トロント街角めぐり ネイバーフッドホッピング  

フリーランスライター 三藤あゆみ

トロント市内に点在するエスニックタウンやローカル色の濃い商店街を“ネイバーフッド”と呼びます。世界各国の料理が味わえ、輸入雑貨や食材があふれるエスニックタウンのほかに、アートコミュニティ、ファッションディストリクト、学生街、ゲイタウン、ビーチーズ地区など、商店街のビジネスオーナーたちのこだわりや住人のライフスタイルが反映されるネイバーフッドが30ヵ所近くあります。マルチカルチャーな都市ならでの醍醐味、週末を使ってそんな街角巡り、ネイバーフッドホッピングに出かけてみませんか。


第18回 ポーランド人街で「昭和の洋食屋さん」の味に出会う


トロントのRoncesvalles Ave沿いに広がる(King St WestとDundas St West の間)、リトルポーランドはどちらかといえば地味なネイバーフッドですが、寒い冬だからこそよけい美味しく感じるボリュームある食べものや、ボルシチスープなどの体が温まる東欧の家庭料理の宝庫です。

19世紀以来、住民のほとんどが英系だったこの界隈は、20世紀後半に入ってからポーランド人やウクライナ人など東欧からの移民が増えました。かつて英系プロテスタントの移住者は庭のよく手入れされたりっぱな家が並ぶ街並みを作りましたが、食生活は質素で禁酒が徹底していたため、リカーストアや美味しいレストランなども80年代に入るまでほとんどなく、食に関してはいまひとつ面白味のないエリアでした。ところがポーランド人コミュニティが形成されると、家族経営のベイカリーや、東欧の美味しいソーセージやハム、チーズ、お惣菜を売るデリーがオープンし、レストランやカフェも増えてRoncesvalles Villageと呼ばれるようになりました。

ポーランド料理というとソーセージやピロギが有名ですが、ポーリッシュレストランのメニューには他に色々な家庭料理があって、これが意外にも、懐かしの「昭和時代の日本の洋食屋さん」が出していた食べものに似ているのです。たとえば、ポークカツ(シュニッツェル)にマッシュルームのソテー、ポテトサラダ、コールスローなどを一皿に盛りつけたワンプレートディナー。ロールキャベツに、にんじんのグラッセと茹でたじゃがいもを添えたものや、シチューとピラフ、豚ひき肉を揚げたメンチカツのようなものもあります。

カツレツはパン粉が日本のものと違うのでまったく同じというわけにはいきませんが、他国の料理と比べるとやはり日本の洋食屋さんを思い出す味です。もちろん東欧やロシア名物のビーツを使った真っ赤なスープ、ボルシチなどもあります(ポーランド語では「バルシチ」と発音)。どきついピンクのような見た目にもかかわらず美味しいスープですが、もっと日本人の口に合いそうなのは、白ボルシチにポーリッシュソーセージとゆで卵を入れた「ジューレック」というスープです。また、じゃがいもの粉で作るポテトパンケーキにシチューをかけたものも代表的な家庭料理だそうです。どのレストランに行こうか迷ったら、Cafe Polonez(195 Roncesvalles Ave. http://cafepolonez.ca)か、Chopin Restaurant
(165 Roncesvalles Ave. http://chopinrestaurant.com)あたりをお試しください。

リトルポーランドへ行くときは、ベイカリーやデリーで売っているキルバーサ(ソーセージ)やチーズ、きゅうりのピクルスなどの買い物をしてから、レストランに寄るのが私のお決まりコースとなっています。デリーのポテトサラダや、ゆで卵を刻んだものが入ったポーリッシュ風コールスローなども美味しいので、量り売りで買うこともあります。ポーランドのサラダは、火が通った野菜を使ったあえ物が多いので食べやすいと思います。友人に教えてもらった食品店Benna's Fine Food (135 Roncesvalles)の「瓶詰めでなくバケツに入って売っているきゅうりのピクルス」は、酸っぱみが無く日本の浅漬けに似た味なのでスライスすればおつまみにもなります。チーズやコールドカッツ(ハム類)も多種あります。

ポーランドの「ポンチキ」と呼ばれる丸い揚げドーナッツは、中にジャムやクリームが入ったこれまた昭和のドーナッツを思わせる一品。英語だと「プンチキ」とか「パンチキー」と発音されます。ポーランド語では「pączki」と書いてありました。北米や日本のドーナツ屋さんにある丸型で中にジャムなどが入ったもっとふわっとしたタイプのものも、このポンチキが元になっているそうですが、食感は日本のあんドーナツのほうが近いです。ベイカリーで売っているポンチキはフルーツジャムやカスタードが入った様々な種類がありますが、ポーランドのオリジナルはバラのジャムやプルーンのジャム入りだそうです。

北米のポーリッシュコミュニティでは「ポンチキデー」と呼ばれる、ポンチキをお腹いっぱい食べる日があります。トロントよりアメリカの都市のほうが盛大なようですが、復活祭の46日前のアッシュウェンズデー(灰の水曜日)の前日の火曜日が、ポンチキの日だそうです。もとは、復活祭前に行う46日間のカトリック教徒の断食に関連した習慣で、期間中は肉だけでなく、ラード、砂糖、鶏卵、フルーツなども食べてはいけないことになっていたので、断食の直前に家にあるこれらの食材を全部使って食べてしまうということで始まったとか。現在はドーナツ屋やベイカリーのポンチキデー商戦と化しているようですが・・・。リトルポーランドの店ではMarbel's Bakery (323 Roncesvalles Ave. http://www.mabelsbakery.ca) が有名です。

さて、最後に少しだけですが食べもの意外の話にも触れておきます。“Roncesvalles”という通りの名の正しい発音のしかたですが、地元トロントの人々の間で長年意見が分かれたままとなっています。カタカナで表してみると「ロンサスベル」派と「ロンサスヴェイルズ」派がいてお互いに譲らず、そのいっぽう誰を信じればよいのか分からないし言い争うのがめんどうだという人は、略して「ロンシー」と呼ぶことにしているようです。

“Roncesvalles”は、19世紀にこの辺りの土地を所有していた英国人准将ウォルター ・オハラ(Walter O’Hara)氏が、ナポレオン戦争中に遠征し戦ったスペインのロンセスバリェス村にちなんでつけたものだそうです。スペイン語を英語圏の人が発音するなら混乱があって当然かなとも思います。この界隈の通り名は、他にもオハラ氏が自分の家族の名や思い出深い地名をつけたところがいくつもあり、O'Hara Ave、Marion St、Geoffrey St 、Constance St、Sorauren Aveなど今もそのまま残されています。

エスニックネイバーフッドの紹介というよりは「食べある記」みたいになってしまいましたが・・・「食は世界共通のコミュニケーションツール」ということで、シュニッツエルやポンチキから始めて、リトルポーランドやポーランド系カナディアンを知っていくのもいいと思いませんか?



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