「こんにちは!」新代表者紹介インタビュー




<154回>
酒井 拓司 Executive Director
JETRO (Japan External Trade Organization), Toronto

ジェトロ(独立行政法人 日本貿易振興機構)トロント事務所に新所長として、昨年12月末にご着任された酒井所長にインタビューをして参りました。オフィスはトロントダウンタウンにあります。ジェトロさんでは、日本企業とカナダ企業とのビジネスが更に深化・拡大するよう「日加ビジネス促進窓口」を設けられたとのことです(詳しくはインタビュー内)。

ジェトロトロント事務所の活動についてや、過去のご経験から、他国や日本国内におけるジェトロさんの活動についてもお話しいただきました。興味深いプライベートのお話も是非お読みください。



(松田)ジェトロさんの事業内容のご紹介をお願いいたします。

(酒井氏)ジェトロトロント事務所の設立は1956年で、昨年60周年を迎えました。カナダにはトロントとバンクーバーに事務所がありますが、バンクーバー事務所は駐在員はおらずナショナルスタッフのみで運営しております。トロント事務所の従業員は現在9名で、日本からの駐在員は3名です。

ジェトロの第一の使命は、日本と外国とのビジネスの促進です。ジェトロは、アベノミクスによる日本再興戦略の中の成長戦略における対外の経済活動促進の部分を担っており、2015年度を初年度とした第四期中期計画(4年単位)でも次の3事業に重点に置いております。

第一に“対日投資の促進”。外国の企業にもっと日本に進出してもらうための活動です。トロント事務所では、日本へのビジネス展開を希望しているカナダ企業を発掘し、本部に紹介します。

日本では情報提供、パートナー紹介、コンサルテーション、各種手続きのお手伝いなど、日本での企業設立に向けた支援を行います。国内6カ所にあるビジネスサポートセンターを利用いただき、アドバイザーと相談をしながら各種の手続きを進めてもらうことも可能です。

第二に“日本の農林水産物・食品の輸出促進”です。トロント事務所では、日本の食品や酒類を担当するカナダ人のバイヤーを発掘し、彼らを日本に派遣し、日本のメーカーさんや蔵元さんとの商談をアレンジします。そして日本から海外展開の話があった際には、こちらのバイヤーを紹介して商談会を行ったりと、日本の農林水産品・食品のカナダへの輸出に向けてのサポートをしています。

直近ですと、2月末にに開催されたレストランカナダショーに10数社の日本酒メーカーが参加しましたが、その時にも情報提供をさせていただきました。

そして第三に“中小・中堅企業の海外展開支援”です。こちらは、少子・高齢化などで日本のマーケットが縮小傾向にある中で、国内のみでビジネスをされていた中小・中堅企業にも海外に活躍の場を広げてもらうという日本政府の方針の基、事業を実施しています。

政府機関、地域の金融機関、商工会議所など国内各地域の企業支援機関が幅広く結集し、「新輸出大国コンソーシアム」を組織しました。ジェトロはこのコンソーシアムの事務局を務めています。海外展開を目指す企業に各機関が専門性を生かした支援を行います。

日本で海外展開の方針がある程度固まりましたら、トロント事務所を含めた各国に所在するジェトロ事務所が、当該国の関連企業や専門家を紹介したりと、輸出や海外進出実現を支援いたします。

(松田)実際にどのような貿易や投資が実現したのか、ご紹介頂けますか。

(酒井氏)対日投資ですと、トロントのREDKNEEというソフトウェア開発企業、モントリオールのCAEという航空機のフライトシュミレーターや訓練プログラムを提供する企業、トロントのSolar Power Networkという太陽光発電を提供する企業が、既にジェトロの支援を受けて日本に進出しています。

今後は、IT関係や、2020年の東京オリンピックに向けて観光関係のニーズがありますので、それらの分野に日本進出の可能性があるのではと思っています。

農林水産物の輸出促進では、岡山県の室町酒造さんの日本酒「室町時代」と「備前幻」、福井県の南部酒造さんの日本酒「花垣」が、現在LCBOにて購入できるようになりました。

トロントで開催されているKAMPAI Torontoというイベントに日本から蔵元さんが参加して下さった際に、ジェトロで地元企業との商談をアレンジし、新規販路開拓に繋がりました。また、福島県の笹野川酒造さんの「山桜」というウイスキーはケベックのSAQにて販売されています。こちらはカナダからバイヤーを日本に派遣し、輸出が実現しました。

バンクーバーには日本の自治体からミッションが度々来ており、先日は和歌山県が柿の売り込みのために来ていました。ただ、日本の柿のグレードは大変素晴らしいのですが、価格も安い米国産などがあり、未だ輸出には至っていません。

アジアでは所得水準が上がっていることもあり、贈答用として通常の3倍ほどの値段の果物に需要が出ています。栽培中に遮光を行うことで「寿」などの文字を描く文字入りのリンゴは、中国の方々に大変人気があるようです。ただ、北米では輸送費がより掛かってしまいますし、残念ながら現状、高価なリンゴに対応する需要は少ないようです。

その他ジェトロでは、例えば昨年トロントに出店された無印良品さんやユニクロさんを始めとした日系企業の進出に関しましても、分野を問わず様々なお手伝いをさせて頂いております。

(松田)数年前と比べても、LCBOで購入できる日本酒の銘柄が大変豊富になりました。ジェトロさんのご尽力のお陰なんですね。それでは、今後特に注力されていきたいことはどのようなことでしょうか。

(酒井氏)私はカナダに来る前は、ジェトロ本部の海外調査部という海外の経済、制度情報等を収集、発信する部門におりました。そこで世界全体を見ていた経験から、カナダは長年日本と良好な関係が続いておりますが、経済の分野では日本のカナダへの関心が低いことが気になりました。

日本とカナダの間には貿易摩擦などもなく、それ自体は良いことではありますが、日加関係が話題になりにくく、課題がないのが課題である、という状況です。もっと日本におけるカナダに対する関心を高めること(良い意味で)が、我々が注力すべきことだと考えております。

我々は現在の仕事の一つ一つにより注力し、成果を出すということが大事ではないかと思います。様々な分野で輸出入を増やし、カナダ企業の日本進出、及び日本からのカナダ進出を促進することで、日加間の経済交流が更に盛んになり、日本におけるカナダのプレゼンスが高まり、認識してもらえると思います。日本からのみならず、既にアメリカに進出している日系企業にもカナダ展開を考えてもらいたいと思っています。

また、ジェトロトロント事務所もそうですが、多くの日系企業で、以前に比べて駐在員数が減っております。先日ニューヨークの日経アメリカ社の方とお話をしましたら、以前はトロントに支社を持っていたけれど、現在はオンラインでニュースを配信できることもあり、ニューヨークからカナダも見ているとのことでした。そのためカナダからの生の情報が入手しづらいという状況でもあるようです。よりカナダのプレゼンスを高めるには、我々も力を入れて情報発信をしていこうと思っています。

(松田)酒井所長のご経歴についてお伺いしたいと思いますが、ご出身はどちらでしょうか。

(酒井氏)出身は東京です。大学では経済学を専攻し、ゼミで、台湾、香港、シンガポール、韓国といったアジアの中進国(開発途上国・地域の中で経済発展が進んでいる国々をこう呼んでいた)の経済発展の研究をしていました。その際にジェトロの資料をたくさん活用していたため、ジェトロの活動に興味を持ったのが、入会のきっかけです。

入会後は、1991年から94年の3年半、サンフランシスコに駐在をし、2000年から2005年の4年半程はタイのバンコクへ、2010年から13年は広島事務所の所長をしておりました。

(松田)サンフランシスコ駐在の頃は、どのような業務をされていたんでしょうか。

(酒井氏)サンフランシスコの駐在時は、現在とは随分状況が異なっていました。日本が欧米先進国との間で貿易黒字をたくさん抱えており、少しでもそれを縮小させて、バランスのとれた貿易関係としていくために日本への輸入を促進しようという国の方針の基、日本人のバイヤーをアメリカやカナダに派遣して商談会や買い付けのアレンジをしたり、日本で売れそうな品物をアメリカやカナダで発掘して、日本で展示会を開催して日本の輸入業者や卸業者との商談の場を設けたり、という活動をしていました。

今思い返すとおこがましいことですが、当時はアメリカ人の社会学者エズラ・ヴォーゲルによる「Japan as No.1」という本がベストセラーとなった時代でした。そのため、日本から講演者として専門家を呼び、アメリカ人向けに日本式経営に関する講演会を開催したりという活動もしていました。

(松田)そのような時代があったんですね。では、タイでのご駐在時はどのようなお仕事をされていたんですか。

(酒井氏)途上国での仕事というのは、その国の経済開発の支援といった仕事が多かったです。例えば、自動車メーカーはすでに日本からタイに進出しておりましたが、タイ国内での部品等の調達率を高めるために、タイの地場企業が日系企業の求める品質の製品を供給できる技術水準となるように、日本から指導者(専門家)の派遣などを行いました。

また同時に、日本の部品メーカーなどがタイに進出することを支援するため、バンコクのオフィスに“ビジネスサポートセンター”という貸しオフィスのようなものを設け、一時的に利用してもらい、常駐のアドバイザーからアドバイスをしてもらったり、タイ語と日本語がわかる現地職員に現地での手続きを手伝ってもらったりといったサービスを提供しました。

私が直接関わっていた活動としては、大分県の平松知事(当時)が始めた“一村一品運動(各町村が品物やサービス等、何か一つ自信をもって提供できるものを造ろうという地方活性化の運動)”を、当時のタクシン首相が、タイの地方を発展させていくために活用して、タイ語で「ワン・タンブン(村)、ワン・プロダクト(OTOP)」と呼び、国として商品をブランド化する運ことを始め、その支援を行いました。

例えば、ある村の特産品が竹細工の籠だとすると、それをOTOPブランドと名付けて、バンコク等の都市でOTOPフェアなどを開催して、多くの方に知ってもらい、売り込むということをしました。

日本から伝統工芸品などの専門家を招いて、高品質を維持するための作り方、そして効率化のための工場全体のデザインのアドバイス等をしていただき、より良いものを作ることができるようにといったお手伝いをしました。

(松田)国が変わると活動内容も変わるんですね。広島ではどのような活動をされていたのですか。

(酒井氏)広島での活動は、現在カナダでしていることの国内版ですね。兵庫県の灘、京都府の伏見、広島県の西条が日本の三大醸造地と言われている通り、広島県の西条(現在は統合して東広島市)は昔から酒造りが盛んな地域です。東京にあった醸造試験場(現在は独立行政法人酒類総合研究所)が現在は東広島市に移り、全国の蔵元から若い後継者が勉強に来ています。

ジェトロでは、広島県の日本酒を世界に紹介したいと、県内にある蔵元さんに海外展開を働きかける活動をしていました。

また、農産品食品関係では、瀬戸内海を囲む各県が連携して共同で農林水産品を海外へ輸出するためのお手伝いをしました。

そして、広島に本社がある自動車メーカーのマツダさんが2011年にメキシコに工場を設立すことになり、それに伴い部品メーカー等の関連企業も進出を検討し始めましたので、広島県庁の方々と協力してミッションを派遣したり、進出に向けての情報提供をしたりということを行いました。

(松田)ジェトロさんの日本国内での活動も知ることが出来て大変興味深いです。それでは、これまでで一番印象に残っているお仕事はどのようなものですか。

(酒井氏)タイでの「一村一品運動」に関わる活動ですね。私はその時は次長職だったのですが、丁度一村一品フェアがあった時に所長が日本へ出張中で、ジェトロブースでタクシン首相にジェトロ事業を通じて開発された商品について説明をする機会を頂きました。首相直結のプロジェクトだったこともあり、大変稀有な経験をさせて頂きましたし、先ほどおはなししたとおり面白いプロジェクトでした。

(松田)酒井所長が、お仕事を進める上で大切になさっていることはどのようなことでしょうか。

(酒井氏)我々の仕事は、自分たちだけで何かができるわけではなく、専門家の方の力を借りて情報提供をする、アドバイスをする、ということも大変多いです。そのため、人脈やネットワークが大切です。これまでも築いた人間関係のおかげで、様々な仕事を実現することが出来ました。今まで築いたネットワークを大切にすると共に、今後カナダでも多くの方々と知り合い、人脈を広げていきたいと思っています。

皆様のお力を借りるだけではなく、場合によっては私の人脈を皆様のために活用することが出来るかもしれませんし、カナダにいる日系団体・日系企業の一員として、協力しあうことが出来ればと考えています。

(松田)プライベートなこともお伺いしたいと思いますが、ご趣味はなんでしょうか。

(酒井氏)私は実はタイにいた頃までは、体重が100kg程あったんです。たまたまお腹を壊して行ったタイの病院で、高血圧と診断され、降圧剤を処方されて服用するようになりました。日本に帰国後も同様の薬を処方してもらったのですが、日本の医師からは「とにかく体重を減らしなさい」と指示されまして、1日1万歩以上歩くようにしました。

通勤の際に「1駅手前で降りて歩くと良い」と言われたのですが、それだと1万歩に届かなかったので、2駅や3駅手前で降りて歩くようにして、同時にジムにも通うようになり、水泳も週に1回は行くようにしました。そしたら徐々に体重が落ち、今の体型を6、7年はキープしています。現在も“1日1万歩歩く”と“水泳”と“ジム通い”の3つは継続しています。

トロントに来てからも続けたいと、住居を事務所まで歩いて通勤できる距離にあり、ジムとプールのあるコンドミニアムに決めました。ただ、真っ直ぐ通勤するだけでは1万歩に達しないので、帰りは少し遠回りをして帰ったり、時間があるときは少し遠いところまでランチを買いに行ったりと、少しでも歩数を増やすように意識しています。

(松田)目標を達成されてからも継続されているのが素晴らしいですね。その継続力が私にあれば、今頃違うのにと思ってしまいます(笑)。ではお休みの日は何をされていますか。

(酒井氏)まだカナダに来て1ヶ月程(取材時)なので、週末は家の物を揃えることに費やしていたのですが、これからはジム通いや水泳をしたり、上手ではないですがゴルフをするので、暖かくなったらゴルフに出かけるのが楽しみですね。

(松田)今後、カナダ駐在中に挑戦したいことはありますか。

(酒井氏)先日初めてエアカナダセンターにアイスホッケーを観に行きました。私が子供の頃には家の近所にスケート場があって、よくアイススケートをしていました。また学生時代にも体育の授業でスケートがあって、一週間泊まりがけのその授業に参加すると単位がもらえるということで、合理的な上、体系的にスケートを教えてもらえるなら良いなと思って授業を取ったことを思い出しました。

先日も家の近所を散歩していたら、オンタリオ湖畔の公園でスケートをしている親子がいたり、市役所前では大勢の人たちがスケートをしていたりと、トロントでは大変気軽にスケートができるようですので、スケート靴を買ってスケートをしたいと思っています。

(松田)最後になりますが、商工会会員へメッセージをお願いいたします。

(酒井氏)日加間のビジネスの更なる発展のために、昨年11月よりジェトロでは「日加ビジネス促進窓口」を設けました。これからカナダとビジネスをしたい日系企業、日本とビジネスをしたいカナダ企業等、多くの皆様に利用していただきたいと思っています。

既にこちらに進出されている日系企業の方々でも、更なる展開のためにカナダの企業と取引をされたい時などに、我々が情報提供や相談のお力になれると思います。カナダ企業向けには“Talk to JETRO First”というスローガンでアピールをしておりますが、是非商工会の会員企業の方々にも知ってもらい、ジェトロのサービスを活用していただきたいと思いますので、どうぞお気軽にお問い合わせをいただければ幸いです。

(松田)インタビューは以上となります。本日はお時間をいただき有難うございました。



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