カナダで活躍する若手日本人に聞く


Autodesk Canada, Head of Design & Fabrication group

梅谷 信行 研究員


今回は、トロントダウンタウンにあるMaRS内に移転したばかりのAutodesk研究所で最新3D技術の研究をされている梅谷さんにお話を伺ってきました。これまでに発表された技術はYOUTUBEでも公開されており、「こんなことができるんだ!」という驚きでいっぱいのインタビューとなりました。自分がコンピュータを使い始めた40年前には夢でしかなかったことが現実となっていることに人間の知恵は進化しているなあと実感です。


(伊東)本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。まずは、Autodeskという会社の説明をお願いできますでしょうか。

(梅谷氏)Autodesk社は、1982年に設立されたソフトウェア開発会社で、コンピュータ上で稼働する設計ソフトAutoCADが非常に有名です。現在世界中で社員数は7600名ほどおり、このトロント拠点には現在300名ほどの従業員がおります。Autodeskは、コンピュータを使った3次元の設計システムを作っている会社です。

(伊)具体的にどのような設計をされるのでしょうか。

(梅)設計といってもいろいろありますが、ビルの設計とか機械の設計などが分かりやすいですね。あとはコンピュータグラフィックスと言われる分野です。たとえばトイストーリーやカンフーパンダなどアニメーション映画では、実写の画像と違いコンピュータの中でバーチャルの世界を作ってストーリーを展開していくのですが、その過程でバーチャルな世界を構築してそれらを動かすようなアニメーションシステムも作っております。

(伊)3次元の形状を作るというのは?

(梅)コンピュータが発達していなかった頃は、こうした設計はすべて2次元の紙面の上で行われていました。人が製図台の前に座って製図用紙の上に線を引いたりコンパスで円を引いたりして、2次元の図面を集めて3次元の形を設計していたのですが、コンピュータが出てきてからは形を作るという作業はしだいにコンピュータの中で直接3次元の形状を作るという方法に変わっています。

コンピュータで作ることによって、コピーしたり修正したりといった作業が容易に行えるようになっています。あとは、人間の手作業では難しい曲線なども簡単に作ることもできます。またインターネットを介して大勢の設計者が遠隔で協調して設計することも簡単にできます。

建築設計を例にすると、コンピュータの中で図面を作成することで、自動で3次元の世界で構築することが可能になり、実際に3次元の世界でどう見るのかを検証したり、施工過程を検討したり、バーチャルの世界の中でビルの中を体験してみるなどが可能です。

大量生産の現場や大きな建築プロジェクトでは失敗が許されないので、様々な検証を効率良くしなければなりません。 今や、ほとんどの設計でコンピュータは欠かせないものになっています。

(伊)Autodeskさんのお客は非常に多くの業種の方がいるということでしょうか。
(梅)そうですね。我々は設計そのものをしているわけではなく、お客様が設計をするためのソフトウェアを作っているので、その範囲は非常に多業種にわたります。Autodeskの中で一番有名なソフトウェアはAutoCADというソフトウェアで、建築に携わっている人であればだれでも使うソフトウェアです。

ですから、お客さんは建築会社や設計会社の方々も含まれます。また、3次元の機械用のCADも開発しているので機械系の設計をしているメーカの方々もお客さんにおられます。

Autodeskには、MAYA(サンスクリット語で魔法、イリュージョンという意味
)というコンピューターグラフィックス(CG)用のソフトウェアがありまして、CG業界のスタンダードになっています。

ディズニーやドリームワークスなどのアニメーションはほとんどAutodeskのソフトウェアを使って作られています。アカデミー賞でVFX(視覚効果)賞がありますが、あれはコンピュータグラフィックスを使った特殊な画像です。

映画などでビルが吹っ飛んだりする場面がありますが、あれは実際に爆破させているわけではなくすべてコンピュータグラフィックスで、ビルの破片や煙の動きや、それらの見え方などをシミュレーションして映像を作っています。

VFX賞を取るのはそれを制作したアーティストの人ですが、彼らはたいていAutodeskのソフトウェアを使って制作しています。そうした実績から、映画にもたらした貢献が大きいということでアカデミー賞の選考委員会がAutodesk社(受賞当時はAlias|Wavefront社)に技術功労賞を下さいました。個人でなく会社にアカデミー賞を授与するのは初めてだったそうです。このオフィスの玄関にそれが飾ってありますので是非ご覧になってください。
 


(伊)世界中に拠点があるとのことですが、それぞれの拠点によって分野が違っているのでしょうか。

(梅)ゆるい違いはありますね。たとえばここトロントではアニメーション分野が強いです。でも本当にゆるいですね。AutodeskはこれまでいろいろなIT系の企業を買収してきました。 AutoCADは自社製ですが、MAYAや他の建築用のソフトウェアなど買収した企業が持っていたものも多く、買収した会社の強みがその拠点の強みとして残っている程度です。

(伊)ちなみにここトロントはどんな強みでしょうか。

(梅)トロントは、もともとは先ほどご説明したMAYAというソフトウェアを作ったAlias Systems Corporation (formerly Alias|Wavefront)という会社をAutodeskが2006年に買収した部門です。デトロイトが近いことから、車の設計システムも作っていた会社ですので、その分野も強みとなっています。

この会社は働き方も自由で、明日から本社のあるシリコンバレーで働きたいと言えば多分働かせてもらえると思いますし、多くのミーティングはオンラインで行われます。やはりソフトウェアの業界は他の業界に比べ、自由度が大きいですね。

(伊)そのようなAutodeskの中で梅谷さん御自身はどのようなお仕事をされているのでしょうか。

(梅)自分は研究部門に所属しており、研究をしています。

(伊)研究というのは具体的にどのようなことでしょうか。

(梅)企業での研究部署の仕事は、よく3つのPと言われます。まずはPaper。つまり論文を書くということですね。2つ目のPはPatentです。特許を取るということです。そして最終的にProduct(ソフトウェア)につなげるということです。

その中で自分の仕事は、Productにつながるような研究をして論文を書くということです。でも、開発部門と違います。

開発部門では、締め切りがあり、例えば3カ月後に製品にするために既に確立された手法を元に開発を進めていきますが、研究ではもっと試行錯誤が必要でどうやったらいいのかよくわかっていないチャレンジングな課題に取り組んで、将来製品の差別化につながるようなものを作り出すということをやっています。

その面でも、やはりPatent特許は重要です。Patentが取れないものは差別化につながらず真似されて終わりですからね。Patentを申請するためには、やはりPaper論文を書いて、一流学会に通してもらい、お墨付きをもらうことが大切です。

(伊)こちらではどのくらい働かれているのでしょうか。

(梅)合計で3年半になります。

(伊)研究内容はお伺いすることができるのでしょうか。

(梅)現在研究中のまだ開示していない研究以外はすべてお話しすることができます。実際に製品に入っていなくてもこうした研究をしているということを知ってもらうことで
Autodeskのイメージが上がるのでPRも大切な活動です。

(伊)それでは、私でもわかるような研究成果の一部をご紹介いただけますか。

(梅)研究結果は私のWebページ(http://www.nobuyuki-umetani.com/)にまとめられているのですが、その一部を紹介させていただきます。

こちらは吹奏楽器をデザインするソフトウェアです。リアルタイムで楽器の音がシミュレーションされながら、吹奏楽器のマウスピースや指穴の位置などを決めることができます。かなり変わった楽器の形状でもシミュレーションすることができて、そのまま3Dプリントできます。

 

https://www.youtube.com/watch?v=dWHYLqcCPuU


こちらはコンピュータを使って紙飛行機を対話的に設計するソフトウェアです。機械学習の技術を使うことで、スケッチしてデザインされた手投げ飛行機の飛行軌跡がリアルタイムでシミュレーションされたり、飛行機がよく飛ぶように形状がリアルタイムで最適化されたりします。

 

https://www.youtube.com/watch?v=-KJUVJAUY8o

こちらは髪の毛や紐などの細長い物体の変形を効率よくシミュレーションする研究です。こういった細長い物体は、曲げと捻りの変形が相互作用して複雑な変形をするのですが、そのような挙動を安定して高速にシミュレーションすることができるようになりなりました。

 

https://www.youtube.com/watch?v=6f3UYHnR4zU


(伊)本当に多岐にわたっていますね。

(梅)私が最近した研究では、AI(人工知能)を使って車をデザインするというものがあります。今、自動車は燃費が非常に重要な購買要素となっています。ただ長年かけてデザインが洗練されてきているためにエンジンなどの部品の改良で燃費を根本的に改善するのはすでにかなり難しくなっています。

今、私が注目しているのが車の空力設計を簡単にできるツールです。これまでは車のデザイナが起こした図面に対して、流体エンジニアが流体計算をし、それを何回か繰り返して最終デザインが決まるという非常に手間がかかったプロセスだったのですが、その過程で蓄積した過去の膨大な流体データをすべてAIに学習させてデザイナが直接AIとコミュニケーションしながらリアルタイムで進めていけばより迅速に進めることができるようになります。

(伊)これまでご説明いただいた分野は非常に多岐にわたっているのですが、そうした分野の研究をされるにあたり、それぞれの分野について相当な勉強が必要だと思うのですが。

(梅)そうですね。私は常に トップレベルの学会への採択を目指して論文を書いています。技術の波の速さがすごく、その波に乗っていけないと論文を採択させることができません。しっかりした知識と裏付けの基に書かれた論文でないと、厳格な査読を経て認められることが難しいんです。

ですから、皆がまだやっていない、面白いもので将来製品化できるようなアイディアを見つけ、それに必要な知識を集中的に勉強して新しい技術を出せるよう努力しています。

(伊)先ほど、こちらで3年半とお伺いしましたが、ご経歴をお伺いできますか。

(梅)神戸出身で、東京大学に進学し学部のころは産業機械を勉強していました。車や飛行機などメカが好きで、いつか車や飛行機のデザイナになりたいと思っていたんです。

学生時代、琵琶湖で開催されていた鳥人間コンテストに3年間参加していました。鳥人間にかかわっている人は航空系に行く人が多く、その人たちの話を聞くと航空デザインに進んでも、飛行機全体のデザインができる人は非常に限られているそうなんです。

その時に、そうした設計はすべてコンピュータを使って行われていると聞き、興味が機械そのものの設計理論からコンピュータを使った設計システムに移っていきました。

修士は機械系の学科に進んだのですが博士課程では専攻を変えてコンピュータサイエンスに進みました。そこではインタラクティブなシミュレーションを使った設計システムを研究していました。

もともと海外に出ることに興味があり、修士の頃に1年間オランダのデルフト工科大学の応用数学科に交換留学し、海外で勉強してみたいという思いがますます強くなりました。

博士課程の時にはニューヨークのコロンビア大学に研究留学で一年間行き、イギリスのUCLという大学にも3カ月、そして北京にあるマイクロソフトの研究所で3カ月研究インターンもやっていました。

卒業する前に、Autodeskとディズニーから研究者オファーをもらいました。そうしたオファーは1年、2年といった期限付きでその間評価が良ければ正式な研究者になれるといった条件なのです。Autodeskの人と知り合いだったことから、1年契約でAutodeskに来ました。

その後、オファーから1年間待ってくれていたディズニー研究所で一年間勤務しました。場所はスイスのチューリッヒでした。その間に、Autodeskからフルタイムの研究者にならないかというオファーをいただき、2年半くらいまえにこちらに来ました。ということで、最初の1年間と合わせ、合計で3年半ということになります。

(伊)いろいろな国に行かれていますね。今日のアポイントを調整させていただく際にトロント大学で教えなければいけなくなったとお伺いしましたが、トロント大学で教えていらっしゃるのですね。

(梅)ええ、臨時講師として頼まれたときにたまに教えています。昨年は、コンピュータグラフィックスとコンピュータ幾何の2コマ教えていました。

(伊)トロントの住み心地はいかがですか。

(梅)これまで5か国くらい住みましたが、冬を除けば一番住みやすいですね。やはり英語社会というのがいいですね。あと、いろいろな人種の方がいるので外国人にやさしいですね。

(伊)しばらくここに落ち着きそうですか。

(梅)そうですね。

(伊)プライベートでのご趣味などはいかがですか。

(梅)泳ぐこと、走ることが好きです。あまり上手くはないですが、サックスを吹いたり、アイスホッケーやアーチェリーもします。あと、外国語習得が趣味ですね。フランス語と中国語を勉強しています。でも、英語で用が済むので、ほとんど使う機会がないですけどね。

(伊)最後に商工会の皆さんや読者の皆さんにメッセージをお願いできますか。
(梅)トロント大学はAI人工知能研究で世界的に有名です。最近話題になっているDeep Learningという技術は実はトロント大学の先生が中心になって開発したものなんです。そうしたことからトロント自体が人工知能の拠点になってきており、Googleがオフィスをもっていたり、Uberが自動運転の拠点をつくったりしています。

今後、人工知能を核としてトロントのIT技術が進んでいくと感じています。日本企業もこうした分野に力を入れていくと思いますので、是非トロントでのタイアップも検討していただきたいですね。

(伊)お忙しい中、お時間をいただき、また詳細に研究成果をご説明いただきありがとうございました。今後も商工会、会員企業ともお付き合いいたければと思います。



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