トロント街角めぐり ネイバーフッドホッピング  

フリーランスライター 三藤あゆみ

トロント市内に点在するエスニックタウンやローカル色の濃い商店街を“ネイバーフッド”と呼びます。世界各国の料理が味わえ、輸入雑貨や食材があふれるエスニックタウンのほかに、アートコミュニティ、ファッションディストリクト、学生街、ゲイタウン、ビーチーズ地区など、商店街のビジネスオーナーたちのこだわりや住人のライフスタイルが反映されるネイバーフッドが30ヵ所近くあります。マルチカルチャーな都市ならでの醍醐味、週末を使ってそんな街角巡り、ネイバーフッドホッピングに出かけてみませんか。


第10回 トロントで一番古い中華街は雑貨天国
スパダイナチャイナタウン


士巴丹拿道、登打士西街、休倫街、書院街。
文字化けではありません。トロントのスパダイナチャイナタウン一帯のストリートサインに表示される道の名前です。どの通りのことでしょう?(答えはこのページの一番下にあります)

トロント郊外に大きな中国系モールや洗練されたレストラン街が次々とできて以来、エスニックタウンの大きな魅力である「食」を求めてダウンタウンの中華街に行くことがめっきり少なくなりました。そんなこともあって、このコーナーでもスパダイナのチャイナタウン紹介を後回しにしていました。ところが、先日久しぶりにスパダイナ通りを歩く機会があり、なんとなくおもしろさを再発見をしたような気分になりました。観光気分でのんびり歩いてみると、車で通り過ぎてしまう時とはまた違った風景が見えてきます。やはりグレータートロントにあるチャイナタウンで最も歴史が古く、香港の下町商店街のような混沌としたエキゾチックなこの通りは、それなりの面白さがあるネイバーフッドなのだと思いました。


輸入雑貨とキッチンウェアの店に入ってみると「ここに無いキッチン用品は無い!」のではないかと思うほどありとあらゆるものが並んでいます。外からではあまり分かりませんが、チャイナタウンの輸入雑貨屋は奥に長い間取りになっている店内が多く、狭い間隔で並べた棚に、よくこれだけ仕入れたなと思うぐらい多くのものが積み上げてあります。天井から吊り下げてある商品もあれば、レジ周りの床にも店の外にも・・・。

アメ横マーケットや成田空港のギフトショップに売っているような小物、食器、調理器具、竹・籐製品、インテリア雑貨、風水グッズなどが詰め込まれていて、掘り出し物もたくさんありそうです。なかには、トロント市内にあるもっとハイエンドなギフトショップやキッチンウェア店に置いてあるのと同じ品物もあって、三分の一の値段がついていたりします。例えばTap Phong Trading Company (360 Spadina Ave)、B & J Trading Company(378 Spadina Ave)、Plaiter Place(384 Spadina Ave)などがこのタイプの店です。

また、移民の歴史やそれぞれの国や文化に想いを馳せながら街を散策するのもトロントならではの醍醐味。スパダイナチャイナタウンは、1990年代あたりから、中国系だけでなくベトナムなど東南アジア系の店が増えました。すぐお隣のケンジントンマーケットもそうですが、その時代の移民事情と共に少しづつコミュニティが変化してゆきます。チャイナタウンへは1950年代以降、カリブの島出身の中国人、香港・広東系、続いて東南アジアからの華僑がやってきました。アメリカの中国系コミュニティから多くの移民がトロントへ流れ込んだ時期もあります。80年代から90年代には、ソマリア人、エチオピア人、ベトナム人、イラン人などの移住者が増加しました。

トロントに最初にチャイナタウンができたのは1870年代。スパダイナ沿いではなく、現在の市庁舎前広場ネイザンフィリップスクエアあたりを中心とし、ベイ・ストリート沿いに広がっていたそうです。1910年ごろになると、中国人経営の商店は数百軒にまで増えました。しかし、その頃は、中国人に対して厳しく差別的な政策がとられており、中国系移住者に市から許可がおりるビジネスは、ランドリー、八百屋、中華料理店などに限られていました。昔はランドリーといっても手洗いの洗濯屋ですが、中国人経営の値段の安いランドリービジネスはよく繁盛し、当時ダウンタウンには中国人経営のものが百件以上あったそうです。

ベイ・ストリートのチャイナタウンがなくなったのは1960年代です。市庁舎周辺で地価が上がったことと、「チャイナタウンはゲットー化するので潰すべきだ」という中国系移民バッシングムードが高まったことで、半ば強制的に移動が進められ、そこには市庁舎前広場が建設されました。ユダヤ系が中心だったスパダイナ×ダンダスに中国系の商店が増え始めたのはその頃からです。チャイナタウン廃止の動きは70年代にも盛んになりますが、いっぽうで、差別に対抗する運動や貴重な文化を抱えるコミュニティを守ろうという組織もできて、スパダイナのチャイナタウンは、様々な試練をのり超えて再び発展していきました。

スパダイナ×ダンダスは、お隣のアメリカや外国からの観光客に人気があります。様々な言語によるチャイナタウン半日ツアーがあり、英語が少ししか通じず、何が売っているのかもよくわからない漢方薬屋や雑貨屋、お茶専門店などをガイド付きでまわります。

また、ハリウッド映画などに出てきた通りや建物があることも観光客集めに貢献しているようです。ずいぶん前に北米で大ヒットし、日本でも放映されたアメリカのテレビシリーズ『燃えよカンフー(Kung Fu)』を覚えていますか?『キル・ビル』のビル役で若い層にも有名になったアクション俳優の故デビッド・キャラダインが主人公を演じていました。その続編『新・燃えよカンフー(Kung Fu: The Legend Continues)』に出てくるチャイナタウンのシーンは、全てここで撮影が行われたので、記念撮影に来るファンが今も後を絶ちません。

ところで、中華街において特にかんじんの「食」なのですが、スパダイナチャイナタウンの現在のレストラン事情は郊外のモールにちょっと押され気味です。

そうはいっても、美味しい老舗は生き残っており、さっぱりした味のお粥や日本人の口にも合う酢豚やチャーハンなどを出すSwatow汕頭小食家(309 Spadina Ave)や、一日中やっている飲茶と広東料理のシーフードが評判の Rol San(323 Spadina Ave)などはお勧めの店です。また、ダンダス沿いには、お馴染みのAsian Legend ダウンタウン店(418 Dundas Street West) があります。テイクアウトのベトナム風バゲットサンドイッチbanh miもチャイナタウン名物です。スパダイナ沿いにいくつもありますが、Nguyen Huong Food源香麺飽店(322 Spadina Ave)が、カナディアンの間では一番好評です。


中国語で書かれた通りの名前の答えは:
士巴丹拿道⇒Spadina Avenue

登打士西街⇒Dundas Street West

休倫街⇒Huron Street

書院街⇒College Street





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