただきました。下手ながらも、こちらに来て好きになりましたので、今年はもっと頑張りたいと思っております。
スポーツ以外では、愛犬2匹を連れて出かけること、あとワインが好きなのでワイナリー巡りも最近よくしています。
-お気に入りのワイナリーは見つけましたか?
トロントから東へ2時間ほどの距離に位置するプリンスエドワードカウンティのKarlo Estateというワイナリーは、私の中で特におすすめの一つです。結構マニアックですが(笑)。
赤ワインが好きなのですが、ナイアガラ地域のワインは比較的軽やかなものが多い中、このワイナリーではボルドー地域の影響を受け、非常に重厚なワインを造っています。LCBOでは販売されていないようで、こだわりのあるワイナリーとして知られています。つい先日のことですが、素晴らしい場所を見つけることができました。
-ゴルフにつきましては今年は運動部長というところで、どうぞよろしくお願いいたします。カナダ駐在中に挑戦したいことについてお聞かせ下さい。
長年やっているテニスについては、中級ぐらいのレベルでなかなか一皮剥けない状態でずっとやっていますので、一つ上のレベル、いわゆる体育会出身者と渡り合えるようなレベルにステップアップしたいと思っています。ゴルフについては、初心者なので一緒に回ってる方にご迷惑をかけないレベル、また仕事でもお客様とゴルフに行けるぐらいのレベルを目指していきたいですね。
-最後になりますが、商工会会の皆様へメッセージをお願いいたします。
カナダに来て未だ一年の新参者ですが、この一年間で商工会のイベントを中心に積極的に参加させていただき、たくさんの方と出会うことができ非常に楽しませていただいております。 これからも商工会の活動などを通して、いろんな方との出会いを大切にして、公私ともに何らかの関わりを持てたらと思っております。これからもよろしくお願いします。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。これでインタビュー終わります。