今回はToyotetsu Canada, Inc. (TTCA)の高木勝利氏へインタビューをいたしました。工場はトロントから車で2時間、エリー湖に近いシムコーに位置しており、現在拡張工事をしています(2023年末完成予定)。高木氏は、入社からこれまで本社で主に設計開発に携わり、全ての製品の設計に関わっていらっしゃいました。インタビューでは、設計された製品を見立てたサンプルを使用しながら、分かりやすくご説明いただきました。高木氏は2021年7月にカナダへ赴任されました。(聞き手:酒井 智子)
-事業内容の紹介をお願いいたします。
弊社は日本の豊田鉄工のグループ会社の一つという位置づけとなっております。グループの事業内容としては、主にボデー部品といわれる車両の骨格を構成するプレス部品やシャーシ部品を製造しております。車両の前端部分に位置するラジエータサポートやバンパーR/F、キャビンを形成するセンタシャーシやレール類、またシャーシ部品としてはロアアームなどの足回り部品、機能部品のブレーキペダル、PKBレバーなどを主力商品として製造しております。
日本ではバスバーなどの電子部品やドアトリムなどの樹脂部品も取り扱っておりますし、グループ会社の一つはアルミを得意としており、アルミの板からボデー部品を製造しております。
目新しいお話をさせていただきますと、農業分野にも参入しており、ベビーリーフの栽培もしております。露地栽培ではなく無菌室で機械を使って生産する、いわゆる植物工場で色々な種類のベビーリーフを栽培しています。既に出荷もされており、愛知県内の大手スーパーマーケットなどでお手に取ることができます。
もう一つの事業として、お年寄りの方や、足の不自由な方の歩行を支援するパーソナルモビリティを手掛けております。このモビリティ自体はトヨタ自動車さんの製品ですが、弊社で生産委託を請け負い、設計開発にも一部携わりました。
-様々な事業を展開されていますね。御社の強みについてお聞かせ下さい。
弊社は世界に26の拠点及び工場を展開しております。各工場で生産している品目は違いますが、それらを全て集約しますとほぼ車の形になります。多くの種類の製品を扱っておりますので、ほぼ全ての骨格部品に対応できるということ、また、どの部位にどのように力が入り、どのような強度が必要か?など製品機能を熟知していますので、様々な技術を提案しお客様のニーズに合わせた製品が提供できることだと思っております。
TTCAのお客様は主にトヨタ自動車さんのカナダ工場ですが、そこではRAV4やレクサスブランドを製造されており、我々が納入するボデー部品の中にも様々な技術を織り込ませていただいております。例えばセンターピラー(自動車の中央部にあるドアを保持する柱)という製品ですが、昔は引張強度で270メガパスカル程の製品でしたが、今は1470メガパスカル級で超ハイテンと呼ばれるとても強い材料で造られています。
また、一つのプレス品の中でも、部分ごとに強度を変える素材接合の技術も導入しております。弊社はお客さまに対して、あらゆる部品で超ハイテンや素材接合の加工技術を駆使して、安価で強い(安全性の高い)製品をご提供させていただいております。
そのような技術がお客様の製品に織り込まれて、最終的にはエンドユーザーの方に喜んでいただけるということに繋がっているのだと思っております。
-2014年の谷口前社長のインタビューから、大きな変化等はございましたか。
当時の従業員数は492名でしたが、現在の従業員数は1221名と約2.5倍となっております。また、当時から着工していた拡張工事が、いよいよ最終段階に入っております。拡張の目的は、一つはお客様により多くの製品を安定的にお届けすることです。
もう一つの目的として、弊社は現在3交代シフトを組んでおりますが、この3交代シフトはチームメンバーにとって身体的負担がかかっているため、工場を拡張しそこへ新たにプレス機、溶接設備を導入し生産能力を上げることによって、3交代シフトから2交代シフトにすることが可能となります。チームメンバーの方への負担が軽減されることに加え、雇用もしやすくなると考えられますし、生産の安定も期待できると思っております。2023年末に完成予定ですので待ち遠しいですね。
-ここから高木氏ご本人についてお伺いします。出身地とご経歴についてお聞かせ下さい。
私は愛知県で生まれ育ちました。学生時代には北関東方面の大学へ進学をし、卒業後は愛知県へ戻り今の会社へ就職しました。入社後、製品設計部署に配属されて、半年後にはトヨタ自動車さんの設計部門へ出向し5年間勉強させていただき、約30年あまり設計や生産技術部門の方々と一緒に仕事をしてきました。
その後、開発部署に移動し先程述べましたパーソナルモビリティやアグリ事業などの業務に携わり、昨年の7月にTTCAへ赴任となりました。通常では拠点長を務める場合、工場運営ができることが必要となってくるため、いわゆる生産部門の経験が長い人、もしくは経理に強い人の2パターンかと思いますが、私はどちらにも当てはまりませんので、異色ですよね(笑)。
-カナダへ来られる前は、海外駐在の経験はございますか。
カナダが初めてですね。といいますのも、先程述べたとおり私は技術開発の出身であり、この部門は本社に集約されています。生産拠点は多くありますが、設計機能を持っているのは北米ケンタッキーだけですので、残念ながら海外駐在の機会はこれまでなかったですね。
-初めての海外赴任ということですが、カナダでの生活はいかがですか。
カナダは移民を沢山受け入れる国ということもあり、非常にフレンドリーで親切な方が多くて、住みやすく働きやすいというのが私の印象です。私自信、還暦も近くなっており、ここが最後の職場として腹をくくっておりますので、将来に亘りこの会社が更に発展していけるよう、カナダのメンバーの力になりたいと思っております。
-一番下印象に残っているプロジェクトについてお聞かせ下さい。
長年設計開発に携わってきた中で、弊社の主力製品であるバンパーリンフォースと、クラッシュボックスを手掛けたことがあります。バンパーリンフォースは衝突時に力を受け止める部品で、クラッシュボックスがエネルギーを吸収する部品です。どれくらいの加重を受け止め、どれくらいのエネルギーを吸収するかを計算し設計をおこないます。
(箱を手に)こちらは単なる箱ですが、エネルギーを吸収するには潰れてくれなくては困りますよね。設計者が意図する場所で潰れてほしいので、通常はアコーディオンのように折りたためられるようにビードと呼ばれる溝を入れていきます。イメージできますよね?
これが今までのクラッシュボックスの思想でしたが、難点が一つあります。それは潰れやすくするためにビードを入れるので、本当はもっと沢山の力を受け止めてエネルギーを吸収できるのに、わざわざ弱い部分をつくることになり、箱が持っている100%の力が発揮できなくなってしまうんです。
そこで、我々は新たに形状を開発しアコーディオンのようなビードを入れず、箱が持つ本来の強さを発揮させ、キレイに潰れる製品を開発しました。もちろん製品特許も取得しました。製品を作っては潰す作業を繰り返し、今まで何百回潰したか分かりませんね(笑)。
-開発までどれくらいの期間を費やしましたか。
これがまた早かったですね、一年ちょっとくらいでしょうか。閃き(思いつき?)を図面にして、ものを作って、評価して(潰して)、理屈をつけて…というのを一年から長くても二年以内で完成させました。自分たちで開発した製品を持って、ほぼ全ての日本のカーメーカーさんに営業(売り込み)までしましたね。あの時代が一番面白かったですね。
-それはいつ頃のお話ですか。
2004年ごろでしたね。お客様や国から技術開発賞などをいただいたりすることができましたので、良い技術だったのではないでしょうか。これが私が携わった大きなプロジェクトの一つでした。もう一つは先程述べた素材接合の技術を織り込んだセンターピラーを開発し、日本で初めて車両に搭載できたことも印象に残っています。
-現在設計から離れていらっしゃいますが、設計が恋しくなることはありますか。
設計といっても樹脂やアルミ、鉄など様々な分野があり、深い浅いはありますが、私は全製品に携わることができ幸せでしたね。先程述べたようにべビーリーフやパーソナルモビリティにも関わっていましたので、これついても語ることができますよ(笑)。
今はカナダに来てお客様へ製品をお届けするという、私にとっては全く新しい世界での業務ですので、こちらも新鮮で非常に面白いです。自分の知らないことがいっぱいあり日々勉強ばかりですし、様々なトラブルも沢山起こりますので、毎日楽しく、刺激的に仕事をさせてもらっております。
製品設計はものつくりの一番初めで、製造は一番最後になるわけです。過去に自分たちが設計したものを世の中に送り出すところに現在はおりますので、これもまた非常に面白くて設計が恋しくなることは今のところないですね。
-お仕事を進める上で大切にされていることについてお聞かせ下さい。
自分のモットーでもありますが、「今やれることを先延ばししない」ということです。先延ばしにすればするほどやりにくくなる、またやれなくなってしまうので、「今やれることはすぐにやろう」ということを心掛けています。仕事も一緒で、どんな仕事でも「明日でいいや」とならないようにしております。明日は明日でまたやることがでてきますので、やれるなら今やろうと自分に言い聞かせています。
また、赴任してまだ1年ですが、この工場をもっとキレイに整理整頓された会社にしたいと思っております。もちろん今でもキレイではありますが、更にということです。ブロークンウインドウ理論ってご存知ですか?経済学者の方が論文で発表されておりますが、例えばアメリカのデトロイト辺りが荒れた時期がありましたが、スラム化していく一つの要因として、壊れた窓ガラスをそのままにしておくと、それで良いと思ってしまう方が増えてしまい、街がすさんでいくんですね。
その逆バージョンとして、常にキレイにしておくことで、会社のモラルも良くなりますし、整理整頓されていればケガもなくなります、皆さんにも気持ちよく働いて頂けますので良いことだらけだと思っております。是非、ピッカピカの会社にしていきたいですね。
-ここからプライベートについてお聞きいたします。お好きなスポーツは何ですか。
しいていうなら、ゴルフですね。下手の横好きですが(笑)あとは旅行ですね。
-カナダに来てからもゴルフはされていますか。
そうですね。日本に比べるとリーズナブルですし、皆さん優しくて、下手くそでも怒られないので(笑)楽しませていただいております。球があちこちに行くのでボールを探すのに時間がかかりますが、それもまた楽しいなというのが正直なところです。
-カナダ駐在中に挑戦したいことについてお聞かせ下さい。
先程も申し上げましたが、製品設計出身で、今は製造の部署におりますので、違ったことを見たり、経験することはとても面白いことを学びましたから、色々なことにチャレンジしたいと思っています。じゃあ何を?といわれると旅行くらいしか思い浮かびませんが(笑)、色々な場所に出かけて色々な体験をしたいと思っています。
-カナダへ来られてから旅行はされましたか。
ケベックシティへ行きました。丁度クリスマスシャットダウンで休みになったので、真冬に車で片道10時間くらいかけて行きました。途中で氷雨が降ってワイパーが凍り付いて大変でしたね(笑)。またウィンドウウォッシャー液がなくなって前が見えなくなり、近くのスーパーに飛び込んで買いにいったりもしましたが、2泊3日の滞在はとても楽しかったです。
-最後になりますが、商工会会員の皆様へメッセージをお願いいたします。
赴任して一年、コロナ禍ということもあり、商工会のイベントに今まで参加できずにおりましたが、これから先は可能な限り商工会のイベントに参加させていただき、会員の皆様と交流させていただければと思っております。色々なことを試したいと思いますので、お仕事も含めまして、沢山の方と交流できるのを楽しみにしております。会員企業の中では一番南に位置しており、田舎者ですが(笑)どうかよろしくお願いします。
-本日はお忙しい中、ありがとうございます。これでインタビューを終わります。