今回はTokio Marine Canada Ltd. (以下TMCan)高木氏へお話を伺って参りました。東京海上ホールディングスのグループ会社としてスタートアップを立ち上げ、2022年6月の開業以降、企業向けの広範な保険を取り扱いローカルビジネスを展開しています。TMCan立ち上げ期のお話をはじめ、初めての駐在地ロンドンでの洋上風力プロジェクトに携わった話などお聞かせいただきました。
プライベートではサッカーをはじめ、様々なスポーツにも挑戦されています。トロント駐在は2021年4月からですが、TMCan社の会社設立を受け2023年1月に商工会へ入会されましたので、今回ご紹介させていただく運びとなりました。(聞き手:酒井智子)
-御社の事業内容の紹介をお願いいたします。
もともとカナダには同じ東京海上グループの中井が代表である東京海上日動火災保険カナダ支店が1950年代から日系企業様向けのサポートをしてきております。それに加えカナダにはTokio Marine KilnやTokio Marine HCC Internationalという東京海上グループの企業がロイズという組織を通じて保険引受を行ってきました。
こうした中、カナダは世界第6位の保険マーケットであり今後の成長も見込まれるため、今般独立した免許を持つローカルの会社を設立することによりグループとしてより大きな事業展開を目指すこととしました。
東京海上グループはM&Aを中心として日本から世界へと規模を拡大をしてきた経緯がありますが、今回は現弊社CEOであるMichael George氏(マイケル・ジョージ、以下マイク)との白地立ち上げに踏み切りました。
保険会社の白地立ち上げというのは容易ではなく、カナダでは連邦の免許取得に続き各州の免許取得が必要であり、準備期間を含め2年程度要しました。また、免許が取れても保険の販売が進むかは未知数であり、保険独自の複雑なシステムも導入しなければなりませんので大きな挑戦となりましたが、会社の規模、売り上げともに拡大しており無事軌道に乗ってきています。
TMCanは、私が赴任した2021年4月はまだ従業員が5名でしたが、現在では60名以上に拡大しており、2023年の保険料売り上げもCAD80 million(8000万カナダドル)に届く勢いとなっています。
TMCanは基本的にローカルなビジネスをいたしますので、東京海上日動火災保険カナダ支店とはマーケットが異なるため共存し、他のグループ会社とともにカナダのお客様に安心と安全を届けて参る所存です。
-御社の強みについてお聞かせください。
強みは主に2つあると考えています。一つは東京海上グループの認知度やグループ会社のサポートを得てそのノウハウや知見も生かして事業の立ち上げおよびその拡大を進められることです。もう一つは、マイクを中心とした人材です。
弊社はマーケットにおける実績豊富な経験値の高い人材の採用にこだわっており、各ビジネスユニット、サポートユニットのトップに保険業界の優秀な人材の登用に成功しています。経験豊富な人材が集まりますと、より質の高いサービスのご提供が出来ることになります。
-今後特に力を入れていきたいことについてお聞かせください。
業績面で言いますと早期に収益性を確保した上で、保険料の売上は2027年にCAD300million(3億カナダドル)を目指しています。
会社として大事にしているのは、企業文化です。東京海上グループは「To Be a Good Company」という理念を掲げており、マイク自身もこの理念に強く共感しています。彼自身は「Do the right thing」(正しいことを正しく)「Collaboration, Communication, Cooperation」を掲げ、良い企業文化作りを目指し一丸となっています。
また常に風通しが良い、上下がないフラットな組織作りも目指しています。働く場所もハイブリッドで、オフィスへの通勤についても自由度高く運営されています。ただ、会社内のコミュニケーションも深めてほしいため、従業員にはなるべく出社も含め対話する機会をもっていただくよう工夫しています。
スタートアップであり、日々新たな課題に直面する刺激的な日々ですが、社員一同一丸となって取り組んでおり、去年2022年6月の正式開業以降、先に申し上げました通り売り上げ、人材ともに拡大し成長の軌道に乗ってきましたので、今後が楽しみです。
-ここから高木氏ご自身についてお伺いいたします。ご出身から今までのご経歴についてお聞かせください。
出身は東京です。2才から7歳まで父親の転勤でアメリカのポートランドで過ごしました。その後東京に戻り、大学卒業後1999年に東京海上に入社しました。
入社後は船舶保険に携わりタンカーやコンテナ船といった船舶への保険提供に従事しておりました。一場所目は神戸、二場所目は造船所や船主さんが集まる愛媛県の今治市にて勤務し、その後東京に戻り、大手の船会社さんの保険営業を担当しました。
2011年からロンドンに3年間駐在、ちょうどロンドンオリンピックもあり見聞を広げる良い機会となりました。その後日本に戻り、石油開発や洋上風力といった洋上プロジェクトに携わった後、海上保険系の商品開発部門に勤務、そして2021年4月よりこのスタートアッププロジェクトに参画しました。当時はまだ従業員はCEO含め4人しかおらず、私は5人目でした。
TMCanではアメリカ・イギリス・日本の東京海上のグループ会社がカナダでビジネス機会がある際に、そのビジネスをサポートする部門の責任者として事業の立ち上げに挑戦しています。ボストン・ニューヨーク・フィラデルフィア・ロンドンなどのグループ会社のメンバーとオンラインまたは出張ベースで対話しシナジーを創出していく過程は非常に難しくもあり、またやりがいのあるビジネスです。
-当初5人が今では60名ということで、急成長ですね。ロンドンで初の駐在ということですが、そこでのご経験はいかがでしたか。
ロンドンでは海上保険の再保険に携わっていました。東京海上日動は、お客様に保険を提供しますが、リスクが大きい場合には保険会社もリスク移転のために保険を購入します。これを再保険と呼びます。
日本側と打ち合わせをしながら、ロンドンのロイズや欧州の再保険マーケットの方々と打ち合わせをしますが、ロンドンの保険者との打ち合わせとなると、パブに来いと言われ、そこで仲良くなり商談がまとまることもありましたね(笑)。
家族帯同での駐在で、初めての異国の地で外国人相手交渉する日々を送り、またプライベートではヨーロッパ各国を旅行しましたので、公私ともにいい経験ができました。あとはサッカーが好きで、アーセナルのファンですので、よく応援にも行きました。とても充実した3年間でした。
-今までで印象に残っているプロジェクトについてお聞かせください。
一つは入社後2場所目で四国の愛媛県今治市にて勤務したことですね。船主さんと日々リスクに関する打ち合わせをし、4年間厳しくも心暖かいお客様と公私を共にするという非常に良い経験をしました。
印象的なプロジェクトいうことで言いますと、洋上風力の保険です。2011年にロンドンに行った時期から東京海上グループとしてもSDGsの観点もあり洋上風力事業をサポートしていく方向性を打ち出し、洋上部門である私たちが担当することになりました。まずロンドン側では巨大な洋上風力プロジェクトの再保険をどのように調達するかということに携わりました。
日本に戻ってきてからは、商社さんや電力会社さんなどが海外の洋上風力に投資する際の保険をサポートしたり、その後日本でもいくつか洋上風力プロジェクトが立ち上がりましたので、それらのプロジェクトに対する保険のご提供や、リスク軽減のサポートをすることができました。
ちょうど洋上風力の立ち上げ期に携わったので、お客様やプロジェクトファイナンスを組む銀行さん等関係者と一緒に勉強しながら進めて行きました。福島沖、九州の椛島沖の浮体式洋上風車やスコットランドの大型の試験機の視察なども行いました。また、私たちの取り組みが日経新聞にも取り上げられ全社巻き込んでの洋上風力保険立ち上げに携われたことが印象的でした。
-今回の御社立ち上げだけでなく、洋上風力という大きなプロジェクトの立ち上げに携わっていらっしゃったのですね。お仕事を進めるうえで大切にされていることは何ですか。
何でも楽しくチャレンジするということです。特に新事業の立ち上げは苦しいことが多いのですが、苦しい顔をしてもつらくなる一方ですので、楽しく成し遂げるのをモットーにしています。チームメンバーやお客様も含めて一体感を醸成し盛り上げつつ、掲げた目標の達成に向けてしっかりコミットし実行することを心掛けています。
-プライベートについてお伺いします。お好きなスポーツや趣味は何ですか。
プレーするのも観戦するのも一番好きなのはサッカーですね。こっちでも有料アプリでイギリスプレミアリーグの試合を観ています。
基本的に運動するのが好きなので、週に一回のサッカーかバスケ、その他に週一、二回キックボクシングへ行くようにしています。他企業の駐在員の方との交流にもなっているので、毎週楽しんでいます。
先日、トロントのハーフマラソンにも挑戦しました。サッカーもやっていますし、ある程度行けるかな、と思っていましたが甘くみていました…。10キロ過ぎたあたりから足首が痛くなり、ピッチを落としてなんとか走り切ることができました。最後の数キロの苦しさに比べたらある程度のものは乗り越えられそうです(笑)。
15年ぶりのハーフマラソン出場でしたが、大変良い経験になりました。来年も挑戦したいと思っています。フルマラソンは…やめておきます。
-完走おめでとうございます!今後カナダ駐在中に挑戦したいことはありますか。
幼少期をアメリカで過ごしたことが自分にはとても良い経験だったので、家族にカナダらしいことをなるべく経験させてあげたいと思っています。この二年半、キャンピングカーでのキャンプや、アイスフィッシング、リド運河でのアイススケートなど、貴重な体験をしましたので、他にもカナダならではの経験に挑戦していきたいと思います。せっかくなのでアメリカの街も出来るだけ見せてあげたいと思っています。
-最後になりますが、商工会会員の皆様へメッセージをお願いいたします。
トロントはロンドンに比べ日本人駐在員の数が皆さんと知り合えるちょうどいい規模感だと感じています。是非商工会などを通じて、仕事はもちろんプライベートでも支え合い、情報交換をし、カナダにいる間に有意義な時間を過ごして頂ければと思います。
–本日はお忙しい中ありがとうございます。これでインタビューを終わります。