リレー随筆


日本食をツールに

Natural Japaneats
前澤ちひろ


気がつけば早12年、結婚・出産を経て女性として妻として母としての理想と現実を天秤に掛けながら、ガムシャラに駆け抜けた日々だったように思います。

漠然とした夢を持ちながらも、大卒というレールを外れるだけのガッツもなく、日本の食品商社に営業職として就職。社会人として大いにシゴカレタ後、大きな決断を胸にカナダの地を踏みました。

2010年より、ファーマーズマーケットにて菜食料理を提供しています。地域に深く密着するファーマーズマーケットに魅せられ、毎週通う内に自分にもベンダーとして何か出来るのではないか?と妄想を膨らませるようになりました。私を強くそうさせたのには、このような経験があったからに間違いありません。

「WWOOF」というプログラムをご存知ですか? World Wide Opportunities on Organic Farms。有機農家にて労力を提供する代わりに、食事と寝床を用意して頂くというエクスチェンジプログラムです。

1970年代にイングランドで始まったこの組織は、世界各国に広がり今では60カ国にて、ボランティアとオーガニックファーマーとの無報酬の交流が続いています。

私は学生時代学んでいた環境問題へのアプローチの一環として、長期休暇にはウーファーとなり、日本各地、時には海外にて様々な体験をさせて頂きお世話になっていました。

分厚い冊子の中から、いくつものホストファームのプロフィールを読み、気に入ったところへ直接メールや電話をします。このワクワク感と言ったらありません。その頃から料理に興味があった為、選ぶ所は必ず農家レストランも経営しているファームでした。新鮮な地場野菜を使った料理を提供する、地産地消システムにも大変興味があったのです。

カナダへ来てからもウーファーをし、ベジタリアンレストラン厨房では多くのことを学びました。そして何よりグローバルな都市トロントでの新しい食文化との出会いは、常に驚きと発見と刺激がありました。

また、学生時代から独学していた「マクロビオティック」をアメリカへ学びにいく機会にも恵まれ、自然治癒力が働く身体をつくる食事法、調理法を大自然の中で徹底的に実践し自分の中に取り入れるきっかけを与えられました。

こうして、「食を通じてカナダの人々に何かを発信したい!」という気持ちがフツフツと湧きつつ、小さな子供を抱えながらでも出来ることを探っている内に、自分のキャリアの礎となるファーマーズマーケットへたどり着いたのでした。

その頃ベンダーになるには5年待ちと言われているウェイティングリスト、オンラインで応募をしても当然の如く返信はありません。ダメ元で直接マネージャーへサンプルを持ち出向いたところ、その熱意が届いたのか無理矢理2週間に1度の出店枠を得ることが出来ました。

Wychwood Barns Farmers’ market ここから私の新しい人生が始まりました。トロントでも数すくない年中行われるマーケット。およそ40ファーマーと私の様なfood artisan が20程、8時〜13時までの間に来場客は4000人にもなります。
 
夏はライブミュージックと共に公園中がお祭の様に活気に溢れ、地域の家族連れからお年寄りまで、カゴを持って徒歩で買い物に集まって来ます、車社会のカナダにはなかなか見られない光景です。冬は公園内にある昔ストリートカーの車庫として使われていたbarnを会場に、真冬の寒さを一時忘れるかの様な心地良い空間の中、毎週末買い物客で溢れています。


オンタリオのファーマーによって手間暇かけて育てられた野菜たちをふんだんに使い、玄米のおにぎりや巻きずし、お味噌汁、夏に多く収穫されるベリーを入れた大福など、カナダと日本を融合させる意味を込めて、各収穫時期の移り変わりと共に商品を展開させています。冬場でも、夏の収穫物をうまく保存し、出来る限り地元のものを使うよう心掛けています。

毎週同じものを作り販売するのではなく「これを使って日本のアレを作ってみようか」など、描きカタチにしていくこの仕事はワクワクが止まりません。また、食材生産者とお客様両者の反応を直接感じられる現場は常に新たな学びと喜びがあります。

ファーマーズマーケットとは、ファーマー・料理人・職人・そして都市に暮らす人々、が参加する重要なコミュニティだと捉えています。昨年よりEver Green Brick Works Farmers’ market への出店も始まり、益々多くの方々へ日本食をツールとして

 ■ 人と人との繋がり
 ■ 食の安心安全
 ■ 地産地消による地域活性化
 ■ エネルギー削減しいては環境保全

などなど、自分の理念をお伝えしたいと思っています。

この度2019年はじめのリレー随筆バトンを担うにあたり 、「今」の自分自身のルーツを改めて考えさせられ、さらに今後カナダに住むいち日本人としてどのように成長していきたいのかを考えさせられる、貴重な経験を与えて頂きました。大変感謝しております。

トロントに住む日本人の皆様にとって、素敵な一年となりますよう心からお祈り申し上げます。





この号の目次へ戻る   「リレー随筆」記事一覧ページへ