オンタリオで活躍する日本人に聞く


koyamasan


ドラマの臨場感を音で演出 ハリウッド映画でも活躍
フォーリー・アーティスト 小山 吾郎さん

今 回は「フォーリー・アーティスト」として映画界 で活躍されている小山吾郎さんにお話を伺いました。フォーリーとは映画やテレビドラマなどに音をつけていく効果音製作の一部です。ハリウッド映画からウェ ブ映像と幅広い作品に携わっており、今後の活躍からますます目が離せません。

酒井)〔以下“酒”〕初めまして酒井と申します。本日はよろしくお願いします。

小山さん)〔以下“小”〕初めまして、小山です。よろしくお願いします。

酒)本日はお忙しい中ありがとうございます。急にご連絡させて頂いたので、びっくりされ
たかなと心配していました。今日はお休みですか?

小)いえいえ、大丈夫ですよ。はい、今日は休みです。

酒)お休みは不定期なんですか?

小)そうですね。通常だと土日が休みですが、今は特にCOVID-19でハリウッドの撮影が全部止まってしまったためです。画が出来ていた分に関しては、僕らのほうでは続けて録音していましたが。

レ コーディングスタジオという環境で普段働いておりますので、みんな同じスタジオに来ても仕切った部屋でそれぞれが作業出来るので、仕事を続けることがで きています。でも、かなりのプロダクションが押していて、夏の間撮影がまったくできなかったというテレビシリーズが多くて。例年に比べて作品が少ないので はないかなと予測しています。

酒)そうなんですね。今お仕事について少しお話いただきましたが、詳しくお聞きしたいと思
います。ご職業は「フォーリー・アーティスト」で間違いないですか?

小)はい、そうです。

酒)初めて耳にしました。

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(左)映像に合わせて文字通り一歩ずつ作っていく。(右)フォーリースタジオには色々な種類の床やドア、土や砂利、水の音を演じるためのタンクなどが備え付けられている。

小)これがとても変わった作業で、はっきり言ってヘンテコです(笑)。フォーリー(Foley)というのは映画やテレビドラマの効果音製作の一部なんです。映画の「音」はセリフ、音楽、それから環境音や特殊効果音、そしてフォーリーに分けられます。

フォー リーは登場人物が歩く音、座る音、物をつかむ音、壊す音、衣擦れのような動作音や、キッチンの音、オフィスの音、通りの音などのような生活音を主に 担当します。画面上の動作を私のようなフォーリーアーティストが真似ることで音を演じ、録音していく作業です。日本では「生音(なまおと)」とも呼ばれま す。

酒)なるほど。今、「歩く音」とおしゃっていましたが、足音なんかも作るんですか?

小)足音はかなり時間をかけてやります。登場人物が履いている靴と、歩いている地面に合わせて、マイクの前で足踏みをしながら一歩づつ録音していきます。私が真っ赤なパンプスで歩くこともあるわけですから、見た目はかなり面白いことも多いです(笑)。

ハリウッド映画においては普通、作品全編にわたって足音を入れ直すんですよ。人間だけでなく、馬や犬、時には恐竜やエイリアンの足音もよくやりますよ。

今時の映画ですと映像はとにかくCGがすごくて、コンピューターで作った画が多いですよね。音もしかりで、コンピューターの中にアーカイブされている音をはめ込んだり、合成したりするサウンドエディターという人がいて、あらゆる音をカバーできるんです。

でもそれだけだと自然な感じの音を作りきるのは難しいんですよ。特に足音なんかはやはり誰かが動作を真似て作ったほうが人間らしさのあるものになりますから。このご時世においてかなり地味でアナログな感じの作業ですけど、そこがフォーリーの大事な役割でもあります。

酒)すごいですね。声優さんみたいなイメージですね。

小)声以外の音は、なんでもやるんですけどね。

酒)どんな環境で作業をされているのですか。

小)フォーリースタジオという、フォーリー録音専用のレコーディングスタジオで作業をしています。スタジオの中には色々な床面や小道具がたくさんあって、音のするものは何でもあるという感じです。

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小道具を収める倉庫は、無数の靴、料理器具やオフィス用品、スポーツ用具、おもちゃなどありとあらゆるもので一杯。リサイクルショップやガレージセール、アンティークショップにはよく足を運ぶ。粗大ゴミの日も小道具探し!

例 えば一般的家屋のリビングルームやキッチンっぽ い木やタイルの床、カーペット、学校やオフィスのリノリウム、階段は木のもの、鉄のもの、セメントのものがあります。それから屋外の地面も一通りあるわけ です。アスファルト、石畳、砂利、砂とかですね。水の音を演じる為の大きな水槽もあります。

小 道具はとにかく色々あって、特に靴は何百足とあ ります。衣類、家具、キッチン用品、スポーツ用品、おもちゃ、オフィス用品、タイプライターや電話は違う時代のものが色々あります。鎧や刀なんかもありま すし、ヘルメット、自転車、車のパーツもあります。フォーリースタジオはガレージセールをレコーディングスタジオに詰め込んだような所なんです。

酒)使う物によって作られる音は違ってくると思うのですが、映像を見てこれを使おう!というイメージが沸いてくるのですか?

小)映像を見て「あっこんな音を作りたい!」というのが頭に浮かんで、それから小道具を取りに行くんですけど、その段階では音だけが頭に浮かんで、何を使おうというのがはっきりと分からないんです。

これとこれで出来そうだなっていうのはあるんですけど、もう一つ面白くしたいなといつも思う訳ですよ(笑)。そこで何をするかというと、パッと浮かんだイメージを壊してみたり、違う角度からみたりしてみるんです。そうするとひねくれたアイデアが出てきたりする(笑)。

酒)そういった現場では何人くらいの方が働いていらっしゃるんですか?

小) 通常は3人です。私がマイクの前に立って身体を動かして音を作る人、そして録音をするミキサー、作った音をコンピューター上でトラックに並べていくオ ペレータ、この3人でやっています。最近映画を観るとビジュアルエフェクトの人っておしまいのエンドロールのところにすごい数の人が出てくるでしょ。で も、サウンドのクルーというのは今も昔も結構こじんまりしていて少ないんですよ。

酒)フォーリー・アーティストを目指されたきっかけは何ですか?

小) 日本で高校を卒業してからやっぱりハリウッドを目指したくて、まずは英語と思って留学した先がなぜかカナダだったんです(笑)。カレッジに入学し、映 画製作を専攻しました。卒業後、知人を通じてトロントに来て、仕事探しをしていました。映画学校卒業したばかりですから、もちろん監督になるつもりで意気 揚々ときたわけですよ(笑)。 

その時にサウンドスタジオを見学する機会がありまして、当時は特にサウンドに興味はなかっ
たんですが、そこでフォーリーをやっているところを初めて見たんです。この仕事に一目惚れしまして、その場ですぐ「弟子にして下さい!」と言いました。

同時期に、日本にいる父親が病気で失明してしまって。映画監督を目指していた僕としては非
常にショックだったんですけど、そのタイミングで音に出会ったので「あっ、音で映画を作る
手もある!」という認識が生まれて、フォーリーをやるということを自然に感じました。

酒)巡り合わせだったんでしょうね。先程スタジオのお話をして頂きましたが、どの辺りにあ
りますか?

小) トロントから北へ1時間ほど行ったUxbridgeというところにあります。元々農家だった土地を社長が自宅として購入しました。最初はガレージを改 造してレコーディングしていましたが、その後新しくスタジオを建てました。周りは牧場で自然に囲まれていて、とてもいい所ですよ。

酒)普段の生活音からイメージが沸くなんてこともありますか?

小)そうですね、やっぱり日常の生活の中で聞く音というのが、一番のインスピレーションで
す。常に物凄く聞いているという感じではありませんが、聞き方は変わっているんじゃない
かなとは思います。ちょっとした音が「あっ、あの音面白いな」とか。

この前も、キャンプに行った時にトレールを歩いていたら大きな岩があったんですが、それを見て、この岩は何万年前に割れて山の上から転がってきたのかな?というのを想像して、その時にどんな音がしたんだろうっていうのを想像しました。

スーパーに買い物に行っても、キャベツやレタスを手に取って必ず音を聞くんですよ、こっち
のロメインレタスはどんな音がするのかなって(笑)。

酒)こんな物を使って、こんな音を作るといった意外な組み合わせなんかはありますか。

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食材を使うことも多い。料理や食事のシーンはもちろん、ホラー映画ではグロテスクな音の為にグレープフルーツやセロリ、生肉、パスタなども使う

小)フォーリーの世界ではテキストブック的な方法ですけど、ホラー映画でグロテスクな見どころシーンを作る時によく使うのはセロリ、グレープフルーツ、生肉、スイカなんかですね。それからパスタもよく使います。ホラー映画はすごい楽しいですよ(笑)。

酒)携わるジャンルも様々なんですね。

小) そうですね、ありとあらゆるジャンルをやります。それぞれ楽しさがあって、甲乙つけがたいです。アクション映画は格闘シーンであったり、コメディー映 画では音がギャグになってることが多いですよね。アニメ作品だとまったく違った音のつけ方になってきます。ドキュメンタリー作品もやりますよ。最近はイン ターネットのウェブの作品等にも携わっています。

酒)作品にもよるかと思いますが、どれくらいの時間を費やしますか?

小)予算によりますね。例えば6日間で本編を入れて欲しいという作品もあれば、大きなハリウッド作品になると30日間など様々です。馴染む音をなるべく細かく入れていきたいというのがあるので、30日間頂く作品でもいつも時間が足りません。

酒)そうなると寝ずに作業、なんていうのもしばしばあるんですか?

小)昔はやってましたけど、今はもうやってないです。身体を動かしてる仕事なので疲れる
んですよ。家帰って休んで次の日来るという感じです。平日9時から5時までの仕事というのは、映画関係の仕事では珍しいかもしれないですね。

酒)今までに一番印象的だったお仕事についてお聞かせ下さい。
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「ブレードランナー2049」の収録ではスタジオの外へ出て、廃車置場でアクションシーンの音を録音した。


小) 2017年の『ブレードランナー2049』という作品です。これは1982年に上映されたブレードランナーというカルトクラシックの続編として、35 年ぶりに作られた作品です。オリジナルのブレードランナーが大好きで、その続編の依頼がきた時はもう嬉しくて嬉しくて。作品の内容や監督の意向としても非 常に面白く、印象的で本当に何もかも面白かったです。小)2017年の『ブレードランナー2049』という作品です。これは1982年に上映されたブレー ドランナーというカルトクラシックの続編として、35年ぶりに作られた作品です。オリジナルのブレードランナーが大好きで、その続編の依頼がきた時はもう 嬉しくて嬉しくて。作品の内容や監督の意向としても非常に面白く、印象的で本当に何もかも面白かったです。

映 像的にはもちろん現代の映像 技術を駆使したビジュアルエフェクトで作っているのに、監督さんから音は生の音、フォーリーを沢山使いたいということを直々にリクエストされました。すご い燃えましたね。作品を観て頂くと分かりますが、冒頭の農家のシーンは、音楽もセリフもなく、全てフォーリーだけなんです。自分としても会心の出来でした ね。

酒)小山さんのお話を聞いていて、今後、映画を観る時にはもっと音に注目して鑑賞したいと
思います。

小)そうですね。映画って音半分、映像半分なんですが、映像のほうがインパクトがあります
ので皆さん意識しますよね。でも実は音に注目してみると、特にハリウッド映画はすごい細か
く入っています。1つ1つの作品に音の世界がありますので、是非楽しんで頂けたら嬉しいです。

酒)それでは、今後の夢についてお聞かせ下さい。

小)今では色々な作品が様々な形で出てきていますので、とにかく何でも挑戦したいです。
フォーリーをやっていると毎日何らかの新しいアイデアを出していかなくてはいけないんですけど、そういうチャレンジはこの仕事の醍醐味だと思うんです。

そういった意味で色々な作品にチャレンジしていきたいですね。あとワークショップをやるのも好きです。またみなさんと集まれるようになったら、いろんな場所で、いろんな形で音を届けていきたいと思ってます。

酒)本日はお忙しい中お時間を頂きまして、ありがとうございました。






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