「こんにちは!」新代表者紹介インタビュー

<第237回>
Astellas Pharma Canada, Inc. 
Associate Director, Corporate Planning 片柳 史一

片柳氏

今回はAstellas Pharma Canada, Inc.の片柳史一氏へお話を伺って参りました。病気の治療やケガの予防、健康維持のために欠かせないお薬。その中でも新薬の開発に特化し、世界中で人々の健康に貢献されている同社。片柳氏は、営業時代の経験を活かし医療関係者、患者さんにできる限り近い目線で寄り添いながらコーポレートプランニングとして活躍されています。

より多くの方へ新薬をお届けできるよう、新しいアプローチによる薬の研究開発、患者さんの診断から予後管理までを行う「ペイシェントジャーニー」について、また、新たな取り組みである後継者育成計画についてなど沢山の貴重なお話を聞かせていただきました。幼少の頃から野球をされており、前任の駐在地では日本人学校の野球部監督もされていた片柳氏は2022年4月にカナダへ着任されました。(聞き手:酒井 智子)

-御社の事業内容の紹介をお願いいたします。
アステラス製薬は2005年に山之内製薬と藤沢薬品工業が合併して誕生しました。「アステラス」という名称は、「星」を意味するラテン語の「stella」、ギリシャ語の「aster」、英語の「stellar」によって、「大志の星 aspired stars」「先進の星 advanced stars」を表現しています。また、日本語の「明日を照らす」にもつながります。日本のみならず、欧米やアジアにも研究開発拠点、生産拠点を置き、世界約70以上の国と地域でビジネスを展開しています。

Astellas Pharma Canada, Inc.には、現在従業員が約100名おり、日本人は私1人です。主力製品としては、イクスタンジ(前立腺がん治療剤)、ゾスパタ(急性骨髄性白血病治療剤)、ミラべトリック(過活動膀胱治療剤)、タクロリムス(免疫抑制剤)などを有し、カナダの皆さんの健康に貢献させていただいております。

当社の経営理念として、「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」ということを掲げております。画期的な新薬を生み出し、一人でも多くの患者さんへお届けすることで、患者さんの命を救うと共にそのご家族の方々の明日を変えていくという使命感を持って取り組んでいます。

製薬企業と一口にいいましても様々な会社があります。まず、薬は「一般用医薬品」と「医療用医薬品」と大きく2種類に分かれます。「一般用医薬品」は、OTC(Over The Counter)とも呼ばれ、薬局・薬店で購入できる処方箋がいらない医薬品です。一方、「医療用医薬品」は医師などの診断に基づき処方箋をもって処方されるお薬です。当社は以前、両方の医薬品を取り扱っておりましたが、現在は医療用医薬品に特化しています。

医療用医薬品は一般用医薬品に比べて効果の高いものが多く、副作用にも注意が必要ですので、コマーシャルの制限もあり、TVや新聞、広告での宣伝をすることができません。当社は一般用医薬品の取り扱いがないため、皆さんの目に直接触れる機会が少ないかもしれません。

また、更に細かくいいますと、医療用医薬品は、「ジェネリック医薬品」と「新薬」に分けることができます。当社は、ジェネリック医薬品を扱わず、医療用医薬品においては新薬に特化してビジネスを展開しています。

-ジェネリックと新薬の違いについて、ご説明下さい。
お薬はある一定期間特許で守られておりますが、その特許が切れると、ほとんど同じ効果、副作用を持った薬が安い価格で市場に出てきます。これを「ジェネリック医薬品」と呼び、メインのビジネスとされている会社さんもあります。「新薬」というのは、その名の通り新しい薬です。

一つの新薬を生み出すのに、だいたい数百億円~数千億円規模の投資が必要となり、9年から16年の歳月がかかるといわれております。また、新薬が生み出される可能性は2万3千分の1ともいわれており、その非常に低い成功確率に私たちはかけています。こういったことから手広くビジネスを展開することが必ずしも成功につながるとは限らないため、新薬開発に特化して人々の健康に貢献することを使命として取り組んでいます。

-御社の強みはどのようなところにあると思われますか。
冒頭にも申しましたが、現在世界70以上の国と地域でグローバルにビジネスを展開しており、世界の各市場に強い地盤を築いています。また、「Focus Areaアプローチ」という考え方で研究活動を推進しています。

以前当社は「グローバルカテゴリーリーダー」というビジネスモデルを採用しておりました。こちらは、ある程度私たちがアプローチする疾患領域を絞り、そこで出てくる薬で勝負するというものでした。しかし、既存製品を超えるものが生まれにくくなってもなお同じ領域に固執し、新たな挑戦が阻まれるという状況に陥るようになりました。

そこで、疾患領域を決めて研究開発を始めるのではなく、(1)病態関連性が高いバイオロジー、(2)汎用性のあるモダリティ/テクノロジー、(3)これらバイオロジー、モダリティ/テクノロジーの要素により解決が期待されるアンメットメディカルニーズの高い疾患の組合せの集合をFocus Areaとして定義し、このFocus Areaに独自の専門性とプラットフォームを構築することで、革新的製品の継続的な創出を目指すモデルに舵を切りました。この入り口を広くして多面的な視点から創薬に取り組むFocus Areaアプローチは、当社独自のビジネスモデルであり、他社さんと差別化できる部分だと思っています。

組織風土に関して触れますと、とても人を大切にしている企業だと思います。社内ではダイバーシティへの取り組みが進んでおり、それを後押しできる組織風土の確立に力を入れています。特に最近のフィードバックカルチャーや、サイコロジカルセーフティに関する取り組みなど、多様な価値観、考え方、背景、経験を持った社員同士が壁を作らずコミュニケーションを図り、イノベーションを発揮できるように取り組んでいるのもポイントだと思っています。

-今後、特に力を入れていきたいことについてお聞かせ下さい。
当社の2025年度までの5カ年にわたる経営計画の中で、2025年度に株式時価総額を7兆円以上と評価されることを目標に掲げておりますが、株式時価総額で目標設定をする会社は非常に珍しいと思います。こちらを達成するために、重点戦略製品を育成し、先程のFocus Areaアプローチで生み出された新薬を確実に世に送り出すことが大切だと考えています。

また、やるべき部分には費用をかけ、無駄の排除を徹底するという「断捨離イズム」を推進することで、2025年度コア営業利益率30%以上を確保するということが大切なポイントです。

当社では医療用医薬品(Rx)にとどまらず、ペイシェントジャーニー(診断、予防、治療および予後管理を含む医療シーン)全体において、様々な方法で患者さんに「価値」を届けることを目指しています。私たちはこの取り組みをRx+®事業と呼んでいます。医療用医薬品(Rx)事業で培った当社の強みをベースに、異分野の技術を融合させることで、新たなヘルスケアソリューションを提供し、単独で収益を生み出せる事業にすべく力を入れて取り組んでいます。

-特筆するニュースなどありますか。
最近、日本経済新聞(2022年11月4日付)に「アステラス、次世代リーダー630人選抜」という記事が掲載されました。今後も当社が継続的に成長をするために、後継者の育成が重要になってきます。そこで、会社として次世代のリーダーを選抜し、早期育成することに力を注いでおります。このような後継者育成計画を策定、実践する企業はなかなか斬新で、一足早く実現できているところかもしれません。

-様々なことに取り組んでいらっしゃるのですね。ここで、片柳氏についてお伺いしていきます。ご出身と今までのご経歴についてお聞かせ下さい。
出身は栃木県です。地元の高校を卒業後、大学は東京に出て法学部政治学科を卒業し、アステラス製薬へ入社しました。

入社後、2003年から6年半営業を務めた後、人事を経て、2014年からアジア・オセアニア事業本部へ異動し、1年半の間、韓国とフィリピンのビジネスサポートを日本側から担当しました。その後、台湾販社へ赴任し、台湾ビジネスと現地台湾人社長をサポートする業務に2年間携わりました。その後、2018年からは中国販社へ異動し、北京本社で戦略企画やリスク管理の業務に携わり、2019年に日本へ帰任しました。

日本へ戻った後は東京本社の秘書部で、取締役会の運営をサポートしました。実に様々な職種を経験させていただきました。海外駐在に関しては、台湾と中国で、カナダは3カ国目となります。

当初は「国内営業のトップマネジメントになる」という気持ちで頑張っていましたが、全く違ったキャリアになっていますね。以前、尊敬する上司から「キャリアはあまりきっちりと描き過ぎない方が良いと思う。ざっくりとした将来像のイメージは持つべきだが、明確に描き過ぎると、そこに到達しなかった時にモチベーションを保つのが大変だから」と言われました。キャリアは中長期を見据え、できる限り明確に描くものだと思っていましたので、「そんな考え方もあるんだな」と学びました。

また、確かに人事時代の経験から、どんなにその方が優秀でも、そのポジションが空かないと、希望どおり配属されるのは中々難しいということも分かりました。努力はもちろん大切ですが、人事には時に運もありますので、必ずしも思い描いた通りにはならないと思います。それも人生と思って、自分にいただいた今の職責で最大限のパフォーマンスを発揮することを考えてチャレンジすべきと思っています。

-今までで一番印象に残っているプロジェクトについてお聞かせ下さい。
日本本社、台湾、中国、そしてカナダの経験も印象的ですが、やはり営業をやっていたことが、今の私の土台だと思っています。営業時代に名古屋の開業医の先生方を担当させていただきました。お叱りを受けたことも何度もありますし辛いことも沢山ありましたが、当社製品の効果、副作用も踏まえて一生懸命お話をして、先生に当社の製品を使っていただいた時の喜びは今でも忘れられません。

また、滅多にないのですが患者さんから直接お礼を言われた時は嬉しかったですね。病院の待合室で先生との面会を待っていると、スーツを着ているし、なんか1人だけ元気そうだし製薬会社の営業マンだってきっと分かってしまうんですよ(笑)。その時患者さんから「あなたどこの会社の方?」と声をかけられ、当時取り扱っていた当社の不眠症のお薬のお陰でよく眠れるようになったと言われました。もともと文系出身で、医療は遠い世界のことと思っておりましたが、私でも患者さんの健康に貢献できると身をもって経験できた瞬間でした。

-お仕事を進める上で大事にしていることについて、お聞かせ下さい。
どんな仕事においても責任感とオーナーシップを持って「やり抜く」ということは常に考えています。また、他の部門がやりたがらない仕事でも取りにいくよう心掛けています。特にカナダでは、私から積極的に取りにいかないと待っていても仕事はやってこないんです。その代わり自分がやると言って任せていただいた仕事には、こだわりを持ち、結果を出せるよう常に考えています。

現在、私はコーポレートプランニングとして販社カナダ人社長(Frank Stramaglia)へ直接レポートしています。意見交換の際には「聞く」のではなく、自分が何をしたいのかをはっきり示して、その自分の意志に対して「アドバイスをもらう」よう心掛けています。また、どんな状況においても、いつも誠実でオープンに接し、謙虚でありたと思っています。

-現在日本人お一人ということですが、日本と違うと感じることなどありますか?
日本では約1,300名の営業担当者がおりますが、こちらにきて驚いたのは、カナダという広大な市場で営業担当者が30名もいないということです。カナダの一人当たりの生産性はとても高いと言えます。カナダのオフィスはマーカムのみで、現在その本社オフィスはハイブリッドワーキングスタイルに対応すべくリノベーション中です。

営業担当者は自宅をオフィスとして各州へ出張に出かける社員が多いです。先日、ハミルトンの担当者と同行する機会を得ました。その社員はハミルトンとウィニペグを担当しており、ウィニペグへは1カ月のうち1週間程出張し、先生方にアプローチをしているとのことでした。カナダの医療関係者の方と直接会って、現場の生の声を聞けたことは大変勉強になりました。

野球
台北-北京での野球部監督

-プライベートでは、お好きなスポーツや趣味は何ですか?
父親が野球のコーチをしていたのもあり、ずっと野球をやっていました。小学校3年生から高校を卒業するまでは野球部に所属していました。こちらに来てから野球をする機会がなくなってしまったのですが、台湾、北京での駐在期間はいずれも現地の日本人学校で野球部の監督もしていたくらい野球が好きです。実は今回進学の関係で、カナダに連れてこられなかった中学生の息子がいます。息子も野球をしていますので、前任地ではよく一緒にやっていました。

中国安徽省 黄山登山
中国安徽省 黄山登山

今は妻と娘とブルージェイズの観戦にいったり、カナダの大自然を楽しんだりしています。最近、同僚に教えてもらったオシャワの手前にある自然公園にいきましたが、そこではたくさんのきれいな野鳥がいて、手のひらに餌をのせていると飛んできて手にとまって食べるんです。私たち家族のお気に入りのスポットです。

今、家族が離れ離れになってしまい、とても残念なところはあります。家族はいつも一緒が良いと考えていますので4月に赴任する際にかなり悩みました。今回の駐在期間を終えた時に、この決断が間違っていなかったと思えるよう精一杯カナダのことを学んで、日本で待っている息子に伝えたいと思っています。もちろん駐在期間中に何度か息子を呼んで、バンフ国立公園やイエローナイフなど色々なところへ連れていきたいとも考えています。

万里の長城(慕田峪長城)
万里の長城(慕田峪長城)

-最後に商工会会員の皆様へメッセージをお願いいたします。
私の駐在期間は2~3年と限られている中ではありますが、少しでも多くの皆さんとコミュニケーションできれば嬉しく思います。商工会の会議や懇親会でお気軽にお声掛けをいただければ幸いです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

-本日はお忙しい中ありがとうございました。これでインタビューを終わります。