トロント街角めぐり ネイバーフッドホッピング  

フリーランスライター 三藤あゆみ

トロント市内に点在するエスニックタウンやローカル色の濃い商店街を“ネイバーフッド”と呼びます。世界各国の料理が味わえ、輸入雑貨や食材があふれるエスニックタウンのほかに、アートコミュニティ、ファッションディストリクト、学生街、ゲイタウン、ビーチーズ地区など、商店街のビジネスオーナーたちのこだわりや住人のライフスタイルが反映されるネイバーフッドが30ヵ所近くあります。マルチカルチャーな都市ならでの醍醐味、週末を使ってそんな街角巡り、ネイバーフッドホッピングに出かけてみませんか。

第7回 ボードウォークと青い水と空
The Beaches



クィーン・ストリートの東端を中心に広がるビーチズと呼ばれるネイバーフッドは、ダウンタウンの高層ビル街から30分ほどでずいぶん違った風景に出会えるところです。オンタリオ湖の砂浜沿いに約3km続くボードウォークは、よく晴れた夏の日には最高の散歩コースで、美しいブルーの水と空に遠くに浮かぶヨットの白い帆や飛び交うカモメがよく映え、陸側には緑の木々や公園が続いています。水着でビーチバレーをする若者たち、犬の散歩をする地元住民、ボードウォークに平行して作られたサイクリングトレールをローラーブレードで颯爽と駆け抜けていく人や、ベンチに座ってアイスクリームを食べながらそれを眺めている人たち。なんとなくいつもグレーな印象の冬のトロントとはまるで別世界です。

ビーチズは、昔は英系のアッパーミドルクラスが中心のコミュニティでしたが、現在はさまざまなバックグラウンドや職業の人が住んでいます。子ども時代ビーチズに住んでいたという有名人もけっこういて、例えばピアニストのグレン・グールド、俳優のキーファー・サザーランド、キアヌ・リーブス、映画監督のノーマン・ジュイソンなどもそのうちです。住宅街にはビクトリア調、エドワード調の古い造りの建物がところどころ姿をとどめ、素敵なデザインの玄関や前庭が目を楽しませてくれます。クィーン・ストリート沿いには、カフェ、バー、レストラン等が並び、小さなファッションブティックやチョコレート専門店、輸入雑貨屋やアンティークの店などがあり、土曜の午後などはいつも多くの人で賑わっています。

かつてこのあたり一帯は、湖沿いにコテージや小さなホテルが立つ避暑地でした。それ以外はほとんど森だったそうですが、ストリートカーがビーチズまで延びると、1900年代には現在のキュービーチからバルミービーチの辺りにスカーボロビーチパークというウォーターフロントの遊園地や、カヌークラブなども作られました。そして、1950年代にレイクショアの道路がウッドバイン・アヴェニューまで延びると、住宅地として開発されはじめたそうです。


ビーチズが一年で一番盛り上がるのが、毎年7月に開催されるビーチズ インターナショナル ジャズフェスティバルの期間です。なかでも木、金、土の夜に行われるストリートフェストはトロント市内のネイバーフッドイベントで一番の人気だとか(たしかにすごい人出です)。夜7時から11時の間、クィーンストリートが歩行者天国となり、サイドウォークや公園のステージで、トロントを拠点に活動する50組以上のアーティストたちがライブ演奏を披露します。音楽は、スウィング、ビッグバンド、ブルース、デキシー、ポストバップ、アフロキューバ、フュージョン、R&B、ソウル、スムースジャズなどが中心。また、昼間はボードウォーク沿いのライフガードハウスの近くで、ラテンやカリブ音楽のパフォーマンスや観客も参加してのダンスが行われます。2012年のジャズフェスティバルストリートフェストは、7月26日(木)〜28日(土)。出演アーティストの情報はこちらです。http://www.beachesjazz.com/streetfest.html

ところで、ビーチズの住人たちは自分たちの美しいネイバーフッドに強い愛着がある人が多いようで、コミュニティの秩序や、地名や看板などにもかなりこだわりを持っているようです。たとえば、散歩中の犬の糞をきちんと処理しないと厳しい視線が注がれ、注意されます。ジャズフェスティバルには経済効果があっても楽しくても、屋外イベントは夜11時までにお開きとなります。それに日曜日はみな静かに過ごしたいので、ストリートフェストは木〜土曜の夜のみとなっています。

また、古くからの住人や商店街の人々の間では、このネイバーフッドの呼び名は"The Beach"か、"The Beaches"なのかで長年論争が続いているそうです。"The Beaches"、つまり複数形支持派の言い分は、ボードウォーク沿いにウッドバインビーチ (Woodbine beach)、キュービーチ(Kew beach)、バルミービーチ(Balmy beach)、スカーボロビーチ(Scarborough beach)と四つのビーチがあるからだそうです。その時々の多数決によって、時々表示が変っているのを目にします。今に至っても統一されていないようですが、結局、コミュニティ住民以外のトロントニアンには「ビーチズ」として良く知られているので、観光ガイドやイベント名などにはたいていそちらが採用されているようです。

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