トロント街角めぐり ネイバーフッドホッピング  

フリーランスライター 三藤あゆみ

トロント市内に点在するエスニックタウンやローカル色の濃い商店街を“ネイバーフッド”と呼びます。世界各国の料理が味わえ、輸入雑貨や食材があふれるエスニックタウンのほかに、アートコミュニティ、ファッションディストリクト、学生街、ゲイタウン、ビーチーズ地区など、商店街のビジネスオーナーたちのこだわりや住人のライフスタイルが反映されるネイバーフッドが30ヵ所近くあります。マルチカルチャーな都市ならでの醍醐味、週末を使ってそんな街角巡り、ネイバーフッドホッピングに出かけてみませんか。


第15回 お墓を散策、ピクニック
マウントプレザント墓地(Mount Pleasant Cemetery)


最近日本では「墓マイラー」が増えているそうです。墓マイラーは歴史に名を残した人物のお墓巡りをする人のことですが、人物の生涯や歴史背景について知識が必要ですし旅行や写真撮影というアクティビティもついてくるので、なかなか奥の深い趣味だと思います。

トロントには、墓マイラーが大喜びしそうな場所があります。著名人のお墓を訪ねるだけでなく、墓地の中でピクニックや昼寝をしたり、敷地内を散歩したりして一日を過ごすことができる「アウトドアを楽しむ墓地」です。日本ではあまり考えられませんが、お墓へピクニックに行く習慣のある国は意外と多いようです。

トロント市内のマウントプレザント墓地(Mount Pleasant Cemetery)は、そんな異文化体験が気軽にできるところです。地下鉄Davisville駅からYonge St.を少し南に下った辺りから、東はBayview Ave.まで広がる大きな霊園。美しい木立や、植物園、噴水や池、芸術価値の高い彫刻、銅像、ステンドグラス、そして自転車を止めてロックしておくラックも素敵なデザインで、見どころがいっぱいです。


今の時期から夏にかけては朝7時から夜8時までゲートが開いており、天気の良い日は自転車で遊びに来ている近所の子供たちやウォーキングやジョギングをする人々とよくすれ違います。青々とした芝に白い墓石が点在し、花の咲く木々が植えられたエリアは明るい公園のようで、お墓という感じがしません。これなら芝生の上でピクニックや昼寝をしたくなります。

墓地はMount Pleasant Rd.を境に東西に分かれていますが、敷地内を縦横に走る小道を隅々まで歩くと十数キロの距離になります。大きな霊廟、著名人のお墓がいくつもあり、花壇や噴水のある美しいデザインのGarden of Remembranceやサンルームは、心落ち着き癒される空間です。


ここに永眠する著名人には、カナダ第十代首相マッケンジー・キング(50ドル札に印刷されています)、ピアニストのグレン・グールド、イートンズ創業者ティモシー・イートン、Massey Hallで知られる実業家のハート・マッシー、最近ではトロントメープルリーフスのオーナーだったスティーブ・スタヴロ等がいます。墓碑や霊廟にそれぞれの個性や家風がよく表現されていて興味深く、一見の価値ありです。

ところで、北米やイギリスの人々がお墓を公園のように利用しはじめたのは、近代に入ってからだそうです。昔は、都市で暮らす庶民の誰もが楽しめるような、例えばトロントのハイパークのような公園は存在しませんでした。パークと言えば裕福な人々が所有する広い土地に自然風景を生かして作った個人のイギリス式庭園のことを指したそうです。それが19世紀半ばから20世紀にかけて、街中に住む一般市民も自然の中で安らげる憩いの場を作るために、お墓を郊外にもっていき広い敷地に芝を植えたり自然の風景をとりいれた公園墓地を作るムーブメントが起きました。マウントプレザント墓地もちょうどその真っ只中1874年にできています。

現在トロント市内各地にある緑がいっぱいのシティパークは、もっと後になって、郊外の公園墓地のデザインを真似て作ったものだそうです。緑地公園がたくさんあるのになぜわざわざお墓へ・・・と思っていたところが、郊外のお墓が現在のパークに発展していったという歴史があったのでした。

しかし、シティパークが整備され充実してきた今、トロントではお墓でくつろいだりアウトドアを楽しむ習慣は徐々に消えてゆくのではないかと思います。過去二十年ぐらいの間にも、以前は散歩など自由に敷地内に出入りできたのにお墓参りの人以外は入れなくなった墓地が増えました。マウントプレザント墓地は、数年前にカナダ国定史跡となったので一般の人が入れなくなることはなさそうですが、やはり規則はだんだんと厳しくなりアクティビティも制限されてきています。墓地内でのピクニックや昼寝も、そのうち限られたエリアや施設以外では禁止になるかもしれません。お墓で自然を満喫しながらくつろぐという(私たちにとっては)ちょっとおもしろい習慣が歴史の一ページになってしまう前に、皆さんも一度体験してみてはいかがでしょうか。

墓マイラーになりたい方は、下記リンク先にマウントプレザント墓地の地図と情報が掲載されています。日曜は休園です。

マウントプレザント墓地の地図と情報

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