リレー随筆




自分探しの旅

IBM Canada
シニアコンサルタント、UX (User Experience)デザイナー
レイノルズ洋子


全く自分のことを知らない人に囲まれて、ゼロから始めてみたい。場所や環境を変えても変わらない自分が出てくるだけか、それとも新しい自分が生まれてくるのか、どちらにしても新しい環境で何か新しい発見が必ずあることを期待しながら移住を決意し、13年前にカナダにきました。

その時すでに2歳の息子がいた私は、カナダ人の夫の実家である郊外の住宅地から生活をスタートしました。

それまで東京で公園デビューして近所のたくさんのお母さんや子供達と過ごし、また仕事にも復活して活動的だった生活とは一転して、人気のない郊外での生活は、最初はまるで休暇に来たようでしたが、しばらくすると自分は本当は死んでしまって天国にいるのではないかと思うほど、静かで幸せで、またそれが苦痛に感じる生活でした。

何をしにカナダへ来たのか、自分にはどのような役割があるのか、どこへ向かおうとしているのかを自問する日々が続きました。大自然の中で子育てをしながら流れるゆっくりとした時間は私に忍耐力を与えてくれたと思います。

しかし、次第に地域の中で素晴らしい仲間に出会い、家族に支えられながら、それなりに自分の居場所をみつけていきました。1年後には第2子を産み、それからは学校に通い、日系社会の中でのボランティア活動に精を出すようになり、またDesign Yokoというグラフィックデザイン、ウェブデザインの会社を立ち上げました。

外へ出て仕事をしたいという強い気持ちを常に持ち続けながらも、子育てを第一優先にするべきという母親としてのルールを自分に設け、できる範囲内で仕事を始めました。

家庭以外の時間は、寝る時間も削って仕事に熱中するという生活は約9年続きました。この間、私は本当にかけがえのないたくさんの勉強をさせていただきました。

自分自身のスキルアップもさることながら、たくさんのお客様の温かい心に触れることができ、カナダ人と日本人の仕事や生活スタイルに対する考え方の違いも学びました。「家で仕事をするから、その幸せや喜びや暖かさが、作品ににじみ出てくるんだよ」と言ってくださるお客様もいらっしゃいました。

私はカナダにいても、日本人らしさを忘れずに仕事をしたいと思っていました。きめ細かいサービスや、お客様が期待していない一歩先のサービスを心掛けました。その心は国境や文化や言葉を超えて相手の心に響くと思います。この経験は私の日本人としての新しいアイデンティティをカナダの中で形成していったと思います。

私の人生の大きな転機は去年の秋にやってきました。二つの大きな事件が同時進行で起こりました。一つは、トロント紅白歌合戦の紅組司会者の大役をお引き受けしたこと、もう一つは、IBMでデザイナーとしてのポジションのオファーをいただいたことです。

この二つの出来事に共通していえることは、「自分らしくいること」です。自分はここまでできる、と信じてきた枠を超えて、できないかもしれないと自信のないことにあえて挑戦することで 人は成長していけると思っています。

これからも枠にとらわれず、水のように変化し続けながら様々な経験をしていきたいと思っています。そして、これまでお世話になり、温かく見守ってくれた家族、友人、お客様、そして日系コミュニティーの皆様にこの場をお借りして心よりお礼申し上げます。

写真クレジット 紅白写真©大橋デーブ


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