「こんにちは!」新代表者紹介インタビュー



<第202回>
MHI Canada Aerospace, Inc.
エムエイチアイ カナダ エアロスペース
Senior Director, Business Development & Bombardier Program Office 福田 剛

MHI Canada AerospaceのSenior Director福田氏にお話を伺って参りました。福田氏には2019年度商工会理事を務めて頂いています。右手の写真は、社員の方がMHI Canadaをイメージして描いた壁画の前で撮影致しました。

三菱重工業の子会社であるMHI Canada Aerospaceは、航空機の主翼と胴体の製造を行っています。オフィスはピアソン国際空港に大変近く、離陸する航空機が部屋の窓枠に収まらないほどの大きさで頻繁に見えました。隣接する工場では、今年の夏に商工会会員のご子弟向けに見学会を開催させていただきました。

MHI Canadaの技術力の高さ、カナダに生産拠点をもつ利点やカナダの航空機産業についてなど、航空機産業の裏話とも言えるお話等じっくりとお伺いしました。



(松田)御社の事業内容のご紹介をお願い致します。

(福田氏)MHI Canada Aerospace, Inc.は、三菱重工業株式会社の民間機セグメント部門の統括に入る100%製造子会社です。民間機セグメント部門で二番目に大きいカスタマーである、ボンバルディア社のAviation部門に、同社のGlobal 5000/5500/6000/6500と、Challenger 350 という2つのシリーズのビジネスジェットの主翼と胴体の一部を製造し供給しています。

MHI Canadaは、三菱重工民間機Tier-1(機体製造の一次下請)部門の初めての海外製造拠点として2006年に設立されました。その1年後の2007年にベトナムにも製造子会社が設立され、海外製造拠点は現在2つあります。

社員数は約800名で、日本からの出向者は3名です。

(松田)製造されている製品についてご説明いただけますでしょうか。

(福田氏)ボンバルディア社が製造するビジネスジェットGlobal 5000/5500/6000/6500の主翼と胴体の中央部分、そしてChallenger 350の主翼を製造し、ボンバルディア社に納めています。ビジネスジェットとは、個人や会社が所持し、エアラインではなくプライベートで飛行する航空機です。

Globalシリーズは、最大乗客数が18名、マーケットの中では機体サイズが最も大きく飛行距離も最長級のビジネスジェットです。Global 6000/6500の飛行距離は東京から太平洋を超えニューヨークまで飛んでも十分おつりがくるくほどで、有名な機種ではボーイング777と遜色ありません。Challenger 350 の最大乗客数は8名、飛行距離はニューヨークからロンドン間という大西洋を横断するくらいで、Globalシリーズより一つ小さいカテゴリーに属するビジネスジェットです。

この2つの事業は会社創立時から変わりませんが、当初は日本で作った主翼胴体の構造体をカナダへ輸入し、そこに組み込む電線や動翼、それらを動かす駆動装置などを取り付ける艤装作業のみを行っていました。しかし日本で行っていた作業を徐々に移管し、現在は構造組立ての90%もカナダにて行っています。

(松田)カナダは航空機産業が盛んと言われますが、その規模の大きさを分かり易くご説明いただけますでしょうか。

(福田氏)主にオンタリオ州とケベック州となりますが、皆様ご存知のボンバルディア社はモントリオールに本社を持ち、ボーイング、エアバスに続き、従来は世界で3番目に大きい完成航空機メーカーです。

航空機用エンジンメーカーのビッグ3の一つであるPratt & WhitneyはUTC参加の多国籍企業ですが、Pratt & Whitney Canadaが非常に静かで燃費が良い次世代型のエンジンを製造しています。そのエンジンは、三菱重工のスペースジェットやエアバスの新鋭旅客機にも搭載されています。

主翼パネルを加工している世界有数のメーカーSonacaはモントリオールに工場を持ち、ボーイング、エアバス、ボンバルディア、エンブラエルと、完成機メーカー大手に供給しています。万が一Sonacaが無くなってしまったら世の中の飛行機が作れなくなってしまうと言われるほど、航空機業界で非常に重要な会社です。その他、世界で大きなシェアをもつ脚部分の降着装置メーカーもケベックに工場を持っています。

エンジン、主翼、脚などといった航空機の基幹となる部品に大きなシェアをもつメーカーがカナダには多く所在します。飛行機自体にはカナダと名が付いていなくても、中にある部品はカナダ製であることが非常に多いです。

(松田)ありがとうございます。そのような環境下で競争も激しいのではと思われますが、御社の強みはどちらにあるとお考えでしょうか。

(福田氏)航空機業界のTier 1で主翼と胴体の両方を製造している会社は、当社以外には殆どありません。ボーイングの民間旅客機ではほぼ全ての機体の主翼をボーイングが内製しており、例外は三菱重工の名古屋工場で生産している787のみです。エアバスの主翼はほぼ全てがエアバスUKの工場にて作られています。ビジネスジェットのボンバルディアでも、当社の造るChallengerとGlobal以外は、現在全て内製を行っています。

特に、当社が行っている胴体と主翼を繋げる作業は、航空機の中枢とも言え大変繊細で重要なため、外注している会社はほぼありません。主翼外形が左右対称でないと飛行機は真っ直ぐ飛ばず回転してしまいます。そのため主翼スパン30mの両先端の位置関係にもミリ単位の大変厳しい要求があります。それをMHI Canadaでは行っているため、その技術力と生産力、そして競合があまりいないという点も強みであると思います。

(松田)航空機産業の中でも群を抜いた技術力と信頼を勝ち得ていらっしゃることが伺えます。今後、御社で注力されたい事業はどのようなものでしょうか。

(福田氏)現在当社はボンバルディア社向けの製造のみを行っていますが、今後の事業拡大にはボンバルディア社向けの新しい仕事、または新しい顧客向けの仕事、の2つが焦点となります。

ボンバルディア社向けについては、今存在している事業を粛々と行い、この事業を通じて新しい有効な事業があれば参画を探っていきます。

新しい顧客向け事業については、MHI Canadaのみならず三菱重工民間機の事業拡大を視野に入れて取り組んでいきたい所存です。三菱重工の民間機事業は、ボーイング社向けのものが圧倒的に大きく偏りがあります。

また、従来ボーイング社のサプライチェーンの中で日本の位置づけは大きかったのですが、アジアその他新興国で民間機に耐えうる産業地盤が育ちつつあり、日本が地盤沈下をしていく危機感があります。そのため、三菱重工としてもボーイング社以外の事業にもなんとか取り組み、事業拡大に臨みたいところです。

三菱重工には日本の工場以外に、カナダとベトナムに生産拠点があるという利点を活かした受注活動を策しています。ベトナムの利点はローコストです。カナダの利点は、航空産業の歴史が古く、分厚いサプライチェーンがあることです。

先程ご説明しましたが、北米にはTier 2や孫請け以下を担うことができる部品メーカーが多くあり、同様に知識と技術を備えた人材も揃っています。当社には、現会長や現社長を始めとした管理部門から技術者まで、大手航空機製造会社のMacDonnell Douglas(1997年にボーイングに吸収合併)やボンバルディアで働いていた者が多く所属しています。

他にも、日系企業としてカナダに生産拠点があることに、大きな利点があります。例えとして大手2社の名前を挙げますが、ボーイング社とエアバス社は航空機の製造方法が異なります。そもそも航空機の部品製造には非常に細かい制約があり厳しい検査を要求されます。

仕上がりだけでなく、作り方、材料の選定、材料を試験する際の条件、生産工具の設定方法、諸々の処理をする化学薬品の調合方法、温度条件等に至るまで、細かく定められた製造スペックに沿わなければなりません。その指示の内容が、ボーイング社とエアバス社では違うんです。部品を造るサプライヤーは全てそのスペックに従った生産体制、生産ライン、生産条件を備えなければならないため、新規参入が難しいのが現状です。

日本の航空機産業は、当社のみならず歴史的にボーイング向けが圧倒的に多いため、構造部品の生産システムが主にボーイング志向でできています。しかし、北米ではボーイング向けもエアバス向けも両方行っている業態が多く、エアバス案件にもすぐに対応してもらえる部品メーカーが周囲に豊富にあります。

MHI Canadaは現在主翼と胴体中央という大きなコンポーネントを生産している生産能力と、北米の立地を活かして、MHI Canadaのみならず三菱重工民間機事業の新たなカスタマーを切り開く先陣になることを目標とし、取り組んでいきたいと考えています。

(松田)今後の展望も明るいことが期待されますね。

(福田氏)これはボーイング社の予測値ですが、現在世界中を飛行している航空機数は約2万6000機、それが20年後には倍近くの5万機が必要となり、更に老朽による入替え機を換算すると今後20年間で4万4000機の新しい航空機が必要となるそうです。

つまりマーケットの先行きは高需要ということですが、只この実現には供給能力が圧倒的に足りません。世界を見てもTier 1のメーカー数が十分ではない為、完成機メーカーによるTier 1メーカーの取り合いや囲い込みが発生すると予想されます。そのため、我々がこのまま着実に事業を行い競争力を高めていけば未来は明るいと期待しています。

一方で、新規参入は難しいと言いつつも、中国、インド、トルコといった新興国で徐々に航空機産業が拡がってくることは少なからず予測されます。それらの国との競争はコストです。コスト面はカナダの課題ですが、新テクノロジーを導入した少人化、自動化、機械化といった競争力と、テクノロジー分野への国の支援が手厚いカナダの利点を活かしながら、今存在している事業を通じて、次世代、未来的な製造システムを育み、今後の競争に負けないように強みに変えていきたいと考えています。

(松田)それでは、福田さんのご経歴についてお伺いしたいと思いますが、ご出身はどちらでしょうか。

(福田氏)出身は佐賀県の唐津市です。東京の大学を卒業し、三菱重工業に入社しました。最初に配属されたのは広島の工場で、発電所、製鉄所、化学プラントなどで使われる機器類が主な製品でした。そこで、鉄構構造物やプラント機器の材料の調達の仕事を3年半、経理を3年半行い、計7年所属しました。

その後名古屋に転勤し、民間航空機事業に所属しました。営業職として12年程ボンバルディア向けの輸出業務を行いました。その後、ボーイングの事業チームに異動し、ボーイング787を取り扱いました。そして東京に異動し、全プログラム横断的な営業業務を数年行い、昨年11月にカナダに着任しました。

(松田)これまでのご経験の中で、特に印象に残っているお仕事についてお話しください。

(福田氏)入社3年半で経理に配属された直後に、アメリカの会社からダンピングで訴えられたことがありました。会社としても寝耳に水な突然の訴訟で、急遽対策チームが社内に設置されたのですが、経理からは経理に配属されたばかりの私がチームに入ることになりました。

早々に、アメリカの商務省から、回答期限が2週間以内というものすごい量の質問事項が送られてきました。アメリカの弁護士や会計士などの専門家と共に回答を準備するのですが、経理用語のために辞書を引いても出てこないような英単語が沢山あり大変苦労しました。

そのチームは20代と30代半ばまでの若い世代で構成されたメンバーで、組織や実績を重んじる三菱重工の中で、若いチームが自主性をもって動くことが新鮮でした。1年半程この職務にあたり、この期間は私の会社生活で一番残業をした期間で苦労も沢山ありましたが、知識的な意味でも吸収することが多く、大変印象に残っています。

もう一つは、名古屋に行き民間機部門に所属してからの事です。2001年に同時多発テロが起き、その直後は意外と影響がなかったのですが、2002年10月頃にテロと景気低迷の2つの影響の波が一気に押し寄せ、ほぼ生産ストップのような状態になりました。

それを乗り越えて2004年の年明けに、ボーイングとボンバルディアの両社が一斉に増産に転じましたが、名古屋工場の生産能力が追い付きませんでした。更にその時期に景気が好転し、他業種の製造工場でも臨時従業員を大量に採用していたため、従業員の確保が難しく大きな納期遅れを出しました。

完成した製品は通常は船で運ぶところ間に合わないために全て空輸することになりましたが、普通の飛行機では運べない大型の製品ですので、アントノフという大型飛行機を長期間チャーターしました。他には、日本で人が集まらないために、ボンバルディア日本出張所を作りカナダのボンバルディアから企業内派遣という形で従業員に来てもらったりもしました。

非常事態ではないと経験しない仕事を否応なく経験した日々でした。しかしそのような経験も後に役に立ったりするもので、ボーイングの事業に移った後に活かす機会がありました。トラブルの経験は出来ればあまりしたくないですが、どのような経験も何かしらの糧になるものだと実感しました。

(松田)福田さんがお仕事をする上で、大切になさっていることはどのようなことでしょうか。

(福田氏)名古屋に移って以降の営業職では、特定のお客様との出来上がっている契約の履行に関する調整が主な仕事でした。こちらの得になることは相手の損になることという状況下で、当然自分の譲れない一線を引きながら、一方で相手が相手の社内で合意を取り付けるために、相手の立場に立った落としどころを念頭に入れて、交渉を行っていました。

自分視点だけではなく、相手の視点に立って物事を見るという大切さは、社外のみならず社内の人間関係でも同じです。

カナダに来てからも、この点は心がけています。日本とカナダでは仕事の進め方や重要視する点などビジネス上で異なる部分がありますので、日本人としての視点を大切にしながらも第三者目線で物事を見て、相手に分かってもらえるように説明をする。どちらかが腑に落ちないまま進めるのではなく、お互いがお互いの見方を理解し納得のできる形へ誘導するように、と気に掛けています。

名古屋でボンバルディアの仕事をしている時から思っていましたが、カナダの人、特に我々と同じくらいの世代の人はウェットだなと思います。日本人の中には、欧米人は契約社会で個人を重んじてドライだという固定観念がある人もいるかと思いますが、カナダ人は必要以上に相手を思いやったり、お世話になったらきちんと返したり、とても人間関係を大切にしていて、日本人以上に情に厚いと感じることが多いです。相手を理解しようと努めてくれるその姿勢は、前向きなビジネスにも繋がっていると思います。

(松田)プライベートなこともお伺いしたいと思いますが、ご趣味は何でしょうか。

 
ボンバルディアのの祝賀イベントにて 
(福田氏)散歩や旅行ですね。休みの日はなるべく外に出るようにしています。近所のトレイルやモールなどを歩いたり、少しドライブに行ってその近くを歩いたりもします。カナダにいる間に叶えたい(妻の)To Doリストがあって、それに沿いながら春と夏にはプリンスエドワード島やモントリオールに妻と訪れました。年末の休みはオーロラを見に行く予定です。

あとは囲碁ですね。中学校で始めて、高校生の中頃まではかなり夢中になっていました。大学に入学してから辞めたため大分ブランクがあったのですが、最近はAIの発展によりコンピューターソフトがかなり強くなり、また対局を見られる媒体もインターネット上などで沢山あるため、気軽に触れることができるようになり再開しました。

AIはすごいですよ。私が学生の時には絶対に打ってはいけないと言われていたような手が、AIにより実は良い手だとわかったりと、昔とは打ち方が変わってきています。この年になって勉強になることが多く、とても面白いです。

囲碁は、中国や韓国では幼少期から勉強の一部として始める人が多く、欧米でも数学専攻の学生などが行っていたりします。きっとトロントにもクラブのようなものがあると思うのですが、是非もっと多くの人に始めてもらいたいです。

(松田)コンピューターで対戦が出来ると最初の敷居が低くなり気軽に始められそうですね。最後になりますが、商工会会員へメッセージをお願い致します。

(福田氏)航空機業界という狭い世界で事業をやっておりますので、商工会の会員の方々と仕事上でのお付き合いはあまりありませんが、交流できる機会があれば大変有難いと思っています。お会いした際には、どうぞ宜しくお願いいたします。

(松田)インタビューは以上となります。本日はお時間を頂き有難うございました。




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