商工会特別企画 総領事商工会会長特別対談

在トロント日本国総領事館 伊藤 恭子総領事 (商工会名誉会長)
聞き手: Canon Canada Inc. 江川 泰三郎 社長 (商工会会長)



トロントに着任されたばかりの伊藤恭子総領事に、トロント日本商工会 江川泰三郎会長がお話を伺いました。


国連外交、EPA交渉、国際報道官等を経て2度目のカナダ赴任
江川)お忙しい中、お時間をいただきまして誠にありがとうございます。今年度トロント日本商工会で会長をさせていただいておりますキヤノンカナダの江川と申します。まずは、カナダに進出している企業を代表しまして、ご着任おめでとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。

伊藤)こちらこそよろしくお願いいたします。

江川)それでは早速ですが、まずはご略歴をお伺いしたいのですがよろしいでしょうか。

伊藤)外務省に入りましたのが1985年でございます。その後、1986年から1988年までオタワのカールトン大学におりまして、その後3年半、在カナダ日本国大使館に勤務しておりました。日本に戻り、さらにカナダ担当をしまして、入省後の10年間くらいはカナダ担当をやっておりました。

その後、マルチの外交担当になりまして、国連、アジア・ヨーロッパ会合、OECD・DAC、アセアン等の外交の場に接してまいりました。

東京と外国を行き来しておりましたが、ここに来る直前には東京に3年ほどおりまして、最初の1年半は国際報道官として外国プレスに対する日本の発信、次の1年半は儀典総括官として在京の外交団のお世話や、宮内庁、皇族の方々の外国との関係、外国人の叙勲などの関係の仕事をしておりました。

江川)ありがとうございます。いろいろなご経験の中で一番印象深い、もしくは大変だったお仕事というのはございましたでしょうか。

伊藤)一番というのは難しいですが、国連の外交というのは私にとっては経験を積ませていただけたところでした。まだ若く、書記官というレベルでしたが、担当分野では一人で日本を背負ってマルチの場で議論していくという経験は非常に勉強になったと思います。
いろいろな国の英語も聞かせてもらいました。

そうした中で、いわゆる途上国とEUがそれぞれグループを形成して提案をしてくるのに対し、いずれにも入らないアメリカ、カナダ、日本が情報交換をしながらやっていたのですが、双方が対立しているときに日本が提案をして話がまとまるとか、日本がこう言ったので賛同して考えを変えたとか、そういう反応を聞くと非常にうれしかったですね。

国連外交での成果物では、誰がどのような貢献をした結果なのかが見えないのですが、条約の文言に日本が提案した文言が合意され盛り込まれているのは非常にうれしいことでした。

それから、EPA経済連携協定の交渉官をしていた時がありまして、インドネシアとチリとの協定については最初から最後まで関与しておりました。交渉ですから相手国とは対立する立場にもあるのですが、最後はなんとかまとめようということで、それこそ朝の3時、4時までみんなで文言を一語一語詰めていくという共同作業の喜びを感じることもできました。

江川)そうした交渉事で合意にこぎつけるためのコツのようなものはあるのでしょうか。

伊藤)それぞれお互い国を背負って立っているわけですが、長い交渉をしていることでお互い分かり合える部分が見えてきますし、また人間として尊敬できるという部分も重要だと思います。

私は投資分野の専門だったのですが、公式的にはお互いの立場を主張しながら、非公式に話をしたり、事前に会ったりしながら、落としどころを互いに探ったりしました。

江川)非常に大切なお役目ですね。貴重なお話し、ありがとうございます。先ほど伺ったご経歴の中で、カナダに留学され、大使館での勤務も経験されているとのことですが、今回カナダに着任されるにあたり、カナダに対する特別な思いというものはおありでしょうか。

伊藤)そうですね。私にとっては、カナダは第二の祖国という気持ちがあります。総領事館での勤務は初めてで、これまでは大使館か代表部という外国公館での勤務でした。

自分がよく知っている、そして馴染みのあるカナダに於いて、できるだけ日本人滞在者や旅行者の方々の安全を守るとともに、日本という国の素晴らしさを、カナダ最大の都市トロントをベースにして発信していきたいと思っております。

日加関係、経済環境の変化

江川)そういった意味では、カナダも日本という国を意識していると伺っておりますが、日本国にとって最近のカナダはどのように位置づけされているのでしょうか。

伊藤)ここに来る前にいろいろな方とお会いしてきたのですが、今、北米を再発見し、特にカナダを再発見しているという感じです。

トルドー首相になって政権が若返り、2016年伊勢志摩サミットにいらしたときにもちょっとしたカナダブームがあったのですが、来年はカナダがG7議長国になるということもありますし、今NAFTAにしろTPPにしろ、いろいろなところでトルドーさんの顔が見えるということもあると思います。

また来年は日本とカナダの外交関係樹立90周年ということもあり、カナダとの関係をより強化していこうと皆さん感じていらっしゃるようです。経済の面でもアジア、中国が若干減速している中でカナダは安定して成長してきており人口も増えているということで再び注目しているということを感じています。

江川)私もアメリカに住んでおりましたが、隣国でありながらカナダはあまり目立たない存在という印象があったのですが、トルドー首相になってからカナダのエクスポージャーが高くなってきており、カナダに対する認識がかなりレベルアップしているように思いますね。

今TPPのお話が出てまいりしましたが、カナダはTPPの先行きが見えてこない場合には二国間EPAを進めたいと思っているようですが、それに対してのお考えはいかがでしょうか。

伊藤)日本の立場は非常に明確で、今のTPPというのは非常に高いレベルでの交渉をして決めたわけですから、これを早く批准してアジア・太平洋に広めていきたいという考えは変わっておりません。そういった意味では、カナダのほうでも早く批准するようにがんばって欲しいというのが切なる願いです。

江川)カナダにおります日系企業にとりまして、どうしても隣国アメリカの経済に影響を受ける部分がございまして輸出の8割くらいが米国向けとなっており、こちらで生産している日系企業もありますので、今回のNAFTAの動向やトランプ政権の先行きに皆さんの関心が高いのですが、その辺についてはいかがでしょうか。

伊藤)総領事という公的立場ですので第三国の政権についてコメントすることは控えさせていただきますが、日本の企業がNAFTAの下において人、モノ、サービスが自由に行き来するという前提に基づいて、カナダにたくさん進出されておりますので、今のNAFTA再交渉の行方を非常に関心をもってフォローしていることは十分承知しております。

そうした在カナダ日系企業から伺ったお話を代表してカナダ政府に伝えていくということも承知しておりますので、引き続き注視していきたいと思っております。

江川)今、アメリカに限らず欧州も含めて「自国保護」ということを全面に打ち出す傾向が強いように感じており、多国間の取り組みよりも二国間のFTA,EPAに持っていこうとしている国が多いようですが、貿易に関してなぜそのような動きになっているのか、お考えを伺えますでしょうか。

伊藤)カナダもそうだと思いますが、日本にとって「保護主義」が自国のためではないという立場は変わっていません。

二国間であってもそれは保護主義ではなくて、自由貿易のための協定であると思います。日本も二国間で交渉しているEPAもありますし、またTPPであったり、日本とEUのEPAであったり、そういった地域間の自由貿易を守っていくという立場は強いです。

日本の国益を守るというのはもちろん大切であり、保護主義は結果としては自国の益にならないという立場は変わっておりません。

江川)多国間で自由貿易をすることが長い目でみると日本の国益にとってメリットがあるということでしょうか。

伊藤)そうですね。もちろん二国間でやっているものもありますが、それは保護主義のためにやっているのではなくて、むしろ自由貿易のための協定を結ぶということで行っているものです。我々の経験からも、保護主義というものは世界経済にとって良くないという立場です。

江川)政治的、経済的に先進している国が保護的になってきているわけですが、今の時代において、いわゆる先進国が果たす役割についてどうお考えでしょうか。

伊藤)G7先進国首脳会議があり、そこでいろいろな課題を話し合っております。トランプ大統領、トルドー首相含め各国首脳が会って議論しているわけですが、そこでは保護主義の話ではなくて、いかにして世界経済の発展のために先進国がリードしていくかを話し合っているわけです。

その役割は今後も果たしていかなくてはいけないと思っています。その中で、日本は去年、質の高いインフラを世界に提供していくことが、それを提供する側、受け入れる側双方の経済発展に資すると訴えております。

それから女性の活用をますます進めることで貢献していく、さらには保健衛生の問題、特に途上国の人たちにとって保健衛生の問題に対処していくことはより大きな経済、社会的な発展につながっていくと思っています。

また、2015年には、国連においてSDGs(持続可能な開発目標)が採択されており、日本ではピコ太郎さんがCMに出て推進などしておりますが、これは単なるG7ではなくて国連という普遍的な国際機関の下で世界が一丸となって取り組もうとしている重要な課題です。

経済・社会分野で幅広く、2015年から2030年までの間に取り組むべき課題を皆で合意しているわけですから、先進国はより積極的に推進していくという立場で協力していく必要があると考えています。

江川)商工会という立場から、経済関係のお話をいろいろ伺いました。次に、増えている邦人の安全対策についてお伺いしたいと思います。カナダでもローンウルフという単独犯によるテロが発生するようになっておりますが、カナダでの安全対策についてどうお考えでしょうか。

伊藤)着任してからいろいろな国の総領事、警察関係の方にお会いしていますが、皆さんから「いやあ、トロントは安全ですから」と言われます。しかし、そうはいっても現在、過去におきましてカナダでもいくつかテロが起きております。

個別の事件については言及しませんが、カナダは多民族ということでいろいろな方が入ってきますので、ローンウルフのようなテロの可能性は排除できないと思います。

その意味では、トロントが一般的には安全と言われていましても、一人一人が認識を持っていただくことが重要だと思いますし、そのための注意喚起を総領事館としても行っていくことが必要と思っております。「たびレジ」や「在留届」は是非使っていただきたいと思います。また、皆様と総領事館との関係強化も今後行っていきたいと思っております。

江川)やはり個人の意識が大切ということですね。

伊藤)そうですね。そのためにも、安全対策協議会の回数を増やして情報を提供しながら広めていくことに努めるとともに、皆様の質問、心配事についてもこちらの方でくみ取って対応していくような仕組みにしたいと思っております。


日本の食や文化紹介を更に推進

江川)もうひとつ、日本についてお伺いしたいと思います。一時の経済成長の時代から変わって日本食、日本酒、アニメーションなど日本文化に対する関心が非常に高くなっているように思います。私もこちらで日本語弁論大会を支援しており、若い人の弁論を聞く機会があるのですが、やはり日本への高い関心が今でもあることを感じます。

特に2020年に東京オリンピックが開催されますし、カナダの方の日本への渡航も増えているようですので、日本の文化として特に力を入れたいとお考えの分野はございますでしょうか。

伊藤)実はわたくしも食いしん坊でございまして、日本食、日本酒という分野については力を入れてやっていきたいと考えております。日本政府としてこれらを積極的に推進するという方針もありますし、JETROでも今年4月から日本の農産品の輸出のための取り組みを始められたと聞いております。

その意味では、総領事公邸にも日本食の料理人を連れてまいりますので、そこからも発信していきたいです。トロントにもかなりの数の日本食レストランがあるようですが、トロントに限らずオンタリオ州全体にも広げていきたいと思っております。

実は、昔こちらで剣道をやっていたことがありまして、当時はオンタリオ州大会といっても女子12人しか参加しないということだったのですが、最近は各大学にも剣道部ができていてものすごく剣道人口が増えたということを聞きましたので、そうした意味では様々な日本文化についてもできる限り機会を設けて、活動をされている方々の支援もしていきたいと思っております。

江川)先日お伺いしたときに、オンタリオ州大会で優勝されたと伺いました。

伊藤)そうなんです。当時は12人しか参加者がいなかったので、楽だったんですけど今はもうダメですね。

江川)その以前から剣道はされていたんですか。

伊藤)ええ、日本で中学、高校とやっておりました。

江川)日本文化をもっともっと広めていただきたいですね。
商工会としてですが、今オンタリオ州には250以上の日系企業があり、そのうち120社くらいが商工会の会員になっていただいております。そうした日系企業に期待することはありますでしょうか。

伊藤)先ほども申し上げましたが、今、日本は、北米市場、カナダ市場を再発見している時期でございまして、是非この時期に日本の売り込み、ご商売を頑張っていただきたいと思っております。

政府としては、先ほどの日本食、日本酒を含めて貿易を活性化したいと思っておりますし、質の高いインフラの売り込みも進めたいと考えております。

大使館および私たち総領事館は、民間企業の活動をお助けするという立場ですし、外務省経済局の中に官民連携推進室という部署を作っておりますので、是非遠慮なく相談していただきたいと思います。

江川)日系企業が加盟している商工会という組織に対して期待等はございますでしょうか。

伊藤)理事の方々は本業に加えて、商工会のお仕事をされていることは本当にありがたいことだと思っております。魅力的なイベントやサービスが増えて、会員数が増えていけばいいなと思っております。

プライベートライフ
江川)ありがとうございます。最後にプライベートのことを少しお伺いしたいと思います。いろいろなご趣味があると伺ったのですが、どのようなご趣味をお持ちでしょうか。

伊藤)最近、剣道はあまりしていないので言えないのですが、旅行は好きです。今までニューヨーク、マレーシア、インドネシアにいたのですが、よく任国内を見て回りましたし、カナダにいたときにもニューファウンドランドまで車で運転して行ったことがあるんです。

北の準州のほうはまだ行っていないのですが、旅行は好きですしオンタリオ州の中でまだ行っていないところもたくさんありますので、そうしたところを回ってみたいと思っております。

あとは食いしん坊なところもありまして食べ歩きもしてみたいと思います。骨董品も見るのが好きで、特に北米に残っている日本のアンティークなどを買って、里帰りではないですが、公邸などにおけるようにできたらいいなと思っています。

あとひとつ、実はフィギュアスケートが好きなんです。昔、札幌オリンピックに出ていたジャネット・リンという選手が好きで、カナダに留学しているときにはカナダのブライアン・オーサーがまさにカルガリー・オリンピックでバトル・オブ・ザ・ブライアンズ(アメリカ代表ブライアン・ボイタノ選手との対決を表したもの)があり、カナダのブライアンを応援していました。

現在は、そのブライアン・オーサーの下で羽生結弦選手がトロントを拠点にして訓練をしているので、トロント近郊でどれだけ試合が観られるかはわかりませんが、応援したいと思っています。

こちらに来る前に、日本スケート連盟会長の橋本聖子先生にお会いしたときに、トロントには日本のスケート選手がたくさん行くのでよろしく、とも言われました。そうした選手の方々をどうしたら励ませるのかなあということも考えたいと思っております。

江川)小さい頃、ジャネット・リン選手には私も憧れましたね。

伊藤)そうですよね。我々の世代にはやはりジャネット・リンですよね。少女からみても妖精のようでしたね。

江川)大変なご多忙の中、ご自身の健康管理についてされていることなどありますでしょうか。

伊藤)やはり歳相応に幅も厚みも出てまいりますので、体幹の代謝を高めるためにテレビのニュースなどを観ながら30分くらいストレッチや体幹運動をしております。それに加えて、エア縄跳びを10分くらいやるようにしています。まあ、成果があるのかないのか分かりませんけど。

江川)冬の間はどうしてもインドアでの運動になりますね。私も朝と夜は体幹運動を行うのですが、それだけでも結構汗をかいたりしますね。

伊藤)オタワにいた頃は、10分くらいでガティノー国立公園のコースに行けたので、クロスカントリースキーを買って、冬の間、汗をかきかき走っておりました。あれは、時間当たりのカロリー消費量が一番高いスポーツだそうですね。

あそこのコースは駐車場から出ると、いきなり上り坂なんですよ。その後、滑り降りた後に平坦になるのですが、マイナス20度の中、そんなコースを走っておりました。
江川さんはなにかスポーツはされるんですか。

江川)季節のよいときには、トレイル散策をします。オンタリオ州内にはたくさんのトレイルがありますので、歩いたりバイクに乗ったりします。冬は室内でトレーニングをしたりするだけですね。

あと、ストレス発散にギターを弾きます。寝る前に弾くと気持ちが落ち着きます。資料を拝見したら、総領事は邦楽をされるそうですね。

伊藤)琴と三味線をやります。宮城道雄さんの始められた宮城会という会で細々と続けてきまして、大師範をいただきました。日本にいる時には師匠について稽古にいき、年に2、3回は演奏会に出させていただいておりました。

トロントではいろいろな方が邦楽をされているらしいので聴くのを楽しみにしております。一応楽器は船便に入れて送っております。オタワに書記官でいた若い時には、日本の夕べで琴を披露したこともございます。

江川)是非、機会があればお聴きしたいと思います。それでは以上でインタビューを終わらせていただきます。お忙しい中、お時間をいただき誠にありがとうございました


                     

この号の目次へ戻る