「こんにちは!」新代表者紹介インタビュー

<第229回>
KST North America Ltd.
President 佐藤 智子

Ms Sato

今回はKST North America Ltd. 佐藤 智子氏にお話を伺ってきました。2020年にねじの輸入・販売会社Smart NEJI Ltdを立ち上げた佐藤氏。今年になり、お父様が経営されるねじ商社KST Japanの名前を継承し、社名をKST North America Ltd. に変更されました。長年携わっていらした為替取引からねじ業界という新しい世界へ飛び込んだきっかけや、会社立ち上げから現在までの苦労話など、お聞かせいただきました。逆境に負けず、パワフルでポジティブな佐藤氏。今後の活躍が期待されます。(聞き手:酒井智子)

-御社の事業内容の紹介をお願いいたします。
日本で造られた高品質のねじの輸入・販売をしております。

まず社名であるKST North Americaですが、2年前にSmart NEJI Ltdという社名で会社を起こし、今年から父が経営する日本のねじ商社KST Japanより名前を頂き社名を変更しました。これによりKSTグループとして日本のねじを北米に紹介しております。

父はもともと、日商岩井の鉄鋼部門でねじの販売に携わっており、早期退職後、自分でねじの商社を立ち上げました。日商岩井の時から合わせますと、50年以上の経験を持っております。せっかくカナダにいるのだからということで、約2年前に北米で父のKST Japanが取り扱っている日本のねじと、台湾・ベトナムのねじを北米で販売する営業所として、Smart NEJI Ltd(現:KST North America)を立ち上げました。

我々が特に力を入れていることは、日本で造られた高品質のねじを北米に紹介するということです。日本にもねじのメーカーさんは沢山ありますが、KST Japanは主にコンストラクションや、ビルディングなどインフラ関係に供給するねじの取り扱いやメーカーさんとの関係が強く、そういったねじを中心にカナダやアメリカに商流を作り良いねじを利用する価値を体験していただく場所を増やしています。

特に移民大国カナダは人口がまだまだ増えることが予想され、政府がインフラに投資している国ですので、Rice of Industryであるねじの需要は沢山あります。一方で、こ20年ほど安ければ安いほどいいと中国産が横行する時代であったこともあり、ねじの種類があまりないというのが現状です。例えば文房具屋さんを思い浮かべてみてください。日本の文房具屋さんへ行くと、ペン一つをとっても50種類くらいある一方、カナダの文房具屋さんでは選択肢があまりありません。同様にねじの選択肢もあまりないということが2年間営業をしてわかってきました。

ネジ

-日本のねじは、カナダのマーケットにどのように合致するとお考えですか。
日本のねじは、その他の日本のものづくりと同様に、最終的には世により役に立つものを改良を重ねて製造されています。例えば、海に囲まれて湿度が高い日本は、錆びない技術を考え抜く努力を積み重ねています。材質は?メッキは?デザインは?生産工程は?など。

カナダに住んで7年になりますが、外を歩いていると、赤茶色に変色した赤錆のボルト、ナット、スクリューを公園、橋、道路などでよくみかけます。錆はねじが壊れる要因です。こちらで一般に利用されているねじは外部環境にもよりますが2~3年錆びないというものなのですが、日本には30年、50年、100年錆びないと言われる製品までもあります。Corrosion Protectionが高い、いわゆる錆びない材質、めっき、その他の工夫がされて製造されてきたねじの中から、北米のマーケットに合うものを紹介しております。

「錆」への対応は一つの例ですが、他にも、緩まない、作業時間を半分に短縮する、作業中の安全性を高める、木割れを防止するなど研究・開発され長年日本で重宝され利用されている多くの素晴らしい日本ねじがあります。地震、台風などの厳しい外部環境から人類を守るために考え抜かれた産物ですね。

コロナの影響でメンテナンスが通常通りできなかったここ2年、人手や供給不足から錆びて壊れたねじの交換ができず安全性や事業に支障が出てくる中、のんびりしたカナダでも「質」への見直しが始まっていて、日本ねじを紹介するには絶好のタイミングが来ました。何年も交換をする必要がない為、長期的にみると節約になりLife Cycle Costへの注目もやっとねじにも来ていると感じます。

販売先は、世界で利用されているように、北米でも屋外商業設備、施設、高層ビルの屋根、発電所その他多くあります。また、タイムリーにも、オイル・ガス業界に急速に建設ニーズが高まる中、日本には、世界のオイル・ガス業界利用ボルト&ナットの60%のシェアを占めている特殊ねじがあり、積極的に営業を行っています。良いものは、価値を認める人たちが増えていけば、自然と必要としている人たちのもとに広がっていくと信じており、まずそのきっかけを日本ねじで作らせていただいています。

-日本の物づくりの技術は素晴らしいですね。2年間に起業されたとのことですが、マーケットを開拓されるまで、どのような努力をされましたか。
Smart NEJI Ltd立ち上げ当初は「KST Japanから紹介するものは、質に関しては全く問題ないので自信をもって紹介してこい!」と言われましたが、北米のねじ業界の知識もないまま毎日毎日50件、100件と電話営業をする中で、99%相手にされませんでした。KST Japanからねじ商売を学ぶこと、北米のニーズを学ぶことをあきらめずに1年半コツコツと電話をして少しづつ繋げていきました。

ここ外国で、経験のない私が、それも男性の業界で1人でやっていくには限界がある、と気づき、営業活動で繋がった方々等の力を借りた取り組みも行い、だまされたりといった辛い経験も沢山しました。実は昨年(2021年)の10月に自己資金も底をつき、「自分にはこの商売をする能力がないかも…」と思い、12月までに売れなければビジネスを辞めようと心に決めておりました。

そんな矢先、10月の後半にカナダのねじ業界のすごい方に繋がって。天の思し召しですよね。それからは、その方から販売先のアドバイスをいただくようになり、コロナ混乱で供給不足というタイミングにも恵まれ、それまで在庫として倉庫に持っていた二つのコンテナが、11月、12月の2ヵ月で飛ぶように売れました。一箱でも売れたらと思っておりましたが、二つのコンテナ(スタンダードのねじ)を2ヵ月でほぼ売り切ることができ、奇跡ってあるんだなと実感しましたね。

今振り返ると、訳も分からず暗中模索の中で、人の力を借りることの重要性、どういった人と繋がりたいのか、またその人に巡り合えるためには自分はどう成長しなければいけないのか、どのような動きをするべきか一生懸命考えました。最初からはなかなか難しいですが、動いて失敗をし、悔しい思いをする中で、求めていたサポートが最終的に現れたことで、自分が正しい努力をした結果だと信じることにしました。

ビジネスは結果を出さなくてはいけませんので、結果に繋がったということで「続けていい」というサインだと思いました。何よりも、父が築いてきた会社KSTの名前を使っていいという了承を得ることができたのは、とても嬉しかったですね。

-以前為替関係のお仕事をされており、今回全く違った業界での事業を始められましたが、起業のきっかけや、立ち上げ当初の葛藤などについてはいかかでしたか。
そうですね、為替は香港の時代から合わせて20年近く携わっておりました。香港時代、日本の銀行へ勤務していた時は、私がやっていることへの価値を感じながらお仕事をさせて頂いており充実していました。2015年のカナダ移住後も、今までの経験を生かして為替の仕事をしていましたが、マーケットのことが見えていなかったせいか、自分の持っていたものを押し付けていた部分があり、それまでの経験や知識がビジネスとして成立しませんでした。

ビジネスは数字にならなければいけません。そういった意味で納得をしたのと、十分やってきたということ、また50歳とう節目があったので、一旦区切りをつけてみようということで決断いたしました。なんとなく、50歳はまだやり直しできる、60歳だと遅いと感じました。

決断した1か月後に父親から「せっかくカナダにいるのだからねじやってみない?」と、声がかかりました。自分勝手に自由に生きて来ましたが不思議とこういうところで自分が一番尊敬する存在の父と繋がりました。そういえば、父も50歳代で独立をしたなと。宿命ではありませんが、自分の足でたつ経営者という新たなチャレンジの機会を私も50歳で頂いたのだとまずは感謝の思いでした。

-実際にねじ業界に携わって、いかがですか。
今年53歳になりますが、カートン20kgの箱を開けて検品をしたり、お客様にサンプルを届けたり、倉庫と行き来したりと、ねじの世界は、前職のマネーの世界と違って、体力作業がありますね。

ただ、DealingRoomの数字だけを売ったり買ったりする為替ディーラーとしての体験とは違って、一つのねじが、日本、台湾、ベトナム等で一から作られ、製造メーカー、商社、流通、通関、倉庫、運送など多くの人々のサポートを得て、はるばる地球の裏側からここに届けられるドラマを一つ一つの商売に感じます。倉庫や私の手元にある出番を待っているねじ達をMy Babyと呼んで、「今に世界に羽ばたかせてあげるからね。」と言っています(笑)。

日々の取り組みの中で、新たに自分の強みや弱みがどんどん分かってきます。自分を見つめることを忘れず、自分から逃げず、無理であれば賢明な助けの求め方を考えるなど、私は宗教は持っていませんが、やはり日本の禅仏教の教えを拠り所にできることから自分を成長させています。幸い、心身共に健康であること、行動力があり、前向きで、今形にならなくても心の底では常に正しく生きていれば、準備が整えば結果が生まれるという考えがあります。

-お話させて頂いて、エネルギッシュで前向きな気持ちがとても良く伝わります。
ありがとうございます(笑)。でも2年間は本当に苦しかったですね。周りへ迷惑はかけれないので、貯金もはたきました。会社を経営するということの現実を、前に進みながら学んできているため、チームとして動き出していくと、経費ばかりかかって売り上げが入ってこなかった時期は辛かったです。

でも、新たに繋がっていく人たちからの学びや、自分のなかで出来上がってくる自信や決断力にフォーカスをして、恐怖心をできるだけ自分の中にぐっと押し込めて、取り敢えず毎日起きて、新たに小さく繋がったところからやっていくということをしていました。毎日孤独でしたね。

ただ、そんな失敗の経験もあったからこそ、今のチームのメンバーに出会えたのだと思っています。最初の頃に自分ひとりで何か出来ないかということでAmazonのUSとカナダを立ち上げました。ところが、実際にやり始めるとAmazonの世界も深くて、アルゴリズムや商売の仕方をわかっている若い人をサポートにつけないとやっていけないビジネスだと分かりました。

そこからパキスタン人のイーコマースに強い方に繋がって、その方からサポートを受けて仕組みを作りました。他にも営業に強い方やねじ業界マーケティングのプロの方などとの協力体制が出来上がり、弊社はプロ同士の横の繋がりで今のチームが成り立っています。それぞれが才能に溢れる方々で、人間としての価値観も同じくし、よい切磋琢磨をできる組織が出来上がりました。

数字をあげると恥ずかしいのですが、ゼロから立てた昨年の売上目標15万ドルを最後の2ヵ月でほぼ達成することができました。今年は1.5ミリオンという売上目標をたてております。世界情勢が激変する中で、弊社の調達サービス、取扱製品のニーズが高まっていますので、1.5ミリオンという数字は非現実的ではないと思っております。何よりも、同じ目標に向かう才能ある人材との正い繋がりが築ければ、不可能なことはないと思います。

Japan is back

-今後の目標についてお聞かせ下さい。
今年に関しましては、「Japan is BACK」というキャッチコピーを掲げ、日本のねじはうちに任せろ!と、積極的に宣伝していきます。弊社WebサイトがGoogle で「日本のねじ」と検索すると一番上にくるようにURLを「Japanfastners.com」と設定しております。これもデジタル宣伝やEコマースに強いチームのメンバーのアイデアですが、ターゲットにしている北米だけでなく、ドバイやカリビアンからも問い合わせが入ってくることなどからも効果が見えますね。

Webサイト内でも述べていますが、Japan is BACK=クオリティということで、私の中で質を一番大事にしており、それは生き方であったり、物であっても奥深いところにある真実だと思っております。弊社が取り扱っている日本のねじは、KST Japanの長年の経験、メーカーさんとの関係の中で選んでくださっているねじなので、まがい物がありません。

まがい物というと語弊があるかもしれませんが、私から見たら間違った意図で販売されているねじもあり、そういったことは外から見えないのです。時間が経って、何かが起こったときに真実が出ます。私が取り扱っている日本のねじは、材料、生産工程、会社の歴史、またビジネスのやり方に全ての信頼をおくことができます。自信をもってJapan is BACK=Quality is BACKということで、広めて行きます。

-今後が楽しみですね。それではここから、ご本人についてお伺いいたします。ご出身と今までのご経歴についてお聞かせ下さい。
昭和44年生まれ神戸出身です。神戸大の教育学部を卒業後、中国へ一年間留学をし、北京語を学びました。その後、香港で19年間、日系の銀行で為替取引の仕事をしておりました。そこでカナダ人の主人と出会い、娘が中学進学前に2015年にカナダへ移住しました。その後は先程もお話したように2年前にねじの会社を立ち上げ、今に至ります。

-お仕事を進める上で大切にされていることについてお聞かせ下さい。
遊びではありませんが、皆がワクワクしながら仕事ができるようにするということですね。私の会社のオペレーションの中で、それぞれ違った才能を持った人達が、自分が担ったチャレンジを一生懸命、自分の成長を感じながら楽しく取り組んでいるか、その人の世界が広がり深まりワクワクしているかということを感じ取りながら、コミュニケーションに力を入れ、最終的にチームとしての相乗効果を産み出すのがベストなのです。

日本と北米のビジネスのやり方や価値基準の違いなどを認識し、コミュニケーションを密に上手く取りながら、前に進める最善策を見つけ、点と点とを上手く繋いでいけるように心掛けています。

-プライベートについてお聞かせ下さい。アクティブな印象がありますが、ご趣味は何ですか。
自分で会社をやり始めてから、趣味を楽しむ時間が全くなく…寝る時間を確保することと、せめて身体の血流を良くして整えるために、大好きな日本人のヨガの先生のZoomレッスンを受けています。あとは犬の散歩を1回30分を一日3、4回しています。気が付いたら一日何も食べていなかったというくらい毎日忙しくしてます。もともとはテニスやハイキングや山登りが大好きだったのですが、今は全く時間がないですね。

-一日の睡眠時間が4時間ということですが、すごいパワーですね。
経営者になると経営者同士の繋がりが増え、特にローカルの中小企業(売上10mio-50mioレベル)の経営者さん達との繋がりが増えているのですが、皆さん朝が早いのです。朝の5時6時からテキスト入ってます。ですので、私も合わせなければいけないところがあります。そして、北米が終わったと思えば、日本の朝が明けますので、少しでも早くことを動かすために、できるだけ日本が活動している間もメールを注視しておきたい。今は寝る時間をしっかり確保が優先で、趣味は商流ができてから楽しみたいですね。

時間が足りないと感じる毎日ですが、今取り組んでいること全て楽しいですね。孤独な戦いが多い中でも、自分の頭で考えて、自分の足で感じられる達成感が日々あることが有難い。生かしていただける限りこの先30年50年とできることがあると信じています。自分も良いものを引き出せる会社や仕事にしていきたいですし、チーム、グループ、関係する全ての皆様のいいところが引き出せて、良いものが世の中に広げてこの地球に貢献できればと願っています。

-商工会でもお手伝いできることがありましたら、是非仰ってください。最後に商工会会員の皆様へメッセージをお願いいたします。
皆様の経験から、是非沢山学ばせて下さい。業界も会社経営者としても始まったばかりの赤ちゃんみたいな気持ちでおりますので、皆様と関わらせていただくことで、色々なものを学ばせて頂ければと思っております。日本車を北米の多くの人たちが信頼おける車として選択し続けているように、私もねじで信頼を得て皆様に続くよう頑張りたいと思います。

-本日はお忙しい中、ありがとうございました。これでインタビューを終わります。