「こんにちは!」新代表者紹介インタビュー



<第195回>
Astellas Pharma Canada Inc.
アステラス製薬 カナダ
Associate Director, Corporate Planning 嶋本 賢太郎 

昨年4月にご着任されたアステラス製薬の嶋本氏にお話をお伺い致しました。オフィスの所在地はマーカム市で、トロントからは車で30分弱です。

インタビューは専門的な内容にも及びましたが、私でも理解できるように分かり易くお話し頂きました。目まぐるしく進化する最先端の医療業界の現状は驚きの連続でしたが、業界で事業を営むための嶋本氏の覚悟や信念が垣間見られ、大変興味深いお話をたくさんお伺いできました。カナダらしい過ごし方や考え方も積極的に取り入れられ、充実したご様子のプライベートなどを含め、色々とお話し頂きました。


(松田)御社の事業内容のご紹介をお願い致します。

(嶋本氏)アステラス製薬は、藤沢製薬と山之内製薬が合併し、2005年に誕生した会社です。元々の歴史は古く、山之内製薬は1923年(大正12年)に大阪にて創業された山之内藥品商會が、藤沢薬品は1894年(明治28年)に大阪に創業された藤沢商店が始まりです。当時藤沢薬品は衣類の防虫剤である樟脳を販売しており 、“藤澤樟脳”というと我々の祖父母の世代は誰もが知っている製品でした。

両社とも歴史ある日本の内資系企業でしたが、当時としては珍しく、合併して誕生した新社には元々の社名を残さず全く新しい社名をつけました。 「過去に囚われず、新しい価値を作る」という両社経営陣の思いが表れており、実際に合併後の歩みはその通りになっていると思います。

事業内容は、医薬品の開発、製造、及び販売です。医薬品は、医師による処方箋を必要とせずに薬局等で購入可能な「一般用医薬品」と、医師からの処方箋が必要な「医療用医薬品」の大きく2つに分かれます。現在アステラス製薬では医療用医薬品のみを取り扱っており、その中でも新薬に特化して事業を展開しております。

日本では医療用医薬品の一般の方向けへの広告は法律で制限されているため、健康に暮らされている多くの方々には、もしかすると耳馴染みの薄い社名かもしれません。

(松田)カナダでの事業開始はいつでしょうか。

(嶋本氏)アステラスカナダは、アステラス製薬が取り扱う製品のカナダにおける販売会社です。1991年にFujisawa Canada Inc.が藤澤薬品の子会社として設立されたのが始まりで、事業の歴史は現在28年になります。

拠点はここマーカムのみで、カナダ全土をカバーしています。ヘッドオフィスに在籍する社員の中には各州政府や業界団体と仕事をするため出張が多い者もおりますが、各地に配置される営業担当はホームオフィスを持ち、其々の担当地域にて効率的に活動できるような体制を整えています。

社員数は、グローバルで約1万6600名、アステラスカナダには約140名です(2018年3月末)。日本からアステラスカナダへの出向者は私一人です。

(松田)貴社の製品が製造から患者さんに届くまでの流れを簡単にご説明頂けますでしょうか。

(嶋本氏)アステラス製薬の製品は、自社工場、又は製造委託をしている他社工場にて製造されています。医薬品は人々の生命や健康に直接かかわる製品であるため、その製造・販売には厳格な規制・基準が数多く存在します。

加えて弊社では製造または製造を委託する工場にさらに厳しい水準を求めます。カナダには自社工場を持たないため、それらの厳しい基準を満たした工場で製造された製品を、カナダに輸入して販売することになります。

医薬品は、ただ処方されてエンドユーザーである患者さんのもとに届くだけでは十分にその効果を発揮することはできません。医薬品は承認された効能効果に沿って必要な情報と共に処方され、適切に服用されてはじめて安全かつ最も効果的にその力を発揮することができます。

そしてそのプロセスには多くのステークホルダーが関わります。医師、看護師、薬剤師などの医療関係者はもちろんのこと、最近ではテクノロジーの発展にも支えられ実際に医薬品を管理・服用される患者さんやそのご家族に対していかに適切にアプローチするか、ということについても新たなアイデアが登場してきています。

例えば薬の服用を促すアプリなど、耳にされたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。加えて様々な行政機関や関連組織、保険会社など医薬品が製造されてから患者さんのもとで適切に効果を発揮するためには極めて多くのステークホルダーと適切に連携・協同することが重要になります。

(松田)研究開発分野においても、常々新しい試みが行われているとのことですが、お話し頂けますでしょうか。

(嶋本氏)近年、医療を取り巻く環境はかつてないスピードで変化しています。皆さまもご存知のとおり医療費の上昇は各国の財政を圧迫しているため、その削減圧力は年々高まっています。それだけを見ると製薬企業にとっては逆風のように感じられるかもしれませんが、一方で、変化の中には科学技術の進歩に伴う創薬の飛躍的進化やそれらのイノベーションを適切に評価するための新薬の優先審査プロセスの登場など私たちにとってポジティブな変化も起こっています。

それだけではなく、デジタルや工学技術の進歩も目覚ましくこれらが複合して世の中に非線形的な変化をもたらしています。私たちはそれらの変化を多面的にとらえて革新的な新薬を生み出していくことを考えています。

5年ほど前まで当社では、特定の重点疾患領域を定めてその中での競争優位を築く「グローバル・カテゴリー・リーダー」というビジネスモデルを採用していました。

このモデルは一定の成果を上げてきましたが、既存品を上回る製品が生まれにくくなっても同じ領域に固執して新たな挑戦がしづらくなってしまっていたこと、自前主義にこだわってしまい世の中に日々生まれている有益な外部資源の活用機会を見逃すなどの弊害も生じていました。

そこで弊社では積極的に外部イノベーション獲得に取り組む環境を整えるとともに、疾患領域を絞って新薬をつくっていく発想から疾患にこだわらず多面的な視点から創薬に取り組む「Focus Area」という発想に舵を切りました。

この話をすると長く専門的な内容になってしまうので詳しくは別の機会に譲りますが、すでに、新たな考え方のもとで次世代型のワクチンや細胞医療といった新たなアセットが生まれてきています。これからもこの考え方のもと、さらに取り組みを進めていきます。

(松田)進化するテクノロジーを実益とすることだけでなく、更に発展的に使用することへも挑戦が行われているんですね。

(嶋本氏)はい、科学の進化を含めて私たちを取り巻く環境は常に変化し続けます。その変化を機会と捉え、いかに継続して付加価値の高い製品を生み出すことができるか、これからも挑戦し続ける必要があると思います。加えて、晴れて製品が当局の承認を受けて世の中に送り出すことができたとしても、その価値を患者さんに届けるためにどうしたら良いか、というのも大きな問題です。

例えば、これまで難治とされてきた病気をごく短期間の治療でほぼ完治させてしまうような新薬が開発されたとします。いったい、その新薬の価格はいくらであれば適切なのでしょうか。ご自身が患者だったとして、それをいくらなら受けられるでしょうか?また、医療財政はいくらならその新薬を保険でカバーすることが妥当なのでしょうか?

世界のいずれの国でも同様の問題に直面しており、もちろんカナダもその例外ではありません。科学の進歩をいかに患者さんの価値に変えていくのか、私たちアステラス製薬としての挑戦でもあり、また行政なども含めた業界全体で様々な試みが行われているところです。

(松田)御社の強みはどちらにあるとお考えでしょうか。

(嶋本氏)アステラスは、2015年に策定したVISIONにおいて、「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変える」ことを宣言しました。

一方で、申し上げた通り私たちの事業を取り巻く環境はかつてないスピードで変化しています。その中で継続的に患者さんに価値をお届けするために当社では、「現状に安住することなく常に変わり続けることでしかそのVISIONを追求することは出来ない」という考え方が定着しています。

たとえば私自身も以前上司から、「現状がうまくいっていたとしても、同じ場所にとどまっているようでは“期待通り”以下の評価しかできない。毎年少しずつ成長するのが“期待通り”であり、想定していた成長曲線超える成長をして初めて“期待を上回る”評価に値する」とよく言われていました。

変わり続けることでしか生き残れないというのは、正直なところ従業員にとってはとても大変ですが、真剣にその実現を目指す者には会社も上司も手厚くサポートしてくれます。「いかに患者さんに私たちの製品の価値をお届けできるか」という共通のテーマのもと、安心して挑戦できる環境でもあります。この「患者さんのために」という思いを単なるスローガンとしてではなくすべての社員が共有できていることが私たちの強みだと思います。

(松田)嶋本さんのご経歴についても、お伺いしたいと思いますが、ご出身はどちらでしょうか。

(嶋本氏)生まれたのは兵庫県の尼崎市です。その後、神戸と大阪を行き来しながら、大学を卒業するまではずっと関西にいました。大学を卒業後、藤沢薬品に入社してからは立川や新宿などずっと東京です。入社から2012年までの11年間は東京で営業(MR: Medical Representative)として、クリニック、地域の中核病院および大学病院など様々な施設を担当しました。

2012年からは本社の営業戦略部にて、国内事業の中期戦略策定などを担当しました。その後は秘書部に配属され、CEOをはじめとするトップマネジメントのサポート業務および取締役会の事務局としての業務など担い、コーポレートガバナンスやトップマネジメントの意思決定などについて勉強させて頂きました。そして2018年4月、アステラスカナダのCorporate Planningとして着任しました。

(松田)製薬会社へのご入社を選択されるに至ったきっかけは何でしたか。

(嶋本氏)自身が幼い頃に小児喘息を患っていたこと、また、父親が製薬会社に勤めていたことから、元々医療に興味がありました。只、私は所謂理系よりも文系の方に適性があったようで、数学や理科はまったくだめでした。そこで、医師や薬剤師を目指すのではなく、大学は経営学部に進みビジネスについて学びました。

学生時代は若気の至りというか天邪鬼なところがあり、周囲と一斉に就職活動をして内定の有無に一喜一憂するといったことに抵抗があったため、新卒就職はせずに世界でも見て回ろうかなどと考えていました。

ですが当時の日本では特に大企業は新卒にしか門戸を開かない企業も多かったため、自ら選択肢を狭めることもないととりあえず何社か面接ぐらいは受けてみました。その時に製薬会社を選択したことは、元々医療に興味のあった自分にとっては自然な成り行きでした。

そんな生意気な考え方だったため、面接に際しても、ただ会社から選んでもらうのではなく、こちらだって自分と相性が良くて面白そうな会社を選んでやろう、どうせ自分を飾って採用されたとしても相性がよくないかもしれない、飾らず話しても自分を選んでくれるような会社があればいいぐらいに考えていました。

当時の面接官は少し変わっていたのか、逆にそういった考え方を評価してくれたため、何とか藤沢薬品に入社することができました。今となってはまさに若気の至りで恥ずかしい限りですが、それでも、あながち誤った考え方ではなかったようにも思います。

(松田)これまでで特に印象に残っているお仕事についてお話し頂けますでしょうか。

(嶋本氏)これまで様々な経験をさせて頂いたためどれも印象深いのですが、私の礎となっているのは営業時代で、特に大学病院を担当した最後の6年間です。

私が担当した大学病院は研究も活発で、担当する先生方の中には世界でも最先端の研究・発表行うようなグループがいくつもありました。研究グループには当時の私と同年代または若いぐらいの医師たちも含まれていましたが、彼らの仕事に対する情熱にはとても感銘を受けました。

研究においては世界中の研究グループと常に凌ぎを削っており、また臨床でも常に最高の品質を目指します。たとえば整形外科の中でも脊髄を担当している先生方は、ほんの数ミリでも操作を誤れば大変な事態に陥ってしまうような手術をされていたり、その他の領域でも、懸命の治療にかかわらず時には患者さんの死に直面せざるを得ないような厳しい仕事です。

もちろん製薬会社のいち営業である私がそのような場面を目にすることはないのですが、目の前で笑っている、自分とさほど年齢の変わらない医師たちがそんな厳しい仕事をしているとは到底信じられないような不思議な気持ちになったのをよく覚えています。そんな彼らですから営業担当である私にも同様にベストであることが求められました。この時の経験は今も生きているように思います。

(松田)嶋本さんがお仕事を進める上で心がけていることはどのようなことでしょうか。

(嶋本氏)一つ目は、「自分の頭でしっかり考えること」。周りがやっているから、誰かが言っているから、というのではなく、何をやりたいのか、なぜそれをやらなければならないのか、100%クリアに自分の腹に落ちるまで自分の頭でしっかりと考える。これは会社に入る前から大事にしていたことです。

二つ目は、「大小問わず、アウトプットをきちんと出すこと」。カナダでは、「自分が組織にいる価値を自ら説明できなければ、ここにいてはならない」のだなということを実感しました。私がカナダに着任してからも幾名か、残念ながら組織を去る従業員がいました。

日本にいるときから北米地域における雇用慣習は日本のそれと多少異なることは聞いていましたが、実際にカナダ身を置くようになってその意味を実感しています。大小問わず、求められるアウトプットを明確にして期限までに必ず成果を残すことを心掛けています。

三つ目は、こちらに来てからの研修でカナダ人の講師が言っていた言葉ですが、"just having fun makes better results"(楽しんで行った方が良い結果を生み出す)です。日本では、毎朝必ず決まった時間に会社に行き、ひとたび会社につけば黙々と仕事をこなし、必要とあらば残業も厭わず、場合によってはアフターファイブも連日会社のメンバーと飲みにいく、といったような労働慣習が一般的だと思います。

私もそのような慣習に疑問を抱きつつも、どちらかというと「仕事はつらいのが当たり前」といった感覚を持っていました。カナダに来てから全く異なる労働慣習の中で働きはじめたところに冒頭の言葉を聞いて、日本での働き方に疑問を持っていた私にとって、働き方や人生の過ごし方について考えを深めるきっかけとなりました。

(松田)プライベートなこともお伺いしたいのですが、お休みの日はどのように過ごされていらっしゃいますか。

(嶋本氏)これまでのところ、近場への小旅行を楽しんでいます。我が家は犬を2匹飼っているので、飛行機に乗ったり、普通のホテルへ滞在するのが難しいのですが、カナダはAirbnbが普及してますので、車で行ける範囲で豊かな自然を堪能しています。先日は、Oakvilleにあるレイク沿いのコテージを借りて、家族で過ごしました。オンタリオ湖が目の前にある大変気持ちの良いところで、リラックスできました。基本的には、旅行先では何もしないようにしています。

またカナダに来てから、アイススケートを始めました。子供がやりたいと言い始めたのですが、自分は見ているだけではつまらないので、自分用のスケート靴を買いました。スケートリンクがあらゆるところにありますので気軽に出来て、冬場は楽しみました。

(松田)旅行に出かけて何もしない、というのはカナダ人の典型的な過ごし方ですが、日本人にはなかなか難しいですよね。

(嶋本氏)こちらの人々の多くは、一週間単位で休暇を取って旅行に行っても、特に何もしないんですよね。予定を立てずに行って、本を読んだり、思い立って湖で泳いだり、という過ごし方は、事前に計画を立てたいタイプの私には苦手だったのですが、カナダに来てから色々と話を聞くうちに、「何もしない時間を楽しむ」ということを少しずつ覚えてきています。最近では、同僚から「休みはどうたった?」と聞かれて特に何もしなかったと答えたところ、「Kenも休み方が上手になってきたな」とほめてもらえるようになってきました(笑)。

(松田)今後、カナダにご在住中に挑戦したいことはありますか。

(嶋本氏)キューバやカナダの北部など行ってみたいところはいくつかあります。私は滞在できる期間が限られている駐在員ですので、私だけでなく家族皆で、いる間に可能な限りそれを満喫したいと思っています。

(松田)最後になりますが、商工会会員へメッセージをお願い致します。

(嶋本氏)商工会会員の皆様の中には個人的に食事に行ったりと仲良くして頂いている方々もいらっしゃいますが、そのように業種を超えて付き合える機会を持つのは日本ではなかなか簡単ではありません。似た環境の中で活躍される皆さまからは大いに刺激を与えて頂いており、感謝しています。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

(松田)インタビューは以上となります。本日はお時間を頂き有難うございました。




戻る   過去の新代表者紹介インタビュ一覧はこちら