トロント街角めぐり ネイバーフッドホッピング  

フリーランスライター 三藤あゆみ

トロント市内に点在するエスニックタウンやローカル色の濃い商店街を“ネイバーフッド”と呼びます。世界各国の料理が味わえ、輸入雑貨や食材があふれるエスニックタウンのほかに、アートコミュニティ、ファッションディストリクト、学生街、ゲイタウン、ビーチーズ地区など、商店街のビジネスオーナーたちのこだわりや住人のライフスタイルが反映されるネイバーフッドが30ヵ所近くあります。マルチカルチャーな都市ならでの醍醐味、週末を使ってそんな街角巡り、ネイバーフッドホッピングに出かけてみませんか。

第6回 これ抜きではトロントの多様文化主義は語れない
ザ・ビレッジ Church- Wellesley Village

カナダは、LGBT(あるいはLGBTQ)人権とカルチャーの先進国です。100カ国以上から代表が集まったLGBT国際会議と人権宣言(モントリオール宣言)が行われた地でもあります。

LGBT”というのに、あまり馴染みのない方のためにまず簡単な解説を。北米やオーストラリアなどで特によく使われる言葉で、L=女性の同性愛者(Lesbian)、G=男性の同性愛者(Gay)、B=両性愛者(Bisexuality)、T=性転換者(Transgender)などの性的マイノリティを表します。時には「Q」が加わりますが、これはセクシュアリティのアイデンティティについて迷っていたり未確定の人つまりQuestioningのことです。とはいっても、LGBTをどのように定義するかは、学問的にも社会的にも様々な議論があり、はっきりしていません。ただ、近年は「これは趣味や嗜好を表すものではない」ということに多くが同意しています。マイノリティといっても、人口からいうとトロントではそれほど少数ではありません。住民の約10%、50万人ぐらいだろうと言われています。

通称ゲイ・ビレッジまたはザ・ビレッジで知られる、ダウンタウンのChurch- Wellesley ビレッジは、世界でも有名なトロントのLGBTコミュニティ発祥の地です。そして、ここもまた、個性豊かなネイバーフッドのひとつとして、トロント市が商店街やコミュニティの活性化に力を入れるBusiness Improvement Area (BIA)に指定されています。チャーチ・ストリート沿いを中心に北はウェルズリー・ストリート、南はアレキサンダー・ストリートと、その周辺がザ・ビレッジに含まれています。

近年、若い世代のLGBTカルチャーの中心は、クィーン・ストリート・ウェストの西寄りの方に移りましたが、それでも、Church- Wellesley ビレッジは、やはりLGBTカルチャーのホームで、毎年初夏に開催される大イベント、「プライドパレード」や「ダイクマーチ」の拠点となっています。プライドパレードは、歩行者天国のヤング・ストリートやチャーチ・ストリートをを見物客が埋め尽くすほどの盛り上がりを見せます。多くのトロントニアンに加え、外国からの参加者、観光客、歴代トロント市長(ロブ・フォード市長は昨年参加しませんでしたが)、政治家、トロント市教育委員会、トロント警察なども参加します。

 

Church- Wellesleyビレッジには、バーやクラブなどが多く夜のエンターテインメント街となっているほか、小さいながらアーティスティックで変った雑貨や衣類を揃える洒落た店、レストラン、カフェ、などが軒を連ねます。このところゲイビレッジのレストランや店はひんぱんにテナントが変わるようなので、ここでは詳しい店の紹介はしませんが、チャーチ・ストリート沿いのギフトショップ(例えばOut On The Street)や、LGBT関係の出版物や本、一般芸術書が充実した本屋(Glad Day Bookshop598A Yonge Street)などは、ビレッジならではの個性ある有名店です。もちろん観光客や、LGBTでないお客さんもたくさん来るので気後れ(?)することもありません(「18歳未満禁止」系の商品もありますが)。市立の519 Church StreetコミュニティセンターはLGBTカルチャーをサポートする充実した施設。また、カナディアン・レズビアン&ゲイ・アーカイブスのように、カナダのLGBTコミュニティの歴史や重要人物がわかる興味深い展示もあります。

ところで、チャーチ・ストリートとアレキサンダー・ストリートの角には、「アレキサンダーウッズ氏の像」が建っており、市による記念碑があるのをご存知でしょうか。ウッズ氏は、19世紀の開拓時代ここに土地を持っていたトロントの歴史に名を残すスコットランド人です。数年前大ヒットしたアメリカのテレビシリーズ『Queer as Folk  は、ここで撮影されましたが、そのドラマに出てくるウッズバーも、このウッズ氏から来ています。

ウッズ氏は、もともと商人で英国などから輸入した品を売る店を開いていましたが、アッパーカナダの有力者とも親しく、誠実で頭も切れる人物だったようで、後にはヨーク(トロント)の判事を勤めたり、アッパーカナダ軍の将校も勤めています。しかし、“1810年のスキャンダル”というので、ウッズ氏は「男色家」のレッテルを貼られ歴史に名を残してしまったそうです。そのスキャンダルというのは、ウッズ氏が判事をつとめていた時に起きました。レイプ事件の裁判が開かれ、被害者の女性が「犯人を思い切りひっかいたので、プライベートな部分に傷があるはず」と証言したので、数人いた男性容疑者をウッズ判事が自ら取り調べたわけです。ところが、「ウッズ判事が若い男性容疑者たちの下着を脱がせ、猥褻な行為をした」という噂が立ち、彼自身が起訴されそうになり、また、そのために商売のほうもまったくダメになってしまったのです。

あまりの騒ぎになってしまったため日常生活もままならないウッズ氏は、故郷のスコットランドに逃げます。1810年スキャンダル以来、トロントの人々は、ヤング・ストリートから現在のカールトン・ストリート一帯のウッズ氏所有の土地を「モーリーウッズブッシュ(Molly Wood's Bush)」と呼ぶようになります。当時、ホモセクシャルの男性のことを侮蔑やからかいをこめ「モーリー」と呼んだことからこんな名称がついたのです。ウッズ氏が本当にゲイだったのか男性に興味があったのか、また、スキャンダルの真相は、実のところ誰も知らないようです。しかし、スキャンダルの数年後にはまたカナダに戻り、噂やからかいに悩まされながらも、植民地社会の発展に重要な役割を果たし一生を終えたということで、ゲイコミュニティのパイオニアとして、ビレッジに像が建てられたのだそうです。

1970年代には、まだまだゲイバッシングで暴力沙汰や殺人事件が起きたり、LGBTに対するひどい差別があったトロントも、今や世界的にもLGBTフレンドリーな都市として知られるようになり、多くの同性カップルが結婚式を挙げに来るようになりました。LGBTの人権を護り、カルチャーを育む“先進国”に滞在しているこの機会、ダウンタウンのヤングストリート辺りに出かけることがあったら一度はチャーチ・ストリート方面まで足を延ばしてみてはどうでしょうか。

2012年のプライドパレードは、7月1日(日)の2時から開催が予定されています。パレードは、ブロアとチャーチ・ストリートの交差点からスタートします。

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