トロント街角めぐり ネイバーフッドホッピング  

フリーランスライター 三藤あゆみ

トロント市内に点在するエスニックタウンやローカル色の濃い商店街を“ネイバーフッド”と呼びます。世界各国の料理が味わえ、輸入雑貨や食材があふれるエスニックタウンのほかに、アートコミュニティ、ファッションディストリクト、学生街、ゲイタウン、ビーチーズ地区など、商店街のビジネスオーナーたちのこだわりや住人のライフスタイルが反映されるネイバーフッドが30ヵ所近くあります。マルチカルチャーな都市ならでの醍醐味、週末を使ってそんな街角巡り、ネイバーフッドホッピングに出かけてみませんか。


第16回 オールドタウン トロントの旧市街が新しい


「モントリオールやケベックシティには旧市街のヨーロッパみたいな街並みがあるけれど、トロントは旧市街がないの?」と、日本から来たばかりの方にときどき聞かれます。

あります。アッパーカナダの首都時代の面影が残るのは、トロントダウンタウンの金融街から少し東へいったあたり。セントローレンスマーケットを中心に北と東に広がるネイバーフッドが「オールドタウン」と呼ばれる旧市街です。1793年にシムコ総督の宣言により誕生したタウン・オブ・ヨーク(Town of York)の中心であり、トロントの前身です。

ただトロントは、1849年と1904年に広範囲を焼き尽くす大火事が起きたためタウン・オブ・ヨーク時代の建築物の多くを失っています。被害を最小にとどめることのできた建物や当時すぐ修復した庁舎のみが残り、旧市街は新しいビルの間に点在する街並みとなっています。「オールドタウン」の再開発に市が力を入れはじめたのもわりと最近なので、トロント住民でもこのネイバーフッドのおもしろさを知らない人が意外とたくさんいるようです。

オールドタウン散策はAdelaid St.あたりからスタートし、セントローレンスマーケットに向かって南下していくコースがお勧めです。まず、ちょっとしたタイムスリップを体験できるのが、260 Adelaid St.にあるトロント最初の郵便局です。1833年に開設された、アパートのような建物の小さな郵便局ですが、現在もカナダポストの窓口があり実際に使われています。


郵便局の中は19世紀の様子が再現されています。羽ペンとインクがアンティークテーブルの上に置いてあり、それを使ってポストカードを書き郵送することができます。赤いワックス封印も用意されています。ギフトショップで昔のトロントの写真や絵が印刷されたヴィンテージポストカードが買えるので、ちょっと洒落た旅先からの便りを送ってみるのもいいかもしれません。

昔のトロントは道路事情がかなり悪く、雨が続くと街中でも道が沼のようになり、ひどい時は人が腰まで泥にはまってレスキューが出動…というような状態だったと記録が残っています。そのため郵便物を取りに来たら、その場で返信を書いたり様々な手続きを済ませてしまえる設備が整っていたのだそうです。

この郵便局には小さなお土産やプレゼントにもなりそうな、アンティーク切手がデザインされたバッジや歴史関連の本なども売っています。週末の営業時間は、土曜 10am-4pm、日曜 12pm-4pmです。


Adelaid St.をダウンタウン方面に歩いて行くと、ローズガーデンがきれいなセントジェームスパークが見えてきます。その向こう側にそびえるのが英国国教会のセントジェームス聖堂です。英国から皇室メンバーが来加するとここを訪問します。2010年にはエリザベス女王とエディンバラ公を迎え、人々が通りを埋め尽くしました。聖堂の中には技巧を凝らした美しいステンドグラスや立派なパイプオルガンがあるので、ぜひ覗いてみてください。


King St. とJarvis St.の交差点に建つセントローレンスホールとホール前の歩道にあるガス灯も19世紀の歴史的遺産です。ここは政治家や著名人の集う華やかな社交の場として賑わい、カナダの初代首相ジョン・A・マクドナルド氏や政治家兼ジャーナリストのジョージ・ブラウン氏なども常連でした。1849年の大火で一度は焼失したものの、翌年にはネオルネッサンス様式のデザインで再建されました。インテリアは当時のまま現在もイベント会場として貸し出しています。トロントニアン憧れの結婚式場でもあり、ウェディングは一年以上先でないと予約がとれないそうです。部屋が使用されていない時には正面の青いドアから入って中を見学できます。

オールドタウン散策の大きな楽しみの一つは、やはりセントローレンスマーケットの新鮮な食品やテイクアウトの店に寄ることです。ランチタイムの人気店は地上階の一番奥にあるシーフードの店と、地下のパニーニサンドイッチの店ですが、マーケットのパンやチーズ、前菜や生ハムなどを買って、テイクアウトコーナーの席で開けて食べるのもなかなか美味しく楽しいものです。所狭しと並ぶ食品を見たとたん「花より団子」となってしまいますが、マーケットのビルの歴史も忘れずチェックしておきましょう。

セントローレンスマーケットの2階は、1845年トロント初の正式な市庁舎が開設されたところです。当時、1階は警察署、地下階は刑務所だったそうです。現在2階はThe Market Galleryというアートギャラリーになっています。ちょっと殺風景なディスプレイですが、トロント市の歴史がテーマの作品や昔の地図などが展示されています。絵画やオールドタウンの昔の風景が描かれた作品のプリントを購入することもできます。2階へ上がるにはFront St.から入ってすぐのところにあるエレベーターを利用します。(ギャラリー開館時間:平日10 am - 4 pm、土曜9 am - 4 p.m.)

Front St.、Wellington St.そしてChurch St.が交わるところに建つ三角形のフラティロンビルディングもトロントのランドマークです。正式な名称はGooderham Buildingといい、1892年に完成したものだそうです。地下には英国スタイルのパブが入っており深夜まで営業しています。上階は平日の9am- 5pmのみ見学できます。中は特に何もなく三角形をしたフロアの部屋の窓から外が見渡せるぐらいです。CNタワーをバックに入れて外から写真を撮るほうが趣があるかもしれません。

1970年代以降トロントダウンタウンに超高層ビルやコンドミニアムが次々と建ち、都会の摩天楼が形成される一方、旧市街は寂れたまま長いこと放置され治安も良くないイメージがありました。しかし、近年急速に再開発が進み、散策や食事に出かけるのも楽しいネイバーフッドに変身しました。新しくオープンした家具・インテリア雑貨・アートの店はショーウィンドを眺めて歩くだけでも楽しく、ジョージブラウンカレッジの校舎もまた改築されて周辺が明るい雰囲気になりました。新しいもの古いもの、歴史とモダン、若者と老人、一見相反するような要素がまじりあったオールドタウンはこれからどんどんおもしろくなっていきそうです。




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