オンタリオで活躍する日本人に聞く


Hiroto-choreographing

Canada’s Ballet Jörgen バレエ団
バレエマスター 齋藤 浩人さん

今 回のオンタリオで活躍する日本人は、バレエダンサーの齋藤浩人さんです。7歳よりバレエを始め、15歳の時にロンドンへ。香港バレエで初めてプロとして活 躍した後、2007年よりCanada’s Ballet Jörgen へ移籍。現在は同バレエ団にてダンサーとして舞台に立つだけではなく、指導やバレエ団のバレエマスターとして活躍されています。

酒井)〔以下“酒”〕本日はお忙しい中お時間頂きまして、ありがとうございます。本日はよろしくお願い致します。

齋藤)〔以下“齋”〕こちらこそよろしくお願いします。

酒)ご職業はバレエダンサーということですが、まずはバレエを始めたきっかけについてお聞かせ下さい。

齋)バレエを始めたのは7歳の時です。父親がバレエダンサーを一時やっていたんですが、彼が所属していた神戸の貞松・浜田バレエ団のバレエ学園に、何の前 触れもなくいきなり連れて行かれたのがきっかけでした。日本でバレエを続けて、中学校を卒業してからイギリスのロンドンへ3年間、バレエ留学しました。 1999年に香港バレエという香港にあるバレエ団へプロのバレエダンサーとして契約を頂いて仕事をするようになりました。

酒)そうなんですね。どれくらい香港バレエに所属されておりましたか。

齋)8年間所属しました。働きはじめて最初の年に、現在のカナダのカンパニーの芸術監督ベント・ヨーガン氏(Bengt Jörgen)と知り合う機会があり、彼の作品を踊ることになりました。彼がカナダから香港へ振り付けと演出のために来られたので、6週間一緒にリハーサ ルをする時間がありました。

バレエの仕事というのは当然身体全てを使いますが、視覚的な部分も多く、直観でわかることが多いです。彼の作品やダンサーの動きに求めることや細かなニュ アンス、音のアクセントのとり方やドラマの表現の仕方が、自分の好み、そして自分の持っているものとすごく合ったんです、直観的に。その時の印象がすごく 残っています。

香港で5~6年くらい経った頃に新天地で働きたいな、と思ったときに「あっ、彼のところに挑戦してみようか。」と、直接連絡をし、オーディションを受けさせて頂きました。それがカナダに移るきっかけです。2007年に移籍し、現在に至ります。

酒)香港とカナダでバレエをされて、違いなどは感じますか。

齋)香港バレエ団は、大きいカンパニーで40から50名位ダンサーが所属しています。ただ小さい地域なので、公演するのは大体決められた劇場で公共の交通機関からも割と近いことが多かったです。

それに比べて、今所属しているカナダズ・バレエ・ヨーガン(Canada’s Ballet Jörgen)というカンパニーは、ツアーを主な活動としているので、カナダ全土を回るんです。年に3ヶ月くらいはツアーのため自宅にいません。カナダへ 西海岸から東海岸まで、全ての州で公演をしました。

ダンサーも香港に比べて少なく、多い時で24名くらい、本当に少ないと12名くらいです。1つの作品なり2つの作品を、地方の劇場で公演します。うちのバ レエ団のミッションとして、バレエ公演や芸術公演があまり行き届いていないアンダーサーブドな地域に対して、一流レベルのクラシックバレエの公演を届ける というものがあり、とても共感しています。ツアーは大きな活動の一部となっています。

その他の違いといえば、お客様の反応ですね。カナダのお客様はすごく暖かいです。バレエダンサーが職業として確立されているので、パフォーマーに対する評 価として、拍手の大きさだったり、スタンディングオベーションがあったり、ユーモアに対しては笑い声が聞こえたり、そういった肌で直に感じるアプリシエイ ションは比べ物にならないですね。移ってきて良かったなと感じます。

酒)振り付けもやってらしゃっるとプロフィールで拝見しましたが、振り付け師として、どのような活動をされていますか。

齋)残念ながら振り付けは最近あまりやっていないです。機会と時間があればとてもやりたいですが、作品を作るのにはそれだけに集中するための時間が必要です。以前は香港でも作品を作りましたし、カナダでも小さい作品ですが、何回か作りました。

酒)振り付けをされる時、どのように作品が生まれるのですか。

齋)作品によって全然違います。最初から決められた音楽があって、「これに振り付けたい」と思う時もありますし、男性のダンサーのグループでの作品が作りたいなと思っているだけで始めてみたりもします。または音も全く決めないで動きから始める場合もあります。

あとは委託される仕事の場合ですと、例えば「ロードオブザリング~指輪物語~」の作品を作った時は話も決まっていましたし、音楽も予め決まっていました。 そういう場合は自分で何かを選ぶ自由はありませんが、決められている分だけやりやすいところはあります。ただそれだけ制限があり自分が求めているものとは 違ったものが出来ることもあります。

酒)まさに芸術ですね。先程、7歳からバレエを始められたとおっしゃっていましたが、初めてお父さまに連れられていった時、抵抗などありましたか。

齋)全然なかったです。子供の頃、自宅でも身体が自然に動いて、音楽がかかると踊っていたみたいです。見学に行ったクラスがたまたまボーイズクラスだった のも良かったと思います。同年代の男子が結構通っていたバレエ学校だったので、「あっ、こんなに男子いるんだ!」って思ったのと、みんながバレエバーを 使ってレッスンをしているのを見学しているにも関わらず、その場で立って動きを真似した記憶があります。

Anastasia
酒)今までで一番印象に残っている作品についてお聞かせ下さい。

齋) 難しい質問です。どれも与えられた機会でどの公演も大事です。ですが沢山ある中で、ふと浮かんだのは、こちらに来て初めて行った「アナスタシア」というロ シアの最後の皇女のストーリをオリジナルのバレエにした作品です。今のバレエ団へ移籍後、初めての年に公演をしたので、とても印象深く残っています。ドラ マ性が高く演技力を必要とされる作品でしたので、とても難しかったです。

あ とは、去年世界初演として公演した「赤毛のアン」のバレエです。このバレエではアンを引き取ることとなるマシュー・カスバート役を踊っています。母親が大 好きな文学作品で子供の頃に読まされました。去年の9月の末にハリファックスで初演したのですが、母も遠路はるばる見に来てくれたので、とても嬉しかった です。

Anne
酒)「アナスタシア」はカナダ全土で公演されましたか。

齋)はい、全部で9週間くらいのツアーでしたね。西海岸のバンクーバーから始まり、東海岸のハリファックスで終わったと思います。

酒)公演が始まるまでに構成や準備期間などあるかと思いますが、通常どれくらいの期間を費しますか。
齋)オリジナルの作品ですと…そうですね。本当にコンセプトといいますか、計画が おそらく5年くらい前から始まります。本格的に振り付けや、場面場面に肉組をつけていくといったようなことを始めるのは、早くて公演の1年くらい前です ね。そこから徐々におこなっていって、完成までに2ヶ月くらいはかかると思います。もちろんその他にも衣装であったり、音楽、舞台装置のデザインといった 数多くの設定を含めると、やはり5年くらいかかりますね。

酒)作品を一つ作るのに5年もかかるんですね。先程2007年にCanada’s Ballet Jörgenへ移籍されたとおっしゃっていましたが、カナダには10年以上おられるんですね。

齋)そうですね。2013年に移民となり、2017年には結婚もしました。もう10年以上経つんですね。

酒)カナダでの生活はどうですか。

齋)私にとっては、こちらの方が「家」という感じです。もうカナダの寒さにも慣れましたし。勿論日本へ行くと、すごくホッとしますが。

酒)日本で公演などはされますか。

齋)以前は夏の休暇中に少しお仕事があって、ゲストで出演というようなことはあり ました。3年前からバレエダンサーだけではなく、バレエマスターというマネージメント側の仕事を始め、とても忙しくなり、今は日本へ帰れても2週間程しか 滞在できないので、日本での公演はなかなか難しいですね。

酒)バレエマスターについて詳しくお聞かせ下さい。

齋)主な仕事としては指導です。毎日のクラスを教え、リハーサルの指導、また作品の芸術監督や振付家とともに、カンパニーのバレエダンサーのレベルを高い水準に保ち、お客様へ常に最高のものを見せるために、日々厳しいことも教えています。

どうしても同じ作品を公演して、長い時間が経ってしまうと、レベルというか体調が 落ちてしまう事がありますので、ダンサー一人一人の持っている最高のものを出せるように導くというか、支えてあげることも必要となってきます。監督ではあ りませんが、言い換えればコーチですかね。

自分自身も舞台に立っているので難しい微妙なバランスの中、自分も中に入って一緒 に舞台を作り上げていくといったようなこともやりつつ、彼らのスケジュールを決めもします。カンパニーに所属するダンサーも年々替わっていきますので、 オーディションを見たりもしますね。3年前位からすごく仕事が増えました(笑)。

酒)今後の夢や目標についてお聞かせ下さい。
saitousan

齋) これは本当に今難しいですね。といいますのも、どこも同じだと思いますが、特にパフォーミングアーツの分野はコロナウィルスの影響で劇場が閉まってしまい ました。今年の3月16日はサスカチュワン州にいましたが、パンデミック発令がされたため、ツアー半ばでそのままトロントに帰ってきました。

そ れ以降の春の公演は全てキャンセルになり、また2020年に予定されていた公演が全て来年または再来年に延期されることになったので、当分ダンサーが一番 活躍できる発表の場である公演というものがなくなってしまい、柔軟に方向を変えていかなければいけないと思っています。

個人的にはロックダウン直後から、インスタグラムのライブでバレエのクラスを毎朝 1時間×週3日を2ヶ月間配信しました。思った以上に反響があり、初日は500人くらい集まりました。それだけでも「あっ、やっぱりこのような状況でも踊 りたい人・仲間は数多くいるんだ。」というのは、すごく伝わりました。

最近はリハーサルもZoomを通じて行ったりと、家にいながらカメラを通じてスタジオを見てリハーサルする、といったことが可能となりましたので、バレエスタジオのリハーサル自体が色々と変わってきています。

また、僕が個人的に大事だと思う事として、COVID-19の影響でバレエのスタ ジオに行けない学生や、本格的に活動できていないバレエダンサーがすごく多いのではないかと思っています。踊る事ができないダンサーは羽のない鳥のような もので、なんとか小さい頃からプロになりたいと夢を見て、大切な思いや情熱をもっている方々に何かできないかと考えています。

具合的には、Zoomを通じてプライベートやクラスを指導するなど不自由ながらも 出来ることはあるので、その中で何できるのかを考えています。何かをやるしかないんですよ。ダンサー達が情熱を失う、あるいは自分が持っている肉体の鍛錬 を失わず、バレエや踊るという行為に対する愛を保ったまま、いつの日かまた劇場に戻って公演が出来る日が来ればいいなと願っています。これが一番の大きな 目標です。

酒)今後Zoomなどを使用した公演などは視野にいれていますか。

齋) 可能性はないとは言えないです。というのも実は10月17日にイベントへ参加する計画がありました。こちらはヨーロッパのパフォーミングアーツやオーケス トラ、バレエ他数多くのNPO団体が集まる「Great Wave」というイベントです。10月16日から20日までの開催で、2000名以上の方がログインされたそうです。17日の午前中から15分ほどカンパ ニーはオンラインで公演しましたが、およそ700名位の方々に見て頂きました。

僕も裏方として現場にいましたが、とても数多くの好意的なチャットやコメントが嬉 しかったです。CBJのカンパニーのYouTubeでもパンデミック発令中に行った家でのバレエクラスのシリーズや、Zoomにてリハーサルをした作品が アップロードされています。またトロントの名所でダンサー達が踊るビデオ作品ももうすぐ発表する予定です。クリスマス前にも「くるみ割り人形」を元にした プロジェクトをオンライン上にて行う予定です。

このように現在の状況でできる事をプロダクティブに行っていますが、パフォーミン グアーツに携わる人達は、いわゆる「エッセンシャルワーカー」ではないのでパンデミック中に外で働くことが許されず、すごい苦境に立たされています。多く の劇場は閉まり、私たちのカンパニーで予定されていた数多くの公演も来年、再来年まで延期になりました。

でも、ライブのバレエやオペラ等の公演はなくなりはしないと信じています。もし規制が全部なくなれば、最初に観たいのは映画だったり、バレエ、スポーツなんじゃないかなと思います。

酒)私も同感です。安心して生活できる日々に戻る為にも、乗り切らなくてはいけませんね。今回インタビューさせて頂くのも何かご縁ですので、今後、商工会でも何かご協力できればと思います。最後に会員の皆様へメッセージをお願いします。

齋)ありがとうございます。是非、よろしくお願いします。皆さん普段あまり関わり のない分野かもしれませんが、バレエを身近に感じていただけるように、今後も色々とやっていきたいと思っています。私としては、どのような形でもいいです ので、バレエというものに触れて頂ければ嬉しいです。すごく美しいものですし、きっと感じるものがあると思います。

「バレエだから正装して行かなくては」ではなく、「映画を見に行こうか、コーヒーでも飲みに行こうか」というような気持で一度見に来ていただき、もしいいなと思ったら何度も劇場に足を運んでいただければ嬉しいです。

酒)本日はお忙しい中お時間を頂きまして、ありがとうございました。

齋藤さんによる振付の映像作品「The Marvelous Girl」:https://www.youtube.com/watch?v=ON-Wyz2HjPw
Canada’s Ballet Jörgenによるオンライン活動・パフォーマンスビデオ
https://canadasballetjorgen.ca/performances-events/video-centre/

舞台芸術もコロナ禍で難しい状況の現在、Canada’s Ballet Jörgenを支援してくださるドネーションを募っております。また、皆さまからの応援メッセージなども受付けています。
 https://canadasballetjorgen.ca/support-us/donate-now/
Canada’s Ballet Jörgen:info@balletjorgen.ca






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