カナダで活躍する若手日本人に聞く


トロントで活躍する若手日本人に聞く


英語教師 荻野 卓哉さん


今回は、トロント初純日本人ILAC正社員英語講師となった荻野卓哉さんにお話を伺いました。TORJAでトロント留学論を連載されており独特の英語習得術を展開されています。

(伊東、以下“伊”)本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。まずは、簡単にカナダに来られるまでの経歴をお伺いできますか。

(荻野さん、以下“荻”)大学卒業後2年ほど、乙仲業務と言われる輸出入の仕事をしていたのですが、その後英語教師をしていました。学生の頃から英語教師になりたいという憧れを持っており、海外での英語教育を学び、もっと英語教師として自分を磨きたいという思いを持っていました。

日本で日本人に英語を教えるのは経験しましたが、海外でいろいろな国の人に英語を教えるというのは、どういうことなのだろうという思いを持つようになり、国籍に関係なくグローバルに英語を教え、それが評価されたら日本に持って帰れるものがあるのではないかと思い、海外に出たのがきっかけです。

(伊)英語に興味を持ったのは小さい頃からですか。

(荻)大学生のときに、5ヵ月間アメリカのミズーリに語学留学したのですが、その時はネイティブが話す日常会話もまったく理解できませんでした。それで奮起し、その5ヵ月間で一生懸命勉強しました。この時が一番英語を勉強した期間でしたね。言葉で自分を表現できることの素晴らしさを体感したのが今に至る原点です。

(伊)その海外留学経験から、英語教師を目指し海外に飛び出してきたわけですが、なぜトロントを選んだのですか。

(荻)海外で長く、できれば5年くらいは住みたかったんです。オーストラリアやアメリカも調べたのですが、牧場で最大2年働けるオーストラリアも、会社からのスポンサービザがなければ長期就職しにくいアメリカも、「自分で自分のビザを補完して長期滞在する」という自分の条件に合いませんでした。

その点、カナダにはポストグラヂュエイト・ワークパーミット制度があるのでカナダにしました。そしてなぜトロントかというと、バンクーバーと比べて多国籍だったっところですね。

自分は、背景や文化が違ういろいろな人と話をしたり、違う人生の話を聞いたり、そして自分も話をしてそれを人と共有するのが大好きで、トロントに下見に来たときにいくつかのイベントに参加し世界中からトロントに移住してきた色々な方と話をすることができました。その時にトロントのほうが学びと可能性の幅が広がるし面白い出会いがあるのではないかと思いました。

(伊)それでトロントのカレッジに入り、ポストグラヂュエイトのワークパーミットをもらって、今に至るわけですか。

(荻)はい、受講した英語教育のTESLプログラムはとても有益でした。しかし2年目に予定していた広報系のプログラムは履修しませんでした。1年目のプログラム中に課題に追われる中で、本当にやりたい事が見えてきたからです。それは、発信する事でした。

その結果、学校に通いながら週1回のFacebook Live、TESLに関するInstagramの投稿、ブログの更新など、ソーシャルメディアを通して自分の英語学習の知識や経験を発信し始めました。

そうするうちに自分の中の「人に良い影響を伝えたい、与えたい」という思いがさらに膨れ上がり、これは2年目にさらに課題に追われ続けるよりも、卒業後はこうして実践的な発信をし続ける方が、カナダにいる間に自分が本当にやりたかった選択肢だと確信しました。

もう一年カレッジに行ったら、与えるという思いが消化されないままになり必ず後悔すると思い、2年目のプログラムは履修しないと決断しました。代わりに、1年目のプログラム修了後は、1年間のワークパーミットとその後にワーキングホリデーの計2年間を使って好きなことを目一杯発信し、日本に帰ろうと思っていました。

そんな中、たまたまILACの正社員教師の職に社会経験として申し込んでみたところ、採用して頂き、今に至ります。

(伊)今、こちらで英語を教えているわけですが、日本で教えていたときとどこが違うと感じていますか。

(荻)一番違うのは、生徒が求める先生のキャラクターや、コミュニケーションのしかたの違いでしょうか。

今、自分のクラスには7カ国からの生徒がおり、一番多いときには12カ国からの生徒がいたこともあります。彼らが望む先生というのは、エネルギー量が高くてジョークが言えて優しく、返答が速い、そしてどんどん引っ張っていってくれる先生が人気です。

日本の場合には、明るいということは必要なのですが、共感してくれる人のほうが好まれますね。こちらの教室では、どんどん引っ張ることで生徒同士の壁を壊してクラスを作りますが、日本の場合には、無理やり引っ張るよりも一人ひとりに共感して進めるほうが好まれます。

(伊)今後、日本に帰ったときに、こちらの進め方を日本でもできると思いますか。

(荻)それはどうでしょうかね。第一言語のバックグラウンドが違うため、日本人は外国人のようにアグレッシブに外国語を使って表現するということに慣れていないですよね。日本人の場合には、外国語を使うときに、これで正しいのかという壁を自分の中に持っていて、それをスローテンポで先生が導いてあげることが必要になると思います。

こちらのクラスに日本人が数名入ることもあります。彼らはいろいろな国の人の中で学んでいるのでその空間の中では非常にアグレッシブになれていますが、日本人ばかりのクラスの中ではなかなか難しいかもしれません。でも、日本でも、海外でバリバリ仕事をしたいと思っている人ばかりのクラスであれば、熱量の高い授業もできるのではと思います。

(伊)こちらで教え始めて数ヵ月と伺っていますが、これまで記憶に残っている生徒はいませんか。

(荻)一人は台湾人の男性で、お父さんが会社を経営されている生徒さんですね。自分が会社の一員になる前に英語の実力をつけたくて、親を説得して英語の勉強に来ていました。英語を学びたいという気持ちが強く、とにかく分からないことはとことん質問してきました。

単語の意味や文章の解読だけでなく、自分で考えた応用文なども積極的に発言してくる、いわば前のめりの態度で、他の生徒の発言を遮ることも多く、クラスの空気など気にしない生徒でしたね。その生徒に刺激されてか、他の生徒も積極的に質問するようになりました。

(伊)そのような積極性は日本人ではなかなか見ないですね。

(荻)そうですね。他には、やはり中国人の生徒さんで1ヵ月だけクラスにいた、とてもシャイで発言も小さな声で聞き取れないくらいの生徒さんです。クラスでは話すのが嫌なのかなと思えるほどシャイだったのですが、クラスが終わると必ずありがとうと言って教室を出る子でした。

授業の最後の日には、手紙ととても綺麗な生地でできた中国からのお土産を頂きました。手紙には、今まで会った先生の中で一番好きです、と書いてありました。クラスではシャイだったのですが、これまで教えてきたのが伝わっていたんだな、クラスでは楽しんでくれていたんだなというのが改めてわかって、思い出に残る生徒でした。

(伊)困った生徒はいませんでしたか。

(荻)いましたね。教え始めて2ヵ月目に中級レベルの10人くらいの小規模クラスで教えていた時、スイス人の生徒がいて、話と質問が止まらないんです。分からないと理解できるまで質問をし続けるんですね。

クラスルームはお金を払って時間を共有しているので、その生徒の発言や質問の時間に自分の時間を投資したくない生徒もいるんですね。それをコントロールするのに困りましたね。話し続ける彼もお金を払っているわけで、全体のバランスを取るのが難しかったです。

でも、その彼も自分の進め方を好きになってくれましたね。自分は英語を教えるときには、生徒一人一人と糸でつながっているという感覚をもつようにしています。たとえ生徒の一人と話をしているときでも、他の生徒と糸がつながっているので、他の生徒も話を聞いている、他の生徒さんの時間も取っているという感覚を大切にしています。

一人の生徒に話す場合でも、他の生徒も興味を持つようなトピックで質問したり、途中で他の生徒に発言を振ったりして、クラス全体を巻き込むようにしています。そうすることで、彼だけがクラスの中で独り歩きするのではなく、バランスのよいクラスになるようにしています。

(伊)クラス全体を見た細かな配慮ですね。では、教え方の中で失敗したな、と感じたことはありませんか。

(荻)毎日ではありませんが、教えることは常にトライアル&エラーなので、クラスルームは実験の場なんです。ILACにはマニュアルがなくて、曜日毎に教えるページが指定されるだけで、後は、自分で与えられた5時間をどう組み立てていくかです。日本で教えていたときには、分単位のレッスンプランがありましたが、こちらではそれがありません。

たとえばディベートを取り入れるときでも、いきなりディベートに入るのではなく、質問リストを作っておくと理解が早いとか、反論説明する理由を先にたくさん考えさせボードに書き出してからディベートを始めると議論が活発になったり、それが最後ライティングにも繋がっていったりと、まさにトライアル&エラーでクラスを作るのに苦労しました。

特に最初の1、2ヵ月がとても大変でしたね。当時は、レッスンプランを作るのに5時間もかけていました。

(伊)日本でも英語を教えていたわけですが、それ以前に教師の経験はなかったのですか。

(荻)なかったですね。

(伊)それでよくそこまで細かな工夫をした授業計画を作れますね。

(荻)ありがとうございます。僕は英語教師ですが、同時に学習者でもあると思っています。アメリカに5ヵ月留学したときにお世話になった先生がしてくれた楽しかったアクティビティーや授業のやり方には衝撃を受けました。

中学以降、教室でグラマーの説明を聞いているような授業とは本当に違う、こちらの授業のスタイルに出会い、こんなに英語を楽しく学べるんだということに気づき、これを忘れないようにしようと思い、今でもその教え方に自分を近づけている部分があります。

多くの人と順番にペアを組んで課題に取り組み、最後は握手して終えるというスタイルは今も取り入れており、これをすることで生徒同士が非常に親密になります。それ以外にも、これまで自分がお世話になった先生方のよい部分を取り入れて、レッスンプランを作っています。生徒としての経験から、何が生徒にとって面白いかを考えています。

(伊)今後こちらで続けていくのか、日本に戻るのか、いま時点でどう考えていますか。

(荻)当初、日本を拠点に学校を立ち上げたいと考えていたのですが、予想外に今のILACの授業が満足感を得られるので、そのやりがいを捨ててまで日本に帰るかと、今葛藤しているところです。今の仕事は正社員ですので、永住権の申請をしてみて、それが取れればその時に考えようかと思っています。

もちろん、日本に貢献したいという思いは変わりません。将来は日本の英語教育を変えたいという思いはあります。英語教育コンサルタントや、公立学校の英語教育現場へのアドバイスなどで、英語教育を変えられればいいなと思っています。そのために、今は自分を磨く時期だと思っています。

(伊)日本は英語教育が話題になっていますが、なかなか進んでいませんよね。

(荻)そうですね。東京オリンピックもあり、英語熱は上がっていますよね。ネイティブの英語の先生は呼べばたくさん来ると思います。しかし、日本で英語教育を受けてきた人にはコンプレックスのような壁があり、そうしたことを体験してきた日本人でなければ、英語を学ぶ生徒が持つ苦しみを分からないことがあるのではないかと思います。

自分はネイティブではありませんが、日本で英語教育を受けていた日本人だからこそそうしたところが理解でき、共感して彼らのゴールに向けて、背中を押してあげられるのではないかと思っています。

また、日本人教師であることで、逆に生徒に言い訳を与えないということもあると思います。生徒には、英語を話すことに自信を持って欲しい、そして生きることに自信を持って欲しいと思っています。自分のような人間が彼らのゴールになれば理想ですね。そのために、日本人の英語学習をサポートしたいと思っています。

(伊)日本人の英語学習のサポート、ひいては日本の英語学習の変革、がんばってください。本日は、お忙しい中ありがとうございました。

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荻野さんは、まだ20代後半になったばかりの若者ですが、今回お伺いしたように、自分の経験を十分に活かし、生徒さんの目線に立った細やかな配慮をして、将来は日本の英語教育を変えたいという大きな野望を抱く、たくましい希望の星です。このような若者がトロントで活躍していることを知り、嬉しくなったインタビューでした。




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