トロント街角めぐり ネイバーフッドホッピング  

フリーランスライター 三藤あゆみ

トロント市内に点在するエスニックタウンやローカル色の濃い商店街を“ネイバーフッド”と呼びます。世界各国の料理が味わえ、輸入雑貨や食材があふれるエスニックタウンのほかに、アートコミュニティ、ファッションディストリクト、学生街、ゲイタウン、ビーチーズ地区など、商店街のビジネスオーナーたちのこだわりや住人のライフスタイルが反映されるネイバーフッドが30ヵ所近くあります。マルチカルチャーな都市ならでの醍醐味、週末を使ってそんな街角巡り、ネイバーフッドホッピングに出かけてみませんか。


第22回 キャベッジタウン Cabbagetown
ビクトリア調家屋が続く絵になる風景、散歩が楽しい


トロントダウンタウンの東に広がるキャベッジタウンは、きれいに修復されたビクトリア調やエドワード調のクラシックな家の素敵な街並みで知られています。ローカル自慢のセンスよく手入れされた前庭や大きな街路樹、リバーデールファーム、歴史ある庭園墓地など絵になる風景があふれています。

Parliament St.× Carlton Ave. を中心に広がるキャベッジタウン商店街は、一見地味な印象ですが、中に入ってみると洒落たデザインの個人経営のカフェやレストランがいくつもあります。1980年代からこの界隈には、ライター、芸術家、洗練されたライフスタイルを好む人々が多く移り住み、そんな地元住民たちが好む個性ある店が増えてきました。

観光地でもなく、ダウンタウン中心から少しはずれたエリアなので、とりりあむ読者の方の多くは、地名は知っていても実際ここまで足を伸ばす機会はあまりなかったのではと思います。でも最近は日本の居酒屋さんがキャベッジタウンに加わったので、食事目当てに初めてこの辺りを訪れたという人もいるのではないでしょうか。

ところで、なぜここは“キャベッジ”タウンなどという変わった名前がついたのでしょう。
その由来は1840年代にアイルランドを襲った「じゃがいも飢饉」まで遡ります。ケネディ大統領の先祖も、このじゃがいも飢饉から逃れ新大陸に渡ってきたそうですが、同時期にカナダを選んだ(カナダに“送られた”ケースも)アイルランド人たちの多くが、トロントのこの地区に落ち着きました。

カトリック系のアイルランド人は子だくさんで大家族が多く、数千人の大きなコミュニティができましたが、貧しい移民家庭では家族全員を食べさせていくのはたいへんな苦労でした。じゃがいもや小麦粉は彼らにとってぜいたく品なので、家の前庭でキャベツを育て主食にしました。

どの家庭も毎日キャベツを煮るので一帯はキャベツのにおいがすごかったそうです。外を歩いていて空気がキャベツくさくなってきたらアイルランド人地区に来たのが分かったといいます。それでキャベッジタウンと呼ばれるようになったわけです。

キャベッジタウンは、現在の素敵な街並みからは想像できないような本当に貧しいエリアでした。特にGerrard St. の南側は、世界恐慌の頃から1950年代にリージェントパーク公共住宅地が整うまでは、北米で最悪のアングロサクソン系スラム街だったそうです。

現在キャベッジタウンの家は200万カナダドルを超えるものも珍しくありません。北米一の英系スラム街が、北米一の歴史的家屋が集中する高級住宅街に変身するとは当時誰が想像できたでしょうか。Gerrard St.の南側も今、再々開発が進行中で、新しいコンドミニアムや大きなスーパーマーケットなどが次々建設されています。

キャベッジタウン散策に出かけたら、リバーデールファームや、すぐ横にあるToronto Necropolis墓地をぜひ覗いてみてください。Parliament St. 方面からだと、Winchester Ave. を歩いて行けばこの辺りに出ます。

リバーデールファームは、ビクトリア時代の農家を再現したもので、今も本物のファーマーが家畜を育て、毎日ヤギや牛のミルクを絞ったり、鶏が産んだ卵をファーム内のハウスで販売しています。
春や秋には生まれて間もない子牛や子ヤギを見ることもできます。昔のファームハウスをレストアした建物の中には飲み物やお菓子を売っているので、お茶や休憩もできます。また、5月から11月までは火曜日の夕方にファーマーズマーケットが開かれています。

Toronto Necropolis墓地も緑がいっぱいで美しく手入れされ、住民たちの散歩コースとなっています。トロントで最も古い墓地のひとつで、William Lyon MackenzieやGeorge Brownなど歴史に名を残す人物やJack Layton氏など著名人が眠っています。

キャベッジタウン住民はコミュニティへの愛着が深く、ビクトリア調の家の玄関にキャベツのデザインのキャベッジタウン旗が掲げられているのを目にします。5月と9月に行われるフェスティバルも、商店街のビジネスオーナーだけではなく住民の多くが参加して、素敵な家の中を見学させてくれるキャベッジタウンオープンハウスツアーや、ガーデンツアーなども開催されます。

緑の多い頃からハロウィンまでの季節は、特にキャベッジタウンの散歩が楽しい時期です。ぜひカメラ片手に一度出かけてみてください。

キャベッジタウンのイベントや商店街情報
http://oldcabbagetown.com/


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