今回は、特別インタビューといたしましてトロント補習校授業校の川村武弘校長先生よりお話を伺いしました。令和4年4月に49周年を迎えるトロント補習授業校。昨年度、一昨年度はパンデミックの影響により、オンラインでの運営が中心となり、そのさなかに川村校長先生はご着任されました。初めてのオンライン授業で様々な苦労があった中、2022年3月、実に3年ぶりに対面での卒業式を実施することができました。
教員になられたきっかけや、趣味のお話など川村校長先生の優しいお人柄を感じられるインタビューとなっております。
(このインタビューは2022年3月末に実施しました)
-トロント補習授業校の紹介をお願いいたします。
トロント補習授業校は、1973年、トロント日本商工会が設立し、本年49周年を迎える学校です。本校は設立の理念は「海外に長期滞在した後、本邦に帰国する海外勤務者等の子女に対し、帰国してから適応できる学力の維持と増進を図るために、日本語による教育をすることを主たる目的とする」です。
この設立の思いを大切に、現地の公立校の校舎を借用し、土曜日の午前9時から午後3時まで年間40日で1年分の学習を行っています。
令和3年度におきましても、新型コロナウィルス感染症の影響を受け、2学期半ばまではオンライン学習が継続されましたが、2学期後半からは対面授業を中心にして授業を行いました。
私は、令和4年度の学校経営の基本理念として、本校の教育目標を「夢に向かって、自ら考え行動し、心豊かで新たな社会を切り拓くグローバル人材の育成を図る」~すべては子どもたちの笑顔のために。夢の実現のために~と改訂し、本校で学びたいと思う子どもたちのために全力を尽くす所存でおります。
令和4年度も、本校教職員が一致団結して教育活動に当たる「ワンチーム・トロント」を標榜し、ご家庭と結びつきながら、子どもたちの健やかな成長を実現していく学校として、日本とカナダ・世界の懸け橋となって活躍する「グローバル人材」を育成する教育活動を展開してまいります。
-パンデミック中にご着任され、またオンライン運営をずっとされ、様々なご苦労があったかと思います。実際に経験されていかがでしたか。
私は一昨年度(令和2年度)の4月派遣予定でしたが、実際にトロントに着任できたのはロックダウン真っただ中の11月末になってからのことでした。それまでの日本待機期間においてはオンラインで日本からトロントの会議に参加したり、メールでやり取りしたりしながら校長としての職務を遂行しました。
8月、オンラインライブ授業に向けての原案を提案するに当たっても、トロント補習授業校の園児児童生徒や職員に会ったこともない中でしたが、日本で策定しオンライン職員会議に出席して原案の説明を行いました。
実際にオンライン授業が始まり、補習校では初めてのオンライン授業ですから職員はもちろん大変緊張してのスタート、私も緊張して授業の巡視を行いました。トロントとは13時間の時差がありますので、日本では夜中の授業巡視となり、その後に会議がある日は終了が日本の明け方になることもありました。11月にトロントに着任できると決まった時には、やっと現地に行けると本当にうれしかったことを今でも覚えています。
私は定年退職まで勤めた後に「シニア派遣」として派遣されました。それまでの教員生活の中で、自分がオンライン授業等を行ったことがなかったため、私も不安がいっぱいの出だしでした。
実際にオンライン課題提供や授業を始めるには、オンライン環境を整えることや、授業の準備に膨大な時間がかかることがわかりました。困ったことは、ロックダウンのため教科書や副読本を配布できないことでした。結局それらをPDFにして載せることになりましたが、そのために日本の教科書会社・出版会社との交渉が必要でした。ありがたかったのはほとんどの教科書会社・教材会社が前向きに検討してくださったことです。皮肉にも私が日本待機中だったことは、この点では良かったのかもしれません。
本校の職員は、その準備や授業の実施に多くの時間を費やしながらも、少しずつ授業を軌道に乗せ、少しずつ良い授業にしていきました。新学習指導要領では「対話的な学習」を進めるように、との内容がありますが、オンラインにおいても双方向性のある授業を目指し、Gクラスルームの機能を活用してグループ学習も取り入れました。オンライン授業としては次第に質の高い授業ができてきたと思っています。
-先日、卒業式を行ったそうですね。こちらはインパーソンで開催されたのですか。
そうですね、今年度は実に3年ぶりに対面での卒業式を実施することができました。昨年度は全てがオンラインでしたので、卒業式もオンライン開催となり、一昨年度は前任の校長先生の時でしたが、いきなりパンデミックとなってしまいましたので実施することができませんでした。
今年度はCOVID-19の様々な規制がある中での実施となりましたが、やはり対面で式ができたということに非常に意味合いがあり、子供達の思い出に残る良い式が出来たのではと思っております。
-今後の目標についてお聞かせ下さい。
私は来年度、トロント補習授業校での3年目を迎えます。2年間の多くをオンライン授業の向上に向けて取り組んできました。来年度はこの2年間の成果と課題を活かし、ポストコロナの時代の新たな補習授業校作りに取り組みたいと思います。トロントにおけるCovid-19の状況も見極めながら、子どもたちにできる限りのことをしていきたいと思っています。
-ここから川村校長先生ご自身についてお伺いいたします。ご出身とご経歴についてお聞かせ下さい。
三重県伊勢市の出身です。三重県内の公立中学校で勤務し、30歳の時に海外日本人学校に応募しました。エジプト・カイロ日本人学校に派遣され、小学部5年生、6年生の担任をしました。校舎の屋上からギザの三大ピラミッドが見える学校で3年間の教員生活を送りました。私の派遣1年目に「湾岸戦争」が始まり、バグダッドに多国籍軍の爆撃が開始された日、緊急連絡で「臨時休校」になったことを今でもよく覚えています。学校が再開されてからは、スクールバスから日本人学校の文字を消し、バスに爆弾が仕掛けられていないか確認してバス添乗をしていたことを思い出します。
6年生を担任した時の一番の思い出は修学旅行です。それまでギリシャに行っていた修学旅行を国内情勢の悪化で飛行機の利用を避け、エジプト国内に切り替えました。3泊4日でシナイ半島やスエズ運河など、カイロから車で行けるところを回り、エジプトについて深く知ることができました。カイロで担任をした子どもたちとはその後も交流が続き、成人の年には東京でみんなと再会を果たしました。
帰国後、再度、三重県内の小・中学校で勤務し、54歳の時に、再度日本人学校に応募し、スペイン・マドリッド日本人学校の校長として派遣されました。マドリッド日本人学校は全校児童生徒数が20人ほどの小さな学校で、複式学級の学校でした。私は校長として派遣されましたが、週の授業数は14~15時間担当し、教職員と協力して学校運営を進めました。
小さな学校でしたが、自前の校舎を持っていました。5月になると、たくさんの鯉のぼりがマドリードの青空を泳ぎました。この写真が、当時のマドリッド日本人学校の全教職員、全児童生徒の写真です。小さいながらもアットホームな雰囲気の学校でした。さくらのように見えるのが「アルメンドロ」の花で、アーモンドの木のことです。正面の庭にはオリーブの木もありました。
三重県に戻ってから、児童数20名の僻地校と1000名を超す大規模校の2校で校長を勤め、退職を機に、再度、海外での教育に力を注ぎたいと考え、3回目の応募をし、トロント補習授業校に派遣されました。
-教員になりたいと思われたきっかけについてお聞かせ下さい。
教員を志したきっかけは、私が中学校時代から続けていた陸上競技にあります。教育大学に進んでも競技を続け、教員になって子どもたちに学習も部活動も教えたいと思ったのが始まりです。当時、中学校はいわゆる荒れの真っただ中の状況でした。授業の準備にしっかり取り組み、そして部活動を通して生徒と触れ合う時間も大切でした。得意の陸上競技部から、サッカー部、柔道部まで学校のその時の状況に応じで様々な部活動を担当しました。
-教員人生を通して大切にされていることはどのようなことでしょうか。
教員として自分も学び続けることと、その年その時の出会いを大切にして、その1年間に全力を注ぐことです。教員は子どもたちに学ぶ姿勢を示していかなければならないと思っています。そのためには「勉強しなさい」ではなく「一緒に学んでいこう」でなくてはいけないと思っています。これまで小学校教員としても中学校教員としても毎年毎年が新しい学びの連続でした。定年を越えた今でさえ、新しいオンライン環境を学んでいるところです。少々、大変になってきていますが…。
もう一つは、「出会いを大切にすること」です。「一期一会」という言葉もありますが、私を育ててくれたものは人との出会いであると思っています。多くの方から感化を受け、今の私があります。子どもたちとの出会いも大切にしてきました。不思議な縁で担任になった子どもたちに私の全力を尽くし、その子のもっている力を少しでも引き出し、高めようと毎年頑張ってきました。その結果、多くの先生方・保護者・子どもたちとのつながりが今でもあり、これが私の人生の宝物となっています。
– プライベートについてもお伺いしたいと思いますが、川村校長先生のご趣味は何ですか。
私の趣味は、ギター演奏とフルマラソン出場です。ギターを始めたきっかけは、私が小・中学生時代に流行っていたビートルズやカーペンターズです。その曲を弾きたいと思って、ギターに親しむようになりました。
陸上競技では主に400M、800Mに取り組んでいましたが、いつかフルマラソンに挑戦しようと思っていて、50歳を前に挑戦しました。それ以来、定年を迎えるまでは、年に1回、フルマラソンに出場してきました。今は、練習もままなりませんので中断していますが、また練習が再開できたら、フルは無理でもハーフマラソンに出場したいと思っています。
-トロントにはどのような印象をお持ちですか。
トロントは外国人に温かい街という印象です。ドアは次の人のために開けて持っていてくれていることがよくあり、私も、次の人のためにそうするようになりました。
トロントに来てまだ間もないころ、スーパーや路上で困った様子をしている私を見て声をかけてくれる人もいました。また、分からないことがあって人に尋ねても親切に教えてくれることが多く、大変住みやすいと感じています。
-最後になりますが、商工会会員へメッセージをお願いいたします。
トロント補習授業校は、トロント日本商工会が設立母体です。毎年、商工会からのご支援のお陰で、順調な学校運営を進めることができています。
ここ数年、パンデミックの影響で園児児童生徒数が減少傾向にありますが、昨年度の中盤からは対面授業が再開され、学び舎に子どもたちが戻ってきています。令和4年度も、「すべては子どもたちの笑顔のために。夢の実現のために」をスローガンに全職員が協力し「ワンチーム・トロント」として学校運営を進めて参りますので、今後ともトロント補習授業校へのご支援のほど、よろしくお願いいたします。