離任のご挨拶



離任の御挨拶


在トロント日本国総領事

伊藤 恭子

 

このたび、帰朝発令を受け、8月半ばに日本に戻ることとなりました。転勤族である我々外交官にとって、いずれは異動の命令が来ることは避けられませんが、着任当時の201710月には想像もできなかった新型コロナウイルスの流行のためにオンタリオ州でも多くの行事が中止となり、私の離任レセプションを開いて皆様にお別れの御挨拶することもできず、210ヶ月のトロント勤務が尻切れトンボのような形で終わりを迎えることになったことは残念でなりません。

今回は私にとって二度目のカナダ勤務でしたが、30年前の第一回目と比べ、GTAがはるかに経済成長を遂げ、トロントは北米で第4位の人口を誇る大都市となり、「北のシリコンバレー」がテック産業やAIで注目を集めるようになっていたことにはただただ驚きました。

寿 司や鉄板焼きのみならずラーメンやデザートまで含む様々な日本食や幅広い種類の日本酒が、以前とは比較にならないほど広く普及してカナダの人々に受け入れ られ、日本から製造業や金融、商社のみならずレストランや流通、観光業も進出し活躍されていることを目の当たりにし、隔世の感を覚えました。アニメや武 道、日本製ゲームなどの日本文化も当地で裾野を広げ、しっかり根付いていたことは嬉しい限りです。

そ の一方で、これまでの幾度かの経営合理化により、かつてはオンタリオ州に進出していた多くの日本企業が当地から撤退し、あるいは米国からカナダをカバーす ることとなり、在留邦人数や商工会メンバー企業の数が以前より大きく減少したことは、日加関係のさらなる可能性を信じる者としては残念に思われます。

日本の主要マスコミがトロントから(即ちカナダから)いなくなってしまったこと、日系の航空会社によるトロント・東京の直行便がなくなってしまったことには寂しさを禁じ得ません。

インターネットを活用した在宅勤務が広がり、ニュー・ノーマルが模索される中で、生活コスト、治安、医療制度等をはじめとするカナダの利点を発見し、カナダから北米を統括することも検討されてはいかがかと強く思う次第です。

また、この30年間ほとんど変わっていないトロントの地下鉄や交通インフラについても、今後の日加協力の大きな可能性があると信じています。

カナダにおける官民連携(PPP)とは、官側が資金を提供し、民側が事業を行うものだという固定概念に取りつかれ、莫大な資金を官側で用意出来なければ事業が始められないと思い込んでいる状況にあります。

しかし、東京にある在京カナダ大使館は、日本の民間企業との協力により「カナダ国民の税金を一切使わずに完成した」と、カナダ外務省自身が自慢するほどのPPPの好例です。

私は当地着任以来、日本での公共交通指向型開発(TOD)の例を示しつつ、インフラ事業で経験のある日本の民間企業と協力し、新たなPPPに着手することを様々なオンタリオ州政府関係者に働きかけてきましたが、これも道半ばで離任することになってしまいました。

し かし、オンタリオ州でのインフラ事業参入に際してのコンソーティアムにカナダ企業を含まなくてはならないという条件の撤廃、交通網整備促進法の採択、民間 側からの自主的な新規インフラ事業提案の受け入れなど、オンタリオ州政府のインフラ事業に対する取組も少しずつ変わってきており、こうした変化が日系企業 の皆様との働きかけの結果であるとすれば嬉しい限りです。

こ れまでトロント日本商工会の皆様と、新年会や総領事杯ゴルフ大会、各種セミナーや企業訪問、茶話会や新着任者歓迎会など様々な機会に御一緒出来ましたこと は、誠に楽しく、貴重な思い出となりました。商工会幹部の皆様とともに、オンタリオ州政府の経済閣僚や連邦議会議員への働きかけもさせて頂きました。

また、新型コロナウイルスのために緊急事態宣言が発動された後も、毎日有益な情報を発信され、会員の皆様のためにオンラインのセミナーや各種アンケートを通じた情報提供など、会員と常につながっている商工会として、存在感を示されていると思います。

このような充実したプログラムを次々と打ち出し、成功させてくださった伊東専務理事及び事務局の皆様、及び過去3年間の理事会役員の皆様に改めて心より御礼申し上げます。

今回の勤務を終えて私のカナダ生活は合計で8年を超えました。夫の出身国でもあるこの国は私にとって第二の故郷であり、間違いなく将来に再びこの地を訪問することになると思います。トロントが今後どのような街になっていくのか、そしてその中にどれだけ日本の影響力が反映されていくのか、想像するのが楽しみです。

末筆ながら、トロント日本商工会および会員の皆様の益々の御活躍と御繁栄を心より祈念申し上げます。



 

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