トロント街角めぐり ネイバーフッドホッピング  

フリーランスライター 三藤あゆみ

トロント市内に点在するエスニックタウンやローカル色の濃い商店街を“ネイバーフッド”と呼びます。世界各国の料理が味わえ、輸入雑貨や食材があふれるエスニックタウンのほかに、アートコミュニティ、ファッションディストリクト、学生街、ゲイタウン、ビーチーズ地区など、商店街のビジネスオーナーたちのこだわりや住人のライフスタイルが反映されるネイバーフッドが30ヵ所近くあります。マルチカルチャーな都市ならでの醍醐味、週末を使ってそんな街角巡り、ネイバーフッドホッピングに出かけてみませんか。


第17回 リトルジャマイカ(Eglinton Avenue West)
ジャークチキンとレゲエミュージックのネイバーフッドへ


トロント補習授業校の近くにあるOakwood Ave.を北へ上がってEglinton Avenue
Westに出ると、黒人や東南アジア系が多く集まる、1970年代からあまり変わらないようなちょっと寂れた感じの商店街が広がります。飲食店なども外観がぱっとしないので、この辺りまで車で出かけていって散策しようという人はあまりいないと思います。
この一帯は「リトルジャマイカ」と呼ばれるエスニックネイバーフッドです。トロントのジェーン×フィンチ周辺の低所得者層が多いカリビアンコミュニティは、カナダで一番多くギャンググループが集中する治安の悪いエリアのため、リトルジャマイカも同じようなイメージを持つ人がいるようですが、このあたりは深夜に一人でウロウロしない限りは身の危険を感じるようなことはめったにありません。

リトルジャマイカの店やレストランに一歩入ってみると、美味しいカリビアン料理を発見したり、レゲエの神様ボブ・マーリーが世界に広めたラスタファライズムなどの興味深いカルチャーが存在するのが分かります。Oakwood Ave.から東のEglinton沿いには、ジャマイカ名物の炭火焼ジャークチキンや、トロントで一番美味しいと評判のジャマイカンパティの店、レゲエミュージックファンにはたまらない本場のレゲエショップなどがあります。


平日の夜7時ごろになると、家族経営であろう小さなジャマイカ料理店の主人たちが店の前の歩道に炭火グリルをだしてジャークチキンを焼きはじめます。香辛料のオールスパイスが入った甘辛いジャークソースのいいにおいが風にのって通りに広がり、食欲をそそられます。赤・黄・緑のストライプのラスタ帽子を被った男性が、レゲエを聴きながらチキンレッグを次々と炭火であぶってトレイに積み上げていきます。通りがかりに、写真を撮ってもいいですかと聞くとニコニコしながら「ヤーマン(オーケイ)」と答えてくれました。いかにもリトルジャマイカらしい光景です。

老舗ジャークチキンの店は、Hot Pot Restaurant(1545 Eglinton Ave W)、Spence’s Bakery(1539 Eglinton Ave W) 、Rap’s(1541 Eglinton Ave W)などがあります。いずれも店の内装は味気なくランチぐらいなら店内で食べてもいいかなといった雰囲気ですが、料理じたいはなかなか美味しいものを出しています。スパイスの効いた甘辛で濃いめの味のジャマイカ料理は、ビールにとてもよく合います。家飲みの肴用に炭火焼ジャークチキンやポークを買って、ジャマイカのラガービールRed Stripeを用意するといつも好評です。ジャークチキンは、たいていチキンレッグを使っており、単品またはディナーコンボにして注文できます。典型的な組み合わせは、ジャークチキン、豆ご飯、コールスローまたはプランテーンのフライなど。

ビールのつまみといえば、「アキー&ソルトフィッシュ」というジャマイカの定番家庭料理もお勧めです。アキーと呼ばれる果実のよく熟れたものをトマトやピーマン、オールスパイス、ガーリックなどと一緒に炒めて、細かく切った鱈の塩漬けを混ぜたものです。料理したアキーの実はふわふわのスクランブルエッグのような食感です。

そしてジャマイカンパティの有名店、Randy’s Take-Out(1569 Eglinton Avenue West)もここにあります。ジャマイカ人にもその他カナダ人にも人気で、雑誌や新聞によく取上げられていますが、本当にパティだけが専門の小さなテイクアウトショップです。


ジャマイカンパティは、煮込んだ牛挽肉や野菜を黄色いペストリーで包んだパイのようなものです。Randy’sのパティは、スーパーに売っている冷凍ものや、デリーコーナーで買えるものとはずいぶん違い、パイ皮は薄くてサクッとした焼き上がりでさっぱりしており、中身のビーフはとろりとしてコクと風味があります。パイ皮が鮮やかな黄色をしているのはターメリック(ウコン)と卵の黄身を使っているため。

ベジタブルパティもとても美味しく、こちらはジャマイカのホウレンソウのような野菜カラルー(Kallaloo)、グリーンピース、ニンジン、タマネギ、コーンなどを煮込んだものが入っています。少し前に行った時はパティ一個が$1.30でした。1ダースまとめて箱で買うと割引してくれます。この手作りパティの冷凍も販売しており、遠くから来る人は、まとめて買っていくことが多いそうです。


リトルジャマイカ界隈で飲食店以外に目立つ店といえば、昔ながらのバーバーショップ、近年急増したネイルサロン、そしてレゲエショップなどです。Trea-Jah-Isle Records (1514 Eglinton West)には、レゲエのCDやDVD、ラスタファッションや小物、ジャマイカの文化や歴史についての本などが揃っています。小さな店ですがボブ・マーリーのファンなら大喜びまちがいなしです。レゲエやラスタグッズのほかにアメリカのブラックコミュニティで流行中のキッチュな商品も時々仕入れており、近年では「オバマ シューズ」と呼ばれるオバマ大統領の顔がプリントされた日本の上履きのような靴やキャンバスシューズが売れているようでした。

この通りを歩いていると、大きなジャマイカの旗が飾られた昔ながらの床屋が何軒もあるのが目につきます。バーバーショップはたいてい個人経営で最近は後を継ぎたがる次世代がほとんどいないので、トロントから消えつつある業種のひとつですが、こういったエスニックコミュニティでは今も床屋の主人がお客さんの人生相談役になったり、だまって愚痴を聞いてあげたり、本音で語り合う男たちの癒しの場を提供しているのだそうです。床屋がサイコセラピストのような役目をしながらコミュニティを陰ながらサポートしているというのは、都会では失われつつあるなんとも温かみのあるはなしです。

 
 このあたりでよく見かける雑貨屋の外に並べてある樽。カリビアンが故郷に荷物を送るのに使うそうです。


今トロントには17万人を超えるジャマイカ人が住んでいます。その多くは過去30年ぐらいの間にカナダに移住してきた人々。中国系ジャマイカ人も少なくないのでジャマイカ人皆が黒人というわけではありません。ほとんどが英語かフランス語いずれかを話すので、「移民」といったイメージが少ないですが、トロントに住むジャマイカ人の多くはジャマイカまたはカナダ国外生まれだそうです。

リトルジャマイカ一帯は、70年代から80年代にかけてはジャマイカ人やイタリア南部出身の人々を中心として賑わっていたようですが、ジャマイカ人移住者の多くが、トロントのジェーン×フィンチ地区、郊外ではエトビコ、ミシサガ、スカーボロなどで暮らすようになったため、Eglinton Westのジャマイカ人街はここ数年でずいぶんがらんとした雰囲気になってしまいました。近年は、トリニダード・アンド・トバゴなど他のカリブ諸国からの移住者やフィリピン系が流れ込んできています。

この先この界隈がマルチカルチャートロントのカリビアンタウンや、隣接するリトルマニラ(?)として再発展するのか、あるいはジェントリフィケーションが起きて古きよきリトルジャマイカは消えてしまうのかは今のところわかりません。ラスタファライが焼いてくれる美味しいジャークチキンが食べられるうちに、ぜひ一度足を延ばしてみて下さい。



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