トロント街角めぐり ネイバーフッドホッピング  

フリーランスライター 三藤あゆみ

トロント市内に点在するエスニックタウンやローカル色の濃い商店街を“ネイバーフッド”と呼びます。世界各国の料理が味わえ、輸入雑貨や食材があふれるエスニックタウンのほかに、アートコミュニティ、ファッションディストリクト、学生街、ゲイタウン、ビーチーズ地区など、商店街のビジネスオーナーたちのこだわりや住人のライフスタイルが反映されるネイバーフッドが30ヵ所近くあります。マルチカルチャーな都市ならでの醍醐味、週末を使ってそんな街角巡り、ネイバーフッドホッピングに出かけてみませんか。

第2回 インディアンバザール  Gerrard Street East  Indian Bazaar

インディアンバザールは、Gerrard Street East沿い数ブロックの間にインド-カナディアン系、パキスタンやスリランカ系など南アジアのレストランや店が集まる、小さなネイバーフッドです。トロントニアンたちがインディアンバザールへ出かける一番の理由は、インド料理バフェの食べ放題や南アジア風BBQレストランでのディナー。そして女性に人気なのが、サリードレス用の美しい布地やエキゾチックな雑貨の専門店です。

冬の間は静かで寂れた感じさえすることもある一角ですが、夏が来ると活気あふれるストリートに変身します。歩道に焼きとうもろこしやアイスクリーム、さとうきびジュースなどの屋台が立ち、カラフルなサマードレスやサンダル、調理器具からお香やガネーシャ像までが店の外に並べられます。インドの伝統楽器専門店(Kala Kendar , 1440 Gerrard Street East)の周りでは、誰かがタブラ(北インドの太鼓)や、シタール(弦楽器)を演奏しているのを時々見かけます。

インド系の店やレストランは、Gerrard Street EastCoxwell Ave.の交差点から西へ向かって軒を連ね、Greenwood Ave.に近づくにつれパキスタン系を中心としたイスラム教徒相手に商売する宗教グッズ専門店やハラル食品を扱う店が増えていきます。ほとんどの店がお昼12時頃から開店、平日でも一日のスタートは遅く、週末など南アジア系の人々で賑わうのは夕方4時か5時過ぎになってからです。

インディアンバザールは砂浜とボードウォークのある東端のビーチーズ地区からわりと近いので、湖岸やクィーン・ストリートを散策したりビーチで遊んだりして夕方まで過ごした後、お腹が空いたらバザールへ移動し、インド料理のディナーでお腹を満たして締めくくる、という半日コースがおすすめ。地元の人々や学生の間でポピュラーな夏のトロントの週末の過ごしかたのひとつです。

Gerrard Street Eastのレストランで有名なところを数件あげておきます。

南アジアのマーケット風装飾とBBQ・串焼きが売り物のLahore Biryani House1386 Gerrard Street E.,   TEL 416-466-9286 注:ここはアルコール類を販売していません)。 “インディアンバフェ”日本でいうところのカレー食べ放題では、The Sidartha 1450 Gerrard Street E.,   TEL 416-465-4095)。このThe Sidarthaレストランは、本場のものよりちょっと甘めでマイルドな味付けなので、香辛料がかなり効いたインド料理を食べ慣れている人には物足りないようですが、日本のカレーが好きな人だとかえって美味しく食べられると思います。ベジタリアンのインド料理は、Udupi Palace1460 Gerrard Street E.,   TEL 416-405-8138)店内はちょっと殺風景で、すいている時間帯だとがらんとしたフードコートのようですが、カナディアンにもインド系にも人気で味のほうは上々です。アメリカにもあるチェーン店だそうです。

Bar-Be-Que Hut1455 Gerrard Street E.,   TEL 416-466-0411)はシーフードや肉のバーベキューがおいしい小さなレストラン。店内でも食べられますがテイクアウトしていくお客さんが多いそうです。そして、客家(ハッカ)料理。これは、客家と呼ばれるカルカッタに住む中国人コミュニティ独特のもので、インド料理と中華のフュージョンです。インディアンバザールにも一軒、The  5 Spices1411 Gerrard Street E., TEL 416-901- 5559  http://www.the5spices.ca/)があります。なかなかおいしくて店内もきれい。メニューには四川料理も加わっています。

ミシサガ、ブランプトン、スカボロ、バーン市など近年インド系が急増した郊外の地域には、新しくておいしいインド料理レストランやショッピングセンターができていますが、映画にでも出てきそうな1960年代のインドを思わせる佇まいの、夏の夜のインディアンバザールは、トロントならではの移民文化の魅力でもあります。

インディアンバザールが一番盛り上がるのは、毎年7月に開催されるFestival of South Asia という南アジア祭りの週末です。2011年 は、716(土)、 17日(日)、両日とも昼12:00から夜11:00 まで。 Greenwood Ave. Coxwell Ave.の間が歩行者天国となり、インド料理やスナックの屋台、また、サンダルやブレスレット、バングル、ファブリック、あらゆる種類のお香などを売るたくさんの出店が並びます。天然の染料ヘンナを使って、手や足にエキゾチックな模様を描くヘンナペインティングのコーナーもあります。ステージでは、伝統舞踊や、リミックス系の新しいバングラダンス、Bollywood映画に出てくるような歌や踊りも披露されます。誰でも飛び込みで参加できるステージ上でのミニダンス教室も、とても盛り上がります。

“インドカナディアン”とインディアンバザール

カナダの南アジア系コミュニティは、主にインド、パキスタン、バングラデッシュ、スリランカ系のカナダ人や移住者で成り立っています。Indo-Canadianと呼ばれることが多いのですが、ひとくちに南アジア系といっても、民族でいうと20グループ以上に分けられるそうです。ところで、インド系コミュニティやインド本国では、国外に住むインド人を NRI (non-resident Indian)と呼んでいます。

インド系コミュニティがカナダに形成されたのは、20世紀はじめごろ。最初は移住者のほとんどがパンジャビ出身のシーク教徒の男性でした。英国軍に勤務する兵士や軍をリタイアした人々です。英国軍での任務を終え祖国に戻る途中立ち寄ったカナダのBC州にそのまま残るというパターンが多かったといいます。当時はインド国内が不安定で治安が悪いのに加え、英国軍に従事していた彼らもインドに戻れば土地を抵当に入れた借金があり、貸金業者の法外な取立てが待ち構えているといった身の上の人も少なくありませんでした。多額な年金を手にした退役軍人たちの多くはインドに戻るのを躊躇し、BC州でさらなる成功を求めアジアから渡ってきた労働者たちに加わりました。

現在、インド系の移民は中国系に次ぐ人口となっていますが、移住者が急増したのは1980年代と1990年代、まだ最近のことです。90年代後半から、毎年25000から3万人のインド系がカナダに移住しており、カナダに住む130万人を超える南アジア系の約半分が、トロント一帯(GTA)に集中しています。

移民の波とともに90年代にはリトルインディアと呼ばれていた現在のインディアンバザールに次々とインド系や南アのイスラム系マーケットや専門店、レストランなどが開業しました。その後、ブランプトン、ミシサガ、スカボロ、バーン市などのインド系コミュニティが大きくなり、郊外に南アジアのものが充実したショッピングセンターなどが増えていきます。一方ダウンタウンの、このジェラードストリートイーストでは、パキスタン系を中心としたイスラム系の南アジア人たちもビジネスをするようになりました。そして、「インド人街のリトルインディア」よりも「インディアンバザール」のほうがふさわしいネーミングだということになったようです。80年、90年代に盛り上がっていたインド系の店は今、新しい世代との交代時期に入っているようですが、インディアンバザールもまた、トロント市の商業促進地区に指定されており、グリークタウンのように、エスニックネイバーフッドとして商店街を盛り上げていく計画が進行中です。

戻る    「トロント街角めぐり」記事一覧へ