リレー随筆

カナダ2020

10年目のカナダにて
RYUS Noodle Bar 
オーナーシェフ 高橋 隆一郎



2017年10月29日、私のカナダ生活は10年を迎えた。

光陰矢のごとしとは良く言ったもので、あっという間と言う表現が最も適正であるように思える。

5年努めた外食チェーンを退職し、留学を志してカナダのバンクーバーへ成田から出発した日の事を、今でも昨日の事のようにしっかりと覚えている。到着した10年前の10月29日には、自分がここトロントで生活しているとは全くと言っていい程想像していなかった。

良い意味で、10年経った今も来年はどんな自分が待っているのか今から若干の不安と大きな楽しみが混在している。

今、私はトロントでラーメン店を経営させてもらっている。その起業した原動力となっているのは、ご多分にもれず現状への憤りと未来への期待値である。

憤りの核は、バンクーバーでの体験、経験だ。それは、日本食レストランの数と多さに反比例するかの如く、そこでの日本人のイニチアシブの無さであった。ある程度のクオリティの和食を提供する店舗は、多く見積もっても全体の10%以下であり、その多くは「日本風」や「日本っぽい」食事を提供する場所であった。

これは、多くの人が知るところであっただろうが、百聞は一見にしかず、初めて北米を訪れた私にその衝撃は大きかった。自国の食が愚弄されている。間違った自国の食が他国に伝わっている。自国の文化が壊されていく瞬間を目の当たりにしているかのようであった。

ただ、一方でこのような状況だからこそ、少ないながらも懸命にそれを正そうとしている日本人の姿がただ純粋に輝いても見えたことも事実である。

この経験、体験は同時に自分の日本人としてのアイデンティティを大きく芽生させた瞬間でもあった。外から見る日本がこれほどまで、繊細で緻密で、考えられたサービスを提供してるのだ気づくことが出来た。

今まで日本での飲食人として「お客様をいかにしたら感動させるか」と言う考え方を徹底的に考えてきた自分が、海外での日本人飲食人として、「異文化のお客様にこの素晴らしい食文化を伝え、広げ、そして理解、感動してもらえるか」にシフトしていくのに、それほどの時間はかからなかった。

常々人を動かすのは、正論ではなく共感論であると私は教わった。当然、当時の私が知っているのは日本での正論でしかなく、彼らがどこに共感するかどうかなんてわかるはずもなく、香港人のレストランオーナーと、中高生の喧嘩を彷彿とさせる睨み合いをした事も過去の話。(笑)

この10年、インド人大家との交渉、白人工事業者とのせめぎあい、40年在住の日本人との難儀な交渉も踏まえて様々なビジネスの現場で「彼ら」を勉強させてもらうことが出来た。

先日、新移住者50周年と言うパーティーに参加させてもらい、第2次大戦の頃の財産没収や差別など日系人がここで生きていくだけでどれだけ大変だったかを再認識した。

本当に先達の礎の基で我々新移民は生かされている事を知るべきであるし、今度は我々の世代がその礎に少しでも、日本の素晴らしさを後世に積み上げていかねばならないのではないだろうか。

日本人は、おそらく数でのマジョリティを取る事は出来ない。しかし、経済、文化レベルでのマジョリティは取る事は出来る。私はそう信じて止まない。

3年前、第一子を授り、今夏、第二子を授かった。二人ともカナダ人である。
彼らは、私や妻のように日本での生活を知らない。ここカナダで産まれ、育ち、成長していくことだろう。

日本の全てが素晴らしいとは思わない。しかし、日本の良い部分はカナダに居るからこそ少しは見えているつもりだ。

そんな私の想いの一端を、2018年の正月、私の仲間と一緒にここトロントで
初めて形にできる機会を得た。トロント本願寺さんとのコラボレーションで行う日本文化啓蒙活動の一環としての初詣イベントである。

このようなイベント企画を了承してもらえた事に感謝と共に成功させねばという強い思い、そして何より今の日本人のパワーを見せてやろう!と言う気持ちが非常に強いイベントです!

大きな趣旨は、日本の正月、お祭り感をカナダでも味わってもらい、日本文化の素晴らしさ、楽しさに少しでも触れてもらうこと。そしてそれをきっかけにワーホリ等でこちらに来られている若い方にも日本文化の素晴らしさ、優位性を少しでも再認識してもらい、踏襲、継続してもらう足がかりとなればという想いからこの企画に至っています。

もちろん、そこには世代を超えた交流があり、同世代との協働があり、異文化のとの交流があり、まだまだ閉塞感のある日本の将来をここカナダ、トロントから今は小さくとも声を上げ、大きなうねりを出して行きたい!と我々の仲間は皆、心に強くその想いを抱き現在も最終の準備に追われています。

当日は出来る限り多くの人に来て頂き、是非楽しんでもらいたいと思っています。食イベントのメインはトロントラーメン店の当日限定のコラボラーメンでの対決!

・麺処一心×RYUS Noodle BAR VS ラーメン雷神×Ryoji居酒屋
この対決を筆頭に金魚居酒屋、ざっ串も自慢の一品で皆さんを迎えてくれます。

2018年1月1日はトロント本願寺にて、皆様と一緒に日本文化の良さを再確認し、皆で大いに笑い、楽しみ、語り合い一年をスタートさせていければと思います。正月帰省されない方は是非遊びに来てくださいね(笑)!
お待ちしています!



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