リレー随筆


歴史を紐解くように~日加間の相続問題を通して
パレット・ヴァロ法律事務所 オンタリオ州弁護士 スミス 希美



現在私は、相続法を中心にカナダでの生前の相続対策と、死後の相続問題に関わる法律業務に従事している。中でも、日本とカナダの間で生じる相続問題をよく扱う。弁護士になった8年前は、日本語を使うことはないだろうと思っていたので、人生分からないものである。

さて、私の最初の日加間相続の案件は、日系カナダ人のご家族からのご依頼だった。「亡くなった父が日本に土地を持っているらしい。でも日本語を読める人がいない。父のカナダの遺言書で、日本の土地をどうにかしたい」と言う日系人のご家族が日本語の書類を一式持ってやってきた。

その中には、土地の権利書だけでなく、日本の尋常小学校時代の表彰状、筆書きの戸籍謄本、日本の親戚からの手紙なども見つかった。ちなみに、昔は日系コミュニティーに必ず一人、日本語を訳してくれるお年寄りがいて、よくこのような日本語書類を見てくれたそうである。一つ一つの書類に目を通しながら、先代の日系カナダ人の苦難の歴史と重ね、思いをめぐらせた。

もう一つ印象に残るのは、日本のある都道府県からのご依頼だった。「県道を新しく作る予定だが、この土地の権利を持つ人の末裔がトロントにいる。このご家族のために、必要な書類を作ってほしい」。ここで問題となったのは、カナダにはまず戸籍がないということ。

日本の法務局に受け入れられる形で、各相続人の戸籍謄本にあたるものを準備してほしいと頼まれる。戸籍謄本は、両親の名前、出生地、結婚、離婚、死亡などすべての身分情報が集約されていて実に便利である。これをカナダ政府発行の一つ一つの身分証明書を集めながら書類を作成すると、一人分が一冊の本のようになった。

この件のおかげで家系図を手に入れることができ、ずっと知りたかった日本のルーツを知ることができたと、日系カナダ人のご家族に喜ばれた。また、しばらくして、「お蔭様で、小学校の児童たちが安心して通学できる道ができました」という完成したばかりの道路の写真を日本から頂き、心が温まる。

このように、日加間の相続問題は、まさに日本とカナダの人々の往来の歴史の鏡である。戦前に海を渡った日本人、戦後の新移住者、国際結婚での移民、日本に移住したカナダ人、カナダに資産を持つ日本人、ビジネスでカナダにやってきた日本人。海を越えた人と人とのつながりをたどりながら、歴史と文化、言葉、法律などの様々な違いを超え、いかにしてシナジーを生み出すかに知恵を絞る。

さて、ふとわが身を振り返り、自分の子供たちもいつかこのような問題の当事者になるのかもしれない、と思うと他人事ではないのである。




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