リレー随筆


ボールで繋ぐひとつの和

President of JFT (Japanese Football club of Toronto) 
渡部 玲生


JFT (Japanese Football club of Toronto) とは、トロントのとあるローカルサッカー大会に参加するために作られた、寄せ集めの日系サッカーチームとして始まったNPO団体である。2006年の夏のこと。チームを作るために私はまず人を集めた。ワーホリや学生が主体で、若干名の駐在員、移民、日系カナディアン。集まったメンバーで合同練習を繰り返し、練習試合を組み、少しずつ戦える集団になっていった。

メンバーの誰一人としてサッカーをしにトロントに来たわけではなかったが、厳しい練習をともにすることでそれぞれが「自分の居場所」という気持ちになっていったように思う。選手同士、衝突もあったがそれを乗り越えることでより強い結束が生まれ、お互いに鼓舞し合う雰囲気が生まれ、まるで高校の部活さながらだった。

しかし、大会は残念ながら敗退。そして解散。このままひと夏の思い出として終わってしまうのか、と誰もがそう思った。季節は秋に入ろうとしていた。「リーグ戦参加…」。諦めの悪かった連中が言い出した。

そう、トロントではリーグ戦を運営している団体がいくつもあり、そこにチームとして登録すれば毎週決まった曜日に同じチームとして参加することができるのだ。「秋冬リーグになんとしてでもチームとして参加し、また同じ仲間で一緒にサッカーがしたい」と。

しかし大きなハードルがあった。お金の問題だった。リーグ参加にかかる費用は1タームで2000ドル以上かかり(インドアのため特に高い)、1タームはたったの10週間程度。ワーホリと学生主体のチームにはかなり困難なものだった。

そこでやろうと考えたのがサッカースクールだった。「サッカーを教えることでお金をもらい、リーグ参加にかかる負担を軽減させよう」と。みんなで日本代表のユニフォームを着てチラシ片手にトロントGTAを駆け回った。大赤字でスタートしたこの活動が徐々に軌道に乗り、このモデルが機能しだした。これこそがJFTが本当の意味で「存続していけるチーム」となった瞬間だった。

その後、ある意味怖いもの知らずでやりたいと思ったことはどんどんやっていった。東日本大震災へのチャリティイベントを3年間行い約3万ドルを被災地に寄付することができ、ワールドカップサッカー日本代表のパブリックビューイングイベントでは1000人を動員することができた。どちらも、自分たちだけでは到底達成できないような規模で行うことができた。

それはいろいろな人たちを巻き込むことができ、たくさんのサポートがあったからに他ならない。毎年メンバーの大半が入れ替わるという特性をポジティブに捉えつつ、その時々に居合わせたメンバーでフレッシュな気持ちでチャレンジしていた。いつも変わらないメンバーたちも必死になりながら楽しくやっていた。私もその一人だった。

立ち上げ10年目に差し掛かろうとしたあたりからだろうか、「いつも変わらないメンバーたち」への負担が大きくなってきた。それぞれ結婚もし、子供も生まれ、時間の使い方がよりシビアな問題になってきていた。そんな中、特に大きな時間のコミットメントを要するサッカースクール運営は、私自身ほとんど関与できなくなっていた。

「いつも変わらないメンバー」のごく一部のメンバーにその負担がいき、それがしばらく続いていた。みんなJFTもサッカースクールも大好きだからこそ、この状態が苦しくもあった。どうにかしてそれぞれの人生に無理なくJFTとサッカースクールを運営していかなければならない、そうでなくては存続できない、と。

そして、JFTはサッカースクール運営を、完全にJFTから切り離す決断をした。サッカースクールを実質ずっと動かし続けてくれていたメンバーが自分自身のビジネスとして完全に引き継いでくれた。また、JFTのサッカーチームのリーグ参加を資金面でサポートするスタイルのチーム運営もやめた。

そして今、JFTは新たな岐路に立っている。これから何をしていくのか、何ができるのか。私自身も一時よりわずかながら使える時間が増えてきた。まずはこれから夏を迎えるトロントで、気軽にサッカーを楽しめる場を提供することからはじめようと思う。

JFTの理念は「ボールで繋ぐひとつの和」。これはいつまでも変わらない。サッカーボールにつられて集まってきた人たちで、次は一体どんなことができるのか、何か人を喜ばせたり少しでも幸せにしたりすることができるだろうか。今のメンバーと、そして新たにめぐり合うであろう仲間たちとまた一緒にチャレンジできることに、今はとてもわくわくしている。







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