特別寄稿


AI先進都市トロント

HIKE VENTURES
安田 幹広


2017年の夏、私とパートナーは二人で創業するベンチャーキャピタル(以下VC)の投資戦略について話し合っていました。投資対象は、英語でApplied AIと呼ばれる分野で、人工知能(以下AI)を使ってこれまでには無い方法で様々な課題を解決するスタートアップへの投資で決定していました。

さらに、投資対象都市として、私が拠点としているシリコンバレーに加えて、トロントを中心とするカナダのAIスタートアップにも注目し始めました。カナダは、AIに関する研究開発のリーダーからAI関連のスタートアップをも生み出すエコシステムを構築していたからです。

トロント大学は、ディープラーニング(深層学習)を発明。そして、2012年に、画像認識コンテストで2位以下に大差をつけて優勝し、世界に新しいAIブームを巻き起こしました。

AIブーム以前は、カナダのテック系起業家は、シリコンバレーへ移り住んでしまうことが多かったのですが、カナダが国を上げてAI産業を大きくしようと力を入れ始め、R&Dやベンチャーキャピタルへ資金提供を開始しました。

そのため、シリコンバレーからカナダへ戻ってくる起業家やAIエンジニアの増加、AI人材を求めるGoogle、Facebook、Microsoft、Uberを始めとする巨大テック企業がカナダにAI研究所の設立が相次ぎました。

そして今、トロントは、シリコンバレーも注目するAIスタートアップエコシステムとなっています。弊社もトロント、ウォータールー、モントリオールへ頻繁に通い、案件の発掘とカナダのVCとの関係構築を行っています。

そんな、身近にあるAIスタートアップエコシステムを企業が活用するためには、まずAIを使って何をやるかを考える必要があります。それが決まれば、御社の問題を解決できるスタートアップが徒歩圏内に存在するかもしれません。

AIが得意とするもの:予測、自動化、分類

実用レベルのAIは、現段階では万能ではありませんが、予測、自動化、分類を人並みか人以上の精度で行うことができます。弊社の投資先を例にしながら、具体的に見ていきたいと思います。

予測:トロントのスタートアップPitstopは、車から送信されるデータから、エンジンやバッテリー等の主要部品で故障が発生する可能性を瞬時に予測することができます。同社のAIは、これまでに膨大な量の車の走行時のデータと故障履歴から、故障の予兆を示すデータの特徴を学習しています。

予測にAIが利用されている他の分野では、企業の売上や資金繰りの予測、個別の顧客の成約予想、需要予測に基づく在庫・製造量の最適化、保健料金の算定、ローン返済の予測などがあります。

自動化:人が行っている反復作業を支援するのが自動化AIです。例えば、Percept AIは、テキストチャットによる顧客からの質問の約半分を自動で回答することができます。また、Everest AIが制御するロボットは、リサイクル処理場内のコンベヤーに乗って流れてくる雑多なゴミからリサクル可能なペットボトルだけを仕分けることができます。

パターンに基づいて頻繁に行われている反復作業は、AIの学習と検証を繰り返し行えるためAIが活躍しやすい分野と言えます。他にも、帳簿の仕分け、クラウドシステムの運用、ソフトウェアのテストなどに自動化AIが利用されています。

分類:分類AIは、見つけたい事柄の特徴を理解し、それを見分けるのが得意です。例えば、モントリオールのスタートアップOptinaは、目のスキャンデータから初期段階のアルツハイマー病を見分けることができます。

XCHAINは、紙の納品書を読み込み、各枠内に記載されている内容を理解してデジタル化することができます。また、詐欺検知、不良品検知、レントゲン・MRI・CTの画像診断などで分類AIが実用化されています。


もちろん、1つのAIシステムが、分類と自動化など2つ以上のAIの特徴を利用している場合もありますが、この3つの分類はAIの利用シーンを考えてみる出発点として活用頂くのに良いツールだと思います。

AIの活用

業界全体に見られる大きな課題であるほど、それを解決するためにプロダクトを作っているスタートアップが見つかる可能性は高いと言えます。

これらのプロダクトを利用するメリットは、導入期間の短縮、そして自社でゼロから構築するよりもコストパフォーマンスが良いことに加えて、学習が済んでいるAIを利用できることです。AIを使ってシステムを構築する際は、社内のデータの取得と整理に多くの時間がかかるため、このメリットは大きいと言えます。

また、トロントには、企業が他社とデータを共有することなく利用できるAIツールや、AIコンサルティング企業も多数存在します。社外とデータが共有できない場合には魅力的なオプションです。

御社にとって最適なスタートアップと出会うためには、スタートアップのコミュニティに飛び込み情報収集するのが一番です。そこでは、最新の技術動向、サービスのトレンド、利用の実態などインターネットでは得られない貴重な情報が率直に話し合われています。

トロントでも、イベントやミートアップが頻繁に開かれています。是非、カナダのAIスタートアップエコシステムで最適なパートナーを見つけて下さい。


HIKE VENTURES 安田 幹広
プロフィール:
日本ネットスケープにて日本国内コンサルティング事業責任者、カカクコム取締役CTO/COO、デジタルガレージ海外事業担当取締役、Open Network Lab CEOを経てDeNAへ。DeNAでは約3年半シリコンバレーを拠点としたグローバル投資業務を担当。
UCSF Health Hub Board of Director
Member of McGill MBA Japan Adbisory Board
Rochester Institute of Technology卒業。McGill大学MBA。

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