2020 年9月にスリーマン・ブリュワリーズの社長に着任されました、北岡宏昭社長にお話を伺いました。皆さんお馴染みのサッポロビールをカナダで販売され、ユ ニークなブランドポートフォリオを持たれるスリーマン・ブリュワリーズ。健康志向が高まる昨今、2018年よりSPIKED WATERというゼロカーボ・ローカロリー・ゼロシュガー・ナチュラルマテリアルを使用した健康的で甘みのないウォッカ飲料の販売にも力を入れています。 2021年3月より発売された新商品のお話や、前任でマーケティングを担当されていた当時のCM製作の裏話など貴重なお話をお聞かせいただきました。(聞 き手:酒井智子)
-御社の事業内容についてお聞かせ下さい。
スリーマン・ブリュワリーズは日本のサッポロビールが100%株主の会社です。きっかけは、2002年からサッポロビールがカナダで北中米向けの商品を委託製造しており、その委託先がスリーマンでした。その後、2006年よりサッポログループの一企業となりました。
弊社の事業内容は、ビールの製造・販売となります。2018年より、日本でいう「酎ハイ」、カナダでは「RTD」と呼ばれる様々な種類のフレーバーのついた缶のウォッカ飲料の販売を始めました。
カナダ国内に4つの工場を持っておりまして、オンタリオ州はゲルフ、ケベック州はシャンブリー、B.C州はバーノン、そしてアルバータ―州 はカルガリーに、それぞれ位置します。ブランドはナショナルブランドでは、Sleeman、Sapporo、Pabst Blue Ribbon、Old Milwaukee、ローカルのビールとしてケベックを中心に販売しているUnibroue、B.C州ではOkanagan Spring、アルバータ州ではWild Roseとなっております。
これらのローカルビールは、クラフトビールに近い感じで、それぞれの地元で、たいへん愛されているビールです。細かいブランドは沢山あり、非常にユニークなブランドのポートフォリオを持ったビールの製造・販売をしているのが我々スリーマン社です。
-花澤前社長へのインタビューが2016年でしたが、この5年間でどのような変化がございましたか。
この5年間ですと、弊社だけではなくカナダ全体のビールの消費量が減り始めました。その影響を受けているのが「RTD」の台頭です。アメリ カも含め、北米では今RTDはアルコール業界で非常に話題となっている商品です。RTDは2017年あたりから、伸長し始め、その変化に伴い我々も参入し ました。
2018年からSPLASHという商品を販売しておりましたが、伸び悩みもあり、今年新たにSWAYという商品と、先程申し上 げましたPabst Blue Ribbonブランドよりウォッカソーダの2商品を3月に販売予定です。もう一つの変化として、アルバータ州のWild Roseを2019年に買収したことです。
– RTD について詳しくお聞かせ下さい。
RTDは「Ready To Drink」の略で、昔から販売されているSMIRNOFF ICE(スミノフアイス)やZimaなんかがそれに当たります。RTDの中でも、「SPIKED WATER」と呼ばれる、ゼロカーボ・ローカロリー・ゼロシュガー・ナチュラルマテリアルを使用した健康的で甘くないカテゴリーがミレニアルズを中心に大 ヒットしています。
これが驚異的な伸びでして、例えばビール+RTDでいうと比率は10%程ですが、毎年マーケットが2倍以上拡大していっており ます。ローカーボのカテゴリーは実はRTDだけではなく、ビールの分野へも広がってきております。弊社ではSLEEMAN CLEAR 2.0、他社さんですとMichelob ULTRAが該当します。
こういった商品を総じて「Better For You」カテゴリーと業界では呼ばれておりますが、ノン・アルコールなども含め、若い層を中心に健康意識の高まりから、これらのマーケットが拡大していっ ております。日本では「機能系商品」と呼ばれておりますが、こっちですと「Better For You」と名付けが恰好いいですよね。
各 社非常に注目しており、商品開発をしております。弊社は今流行っている甘くない「SPIKED WATER」のほかに、今年は、昔からある甘みのあるRTDとの中間となる、少し甘さを付けた「Semi-Sweet」というカテゴリー(SWAY)と少 しアルコール高めのHigh Alcoholカテゴリー(Pabst Blue Ribbon)で新商品を用意しております。
-細かくカテゴライズされているのですね。どの世代も健康志向が高まっている中、特に女性には嬉しいですね。
今までLight Beerがアメリカでもカナダでも主流でBudweiser Light, Coors Lightといった商品がすごく売れておりましたが、ローカーボ商品がLight Beerのマーケットを取っていっているというのが現状です。コロナの影響で、皆さんエクササイズができない、家にいる時間が長いということから、糖質に 気を遣い、さらに加速がかかってきましたね。我々のSLEEMAN CLEAR 2.0も昨年は約40%増と高い伸び率で成長しています。
-御社の強みについてお聞かせ下さい。
まずは、先程紹介いたしましたユニークなブランドポートフォリオですね。プレミアムゾーンにSLEEMANやSAPPORO、メインスト リームと言われるゾーンへもSLEEMAN、ヴァリューと言われるお買い求めしやすい価格帯ゾーンへPabst Blue RibbonやOld Milwaukee、加えてローカルのクラフトビアを持っているということです。
そして品質価値です。サッポログループとなり、飛躍的に品質が向上し、もともとスリーマン社が持っていた品質価値に更に磨きがかかりました。カナディアンビールの中でも、品質面では負けなと自負しております。
-今後特に注力したいことについてお聞かせ下さい。
大きく分けると二つです。一つ目はSLEEMANをトップ10ブランド入りさせることです。
カナダ全土のビール会社でいいますと、最大手のビール会社としてLabatt社があります。こちらはAnheuser-Busch InBev社がLabatt社というカナダの会社を買収しました。二番目に大きい会社としてMolson Coors社があり、こちらはMolsonというカナダのブリュワリーをアメリカのCoors社が買収しMolson Coorsとなりました。そして三番目に大きい会社が我々スリーマン・ブリュワリーで、サッポログループとなっております。
LabattとMolsonは、欧米の親会社がカナダ産のビールに力を入れなくなりました。我々は、カナダオオリジンのビールであるSLEEMANにしっ かり注力したいと思っています。カナダ人の皆さんが、SLEEMANをカナダを代表するブランドとして誇れるようになることを目指したいですね。
二つ目は、先程申し上げましたように恐らくビールのトレンドは、今後も少しづつ微減していくかと思われます。ビールを超えた新しいお酒を提供することで、 お客様へ新しい価値を提案していく、その一つがRTDです。ノンアルコールも含め、ビールを超えた新しいお酒の提案を目指していきたいです。
-ここで北岡社長ご自身についてお伺いします。ご出身、ご経歴などをお聞かせ下さい。
出身は京都府宇治市です。経歴はサッポロビール一本で、10年ほど関東圏や北海道で営業を積んだあと、30代前半でロサンゼルスへ赴任しました。5年間、 サッポロUSAというサッポロビールの関連子会社でカリフォルニアを中心に西海岸の営業や、中南米を担当しておりました。
そ の後、日本のサッポロビール本社へ戻り、10年間マーケティングの担当者をしておりました。その間、広告宣伝製作、100本以上のテレビコマーシャルをつ くったかと思います。また、新商品の開発や、既存ブランドのブランディングのほとんどに携わっていました。マーケティングの商品周りのことは一通り10年 でやりましたね。そして昨年9月にスリーマンの社長に就任致しました。
-10年間、テレビコマーシャルから商品開発までマーケティングの全てに携わっていたということですが、一番印象的なプロジェクトについてお聞かせ下さい。
最初から、私が企画に携わったCMではありませんが、サッポロ黒ラベルについて話をさせてください。日本ではサッポロ黒ラベルという商品がフラッグシップ(主力商品)なんですが長らく低迷をしておりました。
2010年から新CMを始め、私が黒ラベルをはじめとするブランドの統括マネージャーとなったのが2014年でした。新CMはとても良かったのですが、まだまだ数字がついてこない状況でした。
しかし、続けることにより2014年ごろからじわじわと売上が伸び始め、2014から2020年までの6年間連続で缶ビールの売上を伸ばし続けてきました。フラッグシップのブランドを復活させたということがとても印象的でしたね。
大人エレベーターシリーズというCMで、妻夫木聡さんがメインキャラクターで毎回ゲストを呼び、ゲストの方と 「大人とは」というテーマで会話をしていくというものです。その会話を3時間も4時間も撮影するんですが、ゲストの方がお話された内容を切り取ってつない でいくんですね。
2010年からこのシリーズをずっとやっており、我々もその撮影現場に立ち会い、CMにはならないオフレコの部分まで話を聞くことができました。CM製作の中で、とても印象に残っている作品です。
-CM一本の時間は15秒~30秒くらいですよね。それを完成させるのにそれだけの時間撮影されるのですね。
そうですね。15秒を4本、30秒2本など、タイプを数種類作りますが、それでも実際撮影している時間とCMで流れている時間というのはまるで違いますね。2日がかりのロケで製作する時もありますし、編集や音入れ作業も何時間もかけて行います。
-お仕事を進めていく上で、大切にされていることについてお聞かせ下さい。
自分が仕事を通じて何を成し遂げたいのか、社会にどのような貢献ができるのか、を大切にしています。その上で自分の判断軸は何なのか、を持つことが大事だと思います。
特にマネージメントや社長という立場になってくるとDecision-makingとAccountabilityが必要となってきます。何かを決める時 に判断軸がないとぶれてしまうので、そこに自分のポリシーと会社のビジョンを重ね合わせ、何のためにこの会社は存在し、お客様に何を届ける会社なのか、自 分が成し遂げたいことは何なのかということを含めた上で、それぞれのタイミングで判断軸をもつということを大切にしております。
-プライベートについても少しお伺いします。休日は何をして過ごされますか。好きなスポーツやご趣味などは?
スポーツはサッカーと野球、両方好きですが、どちらかというとサッカーですね。学生時代にやっていたきりで何十年もやっていないので、今は観る専門です (笑)。せっかくカナダへ来たので、アイスホッケーも見に行きたいと思っています。アメリカにいた時も観に行かなかったので、ホッケー観戦をすることを楽 しみにしています。
恥ずかしながら、趣味らしい趣味がないのですが、職業柄含めて外食をすることがすごく多くて。ビール会社ということと、ロサンゼルスへいた頃は営業もして おりましたので、必然的にレストランへお伺いしていましたね。もちろんサッポロビールを扱っているレストランもそうですし、流行っているお店や有名なお店 なんかへ仕事上足を運んでおりました。
レストランへの興味も沸いてきますし、美味しい料理を提供しているお店ではどんなお酒を出しているのか、どんな雰囲気づくりをしているのか、などかなり細かく見ながら外食することが楽しみの一つでしたが、今は(コロナ禍で)それが出来ないのが残念ですね。
-外食の代わりにレストランのデリバリーなどは利用されていますか。
カナダ着任直後の隔離期間は利用していましたが、今は料理に目覚めたので自分で作っています。人生でこんなに自炊したの初めてですね(笑)。毎日100%自炊しています。最近作った中では豚汁が美味しくできましたね。そんな手の込んだものは作りませんよ(笑)。
-豚汁いいですね。この季節に身体も温まりますね。ご自身の中でビールにあう一番のおつまみは何ですか。
月並みですが、唐揚げですね。北米でのフライドチキンではなく、日本の唐揚げがいいですね。
-今後カナダ駐在中に挑戦したいことについてお聞かせ下さい。
仕事面では、カナダオリジンのSLEEMANというビールをカナダ人が誇ってくれる、カナダ人がカナダを代表するビールと聞かれた時にSLEEMANと答えられる、そんなブランドにしたいですね。
プライベートでは、それこそ、これから付き合っていける趣味を見つけたいですね。色々な方にカナダでの趣味を聞いていますが、ゴルフやスケートはよく聞き ます。釣りなんかも挑戦してみたいですね。まずは一通り試して、自分がずっとやっていける趣味をカナダにいたことをきっかけに作れたらと思っています。
-最後になりますが、商工会会員の皆様へメッセージをお願い致します。
このコロナの環境下で、どちらの企業の皆さまも今までとは異なるビジネス環境の変化にあられると思いますが、同じ日系企業として共に協力をし、このカナダ社会の中でカナダと日本に協力できるものを一緒に作っていけたらと思っております。
個人的には早く皆さんにお会いしてFace To Faceでご挨拶をして懇親を深める日が早く来ることを本当に望んでいますので、宜しくお願い致します。
-本日はお忙しい中お時間頂きましてありがとうございました。これでインタビューを終わります。