特別寄稿



北にあるものを探しに
スーツケースと自転車積んで往復3300㎞

トロント総領事館 伊藤 尚峰


カナダで新型コロナウイルスの感染拡大が始まった3月、こんな夏休みを誰が想像したでしょうか?国境は越えられないし、国内も一部の州には行くことができません。

オンタリオ州内の感染者数が少なくなり始めた6月、どの地域で新規感染者がゼロとか、経済再開の第二ステージとか聞かれるようになりましたが、北部地域の名前は、どこを指してどんな場所なのか、いまいちイメージができません。

そんな理由から「百聞は一見に如かず」ということで、今年の夏休みは、車一台にスーツケースと自転車を乗せてオンタリオ州の北西の街サンダーベイを目指すことにしました。

ト ロントからサンダーベイまで約1400 Km。日本で言えば、東京から鹿児島県の佐多岬までに相当します。もし、この時期に日本にいたら、同じようなことは微塵も考えなかったことでしょう。道中 は、カナダならではのダイナミックな景色に感動を受けながらも、訪れた先々ではいろいろは気づきや学びもあり、ほんの一部ではありますが、今日は皆様に御 紹介させていただきます。


広さと深さを感じさせる紺碧のスペリオル湖


【スー・セント・メリー】トロントから約700Km
ス ペリオル湖とヒューロン湖を結ぶ運河沿いにある、米国ミシガン州と国境を接する交通の要所です。観光シーズンには、この街から出発する観光列車・アガワ 渓谷鉄道が有名ですが、今年は新型コロナウイルスの影響で年内は運休とのことで乗車することはできません。いつもなら観光客でにぎわうところなのでしょう が、街中を走る車や歩く人は少なく、何となく物寂しさを感じざるを得ません。

しかしながら、こんな時だからこそ地元の人と同じように過ごすチャンスでもあり、朝少し早起きをして運河上に浮かぶノース・セント・メリー島とホワイトフィッシュ島を訪れました。ここは魚が良く捕れる場所で、はるか昔は先住民が暮らしていた島だったとのことです。

確かに、緑豊かなトレイルコースを奥へ進んでいくと、浅瀬で膝上まで水に浸かりながら何人かが釣りを楽しんでいました。その上にはカナダと米国の国境をまたぐ二つの大きな橋がかかっており、大型トラックが北から南へ、南から北へと行き交います。

豊かな緑と涼しげな水の流れに癒やされながらその様子を見ていると、米国との国境が封鎖されている中でも物流は維持され、私たちの生活は支えられているのだと思うと、トラックドライバーに対しても感謝しないといけないなという気持ちになってきます。





米国へ続く橋とスー・セント・メリー運河の流れ

フェリーから眺めるヒューロン湖

【サンダーベイ】トロントから約1,400km
ス ペリオル湖の北岸に位置し、人口約12万人を擁するオンタリオ州北西部の中心都市です。米国ミネソタ州の国境とも近く、日本との関係では岐阜市と姉妹都 市の関係にあります。港町として栄えており、湖面を大きな貨物船がゆっくりと進み、街中を歩くと汽笛が鳴り響くのが聞こえてきます。

車で1時間ほど東へ走るとスリーピング・ジャイアント州立公園があります。それなりに標高があるので、紺碧に輝くスペリオル湖を眺めたり、岩盤が露出したゴツゴツした山の景色を楽しんだりすることができます。

公園内は空いているのかと思いきや、駐車場にはキャンピングカーが多く止まっており、遠くはアルバータ州やB.C.州のナンバーをつけた車も多く見られました。やはり、皆がいろいろ工夫して夏休みを過ごしているのだと感じさせられます。

夕 方、サンダーベイの街へ戻り、食事のために外出したら運悪く、どしゃ降りの雨が降ってきました。ここは、トロントよりも一足先に経済再開の第三段階に 入った地域であり、店内で飲食できるものと思っていたら、感染者数が大都市部よりも少ないことが恐怖感を与えているのか、ほとんどの店は店内飲食を提供し ておらず、パティオは雨のため早じまい、中には閉店したままのお店も一定程度ありました。

仕方なく、これも新型コロナウイルスの影響かとあきらめて、普段の生活と同じようにスーパーでデリを買って夕飯を済ませたのは苦い思い出です。










スリーピング・ジャイアント州立公園からの眺め



【カプスケーシング】トロントから850Km、サンダーベイから620Km
サ ンダーベイまでの往路は湖沿いをひたすら走ってきましたが、違った景色を見てみたいとの思いから、復路は内陸のハイウェイ11号を走ります。周りは、平 原に低木が生い茂る景色に変わり、道路は一直線の区間が多くなってきます。しかも、小さな集落が点在するだけの区間なので、車も人間も燃料補給のタイミン グに気を使います。

オンタリオ州北部は、フランス語圏の文化が色濃く残る地域と聞いていましたが、道路標識もフランス語混じりのものが増 え、道中の立ち寄ったレストランや コーヒーショップではフランス語の会話を聞くことができ、間違ってケベック州に来てしまったのではないかと錯覚するぐらいでした。

カプスケーシングでは古くから林業や製紙業が営まれ、かつての繁栄の面影を残すように鉄道駅舎跡があり、その傍らでは今も大規模な製紙工場が稼働しています。

そ の他にゼネラル・モータースの寒冷地試験場や小規模な空港があり、それなりに人口が多い街のようですが、駅舎跡周辺の観光案内板には、第一次大戦の退役 軍人の移住地となったり、第二次世界大戦中は軍事施設が置かれたりという説明がなされており、昔も今も政府は北部開発を重要施策の一つしていたことが垣間 見えました。

まっすぐに続く一本道のハイウェイ11


最後に、皆様はどのような夏休みを過ごされたでしょうか?いつもと違う過ごし方をされた方が多いと思いますが、一日も早く特効薬やワクチンが開発され、世界的な新型コロナウイルス感染症の拡大が終息することを願ってやみません。



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