トロント街角めぐり ネイバーフッドホッピング 再訪  

フリーランスライター 三藤あゆみ

トロント街角巡り連載を始めてはや5年。「ネイバーフッド」と呼ばれるエスニックタウンやローカルコミュニティの商店街の風景は、その間にも絶えず変化してきています。第二次世界大戦後に移住してきた世代の多くが商店街でのビジネスをリタイヤし、アジアや中東、カリブ諸国からの移民が増え、トロント市の人口は260万人を超えました。モザイク都市トロントの街角がそれぞれどんな風に変わってきているのか…再訪、再発見をレポートします。


 

第31回 Baldwin Village
アジアンパワー全開のボルドウィンビレッジ2016年
フリーランスライター 三藤あゆみ

ボールドウィンビレッジ(Baldwin Village)は、オンタリオ美術館(AGO)から北へ数ブロック行ったところにあるBaldwin St沿いのこじんまりとしたネイバーフッドです。趣のある昔のレンガ造りの家々を改装した個性ある飲食店やショップが軒を連ねます。
以前は、ケンジントンマーケットからの続きのレストラン街として紹介されることが多かったのですが、最近は「ボルドウィンビレッジ」という独立した商店街に成長してきました。

90年代のBaldwin Streetを振り返ると、まだヒッピー世代の雰囲気を残しているエリアでした。

ドアを開けてもベルを鳴らしてもなかなか人が出てこない中国人経営の豆腐屋さん、安くて美味しいチャイニーズフードが学生に大人気だけれどメニューもテーブルもなんとなくベタベタのレストラン、学生のたまり場カフェ、今ではあまり見ることもない煙草専門店などが、Zagatに掲載されるような高級グルメレストランと混在していました。

ボルドウィンビレッジの商店街のオーナーたちが年を取ってきてビジネスを手放すなど、世代交代が進んだのは2000年代に入ってからです。通りの風景もずいぶん変わりました。トロントニアンにとっては新しい「今のアジア」を代表する店が次々とオープン。日本、韓国、ベトナム、タイ、インド、台湾系の店が、老舗のイタリアン、フレンチ、メキシカンレストランに加わりました。


少し前のトロントではなかなか出会えなかった美味しい日本のラーメン、定食屋さん、冷たい鉄板の上でアイスクリームを延ばしたり練ったり丸めて作るタイスタイルのアイス屋さん、東南アジアのフルーツをふんだんに使ったソフトクリームとジェラートの店。どれもトロントニアンが「並んでも食べたい店」となっています。

また、おもしろい雑貨をたくさん揃えたギフトショップやクラフト専門店、レトロなレコード屋さん等々が2ブロック以内に集中しています。

ちょっと寂しいなと思うのは、Baldwin Stのランドマークだった、John’s Italian Caféが2014年に閉業してしまい、建物が改装されていること。地元住民や近所で働く人たちの多くがそう感じたのではないかと思います。

そのJohn’s Italian Caféが入っていたBaldwin St 29番地の緑色の建物は中も外も昔の造りを生かし、店のウィンドウに、かつてこの界隈がユダヤ人街だった20世紀前半にイディッシュ語で書かれたサインがそのまま残されているのがノスタルジックな雰囲気でした。


(「毎日フレッシュ、バター、クリーム、チーズ、卵」と書いてあるそうです。右は今の様子)

John’s Italian Caféの後は、新しいオーナーが台湾スタイルのバブルティーの店をオープンするので改装が始まりましたが、ユダヤ系移民の歴史の一片を残したいというユダヤ人コミュニティが働きかけ、窓ガラスはそのままきれいに外して保存することになったそうです。

ボルドウィンビレッジの住民も、歴史を反映しながら変化してきました。ケンジントンマーケットから続く大きなユダヤ人街の一部だったところが後にチャイナタウンに吸収され、ベトナム戦争の頃にはドラフトドジャーズと呼ばれる徴兵を嫌ったアメリカ人の若者がたくさん流れ込んできました。学生ゲットーと呼ばれる時期を経て、80年代にはカフェやレストランが次々とオープンしました。

そしていま、アジアンパワー全開の新しいグルメスポットになりつつあります。日本人シェフやオーナーによる店も、ボルドウィンビレッジの大きな魅力となっているのは、嬉しいかぎりです。

ボルドウィンビレッジの地図
https://www.google.ca/maps/place/Baldwin+Village,+Toronto,+ON/@43.6560353,-79.3932581,19z/data=!4m5!3m4!1s0x882b34c6690ac181:0x3ed70829555e416d!8m2!3d43.6560078!4d-79.3935402


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