今回はJX Nippon Mining & Metals Corporation松ヶ崎高穂氏にお話を伺って参りました。
2022 年8月に、同社はカナダ最大手の E-waste(廃家電・廃電子機器)回収・処理事業者 eCycle Solutions Inc.を買収、オンタリオ州の主要拠点をはじめカナダ国内 7 カ所に拠点を持ち、回収した E-waste を適切な処理によって銅や貴金属、鉄、アルミ、プラスチックなどに分別、リ サイクル原料として販売しています。
学生時代のアルバイトで原料調達を経験されたことをきっかけに入社、銅関連の製品の営業と原料調達でキャリアを積み、新規ビジネスの立ち上げに多く携わってきていらっしゃいます。実は「健康オタク」とおっしゃる松ヶ崎氏、愛用の折りたたみ自転車に乗ってある趣味を極めるプライベートライフの興味深い話題もお話いただきました。2022年10月に商工会に入会されました。(聞き手:酒井智子)
-事業内容の紹介をお願いします。
JX 金属は、1905 年に日立鉱山として開業し、資源開発や金属製錬事業を行ってきました。 現在では、チリ等の海外の銅鉱山から銅鉱石を購入し、日本の製錬所で溶解して銅や貴金属、レアメタルを金属地金として取り出し、それらの金属地金を使って皆さんのスマートフォンに含まれている電子部品などの素材を生産、販売をしています。
また、使用済の電子機器等のリサイクル原料について銅精鉱を溶解する際の余剰熱を利用して処理し、新たな銅製品へリサイクルするといった上流から下流までの資源循環型のビ ジネスモデルで社会に貢献しています。
当社は 2022 年8月にカナダ最大手の E-waste(廃家電・廃電子機器)回収・処理事業者の eCycle Solutions Inc.を買収しました。eCycle は、カナダで最大シェアを有する E-waste回収・処理事業者です。オンタリオ州の主要拠点をはじめ、国内 7 カ所に拠点を持ち、強固な集荷ネットワークを用いて回収する E-waste を適切な処理により銅や貴金属、鉄、アルミ、プラスチックなどに分別、リ サイクル原料として販売しています。
また、 ITAD 事業(※IT Asset Disposition の略。使用済み電子機器や廃電子基板などの IT 資産のデータ消去後の有効活用に関する事業)も手掛けており、今後使用済み電子機器は、それらの適正処理への要求も更に高まることが予測される中で、幅広く資源の有効活用を進めています。
-御社の強みはどこにあるとお考えですか。
脱炭素化社会実現のためには「再生可能エネルギーの拡大」および「他産業・多領域における電化」 が必要とされています。これらを地球規模で実現するにあたり、銅は欠かせない脱炭素資源となっていま す。2040 年に銅製錬時のリサイクル原料投入比率を50%まで高めることを目標に、技術確立やリサイクル原料の増集荷・増処理体制の確立を進めていきます。
リサイクル原料においては eCycle の買収により増集荷が見込める点も強みです。リサイクル原料の発生元を確保できたことで、原料から日本の製錬所での生産、さらにその下工程での生産を一貫して行うことができます。今後は製錬所で処理可能なリサイクル原料の品目の取り扱いを eCycle において増やすこと で増集荷を図ってまいります。
-今後特に力をいれていきたいことについて、お聞かせ下さい。
今後、銅の需要はますます伸びていく一方、供給はこれを下回る見通しとなっています。そのため、 特に原料に注目すると、この需要拡大を支えるには銅鉱石に加えてリサイクル原料の活用拡大が必要不可欠 です。
JX 金属では鉱石が自ら発する酸化反応熱を最大限に活用し、化石燃料使用量をミニマイズした「グリ ーンハイブリッド製錬」を推進しており、これにより生産された銅は「拡大する需要を支える安定供給体制の構築」と「ESG(脱炭素や資源循環等)を重視した生産と供給」という 2 つの使命を果たすために最適な 「サステナブルな銅」であると考えています。
当社は資源、金属製錬、先端素材、リサイクルまでの一貫した事業運営の中で、サステナブルカッパ ー・ビジョンで掲げる様々な施策を通じ、サステナブルカッパーの進化と普及を目指し、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
eCycle としても、電気・電子機器メーカーとのリサイクルサプライチェーンの構築や、ネットワークを活用した北米からのリサイクル原料のさらなる増集荷に寄与し、サステナブルカッパーの進化と普及を目指してまいります。 最近のニュースとして、2023 年 2 月にJX金属が全株式を保有している eCycle の株式の一部を双日株式会社が取得し、出資参画することとなりました。
-今後ますます成長が期待されますね。ここで、松ヶ崎さんご自身についてお伺いいたします。ご出身はどちらですか。
愛知県大府市出身、産まれた病院は刈谷市で eCycle のあるミササガ市とは姉妹都市であることを知りました。 これも何かの縁ですね。その後、4 歳からはずっと東京です。大学卒業までは世田谷の尾山台というところで育ち、その後、同じ世田谷の奥沢に移りました。米国から帰国してからカナダへ赴任するまでは中目黒に住んでおりました。
-入社のきっかけ、今までのご経歴についてお聞かせ下さい。
学生時代にピザ屋で配達のアルバイトをしていました。1980年代はちょうど外資系のフードサービスが日本に参入してきた時代で、割と権限委譲が進んでおり、大学生のアルバイトにも食材調達をやらせてくれました。そこで食材調達の面白さを体感し「世界的なレベルで原料調達をやってみたい」と思い、今の会社(旧日本鉱業)に入社しました。
入社時の配属は原料部で今もリサイクル原料の調達に関わっており、志望通りと言ったらその通りですね。 自身のキャリアは銅関連の製品の営業と原料調達がメインです。
21世紀に入ってからは、同じ部署に居ても長くて 3 年半で、常に異動をしているような感じですね。どんなデザインであっても何とかして作り上げようとする自分はいわば「大工さん」のような人材だと思っています。難しい案件が来ても何とかしようとする、 次の案件が来たらまたそちらに行く、そんな会社人生を送っています。そこが自分の特色でもあり、強みであるとも思っています。
その間の海外駐在として、中国に1年9カ月、アメリカに9 カ月おりました。駐在としては短い期間ですよね。従ってカナダ駐在も短いのではないかと思っています。それ以外は大分の関サバ・関アジで有名な佐賀関の製錬所で10 カ月、残りは東京本社で勤務をしておりました。現在はマネジメントという立場ですが、自分としては現場の最前線で営業活動をすることのほうが好きです。
-入社されてからずっと忙しくされていたのですね!
忙しいといいますか、飽きっぽいので丁度いいと思っています(笑)。
-様々なご経験をされた中で、印象に残っているプロジェクトについてお聞かせください。
いくつかありますが、PPC(Pan Pacific Copper社:日鉱金属株式会社と三井金属鉱業株式会社によって設立された、資源開発から原料調達、生産、販売までを一貫して手がける非鉄金属メーカー)の設立に関わったことです。当時はまだ M&A が珍しく、これまでライバルだった人と一緒に仕事をすることは想像できませんでした。
入社10年目、当時私は30代でしたのでいい経験となりました。PPCが中国に現地法人を立ち上げるということで、その後上海へ行くことになりました。そこでは一から中国のマーケットを開拓していくという任務に携わり、丁度中国が成長途上にあったので、とても活気がありました。トータルで 1 年 9 カ月しかいませんでしたが、当時開拓したお客様とは今でも交流があり嬉しく思います。
その後は先程お話したように、そのまま横滑りでアメリカに転勤になり、トレーニーのビザでとある会社に就職し、管理を日本人一人で任されました。こちらも 9 か月という短い期間でしたが、日本語を殆ど話す機会がなく、何のサポートもなく生活を一から立ち上げたりといろいろ大変でした。この時の経験が今非常に役立っています。
-お仕事を進める上で大切にしていることをお聞かせください。
いくつかありますので、お話させてください。まず一番大事なこととして「シンプルに考える」ということを意識しています。難しい問題を解きほぐして単純化することで、解決策が自ずと見えてくることが多いと思っています。難しいことを難しく考えるのではなく、原点に立ち返って簡単に考えることが一番ですね。とにかくいろんなことをシンプルに考えていますので、今日の服装もブルー系中心でシンプルにしています。
二番目は「フェアであること」を判断基準にしています。営業や原料調達を経験した中で、売り手と買い手、生産現場と営業など、どうしても買い手や生産現場が強いと思われがちです。しかし、どちらかが強くて弱いということはないというスタンスでビジネスを考えるようにしています。
三番目は、先程大工さんの話をしましたが、大工さんとして「自己作品を世の中に残したい」と思っています。自分で新しく作ったビジネスをできるだけ多く残すことを意識しています。それは商売だけでなく、何らかの改善や効率化でもいいと思っています。例えば「このビジネスは私が始めました」ということを一つでも多く残し、何年か経って以前の部署へ戻った時にまだ自分が始めたビジネスが存在していると、とても嬉しく思います。
四番目は「人脈の構築」です。とにかく「eCycleに松ヶ崎ってやつがいたな」と固有名詞で覚えられるよう、色々な方と History を作るように心掛けています。 会食したりゴルフしたり一緒に出張に行ったりすると人間関係が強くなりHistoryが作られます。電話や名刺交換だけではなかなか人間関係の構築は難しいですよね。
また、同じ業界に長くいると何年かの周期で必ず以前仕事をしたことのある人と巡り合います。そういう時に新しいビジネスができていくことが多いと感じていますので、人との繋がりを大切にしています。
五番目は「倫理観」です。環境関係の仕事はどうしてもコストがかかる一方、会社はどうしても利益至上主義な部分があるかと思います。世の中のためになることをやっているのに、尚且つ利益が出るということはなかなかありません。信念を持って自分が正しいと思うことを正攻法でやっていくようにしています。
六番目は「三遊間のゴロを取りにいこうよ」ということです。自分はこの仕事だけ、ということではなく色々なことに興味を持ち、他の人の仕事のことも気遣い、情報も共有するいわゆるチームワークですね。ホームランを打てばいいということではなく、ゴロにもちゃんと飛びついていこうということを常に意識しています。
あとは仕事に関係するかは分かりませんが「Age is just a number」ということです。僕自身、今年56歳になりますが、 年を重ねても好奇心旺盛でかつ健康であり続けたいです。
-プライベートでは、ご趣味は何ですか。
ゴルフ、サイクリング、ジョギング、レストラン巡りです。レストランは特にイタリアンが好きなのでイタリアンレストランを中心に巡っています。日本にいた時は外食時にできるだけ同じ店に行かないよう常にリスティングをしてお店を開拓していました。
ジョギングはトロントへ来てからは寒いので殆どできていませんが、日本では毎朝出社前に走っていました。競馬・麻雀・カジノといったギャンブルも好きです。トロント赴任前、去年の 8 月に麻雀で四暗刻単騎を上がって、その1週間後にゴルフでホールインワンを出して一生分の運を使い果たしてきました(笑) 。
実は僕はものすごい健康オタクなんですよ。タバコは 11 年前に、お酒は 3 年前に、更にはカフェインは 2 年前に止め、どこまで健康になれるのかを健康診断の数値で確認しています。最近ではグルテンフリーに興味があり、お米中心の生活をしています。
健康管理の方法として、毎朝体重計に乗りアプリでグラフ化し、毎食食べたものを記録して体重をコントロールしています。毎日の睡眠 や運動をガーミンで記録し見える化しています。美味しいものを食べるのは大好きですし、以前はワインも大好きでしたが、それ以上に体重が増えないことの方が今は優先順位が高いですね。 仕事も体重管理も見える化が大切です。
それに続きますが、趣味としても超断捨離の人間です(笑)。「いかに少ないもので暮らしていけるのか?」ということで、トロントの自宅にあった装飾品は全て段ボールに詰めてオーナーさんに引き取ってもらいました。余計なものを買わず、不要だと思ったものは直ぐに捨ててしまいます。
-折り畳み自転車をお持ちということですが、こちらについても教えて下さい。
折り畳み自転車との関わりとして、スターバックスのスタンプラリーを日本でずっとやっているんですよ。アプリで商品を購入するとお店毎にスタンプがもらえるんです。折り畳み自転車は小さくなるので、電車に持ち込めますし、駅から離れていても行くことができます。休みの日に暇さえあれば「今日は金沢へ行こう!」「今日は宇都宮へ行こう!」というように日本各地のスターバックスでスタンプを集めていました。
現在、日本全国約 1700 店舗の内 462 店舗を制覇しています。スタンプラリーと合わせて、旅行先では必ずピンバッジを買い、それをコルクボードに刺して飾っています。要するに何かを制覇していくというのが好きなようで、今熱中しているのはトロントのホテルの朝食巡りです。大手のホテルは大体制覇しましたね。
-すごいですね!今後カナダ駐在中に挑戦したいことは何ですか?
ヨーロッパや中南米が近いので日本から直行便のないところへ旅行をしたいです。現在 32 か国制覇してますので、少しでも多くの国へ旅行をしたいです。趣味のゴルフでは、ベストスコア80を切りたいです。あとはベタなところで、カナダ横断鉄道に乗ることと、ロッキーの山や湖を見に行くことです。
-最後に商工会会員へメッセージをお願いいたします。
カナダで自分だけではなく会社も固有名詞で皆さんに覚えられ、皆さんと History を一緒に作っていければと思っています。 JX 金属や eCycle という会社はあまり馴染みがないとは思いますが、実は我々が扱っている銅や貴金属は色々なところで使われており、生活が便利になっているということを是非知って頂きたいですこのような資源は有限なので日本だけではなくカナダでもこれらの資源をリサイクルすることで持続可能な社会に貢献していければと思 っています。
-本日はお忙しい中ありがとうございます。これでインタビューを終わります。